アニメーション思い出がたり[五味洋子]

その45 第3回全国総会

 1972年9月初め、毎年恒例のアニ同総会が開かれ、新役員が決定しました。今までの会長、相磯さんは勤務先の東映動画の労使紛争で多忙なために名誉会長に格上げとなり、新たにアニメーターの半田輝雄さんが会長となりました。副会長は日下部昭夫さん、事務局に湯川さんと藤田さん、企画に鈴木、田代、三平、石之、小湊、並木の各氏が、機関紙には早川啓二さんと藤田さんが当たることになり、私(富沢洋子)は鈴木さんに代わって会計を務めることになりました。

 そんな中で各地のサークルにとって最大の催し、全国総会が近づきました。第3回の今年はアニ同にとって初の主催です。時期は9月22、23、24日の連休、場所は武蔵野の面影を残す小金井浴恩館ユースホステルと決まりました。この浴恩館は林に囲まれた古くて広い旅館で、夜通しの上映には絶好の環境。合間に林で栗拾いをし庭で焼いて食べた人もいるほど自由な雰囲気のところでした。
 参加者は約60名。アニ同、しあにむ、TAC、AFGの各サークルに加え、大阪からグループふうせんのメンバーも参加しました。現在アニメーション作家として活躍する相原信洋さんもアニ同の一員として参加しています。ゲストは杉本五郎さん、森卓也さん。そして日本アマチュアアニメーション協会の長島正太郎さん、アニメーション作家(この場合はご本人が提唱された「動画」の文字を使い、動画映画作家と記すのが適当かと思いますが)政岡憲三さんも参加してくださいました。
 日本のアニメーションの父とも呼ぶべき政岡憲三さんは、その時点では歴史の中の人的な、知る人ぞ知る存在でしたから、その老いを感じさせない瀟酒なお姿は大きな驚きと感動をもって迎えられました。名作中の名作『くもとちゅうりっぷ』『難船ス物語・猿ケ島』に加え、その完成度に比して商業価値を認められずお蔵入りとされた後、数奇な運命を経て題名も『春の幻想』となって杉本さんのフィルムコレクションに辿り着いたという『さくら』も上映され、その幻想的な美しさに満場がとりこになったものです。
 順番が前後しましたが、23日には朝食後にサークル交流会が行われ、各自の自己紹介や、相磯さんによる東映動画の労使紛争の現状報告もなされました。昼食後は早速上映へ。カーテンを引き、仕切のふすまを外して暗幕代わりに窓に立てかけて昼日中から暗くした大広間に16ミリ映写機2台と8ミリ映写機を据え、東京の地の利を生かした杉本コレクションをはじめ各地サークル持ち寄りのフィルム、自主作品等々を夕食を挟んで真夜中まで映写し続けるマラソン上映の始まりです。
 自主作品ではTACの三林一さんの『3×3』、藤丸知子さんの『じんちょうげ』、上野正和さんの『僕たちの家』、石塚弓子さんの『結婚しようよ』等が注目を集め、吉田拓郎の歌に合わせて合唱も起こりました。前述の長島正太郎さんの自作『花屋へ行こう』はほろ苦い人生劇。日本アマチュアアニメーション協会は会社の経営者の方等、趣味の8ミリ撮影から出発したシニア中心の会なのですが、こうした自主制作活動は今にして思えば長寿社会を迎えるこれからこそ盛んになってくるのかもしれません。
 他にも大藤信郎さんの『花と蝶』、杉本さんの見立てによると手廻し映写玩具用ではないかというディズニーアニメの8ミリ版数本、映産労の『つるの巣ごもり』、前回触れたトップクラフト提供による『Kid Power』、スタジオゼロの協力を得た『祭りだ!ワッショイ』の歌謡アニメ数本、これは奇しくも2008年の東京総会でも上映されましたが、1972年の時は2008年には上映できなかった叙情的な石森章太郎作品も上映されています。他にも書き切れないほどの作品が上映され、私は『鉄腕アトム』の最終回に再会して涙しました。
 この総会では、上映会の一極集中だけでなく、広い館内を利用して別室でミーティングや雑談会が行われたり、さらには近くの小金井公園に月見に出かけたり、スナックにしけ込む者までと、各自の自主性に任せた自由行動な会となっていました。
 解散は24日の昼。その後も有志で小金井公園を散策したりと最後まで自由な総会でした。私は開場時に会計として受付にいたので、多くの方から声をかけてもらい最後まで楽しく過ごすことができました。

 時が流れて2008年。私はアニドウを離れて20数年ぶりに東京は本郷での第39回全国総会に参加しました。新しい参加者も増え、中でも家族連れの参加者の多いことや、上映のタイムテーブルがきっちりと決まっていること、扱うメディアがフィルムからDVDに変わったこと等に時の流れを感じつつも、その時の流れから忘れられたような古風な旅館の佇まい、真夜中を通り越して明け方まで続く伝統のマラソン上映、時間が経つにつれ畳の大広間のそこかしこにごろごろと寝転んで画面を見つめる参加者たち、作品に合わせて沸き上がる大合唱に時折混じるいびきの音、思わぬゲストの登場と意外な発掘作品の紹介、初めて顔を会わせる人ともアニメの話題ですぐに打ち解けられる雰囲気と、そこはかつてと何も変わっていない私たちの場所でした。古くからの参加者とも改めて交流を温め合いました。かつて杉本さんと森卓也さんが掛け合いで進めてくださった作品解説も、気鋭の研究家たちが立派に後を継いで務めていて、沢山の発見を得ることができました。とうにお亡くなりになった杉本さんも広間の前に置かれた額入りの写真の中から私たちをずっと見守っていてくださいました。杉本さんのコレクションは失われても、その魂はずっとここ、アニメを愛して止まない人たちの中に居続けておられることが分かり、心から嬉しく写真に合掌したのでした。全国総会は今も昔も私たちの大切な絆の場であるのです。

その46へ続く

(08.12.12)