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アニメの作画を語ろう
シナリオえーだば創作術――だれでもできる脚本家[首藤剛志]

第114回 『機動戦艦ナデシコ』とおつきあい

 「黄龍の耳」の音響ドラマが終わった後、みっつの作品を、同時進行で書く事になった。
 ひとつがアニメの『機動戦艦ナデシコ』であり、あとのふたつは音響ドラマというより……実際は、ラジオでも放送されたのだが……パソコンで動かない絵が自動的にめくれていきながら、音と台詞が聞こえてくるパソコン紙芝居(?)と言えるようなものだった。
 パソコン紙芝居については、それなりの話題があるのだが、それは後で述べるとして、とりあえず『機動戦艦ナデシコ』について、書いてみようと思う。
 『機動戦艦ナデシコ』での僕は、原作でもシリーズ構成でもない1人の脚本家として全26話中3本しか書いていない。だが、僕の書いた様々な脚本の中でも、その3本は、今思うと僕にとっては印象の深いものだった。しばらくの間、このコラムをお読みのみなさんに、余談も含めて『機動戦艦ナデシコ』の脚本の話をしていこう。
 ところで、もう一度書くが、『機動戦艦ナデシコ』のシリーズ構成は僕ではない。
 シリーズ構成についていえば、『戦国魔神ゴーショーグン』以来、関わったアニメは、オリジナル作品であろうと原作のあるものであろうと全て、僕はシリーズ構成をやってきた。
 つまり、作品全体のストーリーと脚本面の責任者として、結果的に自分のやりたい脚本を作ってしまってきたわけだ。
 幸いにして、シリーズ構成としての僕が関わった作品にクレームをつける監督もプロデューサーも原作者も、当時はいなかった。
 唯一、『銀河英雄伝説』のOVA版を作る時に、制作や販売の都合上、プロデューサーから原作重視の指示がでたが、最初の劇場版『わが征くは星の大海』と3話分の脚本を書き第1期26本分の簡単なシリーズ構成を書いた時点で、僕の体調がおかしくなったので『銀河英雄伝説』を降ろしていただいた。『銀河英雄伝説』のアニメ版は全部で百数十話におよぶ大長編だが、ほぼ原作通り作られている。
 それはそれでいいのだが、よく見るとOVAの最初の方の話数と、劇場版『わが征くは星の大海』だけは、全体から見て少し原作とニュアンスが違う。
 僕流のアレンジがあるのである。
 原作があろうとなかろうと、結局は僕流の脚本になってしまう。
 いわゆる、首藤節(ぶし)というやつである。
 もちろん首藤節というのは、他人様が言いだした言葉で、僕が言ったわけではない。
 『戦国魔神ゴーショーグン』の前に書いた、原作・シリーズ構成が酒井あきよし氏の『宇宙戦士バルディオス』でさえ、酒井氏がほとんど注文をつけなかったから、僕の書いた脚本に限って言えば、もろに首藤剛志の感性が出張っている。
 ところで、『宇宙戦士バルディオス』まで、僕の知っているシリーズ構成というスタッフタイトルのつく人は、酒井氏しかいなかった。
 もしかしたら僕の書いた他の作品にもいたのかもしれないが、僕は気がつかなかった。
 それまでの僕の脚本は、局のプロデューサーや制作会社のプロデューサー、監督と直接打ち合わせしていた。
 で、酒井氏に紹介された時、僕は「シリーズ構成ってなんですか?」と聞いた。
 答えは「アニメ作品のテーマやストーリーや脚本の責任者、つまり文芸面のプロデューサーのようなもの」ということだった。
 要するに、担当したアニメ作品をどんな内容の作品にするか、どんな脚本家を使うか、時には、制作会社の脚本予算と照らし合わせて、自分が選んだ脚本家のギャラまで決める権限があるのがシリーズ構成らしい。
 作品が原作のないオリジナル作品である場合、原作者の立場に位置するのもシリーズ構成だという。
 なるほど、そういうものか……と僕は思った。
 で、『宇宙戦士バルディオス』の次が『戦国魔神ゴーショーグン』である。
 シリーズ構成は、僕だった。
 だから、僕の思い通りに脚本を作ったし、脚本家の起用も僕の思い通りにした。
 それ以後の作品も、そのつもりでシリーズ構成を続けてきた。
 お金を出す制作会社のプロデューサーとの交渉で決めた脚本料+シリーズ構成料の予算の範囲内でなら、どんな脚本家を使ってもいいということにした。
 そうする事で、新人を起用しようと、素人を起用しようと、あるいはちょっとギャラの高い実写畑の脚本家にも、その時々のプロのアニメ脚本家のギャラ相場の最高を出す事ができた。
 多少のギャラの凸凹や、キャンセル脚本がでた時は、シリーズ構成料で穴埋めをした。
 もともとのプロのギャラが安いのだから、アニメ脚本最高のギャラと言ってもたかがしれている。
 そのギャラを提示することによって「あなたが新人であろうと、実写脚本を書いている人だろうと、ギャラはプロのアニメ脚本家のギャラの最高ランクです。それなりの脚本を書いてください」と、言うことができた。
 それなりの脚本とは、普通のアニメ脚本家が書くそこそこの脚本とは違って、僕がよしと思う脚本である。
 僕がイメージしているその作品のシリーズ全体が持つ空気に、似合っている脚本のことである。
 要するに、作品のテーマとストーリーを決める僕がよしと感ずる脚本だから、僕がシリーズ構成した作品に、僕なりの匂いがするのは当然なのである。
 まして、僕自身が書いた脚本は、僕そのものの感性が露骨に出てくる。
 自分の体の匂いは、自分では分からないというが、僕のような、他の人から見れば、好き勝手な思い通りのシリーズ構成を長くやっていると、さすがに自分の匂いが気になりだす。なんとなく飽きてくる。疲れもする。
 やがて、気がついたというか、耳にしたところによると、他の作品のシリーズ構成とタイトルされた方達は、僕ほど作品に対して出しゃばっていないらしい。
 作品に必要な脚本家を集めてくる仕事が、シリーズ構成の場合もあるらしいし、長い原作を、プロデュサーや監督と相談しながら1クール13本、2クール26本、1年52本などに分け、担当する脚本家に分配するのがシリーズ構成の仕事の場合もあるようだ。
 作品のテーマやストーリーを決める立場にいないシリーズ構成もいるらしい。
 原作があるアニメならともかく、オリジナルのアニメ作品なら、原作者の立場にいるシリーズ構成は、脚本家と同じくなんらかの著作権がありそうなものだと思っていたし、僕自身は権利主張して、制作会社と契約し、それなりのものを受け取っていたが、どうやら、そんな契約をしているシリーズ構成は当時は僕だけだったらしい……ただし他のシリーズ構成の方達の著作権が現在、どうなっているかは知らない。
 それぞれ、シリーズ構成のやり方が違うのだから、今、僕がそれを知っても意味がない。
 かなり昔、僕流のシリーズ構成の著作権に関して、日本脚本家連盟と何度か話したのだが、脚本家連盟はそもそもシリーズ構成というスタッフタイトル自体がなんの事か分からず、結局プロデュサーの一種と見なし、シリーズ構成が著作権を主張することはできない……シリーズ構成が著作権を言いだすと、他のプロデューサーも著作権を主張し、脚本家の取り分を減らす危険があるなどという見解をして、あとはうやむやである。
 ちなみに、当時の脚本家連盟は、脚本家にとってプロデューサーは、著作権使用料をなかなか払おうとしない……つまり、敵のような存在と見ていたようである。
 ということはシリーズ構成は製作者に属していて、脚本家にとっては敵ということになる。
 シリーズ構成っていったい何なのか? 僕のやっている事は何なのか、シリーズ構成は創作者じゃないのかなどと考えながら、手がけ始めたパソコン紙芝居二作品は、僕のオリジナル作品で、いわゆる首藤節全開……自分で自分の脚本の感性にお腹いっぱい状態の時、いきなり脚本の打診が来たのが『機動戦艦ナデシコ』だった。
 シリーズ構成の代わりに、ストーリーエディターというスタッフタイトルで、會川昇氏の名があった。
 お会いした事はなかったが、ストーリーエディターといっても、要するにシリーズ構成のことであろう。
 それをあえて、ストーリーエディターと表記するには、それなりの理由があるはずである。
 どんなシリーズ構成の方法をしているのか知りたかった。
 僕は、僕流のシリーズ構成法しか経験していなかったし、他の人のシリーズ構成で、首藤節がどう変化するか興味もあった。
 いささか飽きてきた僕流の脚本に少し風通しをよくしたかった。
 だが、なにより、『機動戦艦ナデシコ』が僕を引きつけたのは、この作品を制作しているのが、ジーベックという会社だという事だった。

   つづく


●昨日の私(近況報告というより誰でもできる脚本家)

 アニメの実制作のスタッフの中では、脚本家は確かに恵まれている。
 ただし、それは、アニメの実制作という狭い範囲の中だけでの話である。
 さらに言うなら、脚本家が喜んでいられるのは、DVDやビデオなどが売れ、2次使用料が入ってくるヒット作の脚本を書いた場合に限られる。
 やたらとアニメの数が多い、アニメバブルのこの時代、そう簡単にヒットアニメが飛びだすとも思えない。
 ヒットしなかった作品の場合、2次使用料は微々たるものになる。
 2次使用料を考えない場合、30分アニメ1本の脚本料は、ベテランの脚本家で20万前後であるといわれている。
 何を根拠に、ベテランと中堅と新人の差を決めるのかは知らないが、日本脚本家連盟が決めたベテランのアニメ脚本料の最低が19万5000円である。
 ある制作会社のプロデュサーが、10年ほど前、胸を張って、某作品の脚本を書く予定の脚本家達に言った。
 そこに集まった脚本家達は、過去に何作もシリーズ構成した作品を持つ、アニメ脚本家としては実力者ばかりだった。
 本人がベテランと言われたくなくても、他の脚本家達からベテランと呼ばれざるをえない人達である。
 プロデューサーは、某作品をヒットさせたいために、アニメ脚本のベテランをひっかき集めたのだ。
 「このアニメは予算をたっぷりとったから、脚本を書くあなた達にも、たっぷりギャラを出します。だから、いい脚本を書いてください」
 ベテラン脚本家の1人は、その言葉を聞いて、30分1本で30万ぐらい出るのかな?……と、一瞬、思ったそうだ。
 だが、実際に出たギャラは最低より5000円高い20万だった。
 悲しいことに、この金額は、それから10年、上がっていない。
 これからも、当分上がらないと思う。
 今、30分のアニメを作るのに、1000万から1100万かかるそうである。
 その内の脚本料が20万なのが、安いのか高いのかは分からない。
 アニメ専門誌を見ると1週間のアニメの番組表が載っている。
 そこには、それぞれのアニメの脚本家の名前が載っている。
 それを見れば、ひとりの脚本家が1ヵ月に何本書いたかが分かると同時に、ほとんどの人が1本20万以下だとすれば、だいたいの月収が分かる。
 そして、数年すると、メンバーが入れ替わる。
 ベテランと呼ばれるような人の名は、ほとんどなくなる。
 だとすれば、みんな1本18万ぐらいで書いているのかも知れない。
 原作通り、または、パターン通りのお約束な脚本を書くなら、何もベテランを使う必要はないのである。1万円でも5000円でも安いほうがいい。
 これが現状である。
 常識的に考えても、アニメの脚本家は、普通の生活ができる職業として成立しない。
 それでも、あなたは、アニメの脚本家になりたいですか?

   つづく
 


■第115回へ続く

(07.09.05)

 
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