色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第187回 『輪るピングドラム』色彩設計おぼえがき その14

この原稿が更新される頃、実は僕、ちょうど中国にいる予定。とある新作TVシリーズのロケハンで監督と美術さんと三人で中国某所へ出かけております。ああ、久しぶりの中国。香港以外では数年ぶりの中国、しかもちょっと地方であります。
しかし、監督も僕も超多忙。なんとか捻り出したのが3泊4日の強行スケジュール。早朝成田を発って現地到着がシッカリ夜。しかも時差ありな感じ。しかも国内線の乗り継ぎとか、若干のドキドキも!
そんな感じで、果たしてちゃんと帰ってこられるのか?(いや、そんなに奥地に行くわけじゃないです(笑))
そちらの作品はまだまだ情報公開前ですが、秋になれば告知ができるかな? と。そっちも乞うご期待です!

さてさて。

第12話 「僕たちを巡る輪」 絵コンテ/幾原邦彦・柴田勝紀 演出/柴田勝紀 色指定/秋元由紀

桃果が失われたのは自分のせいだと語り始める晶馬。晶馬によって語られる16年前の「事件」。明らかになるあの日、あの事件の記憶。驚き戸惑う苹果。倒れて病院に運ばれる陽毬。駆けつけた冠葉、しかし息絶える陽毬。そして現れた眞悧。そんな12話。
いよいよ前半から後半への大きな転換点であります。

11話から引き続き「95電車」で語られる「事件」のあらまし。車輌内での処理は11話から引き続きです。この12話ではペンギンたちもその動きを止めて、まさに晶馬の語りをジッと聞き入っているのか、それとも文字どおり背を向けているのか。なんとも重苦しい空気が車内を支配しているそんな前半です。
晶馬の語りから始まる「事件」の回想、これは途中から多蕗少年の視点で描かれていくわけですが、この回想シーンの画面をどうするかが、12話のひとつ目の課題でありました。『輪るピングドラム』ではたくさんの回想シーンを駆使して物語を組み上げていきますが、回想のシーンの頭に地下鉄になぞらえた「回送ボード」を差し挟むことによって、基本、回想シーンに特別な処理(例えば画面内に枠をつけるとかの回想シーンにありがちな画面のくくり)を排除しています。これまでのお話では、回想シーンについては時制や場所にあわせた色変え以外は、基本、取り立てて特殊なコトはしてきませんでした。
さて今回、モチーフとして扱っている事件が事件なので、ある程度のリアリティは必要ではあるものの、まんまその事件やその場所を特定して再現とかが主題ではないわけで、ではギリギリどこまで描くのか。事件直前の早朝の数カット、確か最初に上がってきた美術ボードは割とリアルに都内のランドマークが描き込まれていたのですが、監督から「もっとシルエットだけで見せる感じで」との修正指示。東京であることが何となく伝わればいいので、よりシルエット的な描き方に。また画面全体の彩度もグッと下げて、グレーっぽい画面の中にオレンジ色のウィンドブレーカーを着たピングフォースのメンバーが異様に目立つように作っています。
回想の途中からはその当時の幼い多蕗少年の視点で語られます。いつもと同じ日常で始まったその日の朝なので、多少彩度は押さえつつも、こちらは割と普通な画面に仕上げています。そして飛び交うヘリのシルエットを境に、グッと重たい画面へと落差をつけました。
この一連の回想シーンで、なんと言ってもイチバンの活躍は「ピクトさん」こと越阪部さんの手による各種ピクトグラムでありました。ピングフォースのオレンジのジャケットのピクトさん、混乱する東高円寺駅前のお客さんに地下鉄職員のピクトさん。しかも箱を運んでたり、拡声器で声を張り上げてたりと、その動き感のあるバリエーションたちも、僕ら現場から……多少遠慮しつつも、ガンガンと(笑)発注しちゃってたのでした。ガンガンたくさん発注しちゃってたので、こっちでできることはこっちでやろう、とお葬式のシーンの喪服ピクトさんは、これまでに登場したピクトさんを加工して僕が作ってます。

さて、このお葬式のシーンでとうとう登場したのが桃果であります。遺影の写真ということで最初の登場となったワケですが、この桃果の色のお話はあとの話数であらためて。
陽毬が病院へ運ばれてからは、全体に重めな画面を作りました。ICUの中と外、晶馬と苹果が見守る廊下は照明を絞って暗めに、一方ICU内は生気の薄い白っぽい光の中で細くなっていく陽毬の命のようなそんな画面。どちらも彩度を低めに、でもちゃんと色味で見せる画面を狙ってます。
クリスタルワールドの空間も陽毬の命のありようのまま、暗くほぼ停止した空間を作りました。このシーンの色味イメージは、通常のクリスタルワールドの空間の3D画像からレイヤーそのままにPSD形式でかきだしてもらい、その画像データを僕の方で加工してサンプルを作っています。合わせてキャラの色味も決め込んでいきます。正直かなり無茶な加工のオーダーを撮影さんにしてたところもあったようですが、それをそれ以上のフンイキに撮影さんがまとめてくれてます。

そして12話後半のハイライトは「メリーさんの羊」でありました。ここが12話で最後まで決め込みに時間かかったシーンです。
羊のデザインは柴田くん。とにかく単体でかわいい、可愛すぎる羊だったので、これを美術とどうバランス取ればいいのか、なかなかハードルの高い作業となりました。この一連の美術は中村千恵子さん。この話の制作追い込み時には中村さんが深夜終電ぎりぎりに何度となくスタッフルームに通ってくれて、少しずつ描き上げたものを持ってきてくれてチェック。その背景の上に僕がキャラクターをレイヤーで重ねて、1カット1カットつながりやカットの積みも考慮しつつ作り込んだサンプル画像を、撮影で再現してもらいつつ、まとめてもらいました。可愛ければ可愛いほど、美しければ美しいほど、より残酷な印象が生まれます。時間はなかなかなかったんだけど、ジワリジワリと。そんな美術に合わせる形で画像処理の深さや、女神さまの色と処理など、少しずつ決め込んでいきました。
そして闇ウサギは舞い戻ってきたのでありました。
そんな語り尽くせぬ12話であります(笑)。

ところで余談ですが、桃果と多蕗が通っていた小学校、その校章をどうするか? という話になりまして、そのためにはまず小学校の名前が決まってないとねえ、ということになりました。で、加賀谷小学校。制作スタッフの加賀谷さんの名字をいただきました(笑)。

第188回へつづく

(12.07.10)