第221回
アニメーター講座(4)
今さらの話ですが、この「アニメーター講座」と称するモノ、手描きアニメーター・CGアニメーターの区別なく「アニメーターに必要な事」を書き連ねてるつもりなんですが、今回のは一見、手描き優先の項目に思われるかもしれません。でも厳密にはCGアニメーターにも関係あると思うし、もっと言うと「あらゆるクリエイトの基本中の基本」だとも思うので、自分はあえて書きます。
アニメーター心得 その4
似顔絵を描けるようになるべし!
これを言うと20年前のアニメ誌(古本)で某巨匠アニメ監督が「似顔絵が巧いほどよいアニメーターになると僕は思う!」と仰ってたのを思い出します。それを読んだ当時は全然ピンとこなかったんですが、プロでアニメの仕事をやらせていただくようになって、この「似顔絵が巧いほど〜」は確かに実感しました。まず、似顔絵(自分の知人や世間的有名人に似せて描いた絵・イラスト)ってのは早い話、お客さん(見てくれる人)がいてナンボなんです。しかもよくある空想・妄想の美少年美少女イラストと違って、お客さんからハッキリ「似てる」「似てない」で批判されるモンです。その上どん欲なお客さんは「面白さ」も要求してきます。あと何ページもかけられるマンガと違って、たった1枚の画ですべてを完結させる「構成力」も問われるんです。もちろん「その画自体の魅力」も問われるわけ。つまり1枚の画に「観察力」「構成力」「エンターテイメント性に富んだサービス精神」が一気に求められるのが「似顔絵」なんです。たぶん前述の某巨匠さんも、そういう事を仰りたかったんじゃないでしょうか?
自分の場合、幸運な事に中学・高校と似顔絵描くのが大好きで、よく授業中、先生の似顔絵を描いてまわりのクラスメイトに見せてたんで、そーゆー意味では自然と訓練されてた気がします。
休み時間なども次の授業科目の先生を黒板にデカデカと描いたり。
そーこーしてたら、教師たちの間で話題になったらしく、とある国語の先生から「『図書館だより』に載せる司書の先生の似顔絵描いてくれないか?」と依頼があり、普段生徒たちが入れない司書室に放課後通って描く事になって、えらくクラスの男子たちに羨ましがられたりもしました。なぜかというとその司書の先生は
男子生徒憧れの美人さんだったからです!
(板垣はそーゆー話にアンテナはってなかったですが)
以上、ま、似顔絵にまつわる「余談」なので忘れてください。
でも「アニメーターなのに1枚画の巧さなんて関係あるの?」って疑問をもたれる方もいらっしゃるかと思いますが「あります!」よ。実際、手描きアニメの原画は動きの中の1コマを切り出したものの繋がりだし、CGでも同様に「キーになるポーズ」を調整して動画を作るわけですが、「いい動き」になる原画・キーポーズほど
1枚見ただけで
何やってる動きなのか分かる!
ものなんです。なのにダメなアニメーターほど「いや〜、止めの1枚画は苦手で……」とか「僕、動き描くより女の子の止め画を描く方が得意なんです」って言うんですが、単純明快にどっちも下手なんですよ、俺に言わせると。だいたい巧いアニメーターの描いた止め画はやっぱり巧いし、逆に動きがダメなアニメーターの止め画ってディテールだけカッコよくてもポーズに動きが感じられず、髪やスカートのなびきも空気感がまったくないんです。そして「1枚の画で見た人を楽しませる」事ができないアニメーターの描いた(作った)動きが使えないのもまた事実。やっぱり一事が万事。
「動き」を描くには結局「観察力と構成力、そして見る人を楽しませようとするサービス精神」に裏打ちされる優れた「1枚画」の連続が必要で、それを学べる最も有効な方法のひとつが「似顔絵を描く」なんです!
(11.06.16)