第112回新春番外編 『STRONG WORLD ONE PIECE FILM』おぼえがき(中編……改め前編その2)
昨日の東京、この冬初めての雪が舞いました。初雪です。大泉では昼頃に雪が舞い始めて、一時いい感じで降ってたのですが、残念、あっという間に雨になってしまいました。
僕が学生だった遠い昔、毎年1月15日には国公立大学受験の「共通一次試験」っていうのがあって(あ、今の「センター試験」ってヤツですね)、その日には不思議と決まって雪が降ったんですよ。そもそも1月15日は「成人の日」だったし。毎年決まって、雪の中を受験会場に向かう映像と、雪の中を振り袖の裾を気にしながら歩く成人式に向かう20歳の晴れ着の映像が、ニュースから流れる、と、それが定番でありました。
最後に「大雪」が降ったのは何年前だろう?
近年、雪の降ることのほとんどない東京です。「ひと冬に1度か2度くらいは、電車が止まるくらい雪降ってくれないかなあ」とか思ってる東京都民は少なくないハズ(笑)。さあどうかな? この冬、果たしてドカン! という雪は降るのでしょうかね? 東京に。
さてさて。
「『STRONG WORLD ONE PIECE FILM』おぼえがき」続きです。
原作者の尾田さんのもとへ、キャラクター色見本の第1弾を送りまして、待つこと数日。待望の返事が戻ってきました。ところが、それはあまり色よい返事ではありませんでした。
僕が作ったベースカラーについては別段コメントはなく、肌色の明るいロビンも髪色の薄いナミも「OK」のようだったのですが、コスチュームの色がどうにも今ひとつのようなのです。「ワクワクが伝わってこない」確かそのようなコメントだったと思います。
僕が考えて組み上げてみた色は、配色が多少リアルな方向に向かってしまっていて、加えて原作カラーイラストのフンイキを狙いすぎたのと、監督の言った「透明感」という言葉から、色を全体に浅めに作ってしまってたのです。それがよくなかったようなのでした。色自体に「力強い押し出し」とかの「ボリューム感」がちょっと弱かったのではないかな? と。あとから考えれば、こんな風に「そうだよなあ……」と思うことがいくつか……。
それと、やはり独特の「尾田ワールド」。
色の世界観っていうのは、みんなだれでもちゃんと持ってるもので、ましてや作家、人気マンガの原作者本人。キャラクターとお話を作り出したその人なのですから、ビジュアル・イメージは当然強く頭の中に。悔しいけれど越えられないです。尾田さんを「ニヤリ」とさせるだけのモノを示せなかったの僕なのでした。
そして……。
「辻田さんには大変失礼かも知れないのですが……」と尾田先生、「今回、口を出せる部分は可能な限り口を出させてもらいたいので……」と。
結局、尾田先生にコスチュームの配色の原案までお願いする事になってしまいました。週刊連載の超多忙な中のさらなる作業、申し訳ない気持ちいっぱいの僕なのでありました。
で、さらに待つこと3週間ほど。尾田さんから届きました、カラー原案のナマ稿です。キャラクターの線画をズラッと並べたものに、カラーインク(だったのかな?)で丁寧に色を置いたもの。尾田さんもいろいろ悩まれたのか、一度彩色されたものの上に1体につき2〜3案、別の色で塗ったものが重ねて貼ってありまして、第一候補が一番上になるようにキレイに整理されていました。
その色の原案を前にして、僕と境監督は唸りました。いやあ、まさに尾田ワールドでありました!
「いやあ、これはやっぱり原作者にしか出せない色の世界だよねえ〜」と僕と境監督。尾田さんからの色の案は、僕らが考えたどの組み合わせよりも大胆で、そしてシックリとキャラクターにマッチしていました。もうね、悔しいくらい(笑)。これはやっぱり原作者だからこそ出せる配色、組み合わせでありました。
こうしてキャラクターの色作りが再開しました。この尾田さんからの原案の第1案をベースにして、色見本たちを塗り直していきます。金獅子のシキやルフィたちのコスチュームはほぼ尾田さん案でしたが、それでも、金獅子の部下のDr.インディゴとスカーレット隊長をはじめ、いくつかのキャラクターについては、尾田さんも僕が出した色案そのままで彩色してくれておりました。なのでこれらは基本そのままで。
新たに塗り上がったキャラたちを、またひととおりモニター上で並べてみて、キャラクター同士の色味のボリュームのバランスを調整していきます。ひととおり揃ったところで監督チェックを経て、再び尾田さんチェックへ廻します。
ところがこの時点で、なんと「予告編」制作のスケジュールぎりぎりという事態に……。キャラクターのデザイン自体は変わりないので作画については作業を進めていけますが、色が決まらなければ色指定ができません。色がつかなければ、当然予告編はできません。ですが、納期もギリギリ。これもさすがにどうにもできない。尾田さんからのOKを待ってから色を塗って……というワケにはいかなくなってしまったのです。
でも、予告編といえども、待っててくれてるファンに見てもらう、これが動きのある最初のビジュアルになるわけですから、絶対いい加減なものは出せません。「映像は作画の姿・動きも大切だけど、その最初の印象は圧倒的に『色』で決まる」と。これは僕の持論なんですが、色の持つ印象はとても大きいモノなのです。
なので、尾田さんからの返事を待ちつつ、予告編の制作・作業を進める、ということに。尾田さんにチェックで廻した色を元に予告編用の色指定を作成して、カットの色指定を進める。とにかく作業は先に進めて、これで尾田さんからのOKが出ればこのままでいく。リテイク、変更が出たら、なんとか間に合うように対応していく、という作戦です。
やがて予告編カットの彩色上がりが僕のもとへ次々とあがってきました。当然みんな、本編絵コンテから選んだカットたち。基本そのまま本編でも使用するカットでありますから、当然作画のボリューム、迫力、いい感じです。これなら「どうだっ!」とスクリーンにかけられる。
そして、やっと尾田さんからの返事が届きました。「OK」が!
こうしてでき上がったのがあの予告編でありました。「ああ、これでやっと『STRONG WORLD』のスタート地点に立てた」、そんな気分の僕でありました。
■第113回へ続く
(10.01.13)