板垣伸のいきあたりバッタリ!

第255回
『いぬぼく』蜻蛉EDです。

 同じスタジオ内で動いてる作品はやっぱり気になるもので、『ベン・トー』#10・#12のアクション演出(ラフ原の修正や全修)でヘトヘトになってると

美少年(双熾)が超可愛い美少女(凜々蝶)を抱いたポスターが当然目に止まり、それが

『妖狐×僕SS』!

というわけです。キャラクターデザイン・飯塚晴子さんの画があまりに可憐で

よし。バトルものが終わったら、美少女(凜々蝶)を描くか!

てなわけで監督の津田尚克君に

と言ったのでした。まあ、津田君には『ベン・トー』#04と#08(#04はコンテ・演出、#08はコンテ)で大変お世話になったので、世に言う「恩返し的」にお手伝いできたらな〜とも思っていたんです。『ベン・トー』の打ち合わせ時に「何よりも面白いものを目指す姿勢こそが最重要」だとお互い確認した上、

演出とはサービス業だ!

という板垣の思想(?)にも賛同してくれた津田君が監督なわけだから、特に揉め事もなかったコンテ打ちではあったけど、問題は

と言われて渡されたのが杉田智和さんの歌うあの曲(「SM判定フォーラム」)で

……な感じでした。で、津田監督からは「キャスト&スタッフロールをSとMに分別するED」で

と大雑把に任されました。

じゃ、とりあえず美少女は諦めてSM判定兄さんです!

自分はこーゆー頭の切り替えは早い方なので、今回は青鬼院蜻蛉をノリノリで描きました。
 まず問題になったのは、曲の前半部分の曲調がゆっくりで歌詞もまだ「SM判定前」だという事。つまり、冒頭からSとMに区分けしたテロップを出してしまうと、途中にある、蜻蛉「よ〜し! 分別してやる!」のセリフが台なしになってしまうし、だからといってそのセリフの後から慌ててテロップを出し始めると、1画面1画面の(テロップの)尺が足りなくなってしまいます(OPやEDのキャストやスタッフのテロップは、1画面につき最低2秒半〜3秒は必要とされるのが一般的なんです)。で、いろいろ計算したあげく

前半は普通に(SM未判定状態で)流し、後半(セリフの後)バシバシと素早く前半のテロップをSM判定版で流し直し(1度ちゃんとテロップを見せたので3秒ルールはクリア)、後半は淡々とSM判定をしつつラストまで!

となりました。実はこのテロップ計算がいちばん苦労した事であったりします。そして、画面的・映像的なテーマは

この作品の世界観の美意識を踏まえた上での、ややヤンチャ気味のフィルムにする!

でした。早い話、SMネタが不快にならないように心がけたって事。歌自体に入ってるピー音(放映できない詞)にリンクするように画的にもモザイクをキービジュアルにして、三角木◯や浣◯器をモザイクが晴れるギリギリのトコで消したり(三角木◯はMの字にオーバーラップ)しました。縛られたM奴隷をフレームから切ったりも……。それでいて蜻蛉のハイテンション具合は表現しなければなりません。その上シリーズ通して数種類のEDを作るという事は、当然1本1本は低予算にならざるを得ず、カット数も動画枚数も限られるのです。『はなまる幼稚園』のEDの時もそうでしたが、アニメーター演出にありがちな「バンバン枚数使った大赤字アニメ」を俺は作りたくはなく、逆に

枚数制限こそ手描きアニメの醍醐味であり真骨頂である

と考えるくらいなので、今回の『いぬぼく』EDもそれに則って作ってます。「枚数を使うよりも知恵を使う」で。そして、人件費削減のため(?)、久々に作画監督も自分でやりました。『キャプテン翼』第49話(2002年)、『この醜くも美しい世界』第7話(2004年)に続く数少ない作監作品になったって事です。……といってもキャラクターを整えて演出修正としてのっけたくらいですが。でも、最近になってやっとキャラや作監修正に興味が出てきたんで、近々また別作品でやろうと思います。  で、ザッと駆け足で解説が以下。

C-1

前奏もなし、ノンモン(無声部分……普通OPEDの頭と尻は12コマの無音が入るのが一般的)もなしなので、画的にも突拍子もない「まったくの途中」みたいなとこから始めました。

C-2

長尺。26秒くらいだったか? 前述のようにモザイクを駆使して縄が「S」、三角木◯が「M」の字にO.Lするダサ面白カット。杉田さんの歌の「何カッコつけてんだよ、おい?」感に合わせたつもりで多少マヌケに。

C-3

人々に向かって歩き、剣を振り上げる蜻蛉。その蜻蛉が、徐々に黒ベタにF.Oしてゆくのは動画があまり綺麗に割れてなかったから、撮影に立ち合って「黒ベタにして、オーラでも出して!」とアドリブで指示しました。動画のリテイクでも枚数は枚数ですから。

C-4

SMグッズに囲まれる蜻蛉。モザイクいっぱい!

C-5

ここから突如ハイテンション。スタッフロールを指さす蜻蛉。ポーズには拘りました!

C-6

このカットで板垣の名前がいちばんデカデカと出るのは決して自己顕示ではなく、スタッフの中にはこーゆー目立ち方をするのをイヤがる人もいるわけで「だったら自分が責任をとって晒し者になります」のつもりでした。その証拠にコンテには空白で空けてましたから。

C-7

ギリギリ縛ってる蜻蛉ナメに人々。手首のねじりが拘りポイントでした。

C-8

前カットの切り返し。人々ナメの蜻蛉。こんな感じのあおりパース……何回やったか。

C-9

原作で蜻蛉がよくとる決めポーズ! 杉田さんのテンションにピッタリで好き。

C-10

「エ・ム」のリップシンクロから「だー!」でムチを振る蜻蛉。これも自分で描きました。

C-11

このカットのムチ振りは本編でも演出で参加されてる黒柳トシマサさん。奥の人々が味があってよい!!

C-12

スタッフロールにバシバシと当たるムチ。実は1発分の動きを上下左右に反転させて3発に増やしました。枚数削減&板垣原画。

C-13

またまた決めポーズの蜻蛉ナメに人々。これもポーズ全修しました。

C-14

「エ・ス」のリップシンクロ。たしかこれも自分で描いたかな?

C-15

スタッフを叩くムチの止め。前に動かしたんなら次は止め。あえて動きを省略することでフィルム全体がシャープに仕上がります。これだから枚数削減はやめられません。

C-16

「ああ〜……」を首を振る蜻蛉の顔がモザイクなのは——C-3と同じ理由です。深くは語りません。原画はよく描けてました、念のため。

C-17

ムチをバッチバッチ振りながら全力疾走! ハイテンション! 自分で原画を描きました。

C-18

前カット同様のテンションで板垣原画。「肉◯器」を画で出すとか「バキューン!」の部分に銃の発砲でもインサートするとかも一瞬考えて「……ダサッ!」と思ってやめました。

C-19

これ、M奴隷を地面側から(実写だとガラス越し風になるのか?)撮った画のつもり。あくまで綺麗にがモットー。

C-20

ラストカット。これ、ラフ原まで俺の方で描きました。本当は地球まで引いて(T.Bして)、「S」と彫られた金星と「M」と彫られた火星に挟まれる宇宙の画で終わらせようとかも考えましたが、やっぱカッコ悪そうでやめました。この方が「何しに来たんだ、コイツ?」感が出て面白かったので……。

 以上、全20カットのEDでした。キツいスケジュールの中、ギリギリまで頑張ってくださった色指定・村田恵里子さん、撮影・吉岡宏夫さん……その他すべてのスタッフの皆さん、お疲れさまでした!! あ、忘れてましたがテロップ上の「S」と「M」はすべてご自身の自己申告によるものです(あたりまえか)。

 ……で、すみません。『ベン・トー』の話(12)はまたまた次回にさせてください。

(12.02.23)