板垣伸のいきあたりバッタリ!

第166回
メイキング・オブ・
『迷い猫オーバーラン!』その2

 前回のような理由で『迷い猫オーバーラン!』第1話の脚本・監督を引き受ける事となって、まずは原作を読んでプロット。ただ今回一番の難関、それは

第1話=原作1巻、p.1〜p.38
キャラ紹介から乙女が希を拾ってくるところまで

という原作の単行本の配分でした。参考までに、原作1巻の全250ページ中、アニメの第1話に割り当てられたのはたった38ページ(口絵や目次など抜くと実質30ページ)しかない上、内容は登場人物紹介しかありません。矢吹先生の漫画版でもたった10ページ(扉抜くと実質8ページ)で消化してる内容です(ちなみに原作未読の方へ分かりやすく説明すると、原作1巻は矢吹漫画版では第1回目ですべて消化した事になります。あれを60ページにまとめた矢吹先生の手腕は凄いと思いました!)。それを22分ほどのアニメにするにはオリジナルストーリーを足さなきゃならないって事で、各プロデューサーの方々も覚悟してました、最初から……。だって俺が

1巻を前後編に分けて1、2話にした方が原作ファンは喜ぶんじゃない?

と言ったのに、却下されたくらいでしたから。どうやらこのシリーズ、委員会の皆さん、原作とはちょっと違った面白さをアニメで出したがってたようです。

ここからが面白かったっ!!

 ……もちろん、考え、もがき苦しむ面白さです。最初に叩き台構成案に書かれてたのは

ヤ○ザとの金銭トラブルを解決する話(原作1巻で乙女の性格を説明する際のエピソード)

と書かれていました。これをとあるP(ここからはあえて自分以外の発言者の名は伏せます。シナリオが完成するまでを板垣の主観でお伝えした方が面白いでしょうし、自分は偉い順に意見を聞く事はしないからです)が、

原作にある話とはいえ、ヤ○ザってどーかなぁ〜?

と突っ込んだんです。それには俺も乗っかり賛成しました。理由を

この原作のキャラたちがもし宇宙人だったり、エスパーだったりと特殊な個性を持ってるなら、その力を使って大きな悪と戦うとかで話は成立する。けど、この巧も文乃も千世も、とにかく優しくて可愛いですよね。つーか、あえて褒める意味で言いますけど、優しくて可愛い“だけ”ですよ! こんな普通の男の子、女の子がヤ○ザと戦っても、「……ほんで?」ってオチになるだけでしょ? この作品が目指すのは既存のアニメで喩えるなら『コメッ○さん』くらい悪人のいない世界でしょう!

って言ったら、皆さん同意してくださいました。特に『コメッ○さん』発言は妙に皆さん納得してくださり、その流れで第1話は、

文乃が可愛く描けてればそれでよし!

と全会一致。「じゃ文乃が可愛く映るエピソードって何?」で、俺がプロット第1稿で提出したのが

千世の誕生日パーティ

 つまり、完成形の1話でもあるように、コスプレ強要したりして千世の性格・趣味をハッキリ立てられた上で各キャラが一堂に会する事ができるという、キャラ紹介話にはこれ以上にない機能性から弾き出した案で、希がその中に紛れ込む、と。もちろん文乃と千世の喧嘩もありで。そしたら、

パーティは1話ネタとしては派手すぎでキャラ紹介よりもイベントに目が引かれちゃうんじゃないかな?

との意見が飛んできて、自分もパーティって書いてはみたものの『BLACK CAT』の1話ともかぶるし、あまりノッてなくって簡単に引っ込めたんです(作画も大変だしね)。あとこーゆー意見も。

希を前倒しで出すのもどーかなぁ〜?(完成形1話の希追っかけアクションの事)

 これには自分は反論しました。

原作での希の扱いは1巻全体の大きな話の“事の発端”だから、いきなり乙女が「拾ってきちゃった〜」でもOKだけど、アニメ第1話のラストに拾ってこられるだけ、っていうと、オチにも引きにもならないと思う。アニメなりの見せ場も作るべき!

と。これには、

まあ、板垣さんを起用したんだし、このくらいのアクションは許容範囲でしょ

の賛成を得られて通されたものの「文乃以上に目立たないように!」と注意を受けました。
 次に困った注文が乗っかってきて、

文乃の『2回死ね!』が口癖になった理由のエピソードを入れてくださいっ!

 これは個人的に第1話で入れるのが鬼門だと思ってて、あえて外してたネタでした。1話はまず「『2回死ね!』を使う日常だけにしてキャラを立てた方がよい」と思ってたからです。この突っ込みには別のPが、

それはやらない方がいいんじゃない?

とフォロー(?)してくださいましたが、さらにその「口癖理由」発言の方は言いました。

板垣さんはイヤかもしれないけど、例えば巧と文乃の幼年期を思わせる男の子と女の子を登場させるとかして……

と続けた時はさすがに周りの方々も

「いや〜、キャラ紹介話数でこれ以上登場人物は出さない方が」
「それこそ巧と文乃が主役として立たなくなるんじゃ〜?」
「1本の話にそこまで入りますかね〜?」

などと板垣を擁護してくれたりもしたんですが、そこはそれ……自分の天の邪鬼が発動してこう返答しました。

 まあアニメはひとりで作るモンじゃないので、自分は誰の言う事でも一度は検討してみるタチなのと(今までの作品でもいつも周りの言う事は大概聞いてますから、念のため)、「口癖理由」発言者が、


な目線を送って(る感じがし)たので、

この挑戦受けなきゃ男じゃないっ!! 必ず入れてみせる!

と、受けて立ったわけです。でも、こーゆー難題があった方が面白いホンになるってのもまた事実なんですよね(笑)。

ま、多少オーバーに燃えてみましたが、ホン読みってこんな感じです。皆さんの要望をなるべく取り込んでまとめるのが仕事。結局、

男の子と女の子2人はやはり多い。男の子だけにして「信じてもらえない子供を信じる文乃」ネタ!

に落ち着きました。のちにアフレコで原作の松(智洋)先生にお会いした時、

よくこの分量をまとめましたね!

と感心されましたが、それはすべてメインライターの木村(暢)様、プロデューサーの方々、集英社ライツの方々らの助言(?)の賜物だと思ってます。皆様、ありがとうございました。後の話数も頑張ってください。
 来週はコンテの話など……かな?

(10.05.06)