第103回 昔々……(63) 公開日繰り上げの危機! 劇場版『美少女戦士セーラームーンR』
台風な今週でありましたが、皆さんの街や暮らしは大丈夫でしたか?
被害があった地域の方々には申し訳なく思いますが、台風が近づいてくると、なんか不思議とワクワクな気持ちになっちゃう僕です。
僕らが子供だった……あー、かれこれ40年くらい昔ですが……頃は、台風って聞くと、停電とかに備えて懐中電灯の電池を確認したり、雨戸を閉め切った夜長、テレビやラジオの台風情報に耳を傾けながら、「○○に上陸したって!」なんて、まるで怪獣みたいな言い回しにドキドキして、外を吹き荒れる風雨の音にヘンにテンション上がって、ワクワクな気持ちいっぱいで遅くまで起きてたものでした。
最近の子供さんたちって、どうなのでしょうね? 割とクールなんでしょうか?
さすがに今回は台風情報追っかけて徹夜、とかはしませんでしたが、もし仕事で夜通し起きてたら、きっと飽きもせず、ずっと台風情報にかじりついてたんじゃないかなぁ(笑)。
さてさて。
「公開がね、早まっちゃったのさ、1週間。だから、さらにスケジュールないんだよ。よろしくっ!」これが製作担当の樋口氏の僕への第一声。
さらに「辻田クン、スマン、ヨロシクッ!」これが幾原氏の第一声。1993年の9月半ばのことであります。
いきなりの展開であります(苦笑)。
1週間早まった、という公開日は12月5日。通常、その1週間前には出版社主催の試写会が必ずあるわけで、ってことはどんなにギリギリでも11月の20日過ぎには完パケ出さなければなりません。ははは(笑)、2ヶ月ですよ、ちょうど(笑)。それまでやってきた『Coo』には約2年近くかけてたわけで、いやはや(苦笑)。ということで、いきなり地獄のスケジュール進行です。
さて、そんな劇場版『美少女戦士セーラームーンR』、監督はTVシリーズのチーフ・ディレクターでもある幾原邦彦、作画監督は只野和子、美術監督は谷口淳一。1993年12月の公開で、同時上映が『メイクアップ! セーラー戦士』(監督:小坂春女)と『ツヨシ しっかりしなさい ツヨシの タイムマシーンで しっかりしなさい』(監督:三沢伸、制作:スタジオコメット)という、3本立て。その「柱」の作品が、この『美少女戦士セーラームーンR』でありました。
前にも書きましたが、僕はTVシリーズの『セーラームーン』『セーラームーンR』にはまったく関わっておりませんでした。なのでちょうど、同じくTV版には関わっていなかった『DRAGON BALL Z』の劇場版シリーズの時と同じ立ち位置でありました。「TVはTV、劇場版は劇場版」。
第1話のスタッフ初号は覗きに行った僕ですが、その後はまるで放映を見ることもなく、なので詳しいお話の約束事だとか、キャラクター同士の関係だとか……っていう以前にメインの登場キャラたちの名前すら怪しい始末(苦笑)。かといって、いまさらTV版を見直して、なんて時間があるわけもなく。なので、よく言えば「真っ白な状態で」参加したのでありました。
で、まず、いつものように手をつけたのがメインのキャラクターの色味の調整です。あの「セーラー戦士」のコスチュームです。
「TVはTV、劇場版は劇場版」ではありますが、キャラクターの印象がTV版と変わってしまわないことは必須条件なので、基本の「ノーマル色」はいじらない方向で。肌や髪、服のそれぞれの部分の「影色」や「ハイライト」の色味を多少ずつ変えて、全体的にメリハリをつけていきます。TV版の色指定よりもホンの少しずつだけ、強く調整していきました。
当時巷では、キャラクターに割とガッツリと深めの影色をつけて、コントラストを強調した作品が多かったんですが、それらのようにあまり深く影色を設定し過ぎちゃうと、このキャラたちが持ってる「凛として、でも柔らかい」印象が壊れちゃうので、あくまでも映画館のスクリーンでハッキリめに見える、くらいのさじ加減でのメリハリです。
実はTV版の色指定を見てみたところ、割と浅めに影色を設定していたのでした。さらに、TV版では、本編カットの多くが「影なし」で彩色されて撮影されてたのですね。
劇場版は、いつもTVを観てくれてる人たちが観に来てくれる。ですので、TVを見てくれてる人たちが劇場でこの画面を観た時、影の作画が多少ハッキリと締まって見えることで、ちょっとだけグレードが上がってるように見えたならOK! というふうに考えてみたのです。TVと印象は同じで、でもちょっと「劇場版っぽい」っていうのが狙いどころでありました。
そうそう、この「セーラー戦士」のコスチュームって、デザイン的には「セーラー服」っていうよりも、フィギュアスケートのレオタードなんですよね。フィギュアスケートのコスチュームに、セーラーカラーとスカートをつけた、そんなデザイン。だから、リアルなセーラー服と違って、機能的で動かしやすく、そしてエッチ臭くない。
「武内さん(原作者)のこの発想、すごくいいよねえ」と、幾原くんが感心していたのを憶えてます。
■第104回へ続く
(09.10.09)