色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第5回 昔々……(4) 初体験づくし!(笑)

先々週のある日、たまたま奥さんとテレビを見てたところ、バンダイから発売されるプラモデル「1/350 宇宙戦艦ヤマト」のCMが流れました。画面の中の嬉しそうな目をしたオヂサンたちを見て「買う人いるのかしらねえ」と言いつつ僕の方を見る奥さん。そこにはTVのオヂサンたちと同じを目をしてニヤつく僕が……。「……買ったのね」。

というわけで、いま我が家の廊下には、置き場所に困った巨大な箱が鎮座しております(笑)。いやあ、デカかった! その箱を見て爆笑する奥さん。さあ、いったいいつになったら組み立て始められるのでしょうか(遠い目)。

さてさて。

え〜、またいきなりの訂正です(汗)。前回記述の作品名『Rodger Rabbit』は、すみません『American Rabbit』の間違い。つい勢いで間違えてしまいました。謹んで訂正させていただきます。申し訳ありませんでした>関係各位のみなさま。

さて、『ROBOTEX』のお話。

そもそもどんなストーリーだったか、というと、とある惑星に降り立ったら、そこは恐竜みたいな巨大なロボットが闘ってる惑星だった……みたいな話、です、たぶん……。もうね、さすがに忘れちゃいました。たしか、人間たちとそのロボットたちが協力して、悪い人間たちと悪いロボットたちをやっつける、みたいな……。違ったかな?

そのロボットっていうのも、まぁブロック組み上げたような造形で、アメコミ調にカゲ部分が黒つぶしな感じのヴィジュアルでした。この作品、要はオモチャ売るためのプロモーションみたいな番組で、この作品見て子供たちが画面に登場してるロボット(オモチャ)を欲しがってくれればOK。まあ、その辺は日本のアニメと同じですね。一応『材料』と一緒にそのオモチャ自体も送られてきてましたが、正直言ってあんまりかっこよくなかったです(苦笑)。

さて。僕の作業は、まず送られてきたカラーモデルを基に色指定書を作るところから始まります。

色指定書——キャラクターの線画に、絵の具の番号を書き込んだものです。肌は何番、髪は何番……というように、キャラクターの線画のそれぞれの部分から線引っ張って、さながら算数の分数の表記のように(!)番号を書き込んでいくのです。分子がノーマル色、分母がカゲ色、みたいな感じですね。服の塗り分けなどは分かり易いように、線画の塗り分け部分に斜線描いてみたり、コピーできれいに写るように青色鉛筆で塗り分けてみたり(当時は使えるコピー機は当然白黒コピーなので、こうするとスクリーントーン貼ったみたいに薄くグレーっぽく写るんですよ)。

そうやって、必要なすべてのカラーモデルについて色指定書を作成しておくのです。

(実は『ROBOTEX』の色指定書の実物お見せできるかな? と、自分で保管してたはずのものを探してみたんですが、う〜む残念、出てこなかったです。鋭意継続して捜索中)

さて、どんな作品も、まずは演出さんとの打ち合わせです。実は当然初体験です(笑)。だいたいにおいて、打ち合わせってどんなことやるのか、知識としては知ってましたが、いざ自分が当事者になると……。いやはや、どんな打ち合わせだったのか、もはや記憶は数光年の彼方に散っていて思い出せません(汗)。たぶん、ただひたすら、演出さんの説明聞いて、絵コンテにメモとるので精一杯だったと思います。ガンガン自分から発言する今の自分とは大違いですね(笑)。監督が「お腹空いた」とか言い出して、スタッフみんなで出前の天丼食べてから打ち合わせした記憶がなんとなくあるのですが、違ったかな?(謎)

演出さんとの打ち合わせの後、いよいよカットに色指定を入れていく作業が始まります。この連載の第1回の時にも書きましたが、[色指定]はそのお話のすべてのカット(原画・動画)について内容をチェックして、指定を入れていきます。本来的には、動画に色指定を入れて[仕上](彩色)に発注するのですが、かなりの割合で原画に色指定を入れていました。

この「合作」作品は、従来の国内の制作キャパを越えたところで作っていたので、その実作業のほとんどを韓国のプロダクションに発注していました。なので、国内で原画上がりまでチェックをしてから、動画作業以降、彩色までを韓国で作業してもらうというのがほとんどでした(ちなみに『ROBOTEX』の第1話は半分くらい原画に色指定したように憶えています。で、2話以降はドンドンその比率が高まっていきました)。そういう作業の流れのため、韓国サイドに日本人スタッフ(演出助手)を常駐させて、動画チェックをお願いしていたのです。

当時の合作作品の演出助手さん(演助さん)は、その作品の打ち合わせをしたあと韓国に飛んで、その作品の最後のカットまで見届けてから、手持ち荷物でセルを運びつつ帰国。そのまま撮出し手伝って、完成したフィルムをアメリカに発送してようやく休める、みたいな過酷な状況でした。

で、色指定の打ち込みです。とにかく、誰も教えてくれません(笑)。自分でなんとかするしかないので、見よう見まね、僕とほぼ同い年で先輩の色指定だったF姉さんの仕事ぶりを盗みつつ、大汗かきながらの色指定です。

なんでもそうですが、こういうのって経験がすべてですね。いっぱいやって、顔から火が出るような失敗をいっぱいして、そうしてカラダで憶えていく(笑)。

『ROBOTEX』は1話30分のTVフォーマットで作られていて(CMとかの尺が削られるので、実際には20分プラスαくらい)、カット数は約300程で作画枚数はだいたい8000〜1万枚くらいでした。アメリカから送られてきた絵コンテでアクションが決められてるのと、前回にも書きましたが口パクセルの複雑さとか、まあ理由はいろいろです。ちなみに、東映アニメーションのTVシリーズの1話あたりの作画枚数は、総カット数約300で平均約3000〜3500枚なので、2倍以上の作画量です。

そんな量のカットをチェックして色指定入れるなんて、当然の初体験。しかも時間に追われます。

早朝6時に大泉スタジオ発。毎日のように手持ちで韓国に運んでいました。ある時はこちらの演助さんの手持ち、ある時は韓国プロダクションの方の帰国便。みんなジュラルミンの大きなトランクを数個携えて成田空港へ向かうのです。

で、僕らはその便になんとしても載せなければなりません。やってもやっても一向に減らないカットの山。ギリギリまでかかってなんとか打ち込み完了する毎日。そんなこんなで、なんとか全カット送り出すわけですが、当然コレが全部ヌリ上がって帰ってくるのです。

そして数日後、そのヌリ上がりのセルを見て、思わず呆然とするのでした。

■第6回へ続く

(07.02.06)