色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第151回 昔々……90 1995年その10 原作者の仕事場におじゃました5月

昨日1月10日は「成人の日」。1999年の「ハッピーマンデー」とかいう法改正のせいで、毎年1月15日だった成人の日が1月第2月曜日になってもうずいぶん経ってしまいましたね。そもそもなんで1月15日が成人の日だったのかというと、古来この1月15日は「小正月」といい、この日に男子をオトナとして社会が認めるための儀式である元服の儀を執り行うのがならわしとなっていたからですよ。なんでこういう由来のある祝日を安易に変えてしまうのか。そういう古来からの文化的習慣を蔑ろにするような法制度、祝日法に、非常にわだかまりを憶えている中年男がここにおります。
ま、とにかく成人の日。僕の住む東京・中野区をはじめ、全国の多くの区市町村では、この成人の日に成人式っていう式典とか催し物を執り行っていますね。最近では、その式典の最中に暴れたりするバカが多くて困ります。おまえらいつまでガキなんだ! とオジサンは言いたい。そんなヤツは全員逮捕でいいと思います!
で、そんな成人式を、こともあろうに「としまえん」や「ディズニーランド」でやってる自治体もあったり。これがね、まったくもって理解できません。だって成人式って「今日からオトナの仲間入りです」っていう式典じゃないですか? それをなんで「コドモにもどって一日楽しむ」ワケなんでしょうか? たまたま地元にそういうものがあったから? それは安易ですよね。あまりにもナンにも考えてないですよね。
なので毎年この「成人の日」ってヤツがくると僕は、なんか無性にイライラさせられちゃうのであります。

さてさて。
ゴールデンウィークも明けた5月のとある日曜日の昼、僕らは小田急線の多摩川を越えて少し行った某駅の駅前に集まっておりました。僕らというのは、シリーズディレクターの梅澤さん、美術のゆきゆきえさん、行信三さん、そして僕。ん? あ、プロデューサーの関さんは、集合時刻にだいぶ遅れて到着です(笑)。そして集まった僕らが目指す先は、『ご近所物語』原作者の矢沢あい先生の仕事場兼ご自宅であります。穏やかな好天の下、駅から歩いて10分ほどだったでしょうか? 感動のマンガ家の仕事場訪問であります。
今回の仕事場訪問の目的は「マンガ家さんの仕事場ってどんな?」ということでありました。『ご近所物語』の主人公・実果子の母が売れっ子マンガ家で、自宅に仕事場があっていつもそこで〆切に追われてるという、そんな設定なのであります。当然そのヴィジュアルは原作のマンガでも描かれてはいるんだけど、アニメーションにするにはその全体像を把握して設定にしなくてはなりません。どんなフンイキなのか、どんな画材やペンがどんな風に置いてあるのか、実際にどんな感じで描いてるのか。なので、実物を見せていただけるのならこれ以上のことはないわけです。
そして、美術さんだけではなく僕もご一緒させていただいたのは、作品全体の色を任せていただくということになっていたので「何でも関係ありそうなものは見せていただいてしまっておこう」ということでありました。とにかく、たぶん自分ではよく分かっていない『ご近所物語』の世界というものが、いったいどんなところにそのテイストが潜んでいるのか。原作者の矢沢先生の仕事場にも、もしかしたらそのテイストはあるのかもしれない。そう考えておりました。

まずは応接室? でお茶をいただいてしばし歓談。そして「じゃ、見ます?(笑)」ということで、隣室へ。仕事部屋見学会でありました。
「おおっ! ここで描いてるんだ!」それがもうなんといっても最大の感想でありました(笑)。いやほんと、生まれて初めてのマンガ家さんの仕事部屋です。マンガ家さんに限らず、仕事をしてる人の机の上、机周りって見て楽しいじゃないですか。矢沢先生の机周りも、いろんな画材とか資料なんかがごちゃ〜っとあったのですが、なんか「制作の現場オーラ」みたいな、キラキラ美しかったのでありました。そして、「ああ、マンガでみたとおりだ(笑)」。
今ならおそらくデジカメで撮らせていただいちゃったりとかもあったのでしょうが、その頃はまだ銀塩カメラの時代。そして「マンガ家の先生の仕事部屋なんて写真撮らせてなんて言っちゃいけない」みたいなフンイキがあったのも事実(笑)。あ、もしかしたら、行さんたちは撮ってたかな? とにかく僕ら、シッカリと部屋を見せていただいて、そしていろいろと気になったものについての質問をさせていただいたのでした。

そしてその隣、もうひとつ気になる部屋も見せていただきました。そうです、デジタル部屋。ここにも燦然とMacintosh。たしか2台かそこらあったような。当時のMacintoshパソコン独特の柔らかい白い筐体と、それに合わせたかのような白い筐体のモニター、スキャナー、プリンターなどなど。矢沢先生の作品の扉絵とか、ここぞ! というページやコマに使われている、透明感のあるデジタルな画像処理。それはこの部屋で生まれているのでした。先生の手描き(アナログ)の仕事場にも感動したのですが、僕的には実はこっちの方に、より「やられた!」って感じだったのでした。
いまでこそ僕の自宅仕事部屋も、パソコンと複数のモニターとかでデジタル砦な秘密基地みたいになっちゃってますが、当時まだ、普通の家の室内いっぱいにこんな風にパソコンやらその周辺機器やらがたくさん並んでいる風景を見たことがありませんでした。これはかなりのカルチャーショックっていうか、ああ、これからはいよいよこういったデジタルな環境が、マンガや僕らアニメの世界にもどんどん入ってくるんだろうなあ、とそんなふうに強く感じ入ったのでありました。
そしてこの『ご近所物語』の宣材スチールの作業で、僕もバリバリ、コンピューターを使い始めることになっていくのでありました。

第152回へつづく

(11.01.11)