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COLUMN
第183回付録

 ラジオ脚本「ミュウツーの誕生」
 ラジオ(CD)バージョン(仮題)5話分


首藤剛志

全話数の登場人物

第1話 幻のミュウ
 ナレーション(サカキ)
 ロケット団女ボス(サカキの母親らしい)
 ミヤモトちゃん(女)全話数に登場します。
 ニュースアナウンス1/2/3
 ミュウ
 ポケモン多数
 人々の声

第2話 ミュウツー誕生
 ナレーション(サカキ)
 博士
 サカキ
 ミュウ
 ミュウツー(幼児)
 アイ
 坑夫1・2
 コンピュータの声(女)
 ポケモン達(TV版の声である必要はありません)
 ミヤモトちゃん
 その他……

第3話 ミュウツーとアイ
 ナレーション(サカキ)
 博士
 サカキ
 ミュウ
 ミュウツー(幼児)
 アイ
 ミヤモトちゃん
 ポケモン達 多数
 研究員1その他……

第4話 世界最強のポケモン
 ナレーション(サカキ)
 博士
 サカキ
 ミュウ
 ミュウツー(幼児)
 ミュウツー(大人)
 アイ
 ポケモン達 多数
 研究員1その他……
 コンピュータの声(女)
 ミヤモトちゃん
 その他……

第5話 ミュウツーの逆襲
 ナレーション(サカキ)
 サカキ
 ミュウ
 ミュウツー(大人)
 アイ
 ミヤモトちゃん
 ポケモン達 多数
 トレーナー
 その他……



第1話 幻のミュウ

○宇宙の音

  太陽風の音……時々、星間物質の爆発する音……
  星のきらめきの音……彗星の流れる音…… 

ナレーション「宇宙……果てしなく続く宇宙……この宇宙がいつからはじまったのか、詳しいことはわかっていない。しかし、いつのことか、宇宙の片隅、銀河系……太陽系惑星のひとつに、生き物が生まれ……進化し……人間が生まれ……そして、またまた、いつのことか、この星に、新たなる生物が生まれた。
 その種類は、百以上……謎に包まれたこの生物を、人々はポケット・モンスター、略してポケモンと呼んだ」

  ファンファーレ……または衝撃音……

ナレーション「ポケモンは百種類にとどまらなかった。時代とともに、新しいポケモンが次々に発見されていった」

○昔のラジオの音……(多分、戦前「第二世界大戦のことです」の放送……電波状況が悪く、雑音も多く、音楽は針飛びのまじったレコードである)

  歌「ポケモン、言えるかな?」がポケモンの名を連呼して……
  歴代のラジオニュース
  ラジオの音質とアナウンサーの語り口が、時代を表して……古めかしい電信が、聞こえる。

アナウンサー1「本日、未明。我が国政府はポケモン探査船の無線を傍受……ひとまる、ひとひと。我、ふたご島沖200カイリで、未確認ポケモンに遭遇せり……我、伝説のハクリュウと確信せり……」

  ハクリュウの咆哮……

ナレーション「歴史に残る発見は、数多い」

  怪獣接近風のBGM、効果音

アナウンサー2「ああ、この姿を、お見せできないのが残念です。ギャラドスが、ギャラドスが、いまこちらに、やって来ます。凶悪ポケモンの名のとおり、これは怖いぞ……。あちゃ、こちらに こちらに来ます…ああ……ちょっと待って……そんな本気にならないで ギャラドスさん……ひえー」

  アナウンスの悲鳴とギャラドスの咆哮。
  ラジオの音、プツンととぎれ……
ナレーション「発見は、それなりに大変だった……だが、それにもめげず……」
  昔の映画ニュース風のオープニング曲、または、臨時ニュース風効果音

アナウンサー3「臨時ニュースです。ポケモン学会より、重大発表がありました……なんと、世界で、もっとも古いポケモンが発見されました……その名はカブトプス……なんと二百万年前のポケモンそのままの姿だといわれています」
  カブトプスの鎌の音……シャキン! シャキン! カブトプスの鳴き声。
  様々な人々の声……

 「発見だ!」
 「新しいポケモンを!」
 「もっとポケモンを見つけろ!」
 「新しいポケモンをさがせ!」

ナレーション「より珍しいポケモンを、より新しいポケモンを……世界中の人間達が、熱にうなされたように、ポケモンを捜し求めた」

  歌「ロケット団よ永遠に」のイントロ。

ナレーション「そして、いつの世も、ポケモンのブームの最前線に立ち暗躍していたのが、我々、ポケモン密漁密売組織、ロケット団であった。……さて、ここで断っておこう。私は名はサカキ……しかして、実態はロケット団の現役のボスである。今、ここに、そのロケット団の歴史の中で、もっとも重大で、最重要機密とされている記録がある」

  プツン、音がきれる……
  雑音……数秒……テープのテスト音……3、2、1……

ナレーション「この話は20年前のある日の午後、ロケット団部、ミヤモトの報告から、始まった。なお、当時のロケット団のボスは、美しい人だった……ほんとうに、先代は美しい女性だった……(自分にうなずいて)うむ。母は美しいおふくろだった。それは、ともかくとして、母の元に、一本の録音テープが提出された」

ミヤモトちゃん「(真面目な口調で)ボス、このテープを、お聞きくださいませ」
ロケット団女ボス「(真面目に)うむ、ミヤモトか……(突然、くだけて)おや、ミヤモトちゃん。もうかってまっか? (真面目な声で)これ、ロケット団の合言葉」
ミヤモトちゃん「(くだけて)ぼちぼちでんがな。ボス。(真面目に)これ、ロケット団の合言葉……ともかく、テープを聞いてやって下さいませ」

○ポケモンの声の録音テープ
  いきなり、風の音や、木々のざわめき、水の流れる音……
  そして、様々なポケモンの声が入り交じって聞こえてくる。
  どんなポケモンがその声にまじっているか判別もつかない。
  声が、うるさいぐらいに膨れ上がって……

ロケット団女ボス「これは、なんですか? (くだけて)もうかるの? こんなテープ」
  録音テープが、止まる。

ミヤモトちゃん(女)「いえいえ、これ、売りもんちゃいます。(真面目に)この録音は、南米の大密林で、わがロケット団の誇る高感度マイクでキャッチいたしましたもので……」
ロケット団女ボス「(きりりと)待て! そのマイク、お値段は?」
ミヤモトちゃん「どきっ! アキバ(秋葉原)で五割引です……」
ロケット団女ボス「(真面目に)もうすこし、ねぎれなかったのか?」
ミヤモトちゃん「(くだけて)これ、ぎりぎりでんがな……(真面目に)ともかくそのマイクに収録されたのがこの音だったりします……」
ロケット団女ボス「それがなんだというのです?」
ミヤモトちゃん 「なんだかんだときかれたら……(ここまで、ムサシ調)……(ここから、マジで早口)見通しの悪い密林で、珍しいポケモンを発見するためには、前もってポケモンの鳴き、さらにその声を録音し、その音によって、ポケモンの居場所と種類を確かめたうえ、発見および捕獲に挑戦する……
  (長セリフです。ここで、 ふーっと息をついて下さい)
ミヤモトちゃん「この方法が、結局のところ、御予算少々でお得です」
ロケット団女ボス「わたしなら、もう少しねぎるぞ。せめて、そのマイク、六割引に」
ミヤモトちゃん「お言葉ながら、五割引とはいえ、高感度マイクです。様々なポケモンの声が、かっちり入り交じって収録されております。聞いてくださいませ……なにかが聞こえませんでませんでしょうか?」

  密林の音のテープ……

ロケット団女ボス「なんのことやら……」
ミヤモトちゃん「まず、録音から、風の音、川のせせらぎ、木々のざわめき……いわゆる、自然の音を消します。あら、不思議」

  様々なポケモンの声が残る。

ミヤモトちゃん「さらに、森には付き物の、鳥ポケモンや虫ポケモンの声も消します。ほら不思議」

  鳥系ポケモン、虫ポケモンの声が消える。

ロケット団女ボス「もったいない。どうせ、消すならとらなきゃいいのに」
ミヤモトちゃん「黙ってリッスン、聞いてくださいませ」

  ケーナのような楽器の音楽(アンデスの民族音楽)……または、アンデス風「馬追い歌」のような歌声……口琴のようなものでもいい。

ロケット団女ボス「ん? なんだ」
ミヤモトちゃん 「あの地方に伝わるカントリーミュージックだったりします……。(昔話調で)むかーし、むかし、そのむかし……森と山と湖のどこかに、幻のポケモンが住んでいたそうな……」
ロケット団女ボス「(あいのて)はあ、それでまた、どした」
ミヤモトちゃん「はい、一年で一度のことじゃ。幻のポケモンは陽が昇るとともに現れるそうでな」
ロケット団女ボス「はあ? それでまた、どした?」
ミヤモトちゃん「そのポケモンときたら、はあまあ、さあ……、世界で一番珍しく、もしかしたら強く優しくたくましく、この世の全てを守ってくれるありがたいポケモンでなあ」

ロケット団女ボス「なんだかいたれりつくせり……」
ミヤモトちゃん「(うなずき)そんだあ……この民謡はあ、そんな幻のポケモンに捧げる歌だそうな……」
ロケット団女ボス「真面目に)CDにしたらもうかるかな?……」
ミヤモトちゃん「(真面目に)もうけの話はこれからでございます。私こと、ミヤモトちゃんは、幻のポケモンに狙いを付け、待ち続けました。なんし、(ぐすん)かわいいわが娘がいたころも、わたくし、あの土地を、離れやしないの……単身赴任……ううう(泣く)」
ロケット団女ボス「(しみじみ)子供はお金かかかるわよねえ……うん。うちのどら息子なんか、大変」

  「コホン」……ナレーションがせき払い。

ミヤモトちゃん「はい……。うちの場合、どら娘になるまえに、結局のところ、ただちに、人にあずけました」
ロケット団女ボス「いいこころがけ」
ミヤモトちゃん 「はい、私の生き甲斐は、一にもうけで、二に節約……三・四がなくて五にポケモン」
ロケット団女ボス「ロケット団の鏡です」
ミヤモトちゃん「これをお聞き下さい。さらに民謡を消してみます」

  音楽が消える。
  サーっというテープ・ヒスのような音

ミヤモトちゃん「もしもし、聞こえませんか?」
ロケット団女ボス「ん? もしもし、聞こえませんよ」
ミヤモトちゃん「ボリュームを上げてみましょう」

  「ミュウ」「ミュウ」「ミュウ」

ロケット団女ボス「うん?うん?、こりゃ、みょうな……」
ミヤモトちゃん「今まで、誰も録音したことのない声です……。でも、結局のところ、 音の波長は確かにポケモンのもの……」
ロケット団女ボス「と、いうことは……」
ミヤモトちゃん「結局のところ、幻のポケモンは確かにいるのです。この土地の伝説は、その幻のポケモンの名を、「ミュウ」と呼んでいます……」
ロケット団の女ボス「ミュウ……」
ミヤモトちゃん「「ミュウ」の鳴き声は 南米の密林から、それに続く山なみの頂きへ消えていきました。これ、つかまえたら大もうけ……」
ロケット団の女ボス「善はいそげ……悪は走れ……もうけばなしは、新幹線の超特急……」
ミヤモトちゃん「はいな……ぴゅううううう……」

  ミヤモトちゃん、たぶん、超特急でとびだしていく。

○民族音楽が広がって……

ナレーション「当時のロケット団のボス……すなわち、わが母は、『ミュウ』の声を初めて録音した女『ミヤモト』をリーダーにして三人の大規模な部隊を南米の山脈へ送り込んだ。だが、しかし、今になっても誰も帰ってこないという……」

○吹雪の音……

ミヤモトちゃん「結局のところ……(バスガイドのように)みなさーん。わたくし、ミヤモトちゃんでーす。
 ここは、南米の山脈で、一番高い山の頂上でーす。
 右をごらんくださーい。夜明け前……ぎんぎんに寒いでーす。季節は夏の筈なのに、山の頂……吹雪……だもんなあ。でも、ミヤモトちゃんはがんばりまーす。ああ……(しみじみ)けれど、あれからいったい何年経ったんでしょう。
 仲間のロケット団とは、はぐれるし……。
 結局のところ 私と一緒にいるのは……赤ん坊の頃、人に預けた娘の写真だけ……ううう(涙ぐむ……しかし突然明るく)。
 ふふ。けど……こんなになっても、わたし、待つわ。待ち続けてまーす。
 そう、「ミュウ」を待ってます。……この山の頂上にいれば、「ミュウ」に会えるかもしれない。そんな言い伝え、信じちゃって……幻のポケモンはお金になる。ううう、わしゃ、絶対、もうけてやるんじゃい!」

  吹雪の音がやむ。

ミヤモトちゃん「え? ……吹雪……やんだ。吹雪が……。あ……朝陽だ。陽が登ります……。山が、全てが……金色に光って見えてます。 まるで、小判の山……いい予感!」

  金色に光る山々の効果音

ミヤモトちゃん「……あ……あれは……」

  「ミュウ」……幻聴かもしれないミュウの鳴き声。

ミヤモトちゃん「あなたが……あなたが……ミュウ?」

  「ミュウ」……やはりそれは幻の声かもしれない。

ミヤモトちゃん「ああ……なんて、やさしそうなの……そう、あなたがミュウなのね……ねえ、見て、これ、この写真……私の娘……ムサシっていうの……かわいいでしょ?」

  「ミュウ」

ミヤモトちゃん「……そう……ネ、お願い。私にあなたを捕まえさせて。保育園とか、幼稚園とか、子供はお金かかるのよ……あ……どこにいくの?」

  吹雪……

ミヤモトちゃん「あらら、いっちゃうの?……待ちな! そうはさせるか…… もうけばなしは、握ったら、はなさへん……あ、あらら……どこいくの……あら……やな予感 ……わたし、やだ、落ちちゃうの……結局のところ……きゃー!」

  がらがらがらがら……がけの崩れる音
  ケーナ風民族音楽……
  「ミュウ」の声、ひときわ高く……
  エンディング・ミュージック

ナレーション「結局、幻のポケモンの秘密が、再び我々の前に姿を表すのは、それから18年後のことだった」

  第1話完……2話に続く



第2話 ミュウツー誕生

○アンデスの山並み

  民族音楽風のテーマ、流れる……
  風の音……
  「ミュウ」……その声が響いて……

ナレーション「20年前、その存在の片鱗を我々に聞かせた、幻のポケモン『ミュウ』……水面下での探索は続いていたが、その行方はようとして知れず……沈黙が続いていた」

ミヤモトちゃん「わたし、ミヤモトちゃん……結局、わたし、あきらめません。別れた娘はそろそろ、小学校なのよ。お金がかかるのっ!……どこにいるの、ミュウ! でてらっしゃい」

  ぴゅー、風が吹く。

○ 砕石場の音

  ドリルの音……つるはしの音……
  スペイン語かポルトガル語で、「よいとまけの歌」のパロディ曲(アカペラで……)

ナレーション「それから18年後……わたしことサカキ……しかして、実態は母を引き継いで、ロケット団のボスに就任していた。われわれの闇の事業は、ポケモンにかんする全てにわたっていた。
 なんでも、ポケモン・ロケット団(なんでもお宝鑑定団風に発音)……化石ポケモンの盗掘も、例外ではない。そして、ロケット団、最大の盗掘現場は南米の山脈地帯にあった」

  カシーン! きらめきの音。
  いかにも、光っている感じ……

坑夫1「なんだ、こりゃ?……」
ナレーション「それは、1センチにも満たない小さな化石だった」

  ミステリアスなBGM

坑夫2「化石にしちゃ……やけに光っているな」

  きらめきが広がるような音……
  けっして、危険な感じではなく、温かい感じ

坑夫1「わっ……これは……」
坑夫2「ひえ!(恍惚とした感じ)」

  きらめきの音、さらに広がって……
  ファンファーレ……または衝撃音……
    
○波の音
  次第に波の音。博士の声、登場……

博士の独白「わたしは遺伝子生命学では、少しは、名の知れた研究者である。……その化石は、極秘裏に、ニューアイランド島にある私の秘密研究所に運ばれた」

  波の音にWって……機械音が聞こえていく。電磁音……試験管の中の泡立ち音。

コンピューターの声(女)「……分析結果……何かのポケモンのまゆ毛の化石です……ポケモンの正体……不明。ただし、その遺伝子配列を、音声化すると……」

  ぐるぐるとらせん状に回転するような、効果音……。
  やがて聞こえてくる声。
  「ミュウ……」「ミュウ」「ミュウ」

博士「ミュウ? なんだ、これは」
コンピューターの声(女)「過去の記録に、一例あり……」
博士「それは……」
コンピューターの声(女)「南米の密林地帯から山脈にかけて生息すると噂される幻のポケモンの声……」

  「ミュウ……」17年前に録音された音
  「ミュウ……」コンピュータにより音声化された声。

博士「幻のポケモン……ミュウ」

  サカキの声が、割り込む。

サカキ「……ミュウか……その化石の成分から、幻のポケモンを再生……できるかな?」
博士「サカキ様……できるかな? と聞かれたら、他のポケモンでは、成功していますとは答えます」

  機械の動き始める音が聞こえ、スタンプを押すような音の機械音がリズムを取る。

博士「(ラップ調で)ポケモンの遺伝子で、コピーをつくりゃ……ポケポケモンモン、2匹のポケモン」
サカキ「2倍のもうけ」
博士「ゼニガメの遺伝子で、コピーをつくりゃ(ゼニガメの声)じぇに・じぇに・ガメ・ガメ。(博士)2匹のゼニガメ」
サカキ「ぜにもうけ」
博士「ヒトカゲの遺伝子で、コピーを作りゃ(ヒトカゲの声)ヒトヒトカゲカゲ。(博士)2匹のゼニガメ」
サカキ「ひともうけ」
博士「フシギダネ……コピーを作りゃ(フシギダネの声)ダネダネダネダネ、フシギダネ。(博士)2匹に増えて……」
サカキ「種無しスイカに花が咲く」
博士「コピーコピーの連続コピー」
サカキ「1匹、2匹、2匹が4匹、4匹8匹、8・2が16……36匹……あっというまの大もうけ」
博士「(あいの手)ほれ……ピカチュウの遺伝子、コピーをすれば(ピカチュウの声)ピカピカチュチュチュ。(博士)どんどんちゅちゅちゅのねずみ算」
サカキ「ぴかぴかぴかの宝石箱」
博士「ニャースの遺伝子、コピーをつくりゃ(ニャースの声)ニャースニャースで、(博士)月がでる」
サカキ「そんなものはいらん」

  いきなり、切ないBGM……曲想としてはたとえば、ショパンの「夜想曲」か「別れの曲」あたり……

博士「(ため息)……」
サカキ「博士、どうしたのかな?」
博士「けれど、それが、幻のポケモンにあてはまるかどうか……」
サカキ「どういうことかね」
博士「失敗例もないわけではないのです」
サカキ「失敗を恐れて、もうけはあるまい」
博士「少なくとも、人間のコピーは、いまだに成功していません」
サカキ「人間のコピーなどいらん。人間が増えて、金になるかね? 金になるのはポケモンだよ……ふふふ、……しかも、幻のポケモン『ミュウ』は、世界一、珍しいポケモンだという。これがこの研究所で再生され、わが手に入れば……」
サカキ「(ラップ風に)……コピーだろうとおおもうけ! ……にせ物だろうとおおもうけ」

  サカキ、高笑いをする。

○間 かすかに電磁音
  コポン……コポン……試験管の中を浮かび上がる水の泡の音……

博士の独白「わたしがこの研究を続けているのは、ポケモンのコピーを作りたいだけではない。アイ、聞いているか……わたしの大切な娘……わたしの声が聞こえるか……」

  水の泡の音……幻想的なアイの声が聞こえる。
  ショパンの「子犬のワルツ」のような、かわいらしく、ころころした感じの曲。

アイ「(無邪気な笑い声4〜6才。屈託のない口調)ふふふふ……パパ……パパ……パパはどうしてパパなの?」
博士「アイ、それはね、わたしが、アイのお父さんだからだ………ママには逃げられるし……もう散々……わしは、さみしーい……ま、それは、よくあることにしろ……あの事故だけは……」

○キーッ!
  ブレーキ音と激突音

博士「アイ、大丈夫か? アイ ! アイ! 元に戻ってくれ」

○アイと博士(イメージの世界)

アイ「ごめん。パパ……もう、もどれない」
博士「嫌だ。わたしは、お前を取り戻したい。独りぼっちになるのは、いやじゃあ」
アイ「フフフ、しょうがないよう……きっとわたし、お星さまになったんだわ」
博士「ハレーすい星なら、戻ってくるぞ」
アイ「そーゆうんじゃなくて……」
博士「うう、戻ってこないなら……せめて、お前の遺伝子で……コピーでもいい。にせ物でもいい。わしをひとりにしないでくれーい」
アイ「困ったなあ……」
博士「(けそっとうなずいて)そう、パパも困ったよ……」

○研究所の音……かすかに電磁音
  コポン……コポン……試験管の中を浮かび上がる水の泡の音……。

博士「だってのう……人間のコピーは、試験管の中、それも、4年間しか生きられないんじゃ」

  幻想的なアイの声が聞こえる。

アイ「だったら、無理しないで」
博士「そう、無理なんじゃ。何度、繰り返しても、4年以上は無理だ。だが、わしは気がついた。ポケモンの持つ不思議な生命力にな……ポケモンのコピーは、人間と違って、ちゃんと生きていけることが分かったんだ。……わたしは、ポケモンの持つ命の秘密を分かりたい。そして、その秘密を、お前を長持ちさせる研究に利用したい」
アイ「ほんとうに無理はしないで……ね……パパ」
博士「いや、わしはなんどでも実験をくりかえすよ……アイ、わしはね、とうとう幻のポケモンのまゆ毛を手に入れた。『ミュウ』という名前だ」
アイ「ミュウ?」
博士「『ミュウ』は世界一、珍しいと言われるポケモンだ。伝説によれば、永遠の生命力すらあるとすら言われている。そんな『ミュウ』のコピーを作って、その命の謎がとければ……アイも、「ミュウ」のように強い命を持てるかもしれん。……アイ……お前には、大人になって、おばあさんになるまで、わしと生きて一緒にいてほしい……アイ、生まれること、生きることは素晴らしい。だから、アイ… …わたしはアイに戻ってきてほしいんじゃ」
アイ「(屈託なく)……そう、困ったなあ」

  ぽこぽこ……水音だけが響いている。

○機械音、ベルトコンベアの音……

  ぽちゃん……生命の種子が試験管の中に落ちる。
  かすかに聞こえる民族音楽……
  「ミュウ」の鳴き声……

博士「それから、一カ月後……「ミュウ」のまゆ毛から採取した遺伝子で、ミュウツーが生まれた」

○水の泡の音
  ミュウツーのテーマ(のようなものがあれば……)が、流れる。

アイ「わーっ……なんてかわいい……これが、ミュウツー……ね…… 私、この子のママになってもいい? お姉さんになってもいい? ……私、こんな子がいるなら、生きていていいな……こんにちは。 ミュウツー!」

エンディング・テーマ。流れて……

  第2話完 3話へ続く……



第3話 ミュウツーとアイ

○試験管の中の泡の音

ミュウツー「(幼児の声)ここはどこ?。僕は誰?……どうして、ぼくは……ここにいるの……?」

  民族音楽が、かすかに聞こえてくる。
  「ミュウ」の鳴き声……

ミュウツー「ん? 誰?……」
ミュウ「ミュウ……」
ミュウツー「ミュウ? ミュウって……誰?」
ミュウ「ミュウ……」

  鳴き声は遠ざかる。

ミュウツー「待って……どこにいくの?」

  風の音が残る。

ミュウツー「ここはどこ?。僕は誰?……どうして、ぼくは……ここにいるの……?」

○ニューアイランド研究室の現実音
  様々なポケモンの鳴き声も聞こえる。
  まるで、夜の動物園のようだ。

博士のナレーション「我々は幻のポケモン、ミュウの成分から、ミュウツーを作り出した」

○試験管の水泡の音

  ぼこぼこぼこ。荒い水泡の音ミュウツーが怒っているかのようだ。

サカキ「これが、本当にミュウから作られたポケモンなのか……?」
博士「姿かたちは、いささか違っていても、我々は有りとあらゆる手段を尽くしました。もしかしたらこのミュウツーは、本物のミューよりすごい力を持っているかもしれません。今はまだ……眠り続けていますがね……」

  ぼこぼこ……荒い水泡の音


ミュウツー「僕は、もう、起きている。でも、何も見えない。何も、しゃべれない。何も感じない。……僕は……いったい、なんなの」
博士「今、ミュウツーは、赤ん坊が眠っている状態と同じです。このミュウツーが目覚めた時に、その能力の片鱗が、わかるでしょう」
サカキ「楽しみだな……このポケモンが、本当に世界一珍しいポケモンから生まれたのならなら…… ふふふ……」

ミュウツー「誰かが、僕のことを話している。……でも、何を言っているの……?」

  間……
  ミュウツーの荒い水音とは対象的な、水泡の音が聞こえる。雨垂れののような音……
  水滴に光る陽の光のような、きらめき音が入っていてもいい。
  アイの声が聞こえる。

アイ「あれってね、言葉なの……人間の」
ミュウツー「え? 誰? きみ?」

  かわいらしくてコロコロした曲(たとえば「子犬のワルツ」)

アイ「わたしは、あなたのね……そばにいるの……すぐそば」
ミュウツー「すぐそば?」
アイ「わたしは、あなたと同じみたいに生まれた人間なの」
ミュウツー「人間? じゃあ、僕も人間かあ……」
アイ「わたしたち、お話できるんだから人間かもね。それとも、私がポケモンだったりして……」
ミュウツー「人間……? ポケモン、なにそれ? ぼく、どっちなの」
アイ「どっちでもいい。わたしたちは同じみたいな生まれかただもん。ここには、同じ生まれかたのみんなが、いーっぱい……」
ミュウツー「みんな……」

  アイの声……元気よく……

アイ「ほら、聞こえない? みんなの声……誰の声だか分かるかな?(かわいく言う)」

  様々なポケモンの声。
  まるで、「ポケモン言えるかな」の歌を唄うように……
  ただし、鳴き声の後にツーがつく。

 「ぜにぜにつー」
 「だねだねつー」
 「かげかげつー」

ミュウツー「これみんながみんな……でも、つー。つーって……どうして、みんな、ツーなの?」
アイ「わたしたちは、みんな、コピー、本物がいるの。だから、ワンじゃなくてツー」
ミュウツー「じゃ、ぼくもツー?」
アイ「わたしもツー。ほんとの名前はアイ。でも、ほんとのわたしはアイ・ツー……」
ミュウツー「アイ・ツー?」
アイ 「ほんとのアイじゃなくて、アイの2。いえ、もしかしたら、わたしは3……アイ・スリーかもね……」
ミュウツー「アイ・スリー?」
アイ「イエス! そう、ワン、ツー、スリー、フォー……ワンがいれば、ツーがある。ツーがあれば、次はスリー。ちっとも不思議じゃ無いもんね。ほら、ワン・ツー・スリー・フォー・ファイブって」
ミュウツー「ワン・ツー・スリー・フォー・ファイブ?」
アイ 「1・2・3・4・5……数、数字…………」
ミュウツー「1・2・3・4・5……?」
アイ「そう! なんか素敵でしょ?」
ミュウツー「……素敵?」
アイ「だって、ほんものじゃなくたって、アイツーだって、アイスリーだって、アイフォーだってかまわない……わたしもみんなもミュウツーもちゃんとここにいるんだもん、これって、絶対、素敵でしょ」
アイ「ワン・ツー・スリー」
ミュウツー「(おそるおそる)フォー……ファイヴ? シックス?」
アイ「そう、そして(ふたりで)エイト……ナイン……ふふふ(三拍子ぐらい間があり、ふたりともはじけるように)テン!!」
アイ「イエース! ワン・リトル……ツーリトル……スリーリトル……アイ、わたし」

  「十人のインディアン」の替え歌だが、メロディは真似なくて結構です。

ミュウツー「フォー・リトル……ファイヴ・リトル……シクス.リトル……ミュウツー」

アイ・ミュウツー(二人で)「セブン・リトル……エイト・リトル……ナイン・リトル……みんな……テン・リトル……わたしたち」

  ポケモン達、元気よくはしゃぐ。

ポケモン達「ぜにぜに」
 「だねだね」
 「かげかげ」
 「ぴかぴかぴか」

アイ「(楽しそうに)ふふふ……ね、みんなちゃんとここにいて……。ね? これって素敵でしょう?」
ミュウツー「うん!」
アイ「(笑う)ふふふふ」
ミュウツー「(笑う)ふふふふ……」

ポケモン達……笑う。
     「ゼニゼニゼニ」
     「だねだねだね」
     「カゲカゲカゲ」
     「ピカピカピカ」

  アイとミュウツーの明るい笑い声も混じって……

博士「なんだ。なんの騒ぎだ!」

  ポケモンとアイとミュウツーの笑い声が消える。
  脳波の検出音。

研究員「博士、これを……」
博士「なに?」

  脳波の検出音が様々にまじりあう。

研究員「お嬢さんとミュウツーの脳波をみてください」
博士「こ、これは」
コンピューターの声(女)「ガラス管内部のアイとミュウツーが交信中……」
博士「なんだと」

○かわいらしくてコロコロした曲

ミュウツー「アイ、僕、もっと、もっと、いろんなことが知りたい。」
アイ「うん。教えてあげる。わたしの知っていることなら……」

  日の出を彷彿とさせるBGM。

ミュウツー「あ、アイ、なにかを感じるよ。なにかが見えるよ……あれなに?」
アイ「感じるの? 見えるの? あれが……」
ミュウツー「うん」
アイ「うん、あれはね、お日さま」
ミュウツー「お日さま?」
アイ「わたしたちを、明るくして温かくしてれるの……ほかほか」
ミュウツー「ほかほあ……ふーん。アイ、あれなに?」

  夜空の星と月を彷彿とさせるBGM。

アイ「お星様とお月さま……真っ暗な夜がさみしくないように、みんな1人じゃないんだよ……って……夜にちかちか」

  幼児のようにいきなりミュウツーはアイに別の事を聞く。

ミュウツー「ちかちか……ふーん……あれなに?」
アイ「あれはね……うーんと……人間の使う文字」
ミュウツー「文字?」
アイ「あいうえお……かきくけこ……英語とかのアルファベットだと……(幼いが正確な発音で)ABCDEFGHIJKLMN」
ミュウツー「(幼く正確な発音)O? P? Q? R? S T U?」
アイ「そう!」
アイとミュウツー「VW(だぶぅりゅ)XYZ(じー)。できた!」

  アイとミュウツー、笑う。

ミュウツー「ねね……あれ? アイ。あれなに? あの人、何食べているの?」
アイ「あれは……ふふ、研究所の人がおやつに食べている、ケーキとミルク」
ミュウツー「ケーキって? ミルクって?」
アイ「ケーキってね。甘くって、柔らかくって、大人だけじゃなくって……ほんとは子供が大好きなもの」
ミュウツー「じゃあ、アイも大好きなんだ」
アイ「(屈託なく)ないの……わたし食べたこと……だって、ガラスの管の水の中じゃ、食べられないもん」
ミュウツー「ふーん……じゃ、ミルクは?」
アイ「大人だけじゃなくって、本当は、生まれたばっかりの赤ん坊が一番ほしいもの。でも、ふふふ……でも、(屈託ない口調)ないの。わたし、飲んだこと……欲しいよ、欲しいよーって、泣いたことは……あるの」

  赤ん坊の泣き声

ミュウツー「僕……たち、どうして生まれてきたの?」
アイ「パパとママがいたから……」
ミュウツー「僕たちを作ったのは、パパとママ?……」
アイ「わたしたちの場合は……ふふ、えーと、神様かな……神様が、きっと作ったのかも」

ミュウツー「神様……」
ミュウツー「アイ、僕たちって……いったい、なんなの?」
アイ「ミュウツー、あなたたちは、この星にすむとっても不思議で素敵な生き物……ポケットモンスター」
ミュウツー「ポケットモンスター……じゃあ……アイもポケットモンスター?」
アイ「ううん……わたしは、人間……でも、コピー……だから……だから……」

  アイは黙ってしまう。
  ぽつん。ぽつん。試験管の中の水滴の音だけが響いて……。

ミュウツー「どうしたの……どうしたの?……アイ」
博士のナレーション「ガラス管の培養液の中……コピーのアイは消えかけていた。ポケモンほど、生命力の強くない人間のコピーは、どうしても細胞が長くは持たなかった」
ミュウツー「アイ、答えて! アイ、何があったの?」
アイ「あは……なんだか、お別れが近づいたみたい。ミュウツー……生きてね。生きているって、きっと楽しいことなんだから……」
ミュウツー「アイ。僕ね、ガラスの中……水の中にいるのに、僕の目から何かが流れている……これなに?」
アイ「ふふ……たぶんナミダ……」
ミュウツー「ナミダ?」
アイ「生き物は、体が痛いとき以外は、ナミダを流さないってパパがいってた。悲しみでナミダを流すのは人間だけだって……(呼び掛ける)ミュウツー」
ミュウツー「え?」
アイ「……ありがとう。ミュウツーのナミダ……でも、ミュウツー。泣かないで……あなたは、生きるの。生きているって、ね、きっと楽しいことなんだから……」
ミュウツー「アイ、止まらないよ。ナミダ……どうしたらいいんだ。アイ! 答えてよ」

○からっ風

ミヤモトちゃん「わたし。ミヤモトちゃんでーす。結局のところ、おばさんは、幻のポケモン、ミュウをあきらめませーん。なんしー、別れた娘は、そろそろ、お受験。お金がかかるの。でてこい、でてこい、山のミュー。こっちの水はあーまいぞ……」

  ぴゅーと風、吹き抜ける。
  エンディング.テーマ流れて……

   第3話完 4話へ続く……



第4話 世界最強のポケモン

○ニューアイランド 研究所

アイ「……あなたは、生きるの。生きているって、きっと楽しいことなんだから」

  脳波音(心音でもいいが……)の波立ちが消え、一定の音に変わる。

コンピュータの声(女)「生命反応、停止……」

  かわいくころころした曲(子犬のワルツのような……)がワンフレーズ……プツンと切れて……。

博士のナレーション「アイは消えた。……ガラスの管……培養液の中から一歩もでることのない一生だった」
ミュウツー「アイ、止まらないよ。涙……どうしたらいいんだ。アイ! 答えてよ。アイ」

  いきなり、研究所の現実音

博士「かまわん。アイの成分が残っているかぎり……いくらでも娘のコピーは作り出せる。わたしはあきらめない」
ミュウツー「(がっくりとして)作り出せる? いくらでも?……ちがう、アイは1人だけだよ……」

  ミュウツーの声は、博士には聞こえていない。

博士「コピーは元があればいくらでもつくりだせる……」
ミュウツー「(消え入るような声で)僕と話したアイは……1人しかいないよ……」

  ミュウツーの声は、博士には聞こえていない。
  ミュウツーのしょげかえった声とは裏腹に、脳波音は激しくなる。

研究員「ミュウツーの脳波がかなり動揺しています」
博士「今、刺激を与えてはまずい……安定剤をいれろ。眠らせるんだ」
研究員「安定剤……注入……脳波、正常にもどりつつあります」

  脳波音、ゆっくりと規則正しく聞こえてくる。

研究員「脳波、正常……ミュウツーは眠りに入ったようです」
博士「よし……ミュウの成分は、まゆ毛の先の化石しか残っていない……いいか、アイのように簡単に何度も、作り出せはしないない……くれぐれも慎重にあつかってくれ」
ミュウツーの声「僕……長い間、眠っていた。アイのことも……ここで作られたポケモンのことも……何もが、眠りの向こうに消えていっちゃった……でも、どこかで、僕は、叫んいた。くりかえし、くりかえし……同じことを叫んでいた。
 ここはどこなの。僕は誰なの。誰が、僕をここにつれてきたの」

博士の独白「そしてあの日がやってきた」
ミュウツーの声「(大人と幼児がだぶって聞こえる)ここはどこだ。僕は誰なんだ。誰が、僕をここにつれてきたんだ」
ミュウツーの声「(大人の声がはっきりと……)ここはどこだ。わたしは誰なんだ。誰が、わたしをここにつれてきた!」

  ぴしっ! ぴしっ! 試験管が割れる音
  地響き……

博士「なに……?」

  念力の音……耳をつんざくような音

博士「わっ!」
コンピュータの声(女)「(警報とともに)強力な念動波検出……出所は……ミュウツー……ミュウツーです」
博士「ミュウツーが、覚醒した……完全に」
研究員「実験は成功です!」
博士「しかし……これは……」
研究員「想像以上の力です」

  検出機が爆発する。
  ガラス管が次々に破裂する。

博士の独白「念力、かなしばり、サイコキシネス……この種の超能力を持つポケモンは多い。だが、ミュウツーから検出された超能力は、けたはずれに大きかった」
ミュウツー「なんなのだ? この力は……わたしはなんなのだ! あああ……」

  ミュウツーの成長していく音

研究員「こんな! ミュウツーがどんどん成長していく」

  さらに地響きの音。

コンピュータの声(女)「危険です。自動防御装置作動……ミュウツーを攻撃します」
博士「よせ!」

  機銃の音……(レーザー銃の音でもよい)

ミュウツー「……!」

  倒れる音
  波立っていた脳波音……平たんになる。

コンピュータの声(女)「ミュウツーの生命反応、消滅」
博士「なんてことをしてくれたんだ……」
研究員「待ってください。ミュウツーが……」
博士「なに?」

  平たんになっていた脳波音が、波立ち始める。

コンピュータの声(女)「生命反応、復活……ミュウツーは自己再生中です」
博士「自己再生……すばらしい……」

  脳波音の波立ちが早くなる。

ミュウツー(大人)「わたしを攻撃したのは誰だ……わたしを消そうとしたのは誰だ……」
コンピュータの声(女)「危険です。自動防御装置作動……ミュウツーを破壊すべきです」
ミュウツー「お前か……」
コンピュータの声(女)「攻撃します」
ミュウツー「させるか……」

  ミュウツーがコンピュータに向かって念力を放射する。その音……。

コンピュータの声(女)「危険です、じどうぼーーーぎょーーそうち……作動せーず。さ・い・き・ふのう……」

  コンピュータの声……緩慢になり……電子的な悲鳴をあげ……爆発する。

博士「素晴らしい……ミュウツー、信じられない能力だ」
ミュウツー「ミュウツー……ミュウツー?」
博士「お前のことだ……世界で一番珍しいと言われるポケモンから……我々はおまえを生み出せた」
ミュウツー「ミュウツー……そう、わたしは、ミュウのツー?」

  民族音楽……ミュウの鳴き声

ミュウツー「だが、ミュウ……ミュウとは何なんだ」

  ミュウの鳴き声が遠のく。

博士の独白「わたしは、壁に掛けられたミュウの想像画を指さした」

博士「そう、あれが世界で一番珍しいポケモン……ミュウ……」
ミュウツー「ミュウ……あれが私の親なのか?父なのか……母なのか」
博士「ともいえる……が、そうともいえぬ……。お前は、ミュウの化石の破片を元にして作られた」
ミュウツー「誰が……母でもなく父でもなく……だったら神が? 神が私を作ったとでも言うのか?」
博士「この世で、命を作り出せるのは、神と人間だけだ。……だが……」
ミュウツー「だが?」
博士「ガラス管の中に命を作れるのはおそらく人間だけだ」
ミュウツー「……おまえ達が……人間がこの私を……ポケモンの私を……私は誰だ。ここはどこなのだ……私はなんのために生まれたのだ」

  はじけとぶ研究機材の下で、おびえきった博士がうわごとのようにしゃべる。

博士「世界最強のポケモンを作る。それが私たちの夢だった」
ミュウツー「だったら、その夢が叶ったかどうか見せてやろう……これがわたしの力だ」

  大爆発!

博士のナレーション「ミュウツーの怒りは、想像を越えていた。研究所のすべてが、吹き飛んだ……」

  静寂……。
  波の音だけが聞こえる。

ミュウツー「これが私の力……私は強い……ん?」

  「ミュウ」の鳴き声

ミュウツー「どこにいるんだ……ミュウ……私は、この世で一番強いポケモン……ミュウ……私はお前よりも強いのか?」

  「ミュウ」の声、遠ざかっていく。

ミュウツー「ミュウ、どこへ行く……コピーの……にせ物の私など相手にしないというのか? そうなのか? ミュウ、姿を現せ! どちらが強いか、私に答えを見せろ!」

  答えるのは波の音と風の音。 サカキの声が背後からする。

サカキ「お前は確かに世界一珍しく、もしかしたら世界一強いポケモンかもしれない……。その証拠を見せつければ、本物のミュウも、ミュウツーをほうってはおくまい」
ミュウツー「ミュウが、わたしの前に現れるというのか?」
サカキ「かもしれぬ……だがな、お前が、最強のポケモンだとしても、この世界にはもう一つ強い生き物がいる……」
ミュウツー「ポケモン以外に?」
サカキ「わたしのような人間だ……ロケット団のボス……サカキ……わたしは世界をわが物にしようとする強い人間だ……」
ミュウツー「人間が強い? お前が強い?」
サカキ「お前を作り出したのは人間だ……人間には最強のポケモンを生みだす知恵と力がある」
ミュウツー「知恵と力……」
サカキ「人間とお前が力を合わせれば世界は我々のものだ」
ミュウツー「世界が我々のもの……」
サカキ「ただし、お前のその力を野放しにすれば世界はただ滅びるだけだ。おまえは力を制御しなければなるまい……」
ミュウツー「制御……」
サカキ「力に任して、世界中を、この研究所のように焼き尽くしていいのか」
ミュウツー「どうすればいいのだ?」

  がちゃん……がちゃん……がちゃん……鉄の鎧がつけられる。

ミュウツー「これは……」
サカキ「鎧と鎖で、おまえの力を押さえ付ける」

  兜が、ミュウツーの顔に被さる。

サカキ「必要なときに、わたしが、鎧と鎖をとり、おまえの力を解放する」
ミュウツー「こんな私に、おまえは何をさせようというのだ」
サカキ「簡単なことだ。この星で誰もがやってきたことをやればいい」
ミュウツー「だれもが……」
サカキ「破壊と戦い……強いものが勝つ。手始めにポケモンをゲットだ。それで、おまえの本当の強さも計れる」
ミュウツー「ポケモンをゲット……」
サカキ「コピーでない本物をな……」
ミュウツー「……そして、私が、本物のミュウを倒したら……」
サカキ「お前は、ミュウを越える存在になる。おそらくその時、お前は世界一のポケモンだ」
ミュウツー「世界一……」

  すごみのあるミュウツーのテーマ

ミュウツーの独白「(苦笑)フフフ、人間以外の生き物は、悲しみでは涙を流さない。ナミダを流すのは、痛みの時だけ? 私は、悲しみでも痛みでも、ナミダは流さない……なぜなら、わたしは世界一強い存在のはずだから……私には、悲しみも痛みもない……」

  ミュウツー、サカキに

ミュウツー「お前……サカキ?……」

  「ロケット団は永遠に」の曲のイントロ。

サカキ「ロケット団のボス……サカキ……世界を征服する資格のある人間だ」
ミュウツー「この世界に、ポケモンは何種類いる……?」
サカキ「百五十はくだるまい」
ミュウツー「私の力をみせてやろう」

  歌……プツンと切れて……

○からっ風

ミヤモトちゃん「ミュー、ミュー。どこにいるの。結局のところ、私はミヤモトちゃん……あきらめません。別れた娘は、そろそろお嫁にいくころなの。……せめて、着せたや、花嫁衣裳……ミュー、でておいで! わたし、ミヤモトちゃんだよーん!」

  からっ風、ぴゅー!
  エンディング・テーマ流れて……

  第4話完 5話へ続く……



第5話 ミュウツーの逆襲

○「ポケモン言えるかな」の曲……景気よく流れて……

ミュウツー「ロケット団……この世界に、ポケモンは何種類いる?」
サカキ「150はくだるまい」
ミュウツー「私の力を見せてやる」
ナレーション(サカキ)「ロケット団の秘密兵器、ミュウツーの働きはめざましかった」

○ミュウツーの戦い

サカキ「ミュウツー、鎖を取るぞ……鎧をはずすぞ」

  かしゃ! かしゃ! しゃきーん!

サカキ「さあ……お前の力を、見せ付けるがいい!」

  ミュウツー用の戦闘音楽……

サカキ「念力だ! 金縛りだ! スピードスターだ! サイコキネシス!」

  それぞれの音響効果……。
  相手方のポケモンの悲鳴……。
  相手方は、強いポケモンだ。
  プテラ・カブトプス・ギャラドス・ストライク……もちろん、リザードン、フシギバナ。カメックスもそれぞれの悲鳴をあげてダウンする。

ミュウツー「(不気味に)ゲットだ……」
サカキ「モンスターボール」

  モンスターボールの投げられる音……。

ミュウツー「(不気味に)ゲット……」
ナレーション(サカキ)「ミュウツーの力は、すごい。ミュウツーの繰り出すありとあらゆる技が、圧倒的に強かった。この一匹だけで、わたしは世界を征服できるかもしれない」

○戦い

トレーナー(新キャラクター)「オレのポケモンは負けない!いけ! ブーバー!」

  ブーバーの火炎放射の音咆哮。
  爆発音……。

トレーナー「やったぜ!」
サカキ「ふふふ……それで、倒したつもりか? ミュウツー! 自己再生だ」

  自己再生の音響……

トレーナーの声「なに!?」
サカキ「ミュウツーは不滅だ! 破壊光線」

  破壊光線の音……。
  もん絶して倒れるポケモンの悲鳴。

サカキ「ふふふモンスターボール」

  モンスターボールの効果音。

トレーナー「待て! 人のポケモンを取るのか?」
サカキ「わたしはお前に勝ったのだよ」
トレーナー「ルール違反だ」
サカキ「覚えておけ。ロケット団のやることで……ルール違反は褒め言葉だ」
トレーナー「まってくれ!」
サカキ「ミュウツー! このトレーナーを追い払え!スピードスターだ」

  効果音……。

トレーナー「わーっ! ポケモンが人間をおそうのか」
サカキ「ミュウツーには、ポケモンも人間もない……強いものは倒す。弱いものは奪う。  邪魔するものは追い払う」

○トレーナー達の悲鳴とポケモンの悲鳴が重なり合う

○ミュウツーの独白

  がちゃん。がちゃん。ときおり、甲冑の擦れる音がする。

ミュウツー「私は生きている。しかし、それが楽しいかと聞かれたら……。(自嘲気味に)ふふ……強いポケモンを倒すのは楽しかった。力は弱いくせにずる賢い人間という生き物を痛め付けるのもつまらなくはない。
 しかし、今、私より強い力を持ったポケモンは、どこにもいない。……私は無敵だ。
 そんな私につきまとい、金もうけをするロケット団の奴等は……、軽蔑どころか、つばを吐きかける値打ちもないと奴等だ……いや、ロケット団だけではない。
 人間は、所詮、金と欲がすべての生き物だ。人間はごみばこに入る資格もない屑だ! いいか……人間ども……世界を征服するのは力だ。金ではない。
 そして、ポケモンども……コピーではない本物のポケモンども……ふふ……哀れなことに、人間よりさらに屑なのはおまえ達ポケモンだ。人間に一度ゲットされれば、人間のいいなりになって、尻尾を振る。
 私は同じポケモンとして、許せない。……もっとも、こんなことを考える私は、すでに、生まれたときから、ただのポケモンではないのかもしれない……ふふ」

○からっ風

  ミヤモトちゃん、ぜいぜいあえぎながら、鬼気迫る感じで、つぶやく。

ミヤモトちゃん「ふん、ただのポケモンなんか……、探しているんじゃないんだわさ。わたし、ミヤモトちゃんの求めるポケモンは 幻のポケモン……あん? 幻のポケモン、ファイアー?
 ……そんなの、知らんだわ。なに? 幻のポケモンサンダー?
 ……わたしは、ミヤモトサンダーじゃない。 ミヤモトちゃんだー。 え? 幻のポケモン、フリーザー? わたしゃ女の一人旅、冷蔵庫なんか、かついで歩いてられっか! なんじゃ? ミニリュウ?、ハクリュー?、カイリュー? みょーなもん、出してくるな。ミュウなら出てこい。 結局のところ、ミュウだわさ。幻のポケモン、ミュウだわさ。わたしの全ては、ミュウだわさ。娘よ、ムサシよ。ムチャシよ……こんな、ムチャする母を、どうぞ、分かってくんなまし」

  支離滅裂……よれよれになって、風の原野をさまようミヤモトちゃんだ。

○密林

  風の音……ポケモン達の鳴き声……。
  ラジオ版第一話にでてきたアマゾンの音に似ている。

サカキ「見るがいい。ミュウツー、この大密林を……ここには、百万を越える野生のポケモンが住んでいる。ありふれたポケモンも多いが、珍しいポケモンもいる。だが、いちいち、探すのは 面倒だ。お前の力で、一気に捕まえてくれ」
ミュウツー「ありふれたポケモンを相手に……私に戦えというのか」
サカキ「お前は、そのために生まれてきたんだ? 世界一強いポケモン。それが、お前だ。戦わずして、お前の値打ちはない」
ミュウツー「私の値打ち……」
サカキ「さあ、お前の力を、鎧を脱げ……鎖を取れ!」

  鎧の落ちる音……。

サカキ「ミュウツー! 念力! 金縛り! スピードスター! サイコキネシス! 全ての力を見せ付けるがいい!」

  全ての効果音、まじりあって大爆発。
  からっ風の音。

サカキ「さすがだ。ミュウツー。一瞬のうちに、1年分のポケモンをゲットしたぞ」
ミュウツー「いったい私は何をしているんだ。 私は、何のために生きている……何のために戦っている?」

  がちゃん、がちゃん! 鎧と鎖の付けられる音……。

ミュウツー「鎖を……鎧をはずせ!」

○サカキの広間

サカキ「ミュウツー。それは出来ない相談だな。野放しのお前は人間に危険すぎる」
ミュウツー「まだ、お前らのために戦えというのか? 人間どものために戦えというのか?」
サカキ「お前はポケモンだ。ポケモンは人間のために使われ、人間のために生きる生き物だ」
ミュウツー「私は、ただのポケモンではない」
サカキ「そう、お前は人間に作られたポケモンだ。人間のために、戦わずして他になんの値打ちがある?」
ミュウツー「私の値打ちだと……私はだれだ……私は何のために生きている。……すくなくとも人間のためではない」

  すさまじい念力の効果音。
  かしゃん! かしゃん! 鎖と鎧の外れる音。

サカキ「ああ! 鎖が、鎧が……なにをする! お前、わたしに逆らう気か」
ミュウツー「私は人間に作られた……だが人間ではない。作られたポケモンのわたしは、ポケモンでもない」

  大爆発……。

ナレーション(サカキ)「恐れていたことが起った。ロケット団の本部は一瞬のうちに破壊された。もう、だれもミュウツーを制御できない……」

○ミュウツーの独白

  甲冑の音……。

ミュウツー「私の力はどんどん強くなる。私は、世界一強い……世界を征服する資格のあるのは、人間ではない。この私だ」

○荒れ狂う波涛の音、岩をたたきつぶさんばかりに、ぶちあたる

ミュウツー「……わたしは誰だ。ここはどこだ。私は、この世界を楽しいとは感じない……悲しいとも感じない。痛さも感じない。……まして、ナミダなど流したこともない……そう、私はミュウツー……私は、ミュウツーとして生き続ける」

  民族音楽……どこかで、「ミュウ」の鳴き声がする。

ミュウツー「ん? ミュウ? そう、おまえもいたな。ふふふ」
ミュウ「ミュウ」

  荒れ狂う波涛の音。

ミュウツー「……私は、世界一強い……世界を征服する資格は、この私にある」

  ミュウツーのテーマ音楽、高鳴って……
  エンディング・テーマ流れて……キャスト……スタッフ名など……

○からっ風

ミヤモトちゃん「私、ミヤモトちゃん…………わたしはあきらめない。別れた娘は、そろそろおばん。顔も覚えちゃいないけど ねえムサシ……お金はいくらあっても損はない……ミュー、どこにいるの? ……結局のところ……わたし、ミヤモトちゃんは、幻のポケモンを追いかけるのです。いつまでも……どこまでも! やったるぜ!」

  ぴゅーっとからっ風がふく。

  第五話完

  ポケモンラジオ版 1話〜5話 以上

 
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編集・著作:スタジオ雄  協力: スタイル
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