色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第32回 昔々……(24) 『聖闘士星矢』その11 劇場版『聖闘士星矢 真紅の少年伝説』完成と挫折

10月7日朝6時30分よりテレビ朝日で新番組『はたらキッズ マイハム組』がスタートしました。その第1話の視聴率が3.3%! いやあ、この数字、朝6時半の番組ってこと考えると大した数字なんですよね。

で、さらなる視聴率アップを、と、小さなお子さんがいる友人に何軒か連絡・宣伝したんですが……。「日曜の朝くらい寝かせてくれ(泣)」とか「せめて『プリキュア』の8時半くらいまでは寝かせろ(怒)」などなど哀しいリアクションが(泣)。ああ、みんな大変なんだなあ、と(苦笑)。

それでも、この『はたらキッズ マイハム組』、小さな子供さんのいるご家庭でたくさん見ていただきたいです。ほら、起きなくていいから録画してでいいから!(笑) 11月2日からはBS朝日での全国放送も始まります。こっちは夕方6時からですよ!

みなさん『はたらキッズ マイハム組』をよろしくです!

さてさて。

今では原画に色指定入れて海外に動画仕上げ発注っていうのが普通になっちゃいましたが、当時はまだ動画に色指定することの方が多かったです。ましてや劇場用作品です。「劇場版なんだから丁寧にシッカリ作らなきゃ」。まだそういういう気風がスタジオに満ちていた時期です。特に社内のトレスや彩色のスタッフには、そういう気持ちが満ちていて嬉しかったです。

東映動画の社内スタッフ、特にトレスのスタッフはその技術において大したものでありました。ずっとオール・ハンドトレスの作品をこなしてきたスタッフです。僕も仕上げの端くれとしてハンドトレスは当然できますが、いやもう、彼女たちの足下にも及びませんでした(笑)。

で、特に丁寧に仕上げたいカットは、当時はまだ社内彩色に回していたんですが、トレスマシンの線の補正をお願いすると、とりわけ小さい細かい絵柄はハンドトレスで描き直されちゃうのでした。たしかにトレスマシンの線は小さい絵柄には不向きで、全体に太くかぶれた潰れた線になっちゃうのです。

でもね、実は僕はこのオールハンドトレスが嫌いで(笑)。版権ポスターとか、大きな絵柄で色トレス線が必要な場合では当然OKなんですが、小さい絵柄ではやはりどうしても動画の線そのままにはならないのです。微妙な鼻筋や顎のラインとか、線はスッキリとしてきれいなんだけども、それでもやっぱり動画の線のニュアンスにはならないのですよ。むしろ、多少かすれたり潰れ加減であったとしても、トレスマシンのマシントレスの線の方が作画のニュアンスをそのまま拾ってくれるのです。特に『聖闘士星矢』のような作品では、画のキレが勝負だったりしてたので。

こんなこと言ったら当時のトレスのスタッフには怒られちゃいますが、なんかね、どうにも僕的にはダメで、結果、トレスにリテイク出しまくっていたりしました。ああ、ごめんなさい(苦笑)。

しかし、こんな感じで気を遣っていられたのは予告編作ってたあたり、スケジュールの最初の時期のこと。だんだん残り時間がなくなっていくのに、作画は遅々として進みません。ま、そもそも、70分の劇場作品を3〜4ヶ月でやっつけようというのがそもそも微妙なのです。で、カットは次第に海外への動仕発注へと切り替えられていきました。

それでも、本編の色指定作業は楽しかったです。特に星矢たち青銅聖闘士たちと黄金聖闘士たちとの“再戦”ですよ。それぞれの尺は短かったのですが、TVシリーズ時に直接自分で色指定できなかった闘いを、劇場版の新たな作画で担当できる。原画や動画を手にしてめくるたび、ドキドキしっぱなしでありました。いい作画、原画や動画を前にすると、背筋がね“シャキッ”となって気持ちが引き締まるのです。そんな楽しい緊張感の日々でありました。

当時、ちょうど同じ頃、他社作品で大きな劇場作品が同じように制作真っ最中でありました。『AKIRA』です。業界的にいろんな意味で注目作だったので、僕らのスタッフルームにも『AKIRA』の制作状況のいろんな話が漏れ聞こえてきていました。そもそも『星矢』よりも尺長いし、いろいろ相当大変な様子。

そんな話聞きながら、こっちもかなりきつくなっていました。いや、1人、監督だけはいつも通りのペースでどっしり構えておりましたが。

ところがこの時、僕自身、まずい状況に陥っておりました。6月の末に1度ひいた夏風邪が、一旦は抜けて快方に向かったのですが……。連日の深夜作業の疲労蓄積からか、その後も咳と発熱がずっと続いていたのです。そして、本編の色指定作業がほぼ終わった7月半ば、ドカンと40度を超える発熱でダウン。診断の結果「急性肺炎」とのこと。そう、ドクターストップがかかってしまったのでした。

結局、ラストの方はセルの上がりのチェックをすることができませんでした。一応、最終チェックには立ち会えたのですが、すでにリテイクの差し替え作業ができるリミットは越えてしまっていて、残念なリテイクがいくつも残ってしまったのでした。そしてその中でもイチバンの失態カットは、予告編で作ったカット。沙織さんのスカートの色をブルーに直したカットが、なぜか差し替わってないまま原板を組まれてしまっていたのです。

こうして、劇場版『聖闘士星矢 真紅の少年伝説』の日々は終わりました。そのあと僕は、会社からの指示で1ヶ月間の強制休養となりました。劇場版制作期間中にダウンした“前科”からか、結局翌年春公開の『星矢』4作目の劇場版はスタッフから外され、TVシリーズの『星矢』も制作体制の変更もあって、第2期「アスガルド編」、第3期「ポセイドン編」では、再びメイン関係のキャラクターの色指定のみの仕事となってしまいました。

(ここだけの話ですが、劇場4作目のアテナ、あれは納得がいきません。決してアテナはあんな風には泣かないし、あんな風に泣かしちゃけないんですよ、アテナを。あれはあり得ないです(笑))

そして『星矢』のTVシリーズは終わりました。最終回、たしか初号を試写室でみんなと見たはずなのですが、どうにも内容に記憶がありませんでした。自分なりに思い入れることの多かったこの作品の最終回、見ながらきっと、いままでの『星矢』との思い出に気持ちがいっちゃってたのかも知れません。後年、CATVでの再放送で、その最終回に出会って「ああ、こんな終わり方だったのか」と唖然としたのを覚えています(苦笑)。

そして、十数年の月日が経ったある日のこと。ある話が僕のところへ聞こえてきました。「やるよ続編。『ハーデス十二宮編』決まったよ」

■第33回へ続く

(07.10.16)