第149回 昔々……88 1995年その8 東映TV作品初「色彩設計」誕生の4月
速報です! なんと今年はあと10日しかありません!(大汗)
そんな慌ただしい師走にいろいろ嬉しいことが。
まずひとつめ。今年度の文化庁メディア芸術祭のアニメーション部門で、僕も参加させてもらった『四畳半神話大系』がなんと大賞をいただきました! 大賞ですよ、大賞! 聞けばTVシリーズ作品の大賞受賞は初めてとのこと。湯浅監督は『MINDGAME』で大賞受賞して以来2度目の受賞になります。すごいです!
そしてふたつめ。『STRONG WORLD ONEPIECE FILM』が第34回日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞に選ばれました。先日の地上波初放送も高視聴率を記録したそうで、来年2月に「最優秀作品賞」を目指します!
みんなで頑張ってきた仕事たちが、こうして評価されるのは素直に嬉しいです!
さてさて。
最後の『DRAGON BALL Z』、劇場版『DRAGON BALL Z 龍拳爆発!!悟空がやらねば誰がやる』。その制作と並行して、実は別のお仕事が動いておりました。時間はもどって、4月。来週からGW! という頃のこと。その日僕は大泉スタジオ3階の企画営業部の部屋の隣の打ち合わせ室に呼ばれたのでありました。
「いま、日曜日の朝にやっている『ママレ〜ド・ボ〜イ』のあと番組に『ご近所物語』というシリーズを1年間やるんですよ。それでね、その「色」の部分を辻田くんにお願いしたいんです!」声優さんのようによく通る声、関弘美プロデューサーでありました。
なんと、TVシリーズのお話であります! 僕の前にはプロデューサーの関弘美氏、シリーズ・ディレクターの梅澤淳稔氏、そして制作担当の風間厚徳氏。テーブルにはコミック雑誌からページを抜き出して綴じた『ご近所物語』のマンガ本編、そしてTVアニメーション『ご近所物語』の企画書が置かれておりました。
関さんの言葉を継いで、シリーズ・ディレクターの梅澤淳稔氏が続けます。「この作品はね、ファッションがとっても重要な位置を占めるんだよ。主人公たちの服を毎回毎回服替えて出したいのね。それで、今までのTVように、色指定さんに任せちゃうんじゃなくって、ちゃんと番組全体を考えて「色」をまとめてほしいのね」
これまでの東映作品のTVシリーズというのはそれぞれシリーズごとにやり方がバラバラで、例えば以前僕が参加した『きんぎょ注意報』なんかでは、番組立ち上げ時にメインキャラクターの色を僕の方でひととおりまとめたあとは、各話でそれぞれ登場してくるゲストキャラクターの色については、その回の演出さんと担当色指定さんで決め込んで使う、という流れ。実はそれだと「色」の方向性が割とバラバラになりがちなのです。たしかにその回はそれでOKなのかもですが、じゃ、このキャラがほかの話で登場しちゃった時、場合によってはちょっとバランスに欠けることもあったりします。
今回いただいたお話は、要するにメインのキャラクターの色だけでなく、各話で登場するメインキャラクターの着せ替えやゲストキャラ、アイテムなどをすべての色の設計、そして本編の内容に関わる部分全部の総合的な色の設計を、僕が一元化して考えてまとめていく、という仕事なのでありました。そしてそれこそが「色彩設計」という仕事なのでありました。
「はい! 是非やらせてください! 」と僕。
しかしながら、ここには大きな問題もありました。可能ならシリーズを通して全話の色指定もやれれば一番問題ないのですが、実は会社として僕は「劇場作品要員」なところもあって、この先翌年までに何タイトルかの劇場作品が内定しちゃっていたのです。
「それでね、辻田くんには他の劇場作品もやってもらわなくちゃならないから、色指定は別の人に担当してもらうことにして、色の設定をやってもらうための職種? っていうかポジションっていうか、『色彩設計』っていうことで、そういうポジションを作るから、そういうことでお願いしたいんだけど」
えっ!? 僕の考えていたことが、まさか関さんの口をついて出るとはまったく思ってもみませんでした! 梅澤さん、風間さんも同じ考えのようでした。もうすでにちゃんと話はできていたのです。
この瞬間、長い東映動画TVシリーズ史上初の「色彩設計」が誕生しました。
ずっと長いこと僕は自分たちの仕事内容を表すクレジットにこだわってきて、なんとか作品のエンディングのクレジットの中に「色指定」を作ってもらいました。それがやっと定着してきて、さあ次の段階として目指してきていたのは、やはり「色彩設計」だったのです。そして何より、この新しい「色」のポジション、「色彩設計」のあり方は、これから先の東映作品の「色」の仕事の指標となっていくはずです。
それにしても、ああ、TVシリーズです! 大きなスクリーンに映し出される劇場作品の仕事も好きですが、やっぱりTVシリーズ! しかも、こんなチャンスをもらえた! どうしても気持ちは、胸は高鳴ります。
「で……。えっ? 『ご近所物語』……ですか?」
当然僕は読んだことがありません。「どんな作品なのかな……」とか思ってるところへ関さん。
「それでね、今週末、集英社に行って原作の矢沢先生に会うので予定明けておいてね!」
『ご近所物語』は9月の放送開始に向けてもうだいぶ動き出していたのでした。
第150回へつづく
(10.12.21)