板垣伸のいきあたりバッタリ!

第171回
オーディオコメンタリー

ところで皆さん、BD&DVDによく特典としてついているオーディオコメンタリーって好きですか? 俺は大好きです、むしろ本編よりも

 邦画などはもうオーディオコメンタリーが収録されてないものは買いたくもありません。本編をひととおり観終わった後、設定をオーディオコメンタリーに切り替えてもう一度始めから再生。その映画がつまらなかったら、途中で止めて、やっぱりオーディオコメンタリーにして最初から——そんな楽しみ方をもう十数年続けているでしょうか。なぜ? それは前にも言ったとおり本編以上にそれを作った人たちに興味があるからです。クリエイターのお話は聴いてるだけで創作意欲が倍増して楽しくなるので、仕事がダレぎみな時はもっぱらオーディオコメンタリー。

そんなわけで今回はお勧めのオーディオコメンタリーを紹介!

板垣の好きなオーディオコメンタリー(※すべてDVD版が基本です)

●「羅生門」(発売元・大映/パイオニアLCD)

 1950年の黒澤明監督作品。別に気取ったつもりでも何でもなく、俺はこの映画自体が大好きで、好きな映画BEST10には必ず上位にくい込んでくる事うけあい。本編もオーディオコメンタリーもそれぞれ何十回観た(聴いた)か憶えてません。宮川一夫のカメラの美しさ、三船敏郎の精悍な美しさ、京マチ子の妖艶な美しさ……この映画を語ると「美しい!」しか出てこない自分のボキャブラリーのなさを痛感します。そのくらい黒澤監督が晩年まで「美しい映画を……」と言い続けたとおりの“美しさ”でいっぱいの映画。オーディオコメンタリーは黒澤映画の名スクリプター・野上照代さんと録音(「羅生門」当時は助手)・紅谷宣一さん。お2人ともとても楽しくこの世界一美しい映画にツッコミを入れてます。黒澤監督のこだわりと情熱が伝わってくるよいコメンタリーです。その他の黒澤映画では「姿三四郎」「八月の狂想曲」「まあだだよ」のDVDにもオーディオコメンタリーが収録されてます。すべて司会は野上さん。ま、もし黒澤監督がご存命でも、本人はオーディオコメンタリーはやらなかったとは思います。生前あれだけ「映画を語る」事をイヤがってたお方ですから。

●「浮草」(発売元・角川大映映画/ポニーキャニオン)

 1959年の小津安二郎監督作品。「羅生門」と同じ大映で京マチ子で撮影・宮川一夫なのは偶然。この映画、本編に関しては以前書いたと思うので割愛。オーディオコメンタリーは撮影(当時は助手)・井上章さん&映画評論家・山根貞男さん。有名な“唯一の俯瞰カット”の話からフレーム内の物を1cm単位で動かす話など、いわゆる「小津芸術」の秘密が語られてます。板垣の世代では「水曜スペシャル」の探検隊で有名な川口浩が本業の俳優として出演してるのも見所でしょうか?

●劇場版『エースをねらえ!』(発売元・バンダイビジュアル)

 1979年の出崎統監督作品。「またか!」と言われてもしょうがない、本当に大好きだから。監督自身のオーディオコメンタリーで、聞き手はアニメ様——小黒祐一郎様。画面作りから旧作との繋がり、原作に対する解釈、製作裏話まで、ファンが訊きたい事をすべて訊いてくれてます。さすが! そして、出崎さんのキサクな語り口調になんとなく癒されつつも、40年とかアニメ作ってきていまだに衰える事のない創作意欲に、ただただ感服したりもします。あと、のちの『エースをねらえ! ファイナルステージ』を観た時も思ったんですが、出崎監督はお蝶夫人が本当に好きなんですね〜(嬉しい)。その他の出崎監督オーディオコメンタリーは劇場版『BLACK JACK』や劇場版『AIR』などでも聴く事ができます(こちらはプロデューサーさんやライターさんとの対談形式)。

●「ゴジラ FINAL WARS」(発売元・東宝)

 2004年・北村龍平監督作品。とにかく北村監督のテンションの高さはカッコイイです。実は以前一度だけお会いして喋った事があるんですが「いい映画より面白い映画を作りたい!」という言葉が印象的で、本当に楽しんで面白がって映画を作ってるのが分かりました。監督のサービストーク満載・オーディオコメンタリーからもそのハイテンションさは伝わってきます。「ALIVE」や「スカイハイ 劇場版」など……オーディオコメンタリーが収録されたDVDは数多いです。

●『INNOCENCE』(発売元・ブエナビスタホームエンターテイメント)

 2004年・押井守監督作品。皆さんもご存知のとおり、押井監督の映画話はとにかく面白い! それは『うる星やつら2 ★ビューティフル・ドリーマー★』(発売元・東宝)のコメンタリーでも同じですが、この『INNOCENCE』は演出・西久保(利彦)さんとの対談・掛け合いが微笑ましくて好きなんです。何か監督と演出がタメ口の信頼関係っていいですね。静かに、本当に静かに淡々と語ってますが、実は本物の映画好きな押井監督でした。コメンタリーではないけど映像特典の“押井守×鈴木敏夫対談”も必見ですよ!

●『化物語』第2巻 まよいマイマイ

 2009年の新房昭之監督×シャフト作品。自分がOP担当したという理由で持ってるのは2巻のみ。でもこれに収録されてる“キャラクターオーディオコメンタリー”なるものは驚愕でした。とにかく真宵と翼の会話が可愛い! 自分で真宵OPを描いてた時より興奮でドキドキしたコメンタリーでした。西尾維新先生は本物の天才だと思います。あ、真宵役の加藤英美里様——遅ればせながら名前憶えさせて頂きましたっ! 『らき☆すた』のカガミンでしたね〜。仕事でご一緒できたら嬉しいです。

*      *      *

 ここまでオーディオコメンタリーが好きな板垣ですが、自分自身がオーディオコメンタリーやるのは話が別。苦手……。元来俺は人前に出るのがホントだめで、緊張するんです。だからイベント等もできるだけ断るし、取材でも写真は一切NGなわけ(付き合い上や諸事情で何回か出た事がありますが、基本断ります)。そんな俺も監督として「作品を商売・営業面からも盛り上げるのに協力しなければ!」な使命感から「せめて声だけで勘弁を……」と引き受けたのが『BLACK CAT』DVDのオーディオコメンタリーでした。とにかく「静寂」にならないように喋りたおしたら、DVD観た(聴いた)当時の制作さんからは、

 とか言われました。しかも全12巻中1巻と6〜12話の計8巻分もやってしまったんです(2〜5巻までは現場の作業で忙しくて欠席)。さらにその後「BLACK CAT FANDISC」全3巻でも喋るハメに! 近藤(隆)君と福圓の間に猫スヴェンのパペット人形に声をあてるかたちで出演してるのも、顔出しNGという板垣条件を逆手にとったプロデューサーさんのアイデアでした。

そしてさらに数年後、『BLACK CAT』がDVD-BOXになって帰ってきたっ!!

 そりゃ、同じマスターから作ったDVD-BOXだけあって、全ディスクにオーディオコメンタリーもそのまま収録されてて……。あそこに自分の喋りがパンパンに詰まってると思っただけで身悶えする日々になってしまいました。やっぱりオーディオコメンタリーは録るより聴くだけにかぎります……。
 ——でも『BLACK CAT』は買ってくださいっ!

(10.06.10)