第50回 昔々……(32) ぺんてる名前ペンでしゅこしゅこ! 『Cryingフリーマン』見参!
GW、みなさんはいかが過ごされましたか? 僕はなんと動物園三昧ですよ!(笑)
まずは上野動物園へ。そして北海道・旭川の旭山動物園へと行って参りました。
実はですね、僕、生まれてから一度もパンダの実物って見たことがなかったんですよ。東京に生まれ育ちながら、一度も上野動物園へ行ったことがなかったのです。今回、リンリンの訃報を聞いてから行ったので結局会うことはできなかったのですが、遺影の飾られたパンダ舎の前で手を合わせて参りました。
旭山動物園も今回が初めて。「ジンギスカン食べたい!」と2日の夜に急に閃きまして、Webで航空券手配して翌3日に札幌へ。で、さらに閃きまして、翌4日に旭川まで足を伸ばして行ってきました。
いやあ、いいですねえ、動物園。なんかね、みんなニコニコしてるんですよ、お客さんたち。子供はもちろん、大人もみんなニコニコしてて、どんなに混んでてもなんか不思議と和むっていうかね。本物の動物パワーですね。やっぱりね、ゾウとかライオンとかキリンとかトラとか、柵や檻はあっても、すぐ目の前に本物がいて動いてるってのは凄いなあ。すなおに感動。メチャクチャ楽しかったです(笑)。
ただね、僕らみんなを楽しませてくれてる動物たち、その多くが1頭とか2頭だけなんですね。特に大型の動物になるほど飼育されてる頭数が少なくなる。まあ、仕方ないんだけども、知り合いっていうか、同族が居ないところでずっと行きていくってのが、なんとも切ない感じで。亡くなったパンダなんか、歳とってからずっとひとりだったって思うと、なんか寂しかったんだろうなあ、って、そう思います。
それにしても旭山動物園のペンギンたち、いやあ、神ですな! 可愛い! ペンギンって、あんなに個々に性格ちがってて、しかも生き生きしてるんですね。甘えんぼとかいるし(笑)。
ともかく、あんなに近くでこんなにいっぱい動物たち見たのって初めてかも。いい気分転換、精神的栄養の補給になりました!(笑)
さてさて。
いよいよやってきました、OVA『Cryingフリーマン』。原作・小池一夫/池上遼一の劇画作品のOVA作品であります。僕は2年にわたって2本の『フリーマン』に参加させてもらいました。
まずは『Cryingフリーマン4 雄首冬獄』。脚本・小野竜之介、作画監督・うるし原智志、美術監督・中村光毅。
そして『Cryingフリーマン5 戦場の鬼子母神』。脚本・小野竜之介、作画監督・山下高明、美術監督・中村光毅/吉田昇。
2作とも監督は山内重保氏。久しぶりの山内監督の作品への参加です。しかもこれまたばりばりリアルな路線。この『フリーマン』はすでに3本作られていて、いずれも他の方が色指定を担当されていました。で、4本目、5本目で僕。たしか山内監督に引っ張ってもらっての参加だったように思います。
「前作までの『色』は気にしないで、まず辻田くんなりに自由に考えてみて」と監督。実はこの2作品では、キャラクターの設計は最初から僕に任されていたのでした(それもあってか、実はエンディング・クレジットが『色彩設計・検査』になってました)。
と言っても、原作のある作品ですから、基本、原作の色刷りが大前提にはなるし、すでにある3作と大きく変わっちゃうってことは逆にまずいし、という感じで、僕なりにいっぱい悩んで最初のデザインを数点ずつ出したのです。で、いつものように監督以下みんなで集まってチェックしていくわけですが、もうね、ありとあらゆるところが修正になり、ほぼ全滅。最初から練り直しになりました。
監督が求めていた方向は、よりリアルでありつつ「華」がある、ということ。僕が最初に出した色味はリアルを探りすぎて、みんな似たような地味に偏り過ぎちゃったのでした。で、修正、チェック、修正、を重ねていきます。監督自身も僕の出す色見本を見て「ふむ」と思うところもあるようで、そうして修正を重ねていくうちに、監督のイメージも、みんなの中での基本の世界観も徐々に固まっていきました。ちなみにこの作業行程というか試行錯誤は「4 雄首冬獄」だけではなく「5 戦場の鬼子母神」でも同じでした。
『4 雄首冬獄』も『5 戦場の鬼子母神』も美術は中村氏のオフィス・メカマンでありました。時に繊細で時に荒々しく、このメカマンの背景が実にいい雰囲気で、この作品にはまっていました。とりわけ「5 戦場の鬼子母神」では、作画監督の山下氏が、ほとんどすべてのカットのレイアウトを、みっちりと一分の隙もなく描き上げまして、これがまた見事な完成形(笑)。それを突きつけられた美術の吉田氏がそれに真っ向勝負という感じでこれまた緻密にみっちりと描く、というすばらしい闘いが繰り広げられたのですね。で、その両者に引っ張られるようにどんどんテンションが上がっていき、いい作品になっていったのです。
色指定としては、相変わらず絵の具の問題は抱えているのですが、僕自身、だんだんリアルものに慣れてきていて、リアル系の落ち着いた色遣いも、自分なりにだんだん方法論ができ上がっていきました。シーンの背景に合わせての特殊彩色も、暗い方向に向かう分にはなんとかそれなりに収まりのいい画面になるようになってきました。ですが、今度は彩度を抜きつつ明るい方向へ持って行く特殊彩色がネック(苦笑)。やっぱり限界があるんだなあ、と思いつつも、特殊効果さんにいろいろムリ言って助けてもらったのでした。
色指定だけではなく仕上の面からも大変苦労したのが、この「劇画調」という作風、画風です。原作の絵柄同様、アニメーションでも「劇画調」の「実線タッチ」がすべてのカット、すべてのキャラ、すべての動画に描き込まれていきます。これが仕上げでは大変だったのです。
アニメーションのセル仕上げでは、動画に描かれた鉛筆の線をトレースマシンという機械でアニメセルにカーボン転写していくわけなのですが、これがなかなかうまく転写できないのです。往々にしてムラになってしまい、その実線タッチ線のムラの濃淡でパカパカして見えてしまうのです。この修正がとにかく大変(苦笑)。セルの線の補正によく使っていた油性マジック「ぺんてる名前ペン」で、ひたすら手作業で修正しまくっていきました。僕ら仕上げで修正して、撮出しで助監督、さらには作画監督が自らマジックペン片手にしゅこしゅこ修正しまくってました(苦笑)。
で、さらに、絵柄が細かく影やハイライトが入り組んでるモノで、もう彩色のミスや色パカのオンパレード(泣)。結局直しきれず、恥ずかしいリテイクがたくさん本編に残っちゃう結果になったのでした。
この『フリーマン』、劇画調リアルな絵柄に兵器・銃器がたくさん登場、しかも描写もリアル系、さらに「オトナなシーン」がふんだんに、と、男の子としてはちょっと憧れる作品です(笑)。やっぱり僕も男の子なので、兵器・銃器はとっても興味の尽きないところ。そして「オトナなシーン」はもっと興味のあるところ(笑)。
でも、そういうシーンはあってもいわゆる「18禁アニメ」ではないわけで、物語の中での必然シーンなワケですから、流れの中で自然に美しいシーンにすることが大切でした。ことさらに「えっち系」のリアルに行き過ぎちゃいけません。その辺はとっても微妙です。ですので特にビジュアルでは、見せちゃいけない部分はみんなシルエット塗りや黒つぶしになるわけですね。
実は制作中ちょっとした事件がありました。とあるシーンで、女性キャラが全裸で立ち回るというカットがあったのです。このカット、海外のプロダクションに動画仕上げで作業発注していたのですが、なんと、原画や作監修正には描かれていなかった「下の毛」がしっかり描かれてセルになって上がってきたのです。そんなカットが3つ4つ! いやはや、ビックリ(笑)。なんで、そんなことになっちゃったのかわからないんですが、きっと動画さんが「サービス」で描いてくれちゃったんではないかと(笑)。当然これじゃ使えないので、全部動画のその部分描き直して再仕上げです(苦笑)。
そんなこんなで完成していった『4 雄首冬獄』と『5 戦場の鬼子母神』でありました。1991年〜1992年秋であります。
今回、久々にこの2作を観返してみました。いやはや、懐かしい(笑)。で、同時に思ったのが「ああ、デジタルの今、作り直したい」。できることなら少なくともセルは全部、色指定からやり直したいです。それくらい、作画も美術もすばらしいんですよ。ああ、もう一度この『Cryingフリーマン』作らないですかねぇ?(笑)。
■第51回へ続く
(08.05.07)