アニメーション思い出がたり[五味洋子]

その121 21世紀へ

 かつてノストラダムスの大予言で騒がれた1999年はさしたることもなく過ぎ、2000年に我が家は今度は九州、福岡へ転勤となり、そこで21世紀を迎えました。
 世紀は変わっても相変わらずアニメを見ています。長い地方生活でキー局中心の番組はずいぶんと見逃しがあり、特に深夜アニメは壊滅状態に近いです。その昔はアニメの新番組は第1話だけでも全部見るということをしていましたが、今は物理的に不可能です。この頃ではコミックに対するように、自分の好きな、あるいは興味あるスタッフや制作会社の関係する作品を優先して選ぶことも多くなりました。
 そんな中で1990年代終盤からの気になるアニメを拾ってみます。まずは「生きろ!」の『もののけ姫』と「みんな死んでしまえばいいのに」の『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを君に』と正反対のキャッチコピーがぶつかり合った夏が記憶に刻まれる1997年から。現在『輪るピングドラム』が核心に近づきつつある幾原邦彦監督の原点とも言える『少女革命ウテナ』。先頃惜しまれつつ早世した川上とも子さんの凛々しきウテナは絶品です。アニメ史上一、二を争う熱さ濃さを誇る『勇者王ガオガイガー』は田中公平さんの燃えるOPとEDのロマンも印象的。
 1998年の『カードキャプターさくら』はCLAMPの人気コミックを原作に、その1人、大川七瀬さんをシリーズ構成に迎えた制作陣が作り上げた、少女の憧れを全て実現した最高にもてなしのよい世界で繰り広げられるファンタジックな冒険。失恋の涙さえ甘い砂糖菓子のような世界は、次々に更新されるクオリティの高いOPと歌曲、1本の話の中でTPOに合わせて登場する複数の美麗なコスチュームによってさらに磨き上げられ、以後のアニメ作品のありように多大な影響を与えました。初回放送が当時はまだ限られた視聴者しか見られないNHK衛星放送というのもポイント高いところです。今度は何をやってくれるだろうと毎回期待させられるガイナックスの『彼氏彼女の事情』の台風のような賑やかさ。それと反対にまったりした主人公を中心に多彩なキャラクターが楽しい『おじゃる丸』もこの年の開始です。また伝統的に佳作傑作が多い劇場版『ドラえもん』の併映短編ですが、この年の『帰ってきたドラえもん』から始まる渡辺歩さんの一連の作品は、後の長編『のび太の恐竜2006』へとつながっていきます。
 1999年は私にとって宝物のような『おジャ魔女どれみ』が始まった年。以後『#』『も〜っと!』『ドッカ〜ン!』に2本の劇場版をはさみ、OVAの『ナ・イ・ショ』まで続くシリーズと過ごした日々は永遠です。どれみたちばかりかクラスメートの1人1人にスポットが当てられた構成、シリーズと共に成長して行くキャラクター達。スタッフ、キャスト一丸となって作品に込めた愛と東映アニメーションが歴史的に持つ大人としての良心がそこにはあります。ご縁を得てムック「おジャ魔女どれみメモリアルアルバム」に参加したのもよい思い出です。
 21世紀を前にコンピュータの2000年問題が騒がれましたが、アニメ界でも奇しくも世紀末の2000年がひとつの区切りとなりました。CG技術が本格的にアニメ制作に導入されるようになってきたのです。この2000年に公開された劇場アニメはその状況を如実に反映しています。フルCGで作られ、今まで見たこともない画面を現出してみせた『BLOOD THE LAST VAMPIRE』。前年に続き細田守監督が放つ『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』は2009年の話題を席巻した『サマーウォーズ』の雛型のような中編で、濃縮されたタイムリミット型の魅力で実は作品としてはこちらの方が上だと私は思っています。そして最後のオール手描きアニメ映画と言われる『人狼』の濃密に構築された世界。先の『BLOOD』と共にProduction I.G作品という点にも注目です。
 21世紀最初の世界的話題作となった『千と千尋の神隠し』。雑誌企画で久方ぶりに制作中の宮崎さんを訪ねたのも懐かしく、すでに世界的巨匠となり世間では文化人としての対応をされつつある宮崎さんですが、中身は昔のままであることを確認できたのも嬉しいことでした。TVでは大地丙太郎監督の繊細な面が最良の形で表われた『フルーツバスケット』。消え入りそうに透明な主題歌を歌った岡崎律子さんに心からの哀悼を捧げます。

 2002年の『ほしのこえ』は新世紀の到来を鮮烈に告げる作品となりました。新鋭・新海誠さんがほとんど独力でパソコンを使い作り上げた作品で、自主制作自体は昔からありましたが、制作過程をネットで公開し反響をフィードバックさせつつ形にして行った制作法は、かつては考えられなかったことです。
 2003年は宇宙世紀の新たな展開『機動戦士ガンダムSEED』、2004年は最初の『鋼の錬金術師』、現在も続く人気シリーズの出発点となった『ふたりはプリキュア』の登場が注目されます。ハガレンは「少年ガンガン」最大のヒット作となり、「少年ジャンプ」王国からの時代の変遷を告げると共に、2009年のリメイク、2本の劇場版公開と今も堅固な存在感を放っています。私はすさまじい熱気をもってコミックとオリジナルを錬成し原作とは別の地平へ着地したこの最初のハガレンが一番好きです。
 2005年は注目作目白押し、かつてのアニメブームを彷彿とさせる年で、作品傾向もバラエティに富んでいます。その中で私的注目作は高いSF性とデジタルを駆使しながら往年の手描きアクションのタッチを復活させてみせた『ノエイン もうひとりの君へ』、可愛い絵とブラックなネタに森脇真琴監督の新生面を見た『おねがいマイメロディ』、細やかな描写とクリエイターokama氏の個性が融合した佳品『かみちゅ!』、ケレンで押す『創聖のアクエリオン』、作者の誠実さを感じる『Blood+』、原作コミックに忠実でいながらアニメならではの力がある『蟲師』の高度な世界の創作、などでしょうか。『蟲師』はコミックのアニメ化のひとつの理想形とも言え、原作に忠実でいながら確かにキャラクターデザインの馬越嘉彦さんの絵になっているあたり、驚異的な実力を感じさせます。
 2006年は『銀魂』『コードギアス』『涼宮ハルヒの憂鬱』とビッグタイトルが並び、2007年の『天元突破グレンラガン』『電脳コイル』と作家性の高い秀逸な話題作が続きます。『グレンラガン』は後の2本の劇場版と合わせ、素晴らしい昇華を見せつけてくれました。『電脳コイル』は電脳メガネというギミックによって全く新しい異界を生み出し、実在しないものを(アニメもファンタジーも、この世の創作の全てを含んで)肯定してみせた力と、中盤のSF3部作に敬服します。『ハルヒ』の京都アニメーションは翌2007年の『らき☆すた』、2010年の『けいおん!』とヒットを飛ばし、東京(周辺)一極集中型のアニメ制作スタイルに一石を投じました。今は地方にスタジオを持つ会社もあり、宅配便の発達とデジタルデータ送受信の普及で、アニメーターは日本中どこにいても仕事が可能な環境となりました。またデジタルの普及は、アニメの制作現場から、仕上げ、撮影等の作業を一変させました。作画やアニメーター、あるいはアニメ制作全般が抱える問題は複雑になりますのでここでは省略しますが、2009年に物議を醸した『鉄腕バーディーDECODE:02』のように、作画心の迸りが健在なのは嬉しいことです。かつて『アラジン』や『美女と野獣』でCGを売り物にしていたディズニーが手描きアニメの味へ回帰しつつあるように、歴史は揺れ戻しを繰り返しながら進んでいくのでしょう。
 前記以外の劇場作品では国内は『MINDGAME』『鉄コン筋クリート』『河童のクゥと夏休み』『マイマイ新子と千年の魔法』『宇宙ショーへようこそ』等、海外では『ベルヴィル・ランデヴー』『アズールとアスマール』『モンスターズ・インク』『Mr.インクレディブル』『ペルセポリス』『ヒックとドラゴン』等の意欲作、人形アニメでは『コープスブライド』『こまねこ』といった珠玉作が並びます。川本喜八郎さんを中心に世界の名匠が集った『冬の日』もあります。チェコやロシアのアニメがまとまったプログラムとして毎年企画上映されたのもありがたいことでした。
 動画サイトを検索していけば思いがけない作品に遭遇することもあります。21世紀は制作年度や国などの枠を越えて多くのものと出会って行く可能性を秘めているのでしょう。

その122へつづく

(11.12.02)