色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第61回 夏休み企画 聖闘士星矢 冥王ハーデス冥界編・エリシオン編 完成&放映記念全話おぼえがき(後編)

夏、といえばやはり怪談、怖い話ですねえ(笑)。

高校時代、僕は天文部員だったんですけどね、夏の合宿の時とか、夜中の観測地で先輩が始めるわけですよ、怖い話(笑)。霧の中、まあるく輪になって地面に座って、その真ん中にはカンテラのロウソクの炎、なんてね(笑)。そんなこと喜んでやってました。

僕の母校は都立富士高校ですが、富士高には「富士高七不思議」なんてのがありまして、代々先輩から後輩へと口伝で伝わっておりました。「プールで夕方足を引っ張られる話」や「写真部の暗室が昔はレントゲン室で……な話」や「アヒル小屋脇の便所の話」や「図書室前の歪んだ鏡の話」などなど(笑)。

そんな「七不思議」も今はどうなんでしょ? まだ代々伝わってるんでしょうかね? 「七不思議」にまつわる旧い校舎も建て替えられちゃったんで、もはや伝承は途絶えちゃってるかな?

ペルセウス座の流星群の季節が近づいてくるこの頃になると、毎年思い出してるのでありました。

さてさて。

いよいよ「聖闘士星矢 冥王ハーデス冥界編・エリシオン編 完成&放送記念全話おぼえがき」最終回であります。いよいよ最終章「冥王ハーデス エリシオン編」です。

『エリシオン編』第1話 エリシオンへの死闘 演出/勝間田具治

エリシオン編は第1話から色指定を“一輝兄さん大好き!”の秋元さんにお願いしました。いや、いつも通り第1話は僕が担当するつもりだったんですが、制作の連絡ミスで秋元さんを1話の打ち合わせに呼んじゃったんですな(苦笑)。なので「じゃ、やって!」と(笑)。よって、全話、色指定は秋元さんになりました。

まだ第1話は、「嘆きの壁」を通過する話。なのでほぼそっくり、「冥界編後章」で作った色設計が流用できました。

『エリシオン編』第2話 死と眠りの神々 演出/勝間田具治

いよいよ2話から舞台はエリシオンへと移りました。冥界編から一転してエリシオン編は光あふれるような明るい世界です。実はこれ、結構難しいのです。

『星矢』の場合、絶えず戦いをしていくのですが、それは、拳は振るっているのだけど肉弾戦の格闘技ではなく、光を飛ばしあう飛び道具的戦い方がメインになってしまってきていました。そういう画面効果はやはり暗い空間の方が見栄えがよいのです。

1話の打ち合わせの際、「戦いは可能な限りイメージ空間にしましょう」と提案させてもらいました。イメージ空間であれば暗めの空間を作れるし、光の撮影処理も載りやすい。そんな狙いからの提案でした。

さて、2話からいよいよタナトスとヒュプノス登場です。

実はこの2人、ハーデスの冥衣姿と共に『冥界編 前章』から、そのオープニングに登場しておりました。「本編で登場するまでは見せない」ということで、『冥界編』ではずっと、『エリシオン編』でもこの2話まで、シルエット処理でありましたが、最初にオープニングを作った『冥界編 前章』の時点で、この2人の色味はほぼできておりました。

この2人、とにかく大好きであります。これまでやってきた聖衣そして冥衣の中で、僕的ベスト1です。

ちなみに、オープニングは『前章』『後章』『エリシオン編』と、地道に小直しを積んで来ていました(笑)。DVDとかではスキップされがちなオープニングですが(笑)、通して観て比べてくだされば面白いかと(笑)。

『エリシオン編』第3話 黄金の援軍 演出/西沢信孝

星矢の姉「星華」ですが、これまでちゃんとした設定画がなく、『冥界編』でもちらっと出てたんですが、その時に上がってきた原画をもとにザックリと色を決めました。で、今回も結局設定が出ず(苦笑)、本編使用の原画から彩色用の設定を作りました。

設定がない、といえば、実はベアー激とかも、デジタル彩色になってからの色指定を作ってなかったこと忘れてまして(汗)、このヘンもみんな画面合わせで秋元さんにお願いしてしまいました。

で、この星華たちがいるサンクチュアリ、日蝕の進行に併せて段階的にキャラ色を暗くしていってます。

『エリシオン編』第4話 伝説の神聖衣 演出/勝間田具治

とうとう登場です、神聖衣(ゴッドクロス)。

これはアニメ版オリジナル配色です。原作のカラー設定では5人ともみんなおんなじ金色だったのですが、それだとどうしても黄金聖闘士にかぶりすぎ。実際、3話のラストから星矢たち、ゴールドクロス装着してるんで、ちょっとくらい変えても画面ではやはり差別化しにくいなあ、と。

そしてやはりずっと闘ってきたそれまでの聖衣の、5人それぞれの「色」を出したくてあんな風にしたのです。神聖衣の基本の白っぽい色は5人とも共通で、その影色にそれぞれの「色」をあしらってみました。

この色味の神聖衣、実は『劇場版 聖闘士星矢 天界編序奏』(監督/山内重保)の中ですでに登場させていました。神話の時代、唯一冥王ハーデスを傷つけた聖闘士が身につけていた聖衣がこの神聖衣でありました。ね? ちゃんとつながってるでしょ?(笑)

アンダーウェアも全員白。神聖衣自体の色のバランス、そして『神聖衣』という神聖、というか一段上な感じを出したくて、それで全員白にしました。

4話でまず星矢が神聖衣を装着するのですが、その装着シーン、これは撮影の緒方さんががんばってくれました。僕が言った「神聖衣自体から沸き立つようなオーラを」をなんとか形にしようと、何回もテスト撮影重ねて、さらには緒方さん自ら自主リテイクまで出して作ってくれました。

『エリシオン編』第5話 冥王ハーデス! 神話よりの覚醒 演出/西沢信孝

十分なスケジュールで臨んだハズの『エリシオン編』も、やはり5話そして最終話はなかなかタイトなスケジュールとなってしまいました。まあ、この辺はアニメ制作の宿命ですね(苦笑)。

ハーデスの霊廟から立ち上るハーデスの魂、これも特殊効果班のワザ。3Dは使わず、普通に作画で作った素材を基に手作業で透けた感じを作成。そこへ撮影でオーラ光を乗せてます。

この「ハーデスの魂」のみならず「大がめ」もすべて特殊効果班の手によって質感ブラシの処理を施されてます。当然、砕け散る瓦礫、エリシオンの花園の花たち、星矢たちの闘いのエフェクト、などなど。ありとあらゆるものたちに、特殊効果班の手が入ってます。とにかく「聖闘士星矢」では、特殊効果班の力はなくてはならないものでありました。

最後に向かって段々とテンションが上がってくると、どうしても作業量も内容も半端じゃなくなってきてしまいます。しかも持ち時間がドンドンなくなっていきます。でも、その中で最後まで踏ん張ってやりきってもらえました。

「全部のカット、全部のキャラに質感ブラシ入れましょう!」『冥界編 後章』に入るとき、僕が言い出してそれを押し通して、ちょっとは反発もあったかもですが(笑)、一緒にがんばってやりきってくれた勝岡くんと特殊効果班に大感謝であります!

『エリシオン編』第6話 光あふれる世界へ! 演出/勝間田具治

僕の決め込んだ最後の聖衣は「アテナの聖衣」でありました。

星矢たちの神聖衣と「アテナの聖衣」はやはり共通項を持たせた方がいいだろうと考えて、神聖衣にも使った金色の配色を基本に据え、聖衣のふちどりの塗り分けに神聖衣でも使った白っぽい色味を配しました。この「アテナの聖衣」も原作のカラー設定では眩い金色の聖衣でした。こちらは原作カラーに近い配色でうまくまとめることができました。

「タナトス」「ヒュプノス」「神聖衣」そして「アテナの聖衣」。エリシオン編で登場した冥衣・聖衣は、どれも僕の最高にお気に入りであります(笑)。

*   *   *

制作開始から1年半かけて『冥王ハーデス エリシオン編』は終わり、長く続いた『聖闘士星矢』のアニメ化もこれをもってひとまず終了。「聖闘士星矢班」は解散となりました。

ハーデスを倒し、地上の危機を救ったアテナと聖闘士たち。このあと彼らはいったいどこへ行くのでしょう? 果たしてアテナは? 倒れた星矢は? ああ、この続きを作ってみたいです!

「いつになるかは分かりませんが……」。最終話のスタッフ初号終了後、挨拶でPDの小原くんが言いました。「またやりたいです!『聖闘士星矢』!」。その日を僕は待ちたいと思います。

■第62回へ続く

(08.08.07)