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COLUMN
第60回付録

魔法のプリンセス ミンキーモモ
第63話 さよならは言わないで


脚本 首藤剛志

○ どこかの街に――
   黒雲がたちこめ、強風が吹き荒れている
   ある決意を秘めた目で、モモは街を見つめている

○ イメージ(前回シーン)
   次々と敗れていく仲間達
   石と化すパパ、ママ
   四匹と別れるモモ

○ 丘の上
   モモ一人、ポツンとたたずんでいる
   ひときわ風が強くなる
雲の声「ミンキーモモ、この地球のどこにもお前の住める街はない。帰るがよい、フェナリナーサへ……。お前達の夢は地球には必要のないものだ」
   稲光が奔る

○ フェナリナーサの広間
   王様と王妃がビジョンを見ている
王様「かわいそ、モモ。ほんまにかわいそ……。そうだば……地球に夢が必要ないんなら、なんもこっちだって無理して降りていかんでいいだば……。フェナリナーサだって、地球なんかなくても生きていけるだば……」
王妃「あなた……そんなにムキにならないでも……」
王様「ムキになるだば……モモはわしらの子供だば……。いじめられて黙っていれるだば? モモ、帰ってこい! フェナリナーサへ」
王妃「でも、あそこに映っているのは、宝石の中に記されたモモの姿です。わたしたちが、どうすることも出来ません。映画やテレビを見ている人が、映画やテレビのお話を変えることができないのと同じです」
王様「わかってるだば……だから、わし、悲しいだば……。いったいあの宝石の中のモモはなんなんだば……。こいつめ!」
   王様、王冠をドンと叩く

○ 王冠の中
   宝石のレーザーディスクがパリンと割れる

○ ビジョンの画像が消える
王妃「あ……ああ……あなた、なんてことを……」
王様「ええだば……。モモがいじめられっぱなしの話なんか、見とうないだば!」
王妃「お気持ちは分かります。でも……」
王様「ええんだば……。わし、人間になった現実のモモの顔をながめるだけで満足だば……スイッチオン」
   ビジョンのスイッチを押す
   ビジョンに赤ん坊のモモが映る
王様「ほら、現実のモモは、ちゃんとこうやって、やすらかにおねむだば……あん?」
   ゆりかごの中のモモ、火がついたように泣く
王様「どうしたんだば……」
王妃「さあ……きっと悪い夢でも見たんでしょうか?」

○ モモの部屋
   赤ん坊のモモ、目を開いて、あたりを見る
   パパとママが入ってくる
パパ「どうしたんだいモモ……」
ママ「さ、よし、よし。なにも悪いことはありませんよ。
   ママ、モモを抱いてあやす
   モモ、やすらかな顔になり、あたりを見まわす
   シンドブックがいる、モチャーもピピルもいる
   モモ、ニッコリ笑って目を閉じる
パパ「おや、もうおねむかい?」
ママ「眠る子は育つ……今のモモは、おねむすることが仕事ですわ」
パパ「そうだね」
ママ「さ、ゆっくりおやすみ……」
   モモをゆりかごの中に入れて、そっと出て行く
   モモの寝顔――

○ フェナリナーサ 広間
   ビジョンにモモの寝顔が映っている
王様「うん、モモ、すこやかに育っておくれ」
王妃「あ……あなた! ……あれを……」
   モモの目から涙が出ている
王妃「モモが泣いています。眠りながら、泣いています」
王様「ん? モモ、おみゃ、いったい今どんな夢をみてるんだば?」
   モモの目の涙……キラリと光り、窓辺から空へ上昇していく
王妃「モモの涙が……」
   ぐんぐん涙が上昇していく

○ 宇宙
   涙が宝石に変化していく
   そして、光を放ちながらフェナリナーサへ飛んでいく

○ フェナリナーサの池に落ちる宝石

○ フェナリナーサ 広間
   ビジョンに映る池の中の宝石
王様「あ、ありは……モモの涙だったんだば」
王妃「すると、あの宝石の中に映っていたのは、モモが見ている夢……あなた!」
王様「ハ〜イ、だば!」
   王様、ビューッと走って出ていく

○ 池のほとり
   王様、ビューッと来て、池に飛び込み、宝石を拾いあげる
王様「そうだったんだばか……。これは、モモの涙……モモの夢……ハックション!」
   くしゃみをする

○ フェナリナーサ 広間
   毛布で体をくるんだ王様が、宝石を王冠に入れる
王様「今まで映っていたのがモモの夢なら、おみゃあ、なんて悲しい夢を見てるんだば……グシュン!」

○ 王冠の中で宝石がレーザーディスクに変わる

○ ビジョン 5、4、3、2、1……
   丘の上でどこかの街を見降ろすモモの姿が映る

○ 丘の上
   黒雲が、ろうそくババァ(ラストアクションに出ています)のシルエットに変わる
雲の声「さあ、地球から出ていけ! お前達の夢や希望は地球には必要のないものじゃ」
   モモ、キッとにらみあげる
モモ「それは、あなたが決めることじゃないわ。地球の人達が決めること。……そうよ! わたしは負けないわ」

○ その顔がビジョンに映って……
   王様と王妃が見ている
王様「そうだば、モモ、負けたらあかんだば……。しかし、もう、あんバアサン、いったいぜんたい……」
王妃「人間の夢と希望を食いつぶす、あきらめや運命の化身ですわ……。その姿は、現実では見ることができません。でも、モモの夢の中では、はっきりと敵として見えるのですわ」
王様「わし、モモを助けてあげたいだば」
王妃「いいえ、今、モモは人間です。わたし達の力は通じません。モモは、モモ自身で自分の夢を守らなければ……」

○ 丘の上
   モモ、雲のシルエットを見つめ
モモ「わたしはどこにもいかないわ。ここであなたと戦う……」
雲の声「フフフ……身の程を知らぬ奴……。地球の人間に巣食ったわしらの恐ろしさを知るがよい!」
  空が裂け、地が割れる
  モモ、地の割れ目に落ちていく
モモ「キャーッ!」

○ 地獄
   闇の中にポツンと立つモモ
モモ「ここは……ここはどこ……?」
雲の声「人の心の奥にある地獄じゃよ……。みるがいい」
   ずらりとロウソクが立ちならんでいる
モモ「こ、これは……」
   ロウソクに、様々な人達(過去の登場人物達)の顔が次々にだぶっていく
雲の声「それはな……お前が、人間として生まれて来る前、夢の国のプリンセスとして地球に降りて来た頃、出会った人達の命のロウソクじゃ……。そのロウソクが尽きたとき、その人間は死んでしまう。誰がどのロウソクだか教えてやろうか? この中には、お前の命のロウソクもあるがの……。フフフ……」
   モモ、かぶりを振り……
モモ「いや! そんなの知りたくない……」
雲の声「そうじゃろうのう……。しかし、ロウソクの長さは変えられぬ……。その人間がどんな夢や希望を持とうとな……。それが運命というものじゃ……。夢や希望では運命を変えることはできぬ」
   モモ、茫然となる
雲の声「さあ、お前のロウソクをおしえてやろう……」
モモ「いやあ! 見たくない!」
   モモ、目を閉じて駈け出す
   「ガハハハハ!」
   モモをもてあそぶような笑い声が響く
   ロウソクの林を走るモモ
   「ほうら、誰かさんのロウソクが消える……誰のかな!」
モモ「いやあ!!」
   耳を押さえて、しゃがみこむモモ
   地割れがして、モモは更に落ちていく

○ あきらめの島
   打ち寄せる波……
   浜辺でモモは目を醒ます
   あたりを見まわす
モモ「ここはどこ?」
   集落が点在している
   大勢のすすり泣きが聞こえる
雲の声「見憶えがないかな、この島に……。あの丘を見るがいい」
   モモと三匹の石像が立っている
モモ「あ、あれは……」
雲の声「そう、ここは、お前が悪の組織スルメッチから合身人形を使って救ったつもりのホレホレ島じゃよ」

○ イメージ
   ミンキナーサとゴッドスルメッチの戦い――
雲の声「確かにあの時、お前はホレホレ島を救った」

○ あきらめの島
   モモと三匹の石像が崩れる
モモ「!!」
   嵐――
   そして、今まで青かった海が黒く変わる
雲の声「だが、この島は、どこかの国に目をつけられて占領されてしまった」
   茫然と立ちつくす村人達の前に金網が張られる
村人A「そして、この島には立ち入り禁止の基地ができてしまった」
村人B「仕方ない……。夢だけでは島を守ることなどできはしない」
モモ「そんな……。あきらめないで!」
   と、そのモモの肩を叩く男……ルピンとベリリッチが立っている
ルピン「仕方ないんだよ。夢や希望だけでは生きていけない」
モモ「ルピン!」
ベリリッチ「そのようじゃな……」
モモ「ベリリッチさん」
   二人ともボロボロの服をまとっている
ベリリッチ「わしらは夢を追いかけすぎたようじゃ……。わしはユニコーンの谷を見つけ出そうとした……」
ルピン「わたしは盗みを止め、子供達に贈り物を贈って、子供に夢をあげようとした。あげくがお金を使い果たして、このありさまだ……」
ベリリッチ「だが、モモちゃん、わしは、あんたをうらみはせんよ。仕方なかったんじゃ……」
ルピン「仕方なかったんだ」
   二人はトボトボと村人達と共に去って行く
モモ「仕方ないなんて……そんな!」
雲の声「いまやこの島は、夢に破れてあきらめきった人々のあきらめの島じゃ!」
   「爆撃じゃ! 爆撃じゃ! あっちの国を爆撃じゃ!」
   ボトム大佐が、テンガロンハットを振りながら、巨大爆撃機で飛んでいく
雲の声「そして、かわらぬ者もいる。おまえが防いだつもりの戦争も、相変わらず続いておる……」
   茫然と立ちすくむモモを残して、爆撃機が飛んでいく
   そのジェット噴射で、モモの背景がくだけ散り――モモは更に落ちていく

《CM》

○ ひとりぼっちの砂漠
   黒雲が上空から見つめる灼熱の地獄砂漠が広がっている
雲の声「さらに、お前に見せてやろう。お前のために、一度は夢を見た人間達のその後をな……」
   砂地から、氷の柱が何本も突き出してくる
   その一本一本に、ケンが、UFOを見たトニーが、チャコが、そしてボーマン艦長が入っている。
モモ「ケン! トニー」

○ イメージ
ケン「誰も信じちゃくれないけど、僕にはフェナリナーサが見えるんだ」
トニー「UFOは本当にいるんだい!」

○ ひとりぼっちの砂漠
雲の声「だが、まわりの人は誰もこの人達を信じてくれなかった。人々の冷たい視線を浴び、いつも一人ぼっちだったこの人達の心は凍りついて、この一人ぼっちの砂漠に突っ立っている。よいか、ミンキーモモ、お前がやってきた地球の人に夢を与えるということは……こんな人達、いっぱい作り出しただけなのだ!」
   モモ、ガックリとひざをつく
   永遠と続く氷の柱……
雲の声「今の地球に、お前達の夢と希望は邪魔なだけなのだ!」
   砂漠に、工場地帯、盛り場、戦場などがWって
モモ「こんなことって……」
   モモの眼から涙……
   その時
   「ちがう! ちがうよ!」
   涙の落ちた砂地の中からカジラが現れる
モモ「カジラ……どうしてここに! (言葉をしゃべるのに気付き)カジラ! しゃべれるの?」
カジラ「ウン! 僕は黙ってモモを守る役なんだ。でも、もう黙っちゃいられない。みんなが、あんな風になっちゃったのは、モモのせいじゃない。あいつなんだ。人の心にとりつく夢や希望を食いつくすあいつがやったことなんだ」
モモ「あいつ?」
カジラ「人の運命が決まっているなんて、そんなの、ウソだよ。あいつは、人にそう思わせて、夢の代わりに、あきらめの心を植えつけようとしているんだ……」
モモ「あきらめの心……」
カジラ「あいつの言うことを信じちゃダメだよ。人間は夢を捨てちゃいない。その証拠が僕なんだ」
モモ「カジラが……?」
カジラ「そうさ、僕は昔、モモが車にひかれて死んだときに、みんなが流した涙でできているんだ。モモに夢を見せてもらったみんなの涙でね……。僕は、みんなに夢をみせてくれたモモを守るために生まれたんだ」

○ イメージ
   涙の玉が集まってカジラになる

○ フェナリナーサ
王様「な、なんと! カジラは地球の人の涙で作られていただばか……」
王妃「夢の国の私達が、カジラを知らない筈ですわ」
王様「だば、どうなるだば、これから!」

○ ひとりぼっちの砂漠
   モモ、黒い雲を見上げ、スックと立つ
モモ「わたしは負けないわ、あなたなんかに……。そりゃ、人に夢をあげることはできないかも知れない。でも、わたしはわたしの夢をなくしたりしない。どんなにあなたが強くても、夢を捨てない。絶対にあきらめないわ」
雲の声「フフフ、無駄なことだ……。今、人間になったお前に、わしに勝つ力はない」
モモ「わたしが人間の大人になったとき、それが分かるわ」
   モモ、ステッキを振る
   甲ちゅうに身をかためた夢の戦士になる
シンドブック「モモ、お供するわい」
モモ「えっ?」
   シンドブック、モチャー、ピピル の三匹がいる
ピピル「わたし達はいつも一緒の夢を見てたわ」
シンドブック「わしらもわしらの夢を守らねばな」
モチャー「いままで役に立たなかったけど、モモと僕らの夢は、僕らで守ろうよ」
モモ「みんな!」
シンドブック「さあ、バトンを振ってくれ!」
   モモ、バトンを振る
   三匹、中世の騎士になる
   ピピルは、羽根のついたギリシアの戦いの女神のようだ
ピピル「(ハスキーに)ほんとは美しいのよ、あたしって」
モチャー「正義と真実の騎士、モチャー」
シンドブック「知識の宝庫……シンドブック」
カジラ「カジラ〜!」
   カジラ、三体に分離してドラゴンになる
カジラ「さあ、僕に乗って! 敵はあそこです」
   モモとモチャー、シンドブック、カジラに乗る
   モモ、バトンを雲に向ける
   バトンが剣にかわる
モモ「いくわ、みんな!」
一同「オーッ!」
   一同、黒い雲に向かっていく
   雲から、笑い声とともに、強風やカミナリが叩きつけられる
モモ「私は負けない! 私は私の夢を見るわ」
   一同、雲の中央に突っ込んでいく
   黒雲がロウソクばあさんに変わる
   ピピル、モチャー、シンドブック、それぞれの腰につけた剣を抜く
   ロウソクばあさんも四体に分裂する
   壮絶な戦い――
   やがて、ロウソクばあさんの体は合体し、巨大化する
   ピピル、モチャー、シンドブック、モモ、四人は、剣の先を合わせ、巨大な悪夢の胸元に突っ込んでいく
   雲の悲鳴と閃光がほとばしり出る

○ 地獄
   ロウソクの一本の光が急に強さを増す
   燃えつきようとしていた他のロウソクも明るくなる
   みるみる光は広がって――
   あきらめの島の海に青さが戻る
   茫然となる村人、ルピン、ベリリッチ――
   モモの石像がもとに戻り、軍事基地が消える
   氷の柱がとけていく
   パパやママも元へ戻る
   世界が光につつまれて――

○ フェナリナーサ
   ビジョンが消える
王様「いったい、どうなったんだば……」
王妃「勝ったんですわ、モモは。夢の中で夢を阻もうとする敵に……」
王様「あん?」
王妃「だって、現実のモモのあのすこやかな寝顔……」
王様「うん、うん、きっとそうだば……」

○ モモの部屋
   モモ(赤ん坊の寝顔)――
   やすらか……微笑さえある
モモの声「私は持ちつづけるわ。大人になっても、私の夢を……」

○ ペットショップの外
   季節のうつりかわり――

○ モモ
   ベビーチェアーでママに離乳食を食べさせられるモモ
   幸福なパパと三匹――

○ ペットショップの外
   季節のうつりかわり――

○ モモ
   三匹と一緒に四つん這いで遊ぶモモ

○ ペットショップ
   季節のうつりかわり――
ママ「パパ! きて! モモが……モモが……」
パパ「えっ? わあ、モモが……」

○ フェナリナーサ
王様「モモが……」
王妃「ええ、私達のモモが……」

○ モモの部屋
   モモ、ゆりかごを支えにして立ちあがる
   一歩一歩、あるき始める
   パパ、ママ、三匹、王様、王妃の顔――
   モモ、扉のそばに来る
   モモ、扉を開く
   明るい光がさしこむ
   モモの顔
   さあ、扉のむこうは、今が夢、夢が今……
   モモの笑顔

―END―

 
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編集・著作:スタジオ雄  協力: スタイル
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