アニメーション思い出がたり[五味洋子]

その36 続・全国総会

 年に1度、各地のサークル持ち回りで開催される全国総会の中で各サークルの会員の人たちはもちろん、この分野の先達にあたる森卓也さん、渡辺泰さん、岡田英美子(現・おかだえみこ)さんたちとも親しく言葉を交わすことができました。皆、後に「FILM1/24」誌上に執筆していただいた方々ですが、その切っかけは全国総会だったのです。東京にお住まいの岡田さんはアニドウの上映会にもよく来ていただきましたが、総会の畳敷きの大広間で、夜を徹しての開放的な雰囲気の中ではまた格別の親しみがありました。岡田さんと私は感性が似ている上に、共にアニメーター経験がある(岡田さんは横山隆一さん主宰のおとぎプロ出身)ということで、随分と可愛がっていただいたものです。
 大阪在住の渡辺さんとは総会の席上で初めて顔を会わせました。まだ「日本アニメーション映画史」(有文社刊)を出される前のことです。切っかけは以前のアンケートでした。多分、第2回総会の開会前だったと思うのですが、名簿用に自己紹介を兼ねたアンケート用紙が配られ、設問のひとつに「一番好きな長編アニメは?」の項がありました。私は『ホルス』等の東映長編との間でかなり迷ったあげく、高校時代に映画館に通い詰めた『白雪姫』を記入しました。当時ですからそもそも長編の本数自体が限られていたことと、名のみは知っているけれど実物を見たことがない作品も多かったので、選択肢は少なかったのです。今だったら大変な難問になるところです。渡辺さんはその静岡の総会には参加されていませんが、後に資料として参加者名簿を入手されていたらしく、なにしろ日本でも1、2を争うほどのディズニーファンの方なので、私の答えが心に残っていたらしく、声をかけていただいたというわけです。それから文通を主に親しくお付き合いさせていただくようになり、貴重な資料類を送っていただいたりもし、そのご縁で後に「FILM1/24」への執筆をお願いするようになった次第です。
 愛知県一宮市の森卓也さんには高校時代に「アニメーション入門」を読んで『白雪姫』についての質問の手紙を出したことがありましたが、もう博覧強記そのもの。総会では大抵、杉本さんが映写係を務めてくださいましたが、フィルムがかかると森さんは最初のコマを見ただけで「これは誰々の何々、製作は××年」と、たちまちに言い当ててしまうのです。森さんは自分も厳しく律する人ですが他にも厳しく、お膝元のTACのメンバーが上映中に関係ないおしゃべりをしていたりすると「そこ! 静かにしなさい!」とビシッと注意が飛んだりしました。総会名物だった、杉本さんがにこにこ顔でフィルムを回し、森さんが解説を入れ、時には2人で掛け合いながらのマラソン上映会。思えば本当に豪華で掛け替えのない時間でした。
 『くもとちゅうりっぷ』等で知られる政岡憲三さんがゲストで参加してくださったこともありました。今となっては歴史上の人物のような気さえしますが、その頃はとてもお元気で、孫のような年齢のメンバーの求めに応じ気さくに参加してくださいました。思えばありがたいことです。

 総会ごとの記憶はすでにおぼろげなものになってしまいましたが、わずかに残っている資料をめくれば、そこに、望月智充、原口智生、庵野秀明、赤井孝美、山賀博之、木原浩和、原口正宏、寺島令子さん等の名を見出すこともできます。学生時代の参加が主なようですが、プロとなった今も現役のアニメファンとして参加し続けておいでの方もおり、総会の長い歴史を感じます。
 そういえば、コスプレをしている人を初めて見たのも総会でした。まだコスプレという言葉も使われていなかった頃で、当時的には仮装でしたが。あれは神戸での総会の時でした。駅に降り立った私たち東京勢を出迎え、会場まで案内してくれたのは、なんと、ヒルダ(の格好をした女性)だったのです。改札口に立つ彼女を目にした時は一同絶句。このまま知らん顔でUターンして帰ろう、と言い出す者も出るくらいの衝撃でした。会場内ならともかく日常生活の場で見るコスプレ(しかもヒルダ)は破壊力があります(笑)。
 なんだか取り留めもなくなってきました。総会についてはまた適宜触れていくことにしましょう。

その37へ続く

(08.08.08)