web animation magazine WEBアニメスタイル

 
COLUMN
板垣伸のいきあたりバッタリ! 第88回
荻窪監督日記 その5
〜電話が結構好き。

 荻窪の仕事部屋でコンテきるのが毎日毎日のメイン。これ、油断してると“誰とも話さない1日”になってしまいます。ヤバイ。凄えヤバイです。これでは頭の中で渦巻いてる面白い話、下らない話が溢れそうで落ち着きません。それを即目の前のコンテに反映させる事ができる時はよいのですが、もちろんそんな時ばかりであるハズもなく……。だいたいある時ふと思いつく面白い話を瞬時に作品に活かせるほどの才能はありません、自分。
 そんな、頭から話がこぼれそうな時、大変頼りになるアイテムが

電話!

 ……で。そりゃあもう唐突にかけるわけです、友達、先輩、後輩……時には先生にも。最近は制作さんからプロデューサーさんまでもが餌食(?)になってるようです。
 そーいえば数日前、吉松さんのいわゆる『サム死ね』でネタにされてた

「最近、喋るの疲れました」

 ――のメールは、ある友人とさんざん電話で喋った後(……1、2時間は喋ったでしょうか?)、何か異様に喉が乾くわ息が切れるわってくらいになって、思わず打ったものでした。監督はとにかく喋る仕事。作画の頃(俺、今でもアニメーターではありますが)と違って、机に向かっている以外の時間がかなり重要で、ストーリーの流れの説明から画作りにおける演出意図、はたまたアフレコ時の役者さんの芝居に対する注文まで、すべては喋りっぱなしです。

 そんなに喋る仕事だらけの中、なぜまだコンテ中にまで喋るのか?

 ――と思われるでしょうが、

 コンテきってる(描いてる)時ほど誰かと喋る時間って貴重なんですよ!

 俺に言わせると。コンテって単なる絵面よりキャラクターの気持ちの流れを追うもの(杉井ギサブロー監督のウケウリ)。気持ちの流れ――「気持ち」とはつくものの「流れ」と言えば「時間の流れ」。時間が経てば相手の罪も許せちゃうのが現実の人間の話。つまり、作りもののキャラクターとはいえ、気持ちの流れを追う以上、「コンテと時間」は自分にとって切っても切れない仲。ところが、コンテの「画」を描くのに夢中になりすぎると、リアルに時の経つのも忘れてしまいます。その結果、カットカットがバラバラになってしまい「シーン」にならなくなってしまうんですよ、少なくとも自分の場合。そこで誰かと喋る時間を定期的(?)に持つと、コンテの中のストーリーとまったく関係ない会話でも現実に流れてる時間を感じられるんです。このあたり、以前描いた“散歩”の話と同類ですかねえ。
 その話を踏まえた上でこんな話もあります。
 以前――1年ほど前かな?――ドイツのアニメ雑誌のインタビューを受けてた時、こーゆー質問がありました。

「演出家になるための勉強はなんでしょうか?」

 ――こう聞かれて、即座に

「飲み会です」

 と答えたんです。「本を読む」とか「いい映画を見る事」とかの返答を期待していたのでしょう。そのドイツのアニメ雑誌・編集さんはキョトンと……いや、意外そうな顔をしたのです。その後、俺こう続けました。

 「だいたい、本を読むとか映画を見るとかを“勉強”だと思わないとできない人が、そもそもフィルムを作ったり監督したりとかができると思えません。それよりも人とたくさん話すって事の方が重要! 特に飲み会という場は何人かが集まりますよね? その場における自分の位置を見抜いて話題を提供するだけでなく、その話題にオチをつけるまでを瞬時に組み立て、相手を笑わせるまで……って間違いなく“演出”でしょう。たとえ同じ話題でも間のとり方を少しやり損ねるとお客さんは笑ってくれません。そして、話すのが苦手な人は“聞き上手”に徹するのも手です。相手の話を上手く聞くのも“演出”ですから。――ね? そう考えると何人もの人がひとつの場所に集まって話題を提供し合う飲み会はまさに“演出のライブ空間”だと思いません?」

 これを聞いた編集さんは、

「飲み歩く事を正当化する、実によい詭弁ですね!(笑) 使わせてもらいます!」

 ――と喜んで帰りました。そこで俺も

「よし、これで長電話も正当化だ!!」



(08.10.09)

 
  ←BACK ↑PAGE TOP
 
   

編集・著作:スタジオ雄  協力: スタイル
Copyright(C) 2000 STUDIO YOU. All rights reserved.