色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第124回 初夏の番外編 『四畳半神話大系』色指定さんへの注意事項

え? 梅雨のはしり? みたいな雨が続いたりしてる東京です。それでも一旦晴れれば、爽やかな5月の風。いやはや、ビールが美味いです。←またそれか(笑)

さてさて。
4月からフジテレビ木曜深夜の「ノイタミナ」他で放映中の『四畳半神話大系』。僕も色彩設計として参加させていただいてるんですが、ご好評のうちに早くも今週の放送が第6話(関東地区)。全11話のちょうど折り返し地点到達であります。
なので今回はチラッと『四畳半神話大系』のお話を書かせていただこうかと。題して「『四畳半神話大系』色指定さんへの注意事項」。
『四畳半神話大系』の作品概要につきましては「WEBアニメスタイル」上でも特集組んでご紹介いただいてますので、そちらをご覧いただくとして割愛(笑)。
最初、このお仕事のお話をいただいたのが『STRONG WORLD ONE PIECE FILM』の佳境まっただ中の昨年秋。11月に湯浅監督と初めてお会いしまして、その席でキャラクターの「色」についての大まかな打ち合わせをしたのです。
「シンプルに。あんまり色数使わないで、シンプルにまとめたいです。背景もそうなんですが、白黒にポッ! と1色入れるくらいの感じがいいです。で、基本、影ナシで」
それがまず湯浅監督からのオーダーでありました。キャラクター原案としては、中村佑介氏の色つきのイラストがあって、それをもとにアニメーション用にキャラクターデザイン担当の伊東伸高さんがリライトされました。で、そのキャラ、線画をいただいたのですが、あ〜、もう、ホントにシンプル!
実は僕、ここまでシンプルな絵柄の作品はやったことなかったのです。同様にシンプルなキャラクターの作品ではだいぶ前に『ご近所物語』っていうTV作品をやったことがあったんですが、あちらはシンプルな線画ではあるんだけど、毎話着替えがあって、カラフルで、とにかく「オシャレ」追求な作品だったんですね。この『四畳半神話大系』とはちょうど真逆。
とにかく色味を絞って、極力塗り分けを減らして、原案のイラストの持つフンイキを拾いつつ仕上げていったのが、あのキャラクターたちです。とりわけ主人公の「私」はホント「白黒」な感じにまとまりました。
で、第1話突入。第1話は僕が色指定も担当させていただきました。「あ〜〜、なるほど!」やってるうちに、段々といろんなものが見えてきました。僕ら、やはり傾向として、どうしても色数増やしちゃうんですね。それを抑え込んじゃうことで、今度はシーン全体、というか画面全体でいろんな「色」が作れちゃう。う〜む、ちょっと抽象的?
そんな1話の印象を基に、第2話以降の色指定さんたちにその「フンイキ」を伝えていくわけです。
『四畳半神話大系』の場合、コンテが完成したところで各話の演出さん中心に、監督、美術監督の上原伸一さん、そして色彩設計の僕とで「美術ボードの打ち合わせ」。ボードがひととおりOKになったところで、「美術ボード打ち合わせ」のメンバーに、各話の美術さんと色指定さんが加わって「美術打ち合わせ」となります。この美術打ち合わせが色指定打ち合わせも兼ねるのですが、その後、各シーンの色彩設計ができたところで、僕と色指定さんとであらためての「色指定打ち合わせ」となるのです。
色指定さんとの打ち合わせ時に僕から伝えた「注意事項」たち、いろいろあります。まずは「シンプルに」ということ。小道具の色はことごとく背景に寄せる、ということ。シーンによって作画影がつく場合はすべて境目を幅広めの階調処理のブレンドをする、ということ。などなど。

そしてそのなかで最も重要な注意点は「モブキャラのシルエット処理」であります。あ、「モブキャラ」っていうのは、通行人だとか、店のお客さんだとか、まあそんな「その他大勢」のキャラたちのことです。
この作品、ご覧になった方は気づかれたと思いますが、かなり大胆なシルエット処理を多用してます。第1話のテニスシーンのように、作画から「簡略化」してあるものは当然そういう画面にするという意図の下に設計されているのですが、それ以外の、いわゆる「ちゃんとキッチリ作画されている」モブキャラたち、これをかなり「色」で思い切ったことをしています。ほとんどの場合「1色ベタ塗り」とかやっちゃっております。まさに「シンプル」。で、これが結構ヴィジュアル上重要な処理になっているのです。
この作品の中心は「私」で、その「私」のブツブツ言ってるのを、僕らは「私」の割と近いところから観てる、っていうのが基本のスタンスと僕は考えてます。この「私」、いま自分が直接関わってないもの(人)にはあんまり関心がないんですね。だから「シルエット」にしちゃう。そうすることによって、「私」と関係してる芝居が「色つき」でハッキリしてくる。と、まあ、そんなことを考えてあんなふうな「シルエット処理」にしていってしまいました。
色指定さんたち、やはり最初はかなり戸惑ったようです。僕ら色指定は「ちゃんと塗り分けられるように作画されているものは塗り分けたい」という習性があったりするのです。割とリアルな作品が多い昨今、目の前にそんな作画があったら、どうしても自然と細かく色をつけたくなっちゃう。それを僕が「1色でいいですよ」って言うわけで、色指定さんは当然「えっ? でも……いいんですか? ホントに1色で?」という反応に(笑)。
でも、実際の作画カットで試しに1色塗りしたものを作って背景にのせて見てもらうと、みんな「あ、なるほど!」と理解してくれました。ちなみに「どんな色で1色塗りにするか」は、目指してる画面の説明をザックリとして、あとは色指定さんにお任せしています。
いつもそうなのですが、僕が出すシーンごとの色彩設計はあくまでも骨組みであり、あくまでも設計図。実際のカットに対峙して、実際の原画や演出さんの指示に対処していくのは色指定さんです。しかも、設定のない原画合わせの絵柄だったり、設定とだいぶ違って上がってくる特殊な作画のカットもこの作品には多くて、また各演出さんの個々の指示も様々です。僕の方からは「こんな感じにまとめてみてください」という方向づけはさせてもらいますし、色指定さんと一緒に考えたりということもいろいろありますが、それをどう料理していくのかは、色指定さんのセンスだったりしてるのです。

という、そんな「色」の部分もひとつの見どころとして、この『四畳半神話大系』お楽しみいただければ、と思っております。

第125回へつづく

(10.05.25)