色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第81回 DVD&Blu-Ray発売記念!『キャシャーンSins』色彩設計おぼえがき(その2)

先日、何気にTVつけたら、フジテレビ開局50周年記念だとかで報道の50年史みたいな番組をやってました。その中でかの奥尻島での津波の災害の映像が流れていまして、津波が去った後の残骸の中に埋もれている、被災した家族のグチャグチャになってしまったアルバムが映っていました。

家族のアルバム。

人命はもとより、家族との思い出が失われるのはきついなあ、と思いました。家や家財はなんとかなっても、家族の思い出の詰まったアルバムは失ってしまったらもう戻らないですからね。

でね、ふと思ったんですよね。あ、我が家にはアルバムがないなあ、と。

我が家はいまや、みんなデジタル写真になっちゃって、それぞれのパソコンのハードディスクには入ってても、それをわざわざプリントして、ひとつのアルバムにまとめたりってことはやってないんですね。

やっぱりね、写真って、手にとって見れるアルバムにした方がいいですね。

仕事もどんどんデジタルになってペーパーレスが進んでいます。仕事はその方がいいけれど、思い出はやはり手に取れるものがいいなあ、って思いますね。

ま、僕ら夫婦、子供でもいたなら、いっぱい写真撮って(←今どきはビデオか?)「成長アルバム」なんてものをいっぱい作ってたんでしょうが。

あ〜、そういえば、僕ら夫婦、2ショットの写真もほとんどないよなあ……。

これは今後大いに考えなきゃなあ……。

さてさて。

みなさん、お買い上げいただけましたか? 『キャシャーンSins』DVD&Blu-Ray。今週も「『キャシャーンSins』色彩設計おぼえがき」その第2回をお送りいたします。

■第7話「高い塔の女」

脚本:吉田玲子 絵コンテ・演出:山内重保 作画監督:とみながまり 色指定:小日置知子

この7話、実は制作現場では第8話として作っておりました。ほんとはこの前に1本、制作話数7話、があったんですが、諸般の事情により制作話数18話(放送では17話)のうしろに回されました(なので、以下ず〜っと制作話数と放送話数がずれてました)。僕ら現場では当然制作話数ベースで話をしますから、時たま放送話数で話される方がいると混乱しちゃってたのでした(苦笑)。

で、放送話数第7話。これも1話完結のお話です。何かの工場でひとり、鐘を作っているリズベル。立ち寄ったキャシャーンを妖しく誘って、自らの作る鐘の材料にしようと企てます。

このお話も淡々と進んでいくお話なのですが、いい感じに「病んでる」リズベルがちょっと妖しくイロっぽくて、コンテ読んでちょっとドキドキしちゃったのを憶えてます(笑)。

この『キャシャーンSins』では、空間の色味の反映だけでなく、登場人物の心の動き・状態をキャラクター自身にヘンな色を足して表現する、ということを随所にやってまして、この7話でも何ヶ所か意図的にやってます。塔のてっぺんでのキャシャーンにリズベルが寄り添っていくシーンなんかがそうです。

前半の終わり、キャシャーンを眠らせようとするシーンは監督助手の中山さんの演出担当シーンで、ミドリ色の妖しいランプの色味は中山さんのイメージによるものです。往々にしてムラサキ系の特殊彩色が多くなりがちな『キャシャーンSins』なのですが(←監督の好み)、ああ、ミドリ系もいいじゃん!というシーンに仕上がりました。

僕的には、冒頭でトランプやってるロボットたちと、そのトランプがツボです(笑)。

■第8話「希望の賛歌」

脚本:大和屋暁 絵コンテ:山内重保 演出・作画監督:伊藤達文 色指定:秋元由紀

歌姫ジャニス登場の回です。この回もシーンごとに淡々と色を積んで行ってます。

最初僕が考えたジャニスは、薄い茶色の髪色でまとめたものだったのですが、「強い女の人なんだよね」(監督)ということで、芯の強さを出すために赤い髪に行き着きました。あ〜、リーザと被るなあ(苦笑)。

やはり圧巻はクライマックス。ジャニスの歌うシーンと、その歌声に乗せてキャシャーンの大バトル。どうも巡り合わせなのか、この8話以降、秋元さんが色指定担当の話数は「スケジュールがきつい+激バトル」という傾向が……。

実はこの音楽堂の外のバトルシーン、ロボットたちも背景も色味が少々深すぎて、撮影してみたら暗過ぎちゃって、何が何だかわからないという事態に。なので撮影で画面を明るく調整していただきました。

■第9話「滅びの谷に咲く花」

脚本:上代務 絵コンテ・演出:木村延景 作画監督:青木哲郎 色指定:小日置知子

このお話で、ルナが生きてるッぽいって噂が聞こえてきて、キャシャーン一行のとりあえずの旅の目的が定まります。ニコとボルトンがなんとも切ないお話です。

ちょうど第7話から第11話くらいまで、僕は『劇場版 ゲゲゲの鬼太郎』の真っ最中で、そんなこともあってニコと人形の色設定、作りかけで放置しちゃってました(汗)。で、結構ギリギリになって監督のOKをもらってます。

この9話、シーンごとの色変えを敢えて減らして、ニコとリンゴ、そしてボルトンの芝居をじっくりと追った作りにしました。

その分、仕上げ的にはお花が大変(笑)。花畑と花びらと頭に乗せた花飾りがかなり大変だったようで、かなりカットを仕上げ検査で作り直したようでした。ラッシュチェックの際、色指定の小日置さん、ボルトンが花飾りをちぎり捨てるカットを見て「……大変だったのに(泣)」と泣いておりました(苦笑)。

この回から美術に松本健治氏が参加。松本さんの独特の濃ゆい画風にニコの切なさがなんともツボにはまりました。

■第10話「過去に囚われた男」

脚本:小林靖子 絵コンテ・伊藤尚往 作画監督:羽山淳一 色指定:秋元由紀

キャシャーンたちのことはちょっと置いておいて、ディオ、レダのお話。レダが後ろで糸を引きつつ「ディオ軍団」を立ち上げる。そしてドゥーンの登場です。

この「ズタぼろドゥーン」、回想シーンに出てくる「かっこいいドゥーン」の設定が上がってから一緒に決め込もう、と思ってたのです。ところが「かっこいいドゥーン」の設定が上がってきたのは、もう原画作業が進んじゃってからでした(作画はラフ設定で進めてたのですね)。なので、ずいぶんとギリギリまで色を決めずに放置しちゃっておりました(ごめんなさい(汗))。

で、その「ズタぼろドゥーン」、最初に上がってOKになってたキャラクター設定ではスッキリ顔のキャラだったのですが、色を決める段になって、設定どおりに塗って色味を作っていったら「う〜む、なにか物足りない」という印象に。やはり馬越氏もそう思ったようで「これ、塗り分け足しちゃダメですかね?」と。で、急遽設定の修正になりまして、あんな感じの、歌舞伎風? プロレスラー風? の、隈取り塗り分け顔になったのです。

一方、回想シーンに出てくる「かっこいいドゥーン」、ガッシリ体型のいい男であります(笑)。ルナの守人、ということで、着ている服装はリーザと色味を合わせてみました。この回も極端な色変えは避け、背景美術に合わせたナチュラルな色味に抑えてあります。ただ、あとで監督に言われたことは、ルナとドゥーンの回想シーンのこと。

実はこのシーン、他のシーン同様にノーマルな色味に見えるように作ってたのですが、「回想シーンは、回想シーンである、という意味づけを色味で出していきましょう」と監督。「通常のシーンを普通っぽくみせているのなら、回想シーンは何か変化をつけておいた方がいいです」ということでした。

■第11話「己の使命のもとに」

脚本:上代務 絵コンテ:千堂寺拓馬 演出:羽多野浩平 作画監督:羽山賢二 色指定:中野倫明

第11話は竜の子プロダクションの制作でありました。『キャシャーンSins』シリーズ1本目のグロス制作回です。演出から作画〜撮影まで竜の子プロダクション担当であります。

演出の羽多野氏とは『墓場鬼太郎』以来でありました。ところが僕が色彩設計やってるのを色指定の打ち合わせまで知らなかったようで、僕が打ち合わせの部屋に入っていったら顔を見るなり「え〜〜っ!? うそ?」って叫んでました(笑)。

この回も「キャシャーンがいるのはこんな世界」的お話。クリスタルに閉じ込められたキャシャーンと健気に救けようとしているフレンダーが、ルナのいる場所を求めて旅をしている人間とロボットのグループに遭遇します。そのリーダーのジンに心を許していくフレンダー。

登場10話目にして、早くも忘れ去られがち(爆)なワンコが大活躍です。

毎回、シーンごとの色指定を作る時、ついついフレンダーを作り忘れちゃうんですよね(苦笑)。でも、さすがに今回は忘れずに(というか、フレンダーから最初に)作りました。

このお話もほとんど特殊な色使いはナシ。自然に背景美術に合わせて作りました。

後半、「キャシャーンを殺せ」と仲間がジンに迫るシーンがあります。ちょっと重苦しく緊迫したシーンなのですが、それに対してジンがみんなを説き伏せていきます。ジンが「キャシャーンは殺さない」と宣言するカットから(ちょうど挿入歌が流れ始めるあたり)、それまでの彩度低めの色指定からノーマルの色指定に変えています。場の空気の転換するこのあたりから、キャラクターの色味に「明るさ」と「生気」を戻してあげたかったのです。

ホントに注意して見てないとたぶんわからないかも、ですが、そういうちょっとしたところも含めて画面のフンイキを作れれば、と考えてみました。

■第12話「生きた時間を色にして」

脚本:高橋ナツコ 絵コンテ・演出:峰達也 作画監督:西位輝実 色指定:秋元由紀

ちょうど全24話の半分、折り返しの1本です。

自分の生きた証として、自分の住む街を銀色に塗り替えようとしている男(ロボット)・マルゴーの、切なく美しいお話です。

絵コンテに描かれたマルゴーは何やらジジイな感じのキャラだったのですが、馬越氏から上がってきた設定は、一見「女の子?」って感じのキャラでした。なのでキャラクターの色味のイメージは「フランス人芸術家」な白人的色白+澄んだ青い瞳にしてみました。ちなみに、コンテのどおりのジジイなマルゴーだったら、ちょっと剛毛系赤毛のオランダ人芸術家、ってなイメージでしたね。

「銀色」って結構難しいです。一歩間違えば単なる灰色に見えちゃうし、飛ばしすぎると白ベタになっちゃう。で、さらにその上に雪まで積もるし……。そんな「銀色」を絶妙に描き分けた美術さんに拍手です。

実はこのエピソード、僕的にはかなりツボにはまったお話です。「ひょっとしたら僕もマルゴーと同じなのかも」と、ふとそんな風に思えてしまうのでありました。

1話完結のエピソードはほぼ12話で終結。いよいよ後半、物語は本筋へと向かっていくのでありました。

■第82回へ続く

(09.03.05)