色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第119回 昔々……(67) 1994年、TVシリーズと劇場版の間

桜! ……とか言ってた先週ですが、ここに来てガッツリ冷え込んだ東京です。開花宣言は出たものの、その後の冷え込みでこの3月最後の週末も、桜はまだ2分〜3分な模様です。本格的な花見の日は今週末くらいかなあ。
そんな気分の中、僕はちょっと自転車で事故って左足を怪我してしまい、片足引きずりながらの生活です(泣)。ああ、はやく腫れが退いてくれないと、花見の宴の席でちゃんと座れないぢゃないか! 早く治れ! 僕の足。
そして、早く来い! 満開の桜。

さてさて。
劇場版『セーラームーンR』で終わった1993年。完成、打ち上げのあと、ちょっとまとめて休みもらって北海道を旅行したのを憶えています。たしか公開初日は釧路あたりにいたような記憶が。あれ? どっちの公開だったっけ? 『セーラームーンR』? 『Coo』?
この年は結局、『Coo』を完成させて、劇場版『セーラームーンR』、という劇場作品の年でした。TVシリーズのラインから外れてしまった僕は、これまで以上に劇場用作品要員化していくことになるのでした。
明けて1994年。最初の仕事はこれまた劇場用作品でありました。劇場版『DRAGON BALL Z 危険なふたり! 超戦士はねむれない!!』であります。3月公開の春のまんがまつり(あるいはもうこの頃から「東映アニメフェア」とかに名前変わってたかもしれません)の中の1本。
脚本:小山高生、作画監督:山室直儀、美術設定:窪田忠夫、美術監督:徳重賢、そして監督:山内重保。厳密に言えば、劇場版『セーラームーンR』が終わった時にはもうシナリオとキャラクターのラフを受け取ってたんですが、実際の作業は年が明けて1月からでありました。
2年ぶりの劇場版『DRAGON BALL Z』。なんとまあ知らないうちに、子どもが増えてんジャン!
そもそも僕はTVシリーズの『DRAGON BALL Z』には全然関わっていなくて、なので実はTVも観ちゃいないし、原作のコミックすらちゃんと読んでないという状況でありました。だからこそ、『劇場版』の仕事は毎度新鮮でありました。
でもまあ、先にTVで出ちゃってるキャラは、その色についてはもう観てる人たちにコンセンサスができちゃってるし、なので当然、劇場版もTVに合わせておかなくちゃならないわけです。で、TV版の色指定を取り寄せて作業に入るわけですが。
これまでもそうだったのですが、当然TV用に作られた色指定はあくまでもTV用のモノであって、映画館のスクリーンを意識して作る劇場作品用にはそのまま使えないのですね。ですのでこれまでも、先の『セーラームーンR』の時もそうだったんだけれども、TVシリーズ作品の劇場版制作の時には必ず、影のバランスとかの修正作業をやっていたのです。
このときも同様ではあったんですが、ふと考えたのですよ。『DRAGON BALL Z』の劇場版はこれから先もたぶん年2回ペースで作られていくんだろうし、で、たぶんその仕事は僕にお鉢が回ってきそう。ならば、劇場版独自に色味のあり方、展開をしちゃってもいいんじゃないのかな? と。
「たぶん僕にお鉢が回ってきそう」とかそんなこと考えてる時点で傲慢で、そして「若かったなあ」と思いますが(苦笑)、なんかね、当時はそんなことを考えてたんですよ。実際若かったし(笑)。
だからといって、TVと劇場版とでキャラクターのカラーやビジュアルが大きく変わっちゃうわけではなかったし、そんなことは実際作品預かってる以上あり得ないし(笑)。
ただ、こうして他の方が基本設計を担当してるTV作品の、劇場版だけを担当していくっていうことに対しての、自分なりのプレッシャーっていうか、気を遣うところが多々あったし、そんな自分自身の内面的問題において、そんな考え方を強く持つことで吹っ切っていこうっていう部分があったんですね。
なので、この頃からおおっぴらに「TVと劇場は別モノだから!」と公言、というか宣言してまわってたのでした。
だからといって、その当時もつい最近でも、TVのスタッフからあれこれ文句言われたりってことは一度もなかったし、僕自身も「あれこれ言われないようにシッカリと仕事しなきゃ!」といい意味でのプレッシャーを自分にかけてました。
正直モノによっては「え〜? この色はちょっとなあ」みたいな色指定もTVの色にはあったんだけど、でも、それも含めて、長きにわたって積み上げられてきたTVの色だし、その「色」がベースになって世界が広がって、それが人気を博して劇場版になるわけで。なので僕自身はTVシリーズの「色」を、「世界」を、とってもリスペクトしてきてるわけです。
で、その上で「劇場版は劇場版として世界を築こう!」と、そんな想いは十数年経った今でも変わらず僕の中にあるのですよ。

第120回へつづく

(10.03.30)