色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第13回 昔々……(9) 短冊カラーチャートと絵の具マニア

GW(黄金週間)だそうです、世間では。うまく間を休めれば、9連休が取れた今年のGW、みなさんいかがお過ごしでしょうか?(笑)

今年の僕は基本お仕事。ま、常日頃、カレンダーにあんまり関係なく仕事ばっかりしてる僕ですので。でもいい天気だとやっぱりどこかに行きたくなります。なので雨でも降ってくれてれば、まあ、あきらめもつくかな、と……(←他人迷惑)。

とか言いつつ、「今年のGWはどこにも出かけないから、その分散財しちゃえ!」とばかりに、なんとデジカメを新調しました。「いつも肌身離さず持ち歩く」用の小型機です。ちなみにこれで、僕の歴代デジカメ、なんと9台目! 銀塩カメラも含めると、16台目のカメラだったりします(爆)。

で、新しいデジカメを手にしたら、やっぱり使ってみたくなるのは人情というもの(苦笑)。……やっぱり連休後半戦は、カメラ片手にどこかに出かけるかなあ?

さてさて。

絵の具時代の色指定の必需品といえば、やはりなんと言っても短冊カラーチャートです。

出版・印刷をはじめ、色を扱う業種では、必ずと言っていいほど「色見本」っていうモノを使いますよね? たとえばホームセンターとか行って壁紙選ぶときだって、あるいはペンキなんかにしても、色味の違いを間近に比べられるよう、売り場には短冊状に見本作って束ねたものが置いてありますね。そんな感じで、セル絵の具も短冊状の色見本チャートがありました。

ありました……というか、僕らの場合、必要に応じて自作してました。もっとも、STACさんからは基本色チャートの120色分の短冊チャートが売られてましたが(たしか受注生産)、1セット5000円くらい。太陽色彩さんの方は知らないのですが、それにしても5000円もしたので、となれば、僕らは当然自作します(笑)。

セルに絵の具を塗って、縦7センチ×幅2.5センチくらいのサイズに切り出します。大体これくらいの大きさがベスト。これより大きいと手に余っちゃって、扱いにくくなっちゃうのです。とにかく2〜300枚にもなるので、1枚1枚が大きいと、束ねた時のボリュームも大変なモノになっちゃいます。持ち歩くのもたいへんです。

まずはセルに絵の具を塗っていくのですが、何人分もいくつも量産するならまっさらなセルに全面塗りもありですが、それだってセル代がかかっちゃいますから、大抵は何かの理由で没になったセルの「余白」を使って作ります。口セル、目セルなんかは余白ばかりなのでGOODです。

乾いたら、短冊どうし重なったときに張りつかないように、塗った短冊のうらに薄手の白い紙を貼ったりします。その紙に絵の具の番号を記入したりもします。それを事務用品の穴あけ機で「ばしっ!」と1箇所穴あけて、リングに通してでき上がり。

注意事項として、短冊用に絵の具塗ってるときに、何色を塗ったか、ちゃんとその絵の具の番号を塗った色の近くにメモっておかないと、似たような色が多いので、あとで判らなくなっちゃいます(笑)。

僕はこの短冊チャート作りが大好きで、飛び込みの仕事がきて新しい絵の具が手に入るたび、しっかり地道に短冊チャートにしてました。もうね、コレクションのごとき様相です。一種のマニアかも(笑)。そして日頃メインで使ってるSTAC色はもとより、それよりも太陽色彩の絵の具を一所懸命短冊チャート化してました。

これにはちゃんと理由があって、以前書いた「STAC‐太陽色彩の絵の具換算」にどうしても必要だったのです。とにかくサンプルとして絵の具の色の見本を持ってないと、絵の具番号だけでのやりとりだと判らないことが多かったのです。しかも太陽色彩の絵の具は、その番号の体系が複雑でしかも細かく数も多い。なので、よりいい、より近い色で換算するためには必需品でした。

これはその後、僕が東映動画で劇場用作品を数多く色指定していく時に、とても大きく役に立つコトになるのでした。

と、まあ、そうやって作った短冊チャート、これを僕らセル絵の具時代の色指定は使い込んでいくのですね。

何かの色、例えばキャラが持ってる小道具の色とかを考えて指定するとき、まずどんな感じの色にするか頭に浮かべていくのですが、その時に手元にある短冊チャートで色を組み合わせてみて、自分の頭にあるイメージを具体化していきます。

ノーマル面の色はこれ、だとすれば影はどんなバランスの濃さにするのか。あるいは、影はどんな色味にしてみるかとか、短冊チャートで色を重ねながら組み合わせを考えていくのです。

キャラクターの色味を決め込んでいくときは、キャラ設定なり動画なりをトレスして、実際に色を置いて決め込んでいきますが、その際にしてもまずは短冊チャートで肌色と服なんかに使おうと思ってる色とを重ねてみて、そのバランス見てから塗り始めます。

あるいは、打ち合わせの時も、演出さんの持ってる色イメージや僕らが持ってるイメージを話し合う時にも、「こんな組み合わせで……」みたいに、短冊チャートでイメージを共有できたりするのでした。

今のように、デジタル彩色で無限に近い色数を操れ、思ったとおりに微妙な色味、色合いを作れない時代です。限られた色数でいかに表現していくのか。このために、とにかくみんないろんなコトを頭使って考えて、想像して、工夫して、そのためにこの短冊チャートはなくてはならない大事なモノでありました。

色彩設計・色指定……というより、仕上げの基本は「色を覚える、絵の具を覚える」ということから始まります。特に「色を指定する」という仕事においては、絵の具の番号とその色味の特性と差違をちゃんと分かってないと仕事になりません。なので、こうやって自分で塗ってみて、絵の具を、色を覚えていったのです。

それはデジタル彩色になった現在でも同じコト。短冊チャートみたいに手に取れるモノはなくなってしまったけど、キャラクターの見本にしろ何にしろ、自分で色をイメージして、それを実際に塗ってみて考えていくっていうのは、僕ら色彩設計・色指定の大原則ですね。

■第14回へ続く

(07.05.01)