色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第36回 昔々……(27) 「色指定」のクレジットをめぐる長い闘いの事 その1

朝晩、だいぶ冷え込むようになって、さすがに東京の紅葉も一段落。自宅前の公園の木々もここ数日ですっかり葉を落として、なんとも冬の装いであります。

雨が降らなければ、僕は基本、中野の自宅から大泉のスタジオまで片道10キロを自転車通勤なのですが、この時期、冷えるのでシッカリ防寒仕様です。出勤の時はまだいいんですが、帰宅が深夜、時には朝方になっちゃうので、そりゃあもう死ぬほど冷えちゃうんですね。

僕の基本スタイルは、上は新素材系の長袖Tシャツにフリース。で、上からGore-Texのパーカーに首周りはフリース地のネックウォーマー。手には自転車用の手袋を装着。下は、ボクサーパンツにこれまた新素材の「ハイテク股引」、そして登山用のロングパンツです。

このね、新素材系のアンダーウェアってのが超優れものなのですよ。汗の水分を熱に転換する(?)ので暖かいし、余分な汗は外に逃がしてくれるので肌触りはサラサラだし。なかなかGOOD! で、スタジオでは暖かいので、そのアンダーウェアのまま仕事してます。あ、下は当然ズボンとか穿きますよ(笑)。

ただ難点がひとつ。このアンダーウェア、身体にピタッとフィットするボディ・コンシャスなウェアなので、自ずと身体の線がすっかり暴かれます。特にお腹あたりがぽっこりと……。

ああ……。もっと頑張って自転車乗らなきゃ……(泣)。

さてさて。

今日はスタッフ・クレジットのお話。

たいていどの作品もオープニングとエンディングにそれぞれスタッフのクレジットがあります。

まずオープニングにクレジットされるのは、その作品の全体に関わる責任者、いわば「核」になるスタッフがクレジットされます。企画、制作、原作、脚本、音楽、キャラクター・デザイン、総作画監督、美術監督、色彩設計、撮影監督、音響監督、最近ではCG監督、そして監督——TVシリーズではシリーズ・ディレクターですね——などなど。これは劇場用作品とTV作品、OVAなどで様々なのですが、だいたいはこんな感じ。

エンディングにクレジットされるのは、本編を作業した個々のスタッフになります。原画、動画、動画チェック、彩色、色指定、仕上検査、特殊効果、背景、撮影、CG、編集、録音、音響効果、選曲、設定制作、演出助手、製作進行、キャスティング、広報、各方面協力会社などなど。東映アニメーションの場合、記録さんも加わりますね。テレビ作品だと、各話の脚本、演出、作画監督、美術監督も加わります。

で、他の会社はどうなのか定かではないのですが、東映アニメーション、特に劇場作品の場合のクレジットの約束事ってのがあるのです。それは「オープニングにクレジットされた名前は、原則エンディングにはクレジットしない」というもの。

で、どういう事になるかというと、近年僕が色彩設計と色指定の両方を担当した劇場作品では、オープニングに僕の名前がクレジットされた場合、エンディングには名前が載りません。「いや、色指定もやってるわけだから、『色指定』でエンディングに載せてよ」と食い下がったのですが、やっぱりダメで(苦笑)。なので、『CLANNAD』も『デジモンセイバーズ THE MOVIE 究極パワーバーストモード発動!!』も名前が載っているのはオープニングのみ。

でもなあ、作画監督は原画でも名前載ってるものなあ。う〜む……。謎。

で、この「ルール」はTV作品でも一部適用されてます。先だって放送された『金田一少年の事件簿SP』、1本目の「オペラ座館 最後の殺人」は別の人が色指定を担当しているのでエンディングには「色指定」として彼女の名前が載ってるのですが、僕が色指定も担当した「吸血鬼伝説殺人事件」では、エンディングには「色指定」のクレジットがありません。

まあ、この『金田一SP』については、単発の劇場用作品のスタイルですので、そうなるのですが、現在放送中の『ゲゲゲの鬼太郎』、これは原則、色彩設計の板坂さんが各話の色指定もすべてひとりで担当されてきたので、これもエンディングに「色指定」のクレジットがありません。今までは。

ところがこのルールで被害にあったスタッフがいまして、35話から色指定さんが1人、『ゲゲゲの鬼太郎』に新たに参加しているのですが、長らく「色指定」のクレジットなしでやってきたため、その変更を担当者が気づかず、クレジットを忘れられてしまったのです。というわけで、『ゲゲゲの鬼太郎』35話の色指定は小日置さんでした。

また、ちょっと意味合いは違うのですが、現在放映中の『はたらキッズ マイハム組』。この作品にも色彩設計として僕の名前が載っています。この作品の場合、僕はメインの色彩設計を担当していますが、個々の話数の色彩設計は、色指定でクレジットされています豊永氏が担当してくれています。なので、こういうパターンもある、ということです。

で、そんな「色指定」「色彩設計」のクレジット、東映作品では今でこそ色彩設計や色指定が普通にクレジットされてますが、僕が仕事を始めた20数年前は、「色彩設計」も「色指定」もクレジットされてはいませんでした。

前にも書きましたが、当時東映動画(現・東映アニメーション)は、「色」に関する事はすべて美術に大きな決定権があって、キャラクターの色の設計も特殊彩色の色指定もすべて担当美術が決定するシステムでありました。ですので、僕らは「検査」であり、実際には色指定も色彩設計もしているんだけど、あくまでも仕上げ上がりの検査をする部署、という位置づけだったのです。

なので作品のエンディングのクレジットにおいても、劇場用作品では「トレス」「彩色」そして「検査」と分かれていましたが、ことTV作品ではみんな一緒くたに「仕上」とくくられていたのでした。

東映動画に入った頃には「まあ、そういうものか」と思っていたのですが、何本も作品を経験していくうちに、「これでいいのか?」と思うようになっていきました。確かに「検査」はやってるけど、それ以上に「色指定」をするという作業の方が実際にはバランス的にメインの仕事になっていたのです。

確かに最初の「色」は美術がまだ指示を出すシステムでしたが、そこから先の作業はすべて僕らが進めていたし、なんと言っても、1カット1カット色指定を入れていく仕事、この作業で全体のセル上がりをコントロールしているのは色指定だ、という自負みたいなものもありました。この仕事が正しくそれを指す呼称でクレジットされないのはおかしい、そう思うようになったのです。

というわけで、「色指定」のクレジットを巡る長い闘いが始まったのでした……。

■第37回へ続く

(07.12.11)