色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第79回 昔々………(50) 海上自衛隊横須賀基地護衛艦ロケハン紀行!

いま、4月スタート(っていうか、正確には3月31日から放映ですが)の新番組の『マリー&ガリー』を作ってます。

脚本は山田氏、馬越氏のキャラクターデザインに増田氏の美術、キャラ色は僕、という、かのパイロット版の面々でありますね。演出陣は『ゲゲゲの鬼太郎』で活躍の土田くん、暮田くん、小牧さんの有望若手演出家3人衆が中心になって担当していきます。声優さんも同じくパイロット版の面々であります。

NHK教育テレビで5分の番組、しかも科学アニメ? という、ちょっと変わった形ですが、そこはそれ「ヘンなものができれば勝ち」みたいな感覚で、楽しく着々と進行中です。乞うご期待でありますよ!

さてさて。

前回書いたロケハンつながりで、『Coo』でのロケハン第2弾のお話を。1992年夏の初めの「油壺ロケハン」から半年後、再びロケハンに出ることになりました。

「え? ロケハン? 今度こそ南太平洋?(期待)」

「ん、横須賀」

「……あ、横須賀?(汗)」

実はお話の後半、劇中にフランス海軍(だったかな?)の艦隊が登場するのです。ただ単純に外観だけが出てくるのなら、写真資料とかでも強引になんとかなりそうだったのですが、艦内に拘束された洋介たちの芝居とかがあって、艦内の様子がいろいろ出てくるのです。

客船ぢゃなくって軍艦です。

客船ですらそんなに乗ったことがない僕たちなのに、ましてや軍艦ですよ。居住性の快適さを求めた客船とは違って、戦闘のために無駄を省いて設計された軍艦は、ちょっと考えてももうそれはまるで別物、のハズ。

で……

「軍艦とかってね、やっぱり一度ちゃんとしたのを見ておかないと、ナマで。コンテ描くにも今ひとつわかんないんだよね」と今沢監督。そしてメカ軍艦大好きの大倉作監。監督の絵コンテ作業はもうほぼ終わりだったのですが、この軍艦関係のくだりで、設定共々行き詰まっちゃったようなのです。

いまでこそ、インターネットで検索をかければ、あきれるくらい資料になる写真やら映像やらがWebに溢れてますが、この1992年、まだまだそんな便利なことにはなっていません。かと言って「じゃ、見に行きましょ」って行ったところで、それはそれ、軍事機密なワケですから、当然見せてくれるはずもありません。

ですが角川書店と東映動画とで海上自衛隊の広報課に取材申し込みをしまして、なんと、横須賀基地所属の現役の海自の艦船の取材をさせてもらえることになったのでした。おおっ! さすが大企業でありますよ。個人じゃ絶対こうは行かないですもの、きっと。

というわけで、僕らメインスタッフは京浜急行の京急田浦駅に集合しました。時は1992年12月某日。寒風吹きすさぶ寒さ厳しい……じゃなくって、割とほかほか小春日和の日でありました。

で、駅からとことこ歩いて、海上自衛隊横須賀管区船越基地へ。守衛所を通り、ちょっとした事務所みたいな場所で広報課の方を待ちます。やがてやってきたのは制服に身を包まれた方たちが3人ほど。その人たちに連れられて、見せてもらえる艦艇の係留場所へと埠頭をぞろぞろ歩きます。

ちょっと緊張しつつも、そこはみんな男の子、もうみんな、手に手にカメラ握りしめて、内心のワクワクが隠しきれません(笑)。歩きながらみんな、すでに軍港の風景写真を撮りまくりです(笑)。僕も一眼レフとコンパクトカメラの2台態勢で準備万端でありました。

取材させていただけたのは護衛艦「てしお」。自衛隊の艦船の中では、まあ中型の艦船でありました。その護衛艦の甲板、艦橋の指揮所、艦内の通路、食堂、士官室、などなどを見せていただきました。

例によって僕らは劇中の芝居を想定しながらの取材です。天井が低く、防水隔壁の多い艦内での芝居ですから、助監督の廣嶋さんをモデルに、天井や壁、椅子やテーブルとの大きさの対比とかを入念に写真に収めていきます。

フランス海軍の艦艇の参考が海上自衛隊の艦艇ってことですが、まあ軍艦の基本はそんなに違ってないよね?(笑)

停泊中なので当然ではありますが、機関砲や機銃の銃口はしっかり栓でふさがれてますし、ミサイルのポッドも空の状態です。専守防衛、基本的には戦闘行為のない軍艦ではあるのですが、それでもなんというか、ブリッジの計器類、甲板のハッチや手すりにすら、冷たい緊張感みたいなものが漂ってました。ああ、こういうのって、やっぱりナマな感覚ですね。

やっぱり本物を見ると、いろんなところに戦闘艦ならではのいろんな工夫が施されてたりして、すっごく勉強に。たとえば食堂のテーブルひとつとっても、海上での揺れに対応して食器が落ちないようになってたりとかね。ハッチの開閉のギミックとか、実際にさわらせてもらって、動かさせてもらって、ひとつひとつに感激でした。

気がつけば、用意していった36枚撮りフィルム6本、全部使い切っておりました(笑)。

最後に「サービス」だったのか、最新式の対空機銃をぐるんぐるんと高速で回して見せてくれました! もうね、一同興奮でありました!

というわけで、『Coo』のロケハンはここまで。さあ、いよいよ本編の作業に入っていくのでありました。

■第80回へ続く

(09.02.18)