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COLUMN
第1回付録
「かしこいコヨーテ」完成脚本


     かしこいコヨーテ

     脚本        首藤剛志
     プロデューサー   丹野雄二
     監督        葛生雅美
     語り(ナレーション)宮城まり子



     登場キャラクター
     コヨーテ
     アヒル
     ガラガラ蛇
     ロバ
     牛
     ナレーション(N)
     その他


○ 牛皮に描かれたインディアンの地図
   モニュメントバレーやロッキー山脈が描かれている。
N「アメリカの西部……」

○ ロッキー山脈
   ウエスタン音楽が流れて……山脈のふもとに西部劇に出てくる様な町がある。
N「ロッキー山脈のふもとに動物達の町がありました」

○ 山道
   斧を肩にかけ、買い物袋をぶら下げたアヒルがやって来る。
N「ある日、山の中で、樵(きこり)をしているアヒルが町で塩とコショウとコーヒー
 を買い出しに行きました。その帰り道のことです」
声「助けてください。ガラガラガラ」
   アヒルは立ち止まる。
声「お願いです。ガラガラガラ」
アヒル「誰なんです? どこにいるんです?」
声「ここです。岩の下……三日前の大嵐。生き埋めになって、岩の下」
N「アヒルは、覗きました。岩の下を……」
   岩の下の暗闇に、不気味な片目が光っている。
声「お願いです。どけてください。この岩を」
アヒル「ええ、お安い御用。おまかせなさい」
N「アヒルは、斧で木を切って岩の間に差し込みました」
   アヒルは、てこの原理の応用で、岩を動かそうとして、木を押し下げる。
N「岩は重くてなかなか動きません」
声「もっと力は出ないんですか? 私の命がかかっている。真面目にやってくださいよ」
アヒル「すいません。がんばります」
声「そうです。それが当たり前……そうれ! ガラガラ。しっかり! ガラガラ。も少
 し! ガラガラ。頑張れ! ガラガラ……」」
   掛け声に合わせ、アヒルは懸命に木を押し下げる。
   バキッ! 木が折れ岩が動く。
   アヒルはひっくり返り、目を回す。
N「やっと岩が動きました。さて、アヒルが一生懸命、助け出したのは……」
   気がついたアヒルの前に、長い影が立ちふさがる。
アヒル「あっ! あんたは!」
N「その顔には見覚えがありました。それは町で見た人相書き顔……」

○ 人相書き……
  WANTED 片目のガラガラ蛇の手配書

○ もとの山道
   アヒルの前に、巨大なガラガラ蛇が、尻尾をガラガラ鳴らせながら立っている。
ガラガラ蛇「そうとも、泣く子も黙る殺し屋の、ガラガラ蛇たあ、おれのこったあ!」
   ガラガラ蛇は、自分のしゃべりに合わせるように、体をくねくね動かしている。
N「アヒルは足がすくみました。ともかく逃げなければ……」
   後ずさりするアヒルにガラガラ蛇は、素早く尻尾を巻き付ける。
ガラガラ蛇「逃げるこたない、やいおまえ、袋の中身は何なんだ?」
   アヒルはおどおどと袋の中身を見せる。
アヒル「塩とコショウとコーヒーです」
ガラガラ蛇「(舌なめずりして)そいつは全く好都合。食後にコーヒーかかせない」
アヒル「食、食後にコーヒー! あ、あんたまさか、この僕を!」
ガラガラ蛇「そうとも、長い間の岩の下、おれのお腹はペコペコだ」
N「アヒルは気が遠くなりそうでした。それでもやっと勇気を出して……」
アヒル「そりゃ無茶だ。無茶苦茶だ。いくらなんでもひどすぎます」
ガラガラ蛇「どうしてなにがひどいんだ?」
アヒル「僕はあんたの恩人ですよ。お礼をくれても不思議じゃない。そんな僕を食べる
 なんて。あんまりですよ。ひどすぎます」
ガラガラ蛇「おやおやお前は知らないのかい? いい事すると、悪い報いがあると云う。
 こいつは世間の常識だ」
アヒル「いい事をすると悪い報いがある? そ、そんな馬鹿な!」
N「アヒルはとても信じられませんでした。そこでアヒルは、本当にいい事をすれば悪い
 報いがあるのかどうか、誰かに聞いてみようと云いました」
ガラガラ蛇「あーあいいとも、誰に聞いても同じ事。正しい云い分。俺のほう」
N「ガラガラ蛇は自信あり気に云いました。と、ちょうどそこへ年老いたロバが通りかか
 りました」
   ロバが小走りに駆けてくる。
ロバ「ああ忙し、忙し。ああ忙し、忙し」
ガラガラ蛇「さあさ、聞いてみるんだな。いい事すればどうなるか。悪い報いがあるの
 かどうか」
N「アヒルはロバを引きとめ聞いてみました。
ロバ「(大きく頷き)ウム。たとえばわしを見てごらん」
   ロバの話が紙芝居風に語られる。

○ ロバの話
   (絵)汗水たらしてロバが野良仕事をしている。
      遠くで主人が見ている。
      ロバは年老いてやせてくる。
      家から、叩き出されるロバ。
      夕陽の中を、家の方をふりむき、ふりむき、ロバは去っていく。
N「わしはな、主人の為を思って一生懸命に働いた。毎日毎日文句も云わずに働いた。
 月日がたって年をとり、だんだん仕事ができなくなった。そしたらどうじゃ、主人の
 奴、わしを追い出しお払い箱。一生懸命働いて、残ったものといったなら、弱った体
 と毎日痛む肩こりだけ……」

○ もとの道
ロバ「……いい事なんか、するもんじゃない。悪い報いがあるからな。おまけに貧乏、
 暇もなし。年をとっても休めやしない。ああ忙し、忙し。ああ忙し、忙し……」
    ロバは、小走りで走っていく。
    アヒルは呆然となる。
N「アヒルはびっくりしました。喜んだのはガラガラ蛇です」
ガラガラ蛇「ほら見ろやっぱり、ガラガラガラ。おいしい料理を作るこつ。お塩を少々
 ふりかけて、ガラガラガラガラ、ガラガララ」
    ガラガラ蛇は尻尾で塩のビンを持ち、リズミカルにアヒルの頭にふりかける。
    アヒルは塩のビンをひったくる。
アヒル「や、止めて下さい。一人じゃ当てになりません。聞いてみましょう。もう一人」
ガラガラ蛇「あーあいいとも。どうせ答は同じ事。正しい云い分、俺のほう」
N「と、今度はそこに年老いた牛がやってきました」
    ぶつぶつ文句を云いながら牛がくる。
牛「もう、嫌だ。もう、沢山。もう、嫌だ。もう、沢山……」
N「アヒルは早速、牛に聞いてみました」
牛「(大きく頷き)ウム。例えばわしを見てごらん」
    牛の話が紙芝居風に語られる。

○ 牛の話
    (絵)汗水たらして農耕機具を引く牛。主人がムチをふるっている。
       牛は年老いてやせてくる。
       牛の前に山盛りのご馳走が並ぶ。
牛「わしは主人の為に働いた。どんなにつらい仕事でも、もう沢山とは言わないで働い
 た……。月日がたって年をとり、力がだんだんおとろえてきた。そしたらどうじゃ、
 主人の奴は、わしにたらふく食べ物を食べさせた」

○ もとの道
   アヒルとガラガラ蛇は顔を見合せる。
アヒル「(得意気に)ほうら、ごらんなさい。それは御主人様のお礼のしるし」
牛「(かぶりを振って)ところがそれが大違い」

○ 牛の話
   (絵)アメリカ国旗の下で、どんちゃんさわぎのカウボーイ。
      山盛りの焼肉。女も男もむさぼる様に食べる。
牛「主人のたくらみは読めている。わしをぶくぶくふとらせて、独立記念のパーティで
 ステーキにして食べる気だ」

○ もとの道
牛「……いい事なんてするもんじゃない。悪い報いがあるからな。あーあ、もう、嫌だ。
 もう沢山。もう、嫌だ。もう、沢山……」
   牛はのろのろと去っていく。
   ガラガラ蛇は有頂天になって、スネークダンスをしながら、コショウを青ざめた
   アヒルにふりかける。
ガラガラ蛇「ほらみろやっぱりガラガラガラ。いい事する奴、馬鹿な奴。おいしい料理
 を作るこつ、コショウを少々ふりかけて、ガラガラガラガラ、ガラガララ」
   アヒルはコショウをひったくりポケットに入れる。
アヒル「ま、待って下さい」
ガラガラ蛇「今度はちよっと待てないね。塩もコショウもふりかけた。さあ、いさぎよ
 く食われてしまえ!」
    ガーと大きな口を開けてアヒルを丸飲みにする。

○ ガラガラ蛇の口の中
   アヒルは、口の中でもがく。 
アヒル「開けてくれ! 出してくれ!」
N「アヒルは黙って食べられるほど、まだ納得していませんでした」
   ガラガラ蛇の舌は、のどの奥へアヒルを運ぼうとする。
   アヒルは必死でのどぼとけにすがりつき、ポケットからコショウを出しぶちまけ
   る。

○ 山道
   満足気な表情のガラガラ蛇、口の中のコショウに突然「?」の顔になり、次の瞬
   間、七転八倒し、大きくクシャミをする。
   アヒルは口から飛びだし宙を飛び、たまたま山道をきたコヨーテと正面衝突!
コヨーテ「い、いったい何事です!」
   ガラガラ蛇がやってくる。
ガラガラ蛇「ひどいじゃないか、あんまりだ」
アヒル「あんまりなのは蛇さんです。ロバも牛も人間に使われていたからあんな事を云
 ったんです。今度は人間と関係のない……そうだ。このコヨーテさんに聞いてみまし
 ょう」
ガラガラ蛇「(コヨーテをにらみ)流れ者のコヨーテが、お前にいい事云う筈ない」
アヒル「お願いです。もう一度だけ」
ガラガラ蛇「仕方がないな。聞いてみな」
N「アヒルはコヨーテに聞いてみました。すると、コヨーテはじっと考え込んでしまい
 ました」
   コヨーテはアヒルとガラガラ蛇を見くらべる。
コヨーテ「いい事をすると悪い報いがある……ウーン…………まずアヒルさんが助けた
 時、蛇さんはどこでどんな格好をしていたのかなあ、実際に見ないと分からないな」
    アヒルとガラガラ蛇は顔を見合せる。
ガラガラ蛇「(頷き)なるほど、それはもっともだ」
N「そこでみんなは、もとの岩の所にやってきました。
コヨーテ「さあ蛇さん、どんな格好だったんですか?」
N「ガラガラ蛇は横になり、アヒルは岩を戻します」
   アヒルは木の棒で岩を元に戻す。
   コヨーテはそばで傍観している。
アヒル「(蛇に)こんな具合ですか?」
ガラガラ蛇「いや、いや、それじゃ、俺の力で、抜け出せる」
   アヒルは岩を動かす。
ガラガラ蛇「イテテテ、それじゃ、死んじまう」
アヒル「すいません。それじゃ、これぐらいでどうですか?」
ガラガラ蛇「うん、うん、ちょうどいい具合」
   コヨーテが岩のそばにきて、
コヨーテ「全く前と同じですか?」
ガラガラ蛇「全く前と同じだ。身動き一つできゃしない」
コヨーテ「本当だね?」
ガラガラ蛇「本当だよ」
コヨーテ「(ニッコリ笑い)それじゃ、ここにこのまま、こうしておいで」
ガラガラ蛇「なに! それはひどいよガラガラガラ」
コヨーテ「蛇さん。よいことをすると悪い報いがあると云ったね。じゃあ悪い事をした
 ら、どうなるの?」
   ガラガラ蛇はくやしさに尻尾をガラガラ鳴らす。
N「こうしてアヒルはガラガラ蛇に食べられずにすみました。アヒルはコヨーテに何度
 もお礼をいって、おうちに帰りかけました。するとコヨーテが」
コヨーテ「アヒルさん、アヒルさん、ちよっと待って下さい。さっき、塩とコショウと
 コーヒーを持っていたといってましたね。今でも持っていますか?」
アヒル「(袋を叩き)ええ、ここにたっぷり入っています」
コヨーテ「そう……そいつはとってもうまそうですねえ。食後にコーヒーはかかせませ
 ん」
   コヨーテはアヒルを見て舌なめづりする。
   アヒルはキョトンとしてコヨーテを見ていたが意味が分かって、
アヒル「アッ!」
   あわを食って逃げだす。
   追いかけるコヨーテ。
   二匹の姿が山のむこうへ消えていく。
N「ここでお話は終わっています」

○ 牛皮に描かれた絵
   舞台の様な構図の中で、アヒルとコヨーテと岩の下のガラガラ蛇の尻尾が、次第
   に単純な図柄になって、牛皮に描かれたインディアンの絵の様になる。
N「その後、アヒルとコヨーテとガラガラ蛇がどうなったか誰も知りません。さて、い
 い事をすると悪い報いがある。あなたはどう思いますか?」
                            (完)

 
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