色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第171回 昔々……106 1995年その26 『最強への道』の考えすぎた(?)色

さて9月。
台風騒ぎも一段落で、とたんに秋風チックな東京です。戸外の陽射しは一見夏のそれだけど、渡る風はどことなく秋風ですね。特に朝帰りの時の気温がビックリなほど下がってます。いやあ、これは体調管理要注意。涼しくなると一気に疲れが出ますからね。
7月から放送のスタートした『輪るピングドラム』、オンエアは全体の1/3が終了、制作現場はもう第3コーナーを回って、絵コンテの作業も残すところあとホンの数本、というところまでやってきました。いやあ放映始まっちゃうと早いですよ、時間の流れが! 毎度毎度TV作品に関わるたびにイヤと言うほど体験してきてわかっているけど、今回もまた思い知らされてますよ。
ねえ〜ドラえも〜ん、一日の長さをこっそり30時間にしてくれる道具ってな〜い?
それがないなら、いろんな〆切をこっそりみんな2日ずつ後ろにずらしてくれる道具とかは?
まあね、そんな心境であります(苦笑)。

さてさて。
ちょっと飛び飛びに間空いてしまってます1995年のコト、劇場版『DRAGON BALL 最強への道』のお話。1995年10月の突如のホテル缶詰ミーティングのあと、まあなんとか作業は進んで……と言っても、イイ感じに絵コンテは遅れまくっていたのですが、各種設定作業や前半部分の作画は一応進められておりました。ちなみに公開は翌年3月。実質3ヶ月であります。あ〜、ヤバイ、ヤバイよね。とか思いつつも、そうやって何度も山内監督と修羅場を体験してきましたし、メインのスタッフも勝手知ったるいつもの面々。ですからなんとなく「『大丈夫』感」みたいな、そんなムードはあったのです。
僕も劇場版『セーラームーンSS』をなんとか終わらせ、本格的に作業に入れたのは11月の末。というか、実質12月に入ってからでありました。で、まずは設定関係の整理です。
前にも書きましたが今回のこの『最強への道』、「DRAGON BALL」の最初の最初からのお話のリメイクにオリジナルの部分を加えた90分です。もう何年も前にTVシリーズではやってるお話だったりするので、いろんな設定もあるにはあるのですが、作画監督は山室さんで当然画のテイストは昔の前田さんのキャラとは大きく違っているわけで、悟空やブルマの設定から始まって、何から何まで新しく描き起こしでありました。となれば、当然「色」もすべて新作。まずはそんなお話の根幹部分の色の設定から作業はスタートしたのでありました。

悟空、ブルマ、カメ仙人、ウーロン、ヤムチャなどなど、メインのキャラクターの色味の組み立ては、オリジナルのTVシリーズ、そして原作マンガのカラーを参考にはしていますが、全体的にバランスはシッカリめな感じ、重めなフンイキにまとまっていきました。色を作りながら僕は、ずっと劇場に足を運んで劇場版『DRAGON BALL Z』を見続けてきてくれた人たちへ、その延長線上にあるモノとして見てもらえれば、と思っていました。確か山内監督ともそんな話をして、同様の考え方だったと記憶してます。なので劇場版『DRAGON BALL Z』のシリーズでやってきた色味の流れに乗せて、それぞれの色を組み立てていきました。確かにお話は「原点回帰」的は要素もありますが、画面のテイストはそこまで戻す必要はない、と考えておりました。
というか、何年も前の画風は当時の僕らの生理には違和感だったように思います。

そんなわけで、無理矢理にとは言いませんが、ちょっとずつ少しずつ、元々の色味に手を入れていきました。例えばノーマルの部分の色はそもそものカラーに準じていますが、影色はひとひねりして、わざわざ違う色味の影色を設定して、それが成り立つような色の世界観を構築していこうとしていました。例えば、白い物の影色をグレーにせずにムラサキ色を混ぜてみたり、あるいはノーマル部分の色にも例えば白にほんのりミント系グリーン足してみたりとか。どこか何かしら手を入れて、グッと劇場版「DRAGON BALL Z」シリーズのフンイキに寄せようと苦心しておりました。そんな風に『最強への道』の色のキャラクターやプロップのカラーデザインはできあがっていったのです。
で、まあ、それをいま、十数年経ってあらためて観てみると、それはそれでやはりビミョーなフンイキですね(苦笑)。なんでしょう? なんか古くさい足掻きな感じがしてて思わず苦笑いです。むしろそもそものオリジナル・カラーの方が新しく斬新に見えるのです。やはり原作、そしてオリジナルのデザインは凄かったんだなあ、とあらためて脱帽なのでありました。

第172回へつづく

(11.09.07)