色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第27回 番外編 辻田的にこの夏イチバンの劇場アニメの話

実はこの連載、なんと26回を越えました。TV番組的に言えば2クールですよ! 時折お休みいただきながらではありますが、いやはや、すばらしい。自分にビックリです(笑)。

……ということで、今週は『聖闘士星矢 真紅の少年伝説』の話はちょっと置きまして「番外編」、忘れないうちにこの夏観たアニメ映画のお話を。

この夏もたくさんアニメ映画が公開されましたね。僕が観たのは『レミーのおいしいレストラン』『VEXILL』『河童のクゥと夏休み』の3本。ああ、ホントはもっともっとたくさん観たかったんですが、なんとも観に行く時間があ……。

さてさて。

まずは『レミーのおいしいレストラン』。

ネズミが主役だけどミッキーじゃないディズニーアニメ(笑)。いまやアメリカのアニメ映画といえば、3DCG。3DCGといえばPixer。いやぁスゴイ。「いまじゃここまでできちゃうんだ!」って、ひたすら驚きですね。

ネズミの毛の質感は、リアルにやりすぎるとたぶん気持ち悪くなっちゃうんじゃないか、と。それをリアルさを追求しつつちゃんとアニメな質感に作り上げてる。その塩梅がいいなあと思いました。

そしてネズミの毛もさることながら、やっぱり唸らされたのは画面の中の料理たち! ほんと、美味しそうなんですよね。そりゃレストランが舞台なんですから料理が美味しそうに描かれてるのは当たり前なんだろうけど、でも、ここまでちゃんと材料、そしてでき上がった料理にワクワクしたのは初めてです。

気持ちのいいレイアウトとライティングの妙、テンポのいい楽しい動きとカット割り。そして何より、やっぱり見事なシナリオですね。なんと言ってもね、映画はまずシナリオですよ! ちゃんと時間かけてじっくり練り上げられてるなあ、ってつくづく思いました。

これまでの僕のアメリカのアニメ映画ベスト1は『モンスターズ・インク』と『Mr.インクレディブル』が相譲らず! という感じで並んでたんですが、そこにこの『レミーのおいしいレストラン』が堂々並んで三つ巴、そんな感じです。

次に『VEXILL』。

これもバリバリ3DCGのアニメ映画。ただしこちらは『レミーのおいしいレストラン』とかと違って、セル・シェーディングでキャラクターを処理してて、少し「アニメっぽい」っていうか、僕らが作ってる2Dのアニメのテイストが感じられる画面になってます。

これもね、スゴイです。メカニック的な描写がいっぱい出てくる映画なのですが、こっちもこっちで「いまじゃここまでできちゃうんだ!」って感じ(笑)。『レミー〜』とは違った方向性のリアルさですね。

カット割りやカメラワークがとっても実写映画風で、それもおもしろかったです。かなりハラハラドキドキ! なかなかよくできた映画でした。

ただ、やはり微妙だな、と思っちゃったのは、「お話」と「手法」とのマッチング。

この映画、「人間」と「アンドロイド」のお話なんですが、アンドロイドも人間キャラも、画面上では同じ、セル・シェーディングしたCGなわけですよ。仕草とか動きとか、リアルにできていればいるほど、そのキャラたちが「人間らしさ」を語る時、どうにも説得力に欠けるように感じたわけですね。なんか「そういうおまえはCGぢゃん!」とスクリーンに突っ込み入れたくなるっていうか。むしろ普通に2Dの手描きのアニメだったら、そんな違和感はなかったんじゃないかな? 「CG映画の難しいところなのかな? こういうところが」と僕の感想です。

『レミー〜』にしても『VEXILL』にしても、こういう3DCGの作品の色って難しいんだろうなって思います。ライティングとかで全然見え方変わっちゃうんだろうし。でもきっと、楽しいんだろうなあ、大変そうだけど(苦笑)。いつかチャンスがあれば、是非やってみたいなあ、って思ってるんですがね。

そして『河童のクゥと夏休み』。

これは僕らが作ってるのと同じいわゆる「ふつうのアニメ」映画です。

「うわあ、やられた!」というのが率直な感想。もうね、見事に泣かされちゃいました(苦笑)。映画観て泣いたのは細田監督の『時をかける少女』以来ですよ。夏休み、子供たちでいっぱいの客席でオジサンが涙流してるってのはいかがなものか……ってな感じですが、もうね、やられちゃいました。

すべてにおいて、普通に作られてるんですね。とりたてて特別なことをしてるワケじゃない。バリバリ作画が凄いわけでもない。でもね、丁寧に、ほんと丹念に大事に作り上げたっていう感じの作品です。主人公の小学生・康一くんが感じてたこと、その想いも、あるいは想いの足りない届かない歯がゆさも、なんとも優しく作られていて、僕はなんとなく『おジャ魔女どれみ』作ってた時のことを思い出してました。

まさにね、ちいさな子供が観ても、僕らのようなオジサンが観ても、観た人みんなの中にちゃんと「いいもの」が残る、そんな映画に仕上がってます。とにかくこの『河童のクゥと夏休み』が僕のイチオシであります!

というのが、この夏僕が観た3本の映画の感想でした。やっぱ、アニメはいいなあ!

ところでアニメじゃないですが映画「トランスフォーマー」も観ましたよ。いやあ、これはこれで楽しい映画でした。メチャメチャすごい画面なのに、「極めてローカルな感じの宇宙からの侵略な感じ」がGOODです(笑)。

もうね、変形して立ち上がって「私はオプティマス・プライム」って言ってくれた(英語でね)だけでもう最高! かつて合作作品でアニメ版作ってた僕らには「コンボイ」じゃなくってやっぱり「オプティマス・プライム」なんですね(笑)。

しかしまあ、それにしても見事な変形! 「アニメのうそ」で成り立ってたハズの変形シーンが、あんなにも当たり前のことのようにシャキシャキシャキーン! ってできちゃうと、もはや世の中、なんでもあり、って感じです(笑)。

■第28回へ続く

(07.09.04)