第97回 昔々……(59) 『Coo』南の島の夜の暗さは……
8月ですよ! 8月。早くももうすぐ「残暑お見舞い申し上げます」になっちゃいますが、皆さんいかがお過ごしでしょう?
僕はと言えば、おかげさまで、涙が出るくらい忙しい夏を過ごさせていただいておりまする。ああ、仕事大好き。さようなら、夏の日(号泣)。
この夏の僕のお仕事ですが、まずは現在テレビ東京系で絶賛放映中の『極上! めちゃモテ委員長』。まずコイツが大変。毎週毎週登場するオシャレなモロモロと絶賛格闘中であったりします。
TV作品、他にもいくつか動いてまして、でもまだまだ内緒。書けないんです、ゴメンナサイ。
そして劇場用作品。目下の大物がコレ。今年の暮れに公開になります海賊映画、劇場版『ONE PIECE』をやっております。映画『STRONG WORLD ONE PIECE FILM』。つい先日、前売り券が発売開始になりまして、合わせていろいろ情報解禁になりました。
今年は記念すべき映画10作目ってことで、原作者である尾田栄一郎氏が製作総指揮を務めます。描き下ろしのストーリー、そして大量のキャラ原案を描いていただきました。それを余すところなく、いやそれ以上に素晴らしい映像に仕上げようと頑張ってるスタッフは、作画監督・キャラクターデザインを佐藤雅将氏、美術監督をスタジオ・グリーンの脇威志氏、美術設定を佐藤正浩氏、色彩設計を僕、辻田が担当です。そしてそんなスタッフをまとめ上げる総大将・監督は、TVシリーズでチーフディクターでありました境宗久氏であります。
実は境くん、いま僕がこの「色彩設計おぼえがき」でツラツラと書かせていただいてます映画『Coo 遠い海から来たクー』で、制作進行を勤め上げてくれてたのでした。そんな境くんと、ワクワクの大作を作っております。乞うご期待です!
さてさて。
「月のない夜に攻め込んでくるんだから、あえて暗い方がフンイキなんじゃないかと。もうね、見えないくらい(笑)」と、僕。『遠い海から来たクー』の本編中、クーを拉致しに特殊部隊が洋助たちを襲撃する、前半部分のクライマックスシーンのお話です。
『遠い海から来たクー』では何ヶ所か夜のシーンがあります。基本的に島でのシーンは「ほのぼの」としたゆったりな感じを狙っていたので、夜のシーンも静かにゆったりと作ったのですが、この「襲撃シーン」からは緊迫感を狙おう、という事になりました。で、その打ち合わせでの僕の発言が先のひと言です。
イチバン暗いシーンは深夜ジャングルから洋助たちの家へ侵入してくるあたり。そして家の中で待ち受けるキャシーや洋助たち。見事一旦は撃退する。そのあたりですね。
「夜」の表現っていうのは、たぶん作品によって千差万別なのですが、おおむね明るめに作ることが多いです。なぜかというと、あんまり真っ暗だと、画面上、何やってるかわからないからです(笑)。なので、いわゆる「夜色」を作る時は、そういう事も踏まえて、明るさのバランスと画面のフンイキで色味を決めていくわけです。
でもこの場合は、むしろわからないくらいの方がいいのではないか? と考えました。特殊部隊は闇に紛れて攻め込んでくるわけだし、待ち受けるキャシーたちも見えちゃマズイ。画面を観てる側の僕らよりも、劇中その場所で息を潜めてる洋助たち、あるいは特殊部隊の隊員たちの目線、気持ちで考えてみたわけです。映画を観てる側を、なんとかそのスクリーンの中にいるような気持ちに持っていけないか、そんな工夫のひとつでありました。
よってこの「襲撃シーン」、背景もセルも、本編中イチバン暗いシーンとなりました。実際シーン自体は短く、しかも暗視ゴーグルの緑の画面も挟んでるので一連の動き芝居はちゃんとわかるし、35ミリフィルムの画面の深さなら、結構暗く作っちゃっても大丈夫、というそんな計算がありました。
この「襲撃シーン」に続くシーンたちも同様です。その場所にいる洋助たちの見た目の明るさ、見え方を追って画面を作っていってます。
戦闘ヘリのライトのまぶしさ。だんだん夜が明けていく微妙な青い空をバックにクーを連れ去ろうとする特殊部隊の暗い姿。夜明け前の暗さの中、上空に攻め込んでくるトニーのセスナはもう夜明けの明るさの中にあって、そこでの空中戦。それに続き特殊部隊のボートを追う洋助とイルカたちはもう日の出直前の明るさの中。そしてブルーの悲劇。
一気に動いていく一連のシーンが、洋助たちの主観に乗せていい感じで作れたと思います。
後日談ですが、公開からずいぶん経って、この『遠い海から来たクー』が日本テレビ系で放映されたのですが、いやはや、この「襲撃シーン」見事に真っ黒(笑)。やっぱりTVでは見えませんでしたよ。
■第98回へ続く
(09.08.04)