色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第47回 昔々……(29) OVAの日々、始まる! 『花のあすか組!2 ロンリーキャッツ・バトルロイヤル』

週末、北京に住む知人夫婦と美味しい海鮮料理を食べにちょっと香港へ行ってきました。……と書くと、う〜む、なんかすごっくインターナショナルでセレブな感じですね?(笑) まあ、とにかく、どたばたと行ってきましたよ、香港。

海外旅行は去年のソウル出張以来なので1年ぶり、プライベートでは2年ぶりで、その時も香港だったのでした。今回は合流した夫妻が中国語ペラペラなお2人なので、料理の注文は、もうそれはそれは完璧で、すばらしく感激しました!

2年ぶりの香港は、なんかますます日本のモノがあふれかえってました。街中の看板もスーパーの棚もことごとく目につくモノは日本製で、確かに以前からそんな傾向はあったんだけども、この2年でさらに加速しちゃった感じです(なので、スタッフへのお土産がもう大変で……(汗))。

「ここは中国であって中国でない」とは、北京からのご夫妻のお言葉。香港の人たちの公共マナーは東京よりも上なくらい。北京で暮らしてる夫妻によれば、その点において、北京はまだまだのようですな。

それから、以前の香港といえば日本のアニメの海賊版DVDの天国だったのですが、いまでは全くそんなモノは店先から消え、っていうか店ごと消えてて(笑)、ちゃんとした正規版だけが売られてました。ま、北京ではまだまだ海賊版天国状態らしいですが(苦笑)。

「何事も中国はすぐには変わらない」とは、成龍ことジャッキー・チェンのお言葉。マナーもそうですが、中国の国民の著作権に関する認識、民度の低さはまだまだ改善されないようですな。

さてさて。

話はズドン! と昔に戻っちゃいます。1989年から1990年くらいのお話。

TVシリーズの『聖闘士星矢』が終了し(「昭和」も終わって「平成」になったのもこの頃でしたね)、その後番組の『悪魔くん』『もーれつア太郎』、そして『きんぎょ注意報』と、テレビ朝日の土曜日夜7時の枠はずっと僕がメインの色設定を担当していきました。

メインキャラクターの色の決め込みをして、彩色設定を作って、特殊なキャラはその処理の約束事を決めて(『ア太郎』の「ゆうれいオヤジ」の透け具合とか)、オープニングとエンディングと第1話の色指定を担当する、という流れ。先にも書きましたが、このころはまだ「色彩設計」という概念もポジションもクレジットもなかったので、僕の“痕跡”は第1話のエンディング・クレジットの「仕上」欄にかろうじて名前が残ってるだけです(苦笑)。

あ、『悪魔くん』は1本目の劇場版も参加させてもらえましたっけ……。

で、この頃、ちょうど1980年代終わりから1990年代前半は、セル(販売)とレンタルのビデオのアニメ作品がグググッと増えてきた時期で、そのいわゆるOVAの作品の仕事に僕も徐々に移行していくのでした。

この頃の東映は『BE-BOP -HIGHSCHOOL』と『湘南爆走族』という2本の柱のOVA作品のシリーズがあって、さらに『ヤンキー烈風隊』『Cryingフリーマン』のシリーズも展開。さらに細かく何本ものビデオ用作品を制作していたのでした。

実は僕、OVA作品、やりたくて仕方なかったのです(笑)。TV作品もそれはそれで楽しかったんだけど、なかなか自分で直接色指定できるような体制ではなくなってきてたし、作画的にももっと密なもの、お話の内容的にももうちょっと年齢層が上なものとかに挑戦してみたくなってたのですね。

それと絵の具の問題。ずいぶん前に書いたのですが、TV作品は使っていい絵の具の色数が制限されてたのです。ただでさえ色数の少ないSTACの絵の具。でもOVAならば、TV用の絵の具以外の色も大手を振って使える、と(笑)。

僕がまず参加させてもらえたのが『花のあすか組!2 ロンリーキャッツ・バトルロイヤル』。監督・梅澤淳稔氏、作画監督・本橋秀之氏、美術監督・中村光毅氏。高口里純原作のマンガ「花のあすか組!」の外伝(?)のOVAです。「あすか組!」は、この2〜3年前くらいに角川で実写映画にもなってる人気作。OVAもこれが2作目でありました。1989年の10月のことです。

で、梅澤監督に「よろしくお願いします!」とご挨拶に。そこで梅澤さん、開口一番「辻田くん、もうね、好きにやっていいから!」と(汗)。さらに「ただね、ぜっんぜんないから、スケジュール!!」と(爆)。

OVA作品を任されて嬉しくて、全然スケジュールのこととか考えてなかったのですが、実はこの『あすか組!』、年内納品っていうスケジュールの作品だったのですよ。「え? 今って10月になってますよね?(汗)」と、僕。ああ、な〜んか、その頃から「内容が大変なヤツ、スケジュールのないヤツは辻田へ」的流れができはじめてて、今回のこの『あすか組!』OVAもそうだったんだ! と、その時合点がいったという次第(苦笑)。

早速その週にキャラクターの試し塗り。今回も確か最初のキャラの指定は美術の中村さんが出してくれてたはず。で、あわせて、僕の方でいろいろ考えた色も並べて見てもらいました。キャラクターは原作者の高口さんの画をベースに本橋さんが作り込んでて、線の密度はすっきりしてるんですが、シャープで鋭く、なんとも大人っぽい香りのするデザインで、嬉しくなりました(笑)。

おもしろいモノで、基本のノーマルの色の決め込みをしながら、本編でのいろんなシーンの色変えのプランが僕の中でどんどん沸き上がってきます。こういうところがTVシリーズ作品のメインの色味の決め込みと違うのです。このキャラと色味を僕が全部コントロールしていける。

「うん。じゃあ、こんな感じで!」梅澤さんがOK出して、ベースの色味が決定です。そこからが怒濤のような日々の始まりでありました。

■第48回へ続く

(08.04.15)