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第14回 恐怖の20枚シナリオ(Part 3)
「妙なもの」ものを書いてしまった一作目の20枚シナリオから、しばらく自己反省しながら20枚シナリオは、さぼっていた。
しかし、授業に出ている以上、そうも怠けてもいられない。
当時の僕は、今よりはるかに真面目だったのである。
僕は、二作目の20枚シナリオを書いた。
テーマは、確か「別れ」だったと思う。
シーンは、暗い感じの男が、手製時限爆弾を作っている所から始まる。
カットバック(細かいシーンが交互に挿入されること)で、男が、女に「別れましょう」ときっぱり宣告される場面が、描かれる。
ぼう然となる男は、去っていく女の後ろ姿につぶやく。
「どうしても別れるというのなら、こうなりゃ心中だ……」
当時、荒れまくっていた学園紛争で、火炎ビンの作り方や、手製爆弾の作り方などという、物騒な情報が巷に流れていたから、手製爆弾など、火薬さえ手に入れれば、誰にでも作れそうな時代だった。
爆弾を作り終えた男は、女に電話して……
「もう一度だけ会ってくれ」と懇願し了解を得る。
場所は原宿駅前……近くにある代々木公園で、壮絶に爆弾心中するつもりだった。
自分で、爆弾のスイッチを押すのに躊躇すると困るから時限爆弾にした。
しかし、時限爆弾入りバックを持って、新宿から山手線の電車に乗った男の脳裏に、仲の良かったころの女とのイメージが、浮かんでは消えてくる。
ここいらも、カットバックの連続である。
20枚に収めるために、細かいショットが続く、我ながらそうとう苦心した手法である。
やがて、彼のイメージは、女との幸せだった時期の事でいっぱいになる。
原宿駅で電車を降りた男は改札口に向かう。
改札口には、にこやかなの女がたっている。
「ご免なさい。別れようなんて……あれ、ただ。言ってみたかっただけなの」
「じゃあ……」
「これからもおつきあいしましょう」
ぱっと明るくなる男の表情。
代々木公園を、じゃれあうように駆ける男と女。
甘美なBGM(バックグラウンド・ミュージック)が、流れる。
ふと、男は、足を止める。
「どうしたの?」女が聞く。
「荷物棚に忘れてきちゃった」……
電車の荷物棚の上のバックが写しだされる。
男はつぶやく。
「ま、いいか」
男は、女の手を取ってはしゃぎながら走り出す。
時限爆弾の秒針が、5・4・3・2・1・0。
渋谷駅に到着した電車が、大爆発を起こす。
電車は、渋谷駅ビルごと吹っ飛んでしまう。
それを、知ってか知らずかあくまでも明るい男と女の顔でエンドマーク。
この奇妙な20枚シナリオも好評だった。
現代の過剰な無責任さを描いているというのだ。
皮肉がこもっているのかもしれないが、先生は、「爆破シーンの特撮(SFX)が大変だね……」と、言ってくれた。
みんなの批評をへらへらほほ笑みながら聞いていた僕は、内心、多いに困った。
この作品、20枚で収めるために、細かいカットバックでごまかしているが、全くリアリティがないのだ。
だいたい、僕自身、女性に振られたからといって心中を考えるタイプではない。その当時、18歳の僕は、女性に振られたという経験がなかった(後で、充分、いろいろな女性に嫌われることにはなるのだが……)。
女性に振られるショックの実感がないから、主人公の男の気持ちは、あくまで想像でしかない。
それに、時限爆弾のタイム設定である。
都合よく、渋谷駅で爆発してもらうには、余程、山手線が正確に運行してくれなければならない。
やはり、ここは、自分で爆弾のスイッチを押す方法を、取るべきである。
カットバックで、目まぐるしくシーンが展開されるから気がつかないのかも知れないが、この話、無理が多すぎるのである。
だいいち、書いた本人が呆れるほど、無責任なストーリーである。
20枚シナリオは、話をまとめるために、展開に無理がでやすいのだ。
そのためには、作家の心情を無視してまで、話を作らなければならない。
プロは、書きたくない話でも、書かなくてはならないときがある……とはいうが、書きたくない話は、やはり、書かないほうが、作家の精神衛生上よい。まして、書きたくない話を、無理やりまとめる変なプロ技術の癖を身に付けると、本当に書きたいものを書くときに、描ききれずに無難にまとめてしまうお気軽作家になる危険が強いと思うのだ。
その意味でも、20枚シナリオ修業をやるなら、その危険を充分、注意しながらやるべきだと思うのだ。
二本目の20枚シナリオに自分自身で懲りた僕は、三本目には、なかば、やけっぱちで、こんなシナリオを書いた。
スーパーマンの話である。
誰もが、一度は書きたいスーパーマンものといわれるが、それをはやばやと書いてしまったのだ。
世界の悪を退治するために、スーパーマンは、日夜、戦い続けている。
だが、世界の悪の数は、多い。巨大な国際犯罪から、万引き、かっぱらいまでいれると、数がしれない。
しかし、僕の書いたスーパーマンはまじめな男だった。
全ての悪を退治するため、通報されてくる悪事を、忘れないようにメモ帳に書き込んで順番に片づけていく事にした。
真面目なスーパーマンは、真面目にメモ帳を付けたため、そのメモ帳は、どんどん大きくなり、夜空に浮かぶ月より大きくなった。
そして、日夜戦い続け、メモを書き続けるスーパーマンを待っていたのは、過労死だった。
スーパーマンの葬式の日、奥さんのスーパーウーマンと子供のスーパーボーイは、残された巨大なメモ帳……それは地球より大きくなっていた……の間に、地球を挟み、ぐしゃっとメモ帳を閉じた。
地球から悪は無くなった。ついでに地球もなくなった。
この20枚シナリオも、好評だったが、スーパーマン家族の心情を描く余裕はなかった。
こんな、コントのようなシナリオを、何十本書いても、シナリオ修業になるとは、思えなかった。
発想は、荒唐無稽だが、リアリティも欲しいと、ちょっと聞くと矛盾しているようなことを思っている僕には、20枚シナリオは、本当に困った存在だった。
つづく
●昨日の私(近況報告)
リアリティの話を続けるならば、最近、同じ原作者という戦争映画を三本立て続けに見た。
ひとつは、超能力少女を乗せた潜水艦の、第二次大戦、原爆投下がらみの話。
ひとつは、戦国時代にタイムスリップをした自衛隊の話。
最後は、反乱を起こす最新自衛隊艦の話。
どれもこれも、僕には、リアリティの点で、ひっかかり、一応最後まで見たものの、お尻がむずかゆかった。
一本目の、超能力少女には目をつぶるとしても、原爆が、広島、長崎の次が、なぜ東京なのかにリアリティがほしいし、空を飛んでいる爆撃機を大砲一発で撃ち落とせると思うのも考えて欲しい。
だって、簡単に撃ち落とせるなら、ドレスデン大空襲も東京大空襲も、あれほどひどくはならないのじゃあないか?
次に、自衛隊のタイムスリップには目をつぶろう。でも、全ての責任が、女性自衛隊員の恋愛騒動が原因と思い込む、鈴木京香さん(いい女優だと思うが)の自意識過剰ぶりはすごすぎる。
最後の作品は、反乱の動機が弱いのと、事件がなぜ東京湾で起こらなければならないのかが、分からない。
こういう事件は、朝鮮半島の方角でやってほしい。
阪神大震災の時の村山首相と今の小泉首相がこうだったら格好よかったろうになあ……と思える首相役を原田芳雄さんが、気持ち良さそうに演じているのも、なんだかおかしい。
でも、ともかく戦争映画である。男優ばかり出てくるから、日本映画の男優を一望するには、都合の良い三本だとは思う。
などと、思っていたら、最近発売された超能力少女潜水艦映画のDVDスペシャルバージョンを、買ったという知人が現れたので驚いた。
「話はハチャメチャなんですけれど……」彼は、そう断ってから言った。
「軍服がすごいんですよ」
つまり、潜水艦に乗っている海軍兵士の軍服が、やたらと本物っぽいのだそうである。
「なるほど……」と僕は納得した。
映画やテレビ番組は、演出や脚本や俳優だけで作られているのではない。美術、衣装、その他、様々な部門の総合的な力によってでき上がっている。
見る人は見ているのである。うれしいではないか……。
映像を作る様々な部門の人の励みにもなる。
これで、今年の日本アカデミー賞衣装部門(なの、あったっけ)は、ほぼ決まりである。
■第15回へ続く
(05.08.31)
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編集・著作:
スタジオ雄
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