色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

はずかしながら連載100回まあなんとなく特別編「あの頃ぼくはアレを塗った」

9月になりました。今年も残すところあと4ヶ月。なんか、夏を過ぎると、時間の流れがとたんに加速する、そんな気がしませんか? ……あれ? 僕だけ?

そうそう、なんとこの「色彩設計おぼえがき」今回で連載100回目だそうであります。

おおっ、なんと、いつの間に……。ここのところ吉松さんの「1000回」やら編集長の「200回」っていう華々しい数字が踊ってるアニメスタイルですが、僕のこの連載の「100回」なんてのは、それはそれは原稿落としまくっての100回ですから、もうなんて言うか、お恥ずかしい限り。一介の色スタッフのだらだら文章を、よくもまあ100回も載せていただけたよなあと、あらためて編集部の皆様に感謝であります。

でもまあそんな連載ですが、なんか読んでいただいてる方もそれなりにいらっしゃるようで、時たま「連載読んでます!」的なお声をかけていただいちゃったりして、本人かなり恐縮しております。特にかなり若い同業の方々にも読んでいただいてる方がいらっしゃって、で、そんな人たちには、この「昔話」はいったいどんな風に感じてもらえてるんだろう? とか、ちょっと思ったり。

正直、なんかためになるようなコトがあるわけでもなく、ただただ、僕がやってきたことを、耄碌して記憶が怪しくなっちゃう前になんとか記録しておこう、みたいなスタンスで書いてるこの連載です。ですので、これからもだらだらと……時には原稿落としつつ(……あっ)、書かせていただける限り続けていければ、と思います。

さてさて。

「100回記念に何書きます?」みたいな感じに周囲が言い出しまして、僕としてはそんなに意識していなかった「100回」なんですが、でもまあせっかくだから何かないかな? とか思ったんですけども、ううむ、正直そううまくタイムリーな話題もなく、あるいはネタ的にはおもしろいんだけど、立場的に書けないお話とかばかり(苦笑)。

で、結局、またもや昔の話の掘り起こしをさせてもらっちゃいます。題して「あの頃ぼくはアレを塗った」。

僕が東映アニメーション(旧東映動画)で色指定とかの仕事に就く以前、池袋にあった仕上げプロダクション、有限会社こずえアニメ、で彩色の仕事をやっておりました。そのことはず〜っと以前にも書きましたね。そこで実にいろんな作品のカットを塗りました。そのプロダクション自体の仕事の中心は東映作品だったのですが、その他の制作会社さんからのお仕事もたくさん受けましたし、実はこっそり会社に内緒で受けた塗りの仕事とかも。今回はそんな彩色時代のお話をいくつか。

まずは、劇場版『Dr.スランプ アラレちゃん ほよよ! ナナバ城の秘宝』。

1984年公開のこれは東映動画作品。当時大ヒットしてた『Dr.スランプ』の東映まんがまつり用の作品です。お話、演出、作画、そして色、この頃何本か作られた『アラレちゃん』の映画の中の最高傑作です。この時の色指定は藤岡真子さん。後に僕も彼女の同僚になるわけですが、実に細やかにいい仕事でありました。なんかね、すごく羨ましかったです。ひょっとしたら、この作品が、僕がこずえアニメを飛び出すきっかけだったのかもしれません。そんな作品。

この頃の僕は大病のあとで、以前のようにバリバリ彩色が出来る身体ではなくなっていて、こずえアニメでは仕上げ管理みたいなことを主にやっておりました。で、その中でこの『ナナバ城』の仕上げに関わって、なんか身体が熱くなっていくのが分かる、という、そんな作品だったのですね。なので、あんまり僕自身は彩色してないんですが、とっても大事な1本です。

『地球物語 —テレパス2500—」。

1984年夏の公開の劇場作品。先だって「アニメ様365日」でも触れられてました。ああ、なんて懐かしいタイトル(笑)。

かなりゆとりのスケジュールで制作してた作品だったと記憶してます。なので、長めのスケジュールで、ずいぶんカットを請け負いました。

この作品、タツノコ作品でありながら、色指定・絵の具はSTACだったのでした。当時こずえアニメの社長から聞いた話だと、仕上げの担当(?)だった方が「STACの方が色も安定してるし、リテイク処理も楽!」と、この作品についてはSTACで押し切った、とのこと。あ、いや、どこまでが本当の話だったのか分かりませんが、とにかくSTACの絵の具だったので、STAC絵の具に慣れている僕らにはすごく楽であったのを憶えてます。「地球物語」の専用色LナンバーとTナンバーの絵の具ってのがあって、結構渋い感じの色がズラッと揃っておりました。特に肌色系。

この頃はサンリオの作品なんかでも独自の専用絵の具で作品塗ってたりしてまして(AKB-003みたいにアルファベット3桁+数字3桁のナンバー!)、絵の具大好き人間の僕は、大量のいろんな番号の絵の具瓶を前にして、単純に喜んでました(笑)。

「アニメ様365日」に触発されまして、実は中古のビデオをAmazonで購入。初めて本編を見ちゃいました。……あ〜、こういうお話だったんですな。なんか微妙(苦笑)。でも、なんか当時のアニメの「気分」は伝わってきましたよ。

『巨神ゴーグ』。

放映は1984年ですが、制作自体は1983年にはだいぶ進んでおりました。

実はこれ、会社に内緒で個人的にバイトで彩色を受けてました(爆)。どういう経緯だったのかなあ? 確か「誰か個人で彩色手伝ってくれる人はいないか?」的な話が僕のところに舞い込んできて。こずえでは滅多に受けなかった日本サンライズの作品、しかもロボットもの。しかも、なんて言っても安彦良和の新作アニメですよ! こりゃあねえ、是が非でもやりたかった。で、こっそり受けてたんですよ(笑)。

まあ、そうは言っても個人で受ける彩色ですから量やカット数はたかがしれてましたが、それでもすげえ新鮮で、内容もスケジュールもきつかったですが、結構がんばって塗りました。ちなみに、どうやって「こっそり」塗ってたかというと、休みの日にスタジオに出勤して「こっそり」。あるいは深夜、徹夜で「こっそり」(苦笑)。

色指定の指示で、人物キャラクターはほとんど影ナシ彩色。寄りサイズのみ影も彩色、でありました。動画にはちゃんと影は作画されてたんですよ。でも、影は無視して影なしで彩色です。なんとなく「彩色心」的には微妙でしたが、仕方ありません。が、そのぶん、メカ関係はガッツリ、ノーマル/影1号/影2号/BL影にハイライトつきでありました。

イチバン大変だったのは、ゴーグ本体の彩色でした。コイツ、色数自体は少なかったんですが、ほぼどんなサイズでもノーマル/影1号/影2号/BL影にハイライトつき。で、しかもコイツ、歩くんですよ。走らないの。何枚も何枚もゆっくり歩きを動画にしてるんで枚数が多い(苦笑)。超仕上げ泣かせでありました。

この時にちょっと感動したのが「夜色換算表」。「夜色のシーンではノーマル指定の絵の具番号をこの『換算表』で置き換えて塗ってください」というもの。これで換算して塗っていくと、なんと! みんなブルーっぽい夜色になっていくんですよ! なんかね、すげえ新鮮でありました。東映作品では絶対そんなのなかったし。……でも、これってすげえ面倒だったでありました(苦笑)。

あ、そうそう、単価はこれまた内容のわりにはスゲェ安かったような記憶が(苦笑)。

そして、『みゆき』。

1983年頃の作品。あだち充原作のあの『みゆき』のTVシリーズであります。エンディングテーマ「想い出がいっぱい」がヒットしまして、そっちでは有名になった作品です。

当時、京王井の頭線の三鷹台駅近くにキティフィルム三鷹スタジオというのがありまして、ここが手がけた確か唯一のTVシリーズでありました。このシリーズの仕上げを、こずえアニメと鈴木動画企画(千葉・市原(?)にあった巨大仕上げ会社)とでどど〜ん! と受けてたと記憶してます。グロス制作で作られた話数以外はほとんどの仕上げをやってたと思います。

僕はこの『みゆき』という作品の色指定が大好きで、少ない色数の中、うまくパステル系に組み上げてた服装のコーディネイトに、毎話数、新しい色指定が届くたびわくわくしておりました。ああ、思えばこの『みゆき』の色に影響されてるのかな? 僕は。なんかね、そんな気がします。

いまあらためて作品を観ると、全体にずいぶん微妙な出来ではありますが(苦笑)、その当時はホント大好きで思い入れいっぱいで仕事をしておりました。

書いてて思い出したんですが、この時の制作進行さんの中に、Kさんという若くて美人の進行さんがおりまして、密かにファンだった僕は、彼女がカットを持ってスタジオに来るのを毎夜楽しみにしておりました。まだ僕が20歳の頃の思い出です(笑)。

その後、この『みゆき』が縁で、キティフィルム三鷹スタジオ制作のビデオ作品『軽井沢シンドローム』(原作/たがみよしひさ)のお手伝いをさせていただきました。……と言っても、仕上げのリテイク処理のお手伝いです。牟礼にあったスタジオに丸2日ほど缶詰にされまして、かなりの量の仕上げの直しをお手伝いしました。

インターネットで自分の名前「辻田邦夫」を検索すると、かならず引っかかってくるのが、この『軽井沢シンドローム』です。そう、エンディングクレジットに載せる、ってのを条件に無償のバイトだったのでありました(爆)。

あ? その時はもう東映動画にいたのかな?(笑)

これらの作品たち、僕にはみんな大事な作品たちでして、実はこれらの作品の色指定、ちゃんと今でも実家に保管してあるのでありました(笑)。体験も含めて、これらの色指定たち、みんな僕のちょっとした宝物なのであります。

■第101回へ続く

(09.09.01)