色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第20回 昔々……(15) 『聖闘士星矢』その2 第1話、そしてOP&EDの話

先週の土曜の夜、知り合いの女性(25歳独身)から携帯にメール。なんと成田空港からです。「初海外の旅立ち前のドキドキ感は今でないと伝わらないと思ったのでメールしちゃいました」。ああ、そうだ。彼女その日から生まれて初めての海外旅行だったのです。

イミグレーション抜けて、搭乗口前で窓外に自分の乗る飛行機見ながら待ってる時の気持ちって、不安と期待でなんとも言えないフシギな胸の騒ぎ方、そんな感じなのですよ。しかも初めてだものね! メール読んで、おぢさん、思わず優しい目になっちゃいましたよ(笑)。

で、日曜深夜、東京地方では「水曜どうでしょう」の最新作の放送がありました。スタジオで仕事しながら見てたのですが、ああ、ヨーロッパですよ! ローマだよ、ヴァチカンだよ、フィレンツェだよ! ああ、久しぶりに行きてえ!

先日受け取ってきた新しいパスポート、今のところまだ使う予定なし。実はね、今月初めに1週間休暇とってたんですよ。ブリュッセルとアントワープに行きたくて。でも結局、すっかり東京でまったり過ごしちゃいまして(苦笑)。

再来月くらいまでにはちょっと出かけてきたいなあ。……ああ、むりかなあ。じゃ、じゃあ、せめて秋には……(遠い目)。

さてさて。

『聖闘士星矢』第1話。脚本:小山高男、絵コンテ&演出:森下孝三、作画監督:荒木伸吾、美術監督:窪田忠雄。

この頃の東映動画のTVシリーズの仕上げのシステムは、各作品にひとり、社内の「検査」のメンバーが担当者として配されてはいたのですが、大体の場合、番組の立ち上げと、その後追加で登場する「メイン扱い」のキャラクターの彩色設定(いわゆる「色指定書」ですね)だけを担当して、各話の色指定については、その話数の仕上げを担当するプロダクションにお願いする仕組みになってました。

先にも書きましたが、基本的に、キャラクターの色指定も美術が担当していたので、各話に登場するゲストキャラクターの色味も、すべて美術監督の窪田さんが指定されており、各話の仕上げプロダクションが美術課の進行を通して美術とやりとりして決めていました。

例えば、#3で登場して、そのあと何話かに渡って登場するようなゲストキャラクターなどは、最初に登場した話数の演出がOKを出して、そのOKになった色指定を次の話数担当のプロダクションに渡していく、という具合です。大抵、美術から出された色味そのままでOKになってたりしたので、作画用キャラ設定に絵の具の番号をメモ書きした程度の美術からの指定のコピーが、そのまま色指定書として流通してたりしたのです。

余談ですが、そんなシステムだったため、初期の『星矢』の話数のゲストキャラクターはちゃんと整理された色指定書自体がないものがほとんど。東映動画は当時も今も『設定制作』を置かないという事情もあって(演出助手が管理してたりしましたが)、そのため色指定がずいぶん散逸しちゃってるのです。

また、そういう色指定書だったため、塗り間違いもたくさんありました。今のように色彩設計が全話目を通すこともなかったので、ちゃんと色指定書が整理されているメインキャラ以外のモノは、その話数、そのプロダクションごとに統一されていればOK、なんていう感じです。

ただ、第1話とオープニング、エンディングは社内の検査が担当なので、この第1話が基本というか、シリーズの規範になるワケです。でも、第1話っていうのはとにかく最初なワケで、演出の指示の通りに色指定していくのでせいいっぱい。とてもあとの話数のことなんか考えてる余裕は、当時の僕にはありません(苦笑)。次々に僕のもとに廻ってくる動画に色指定していく、ただそれだけ。

また当時は、TVシリーズの仕上げ上がりを、僕らはチェックさせてもらえませんでした。上がってきたセルは仕上進行から直接撮出しへ廻されて、時間があれば撮出し前に演出助手がチェックするくらい。なので、色味の間違いなどは、一旦撮影されてラッシュフィルムになるまで、あるいは編集時に並べてつないで初めてリテイクになる、という有様(ま、このシステムは、今でも原則変わってないのですよ(苦笑))。僕らはラッシュにさえ呼んでもらえなかったりすることもしばしばでした。

で、第1話。

実はこの文章書く前に第1話をDVDでこっそり見返しました。ああ、この1話本編のことは、あんまり詳しく憶えてないのですよ、実は(苦笑)。とにかく「イメージ的画面演出」ってものにまったく慣れてなかった僕は、ことあるごとにカットを持って森下さんのところに訊きにいってたことばかり憶えてます。

たとえば「シャイナさんの『サンダークロー』のコブラのイメージシーン」とか。イメージBGの上でこの作画、セルでどんな画面になるのか、さらに撮影で透過光が載るとどう見えるのか、それがなかなか想像できずに、ほとんど手探りで指定してたことばかり憶えてます。

見返して思い出したんですが、瞳のハイライトの処理がまだ確定してなかったのですね。それと、ペガサスの聖衣(クロス)のハイライトの処理。白の上についてるハイライトをどう処理するか、魔鈴のマスクのハイライト同様、試行錯誤してますね(笑)。

第1話本編よりもオープニングとエンディングの作業のことの方をよく憶えてます。毎話数放送されるオープニングとエンディングは、きっちり作らないとならない、というワケで、コレは全部僕がチェックさせられました。

ちなみにオープニングとエンディングは35ミリフィルムでの撮影です(本編は16ミリフィルム使用)。これは何本もプリントを焼かなくてはならないためと、スタッフや歌詞などの文字をオプチカル合成しなくちゃならないためですね。なので、本編と同じ素材(セル、BG)を使っていても、本編の画像と比べてオープニング、エンディングの方がきめが細かい画面になってます。

「赤だな、地面影は。X‐28だな」。これは森下さんの言葉。オープニング最初のカットで手前に向かって走ってくるセイントたちの足下の地面影の話。オープニングの色指定打ち合わせの時の森下さんの第一声がコレでした。彩色が絵の具だった頃は、色の話をする時にはこうして、共通の単語として、絵の具の番号で色や色のニュアンスを伝えあってましたね。で、「X‐28だな」と。ちなみに、血のような鮮やかな赤です。

本編のカットと兼用した星矢のクロス装着のカットは、本編で使ったカットの動画を、荒木さんが直々にタイムシートのコマ打ちを変えて何枚か動画セルを間引いて、オープニング用に強弱のテンポをつけて使用してます。

オープニングとエンディングは1話の作業が終わってからの作業で、とにかく時間に追われまくっていました。ギリギリで塗り上がってきたセルが色間違いで、深夜彩色の大判用のライトテーブルで、ひとり大判セルを塗り直した思い出が(笑)。

ギリギリに上がったラッシュで色パカが出て、でも時間がなくて直せなくて「一生残る恥ずかしいリテイク第1号」になったり(苦笑)。エンディングのカットで、大判セルで髪の毛のなびきがリピートになってるカット、セルのガタが最後まで直らなくて、「一生残る恥ずかしいリテイク第2号」になったり(苦笑)。

オープニングの終わりの方で、アテナ像が下からせり上がってくるカット。カットの前半と後半でアテナ像の影色が違って塗り上がって、それをそのままこっそりOKにして出しちゃったのはナイショです(笑)。

あ、たしか第1話もだいぶ動撮カットが出たんじゃなかったかな? 「動撮出ちゃったよ(汗)」と、みんなで焦りまくってました。原撮、レイアウト撮が日常茶飯事になってしまってる今じゃ、ある意味、かわいいモンですが(笑)。

ともかく『聖闘士星矢』第1話はこうして完成しました。

初号試写が終わって席を立つときチーフディレクターの森下さんがひと言。「アレだな。これは2クールで打ち切りだな」。

そんな『聖闘士星矢』はなんと、大ヒット作品になっていくのです。

■第21回へ続く

(07.06.26)