色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第6回 昔々……(5)23時から闘う人たち

「『オーディーン光子帆船スターライト』が見たくなった」と言ってたら、小黒編集長のおかげで見ることができました(小黒編集長、ありがとうです!)。で、先日大泉スタジオの色彩設計部屋でミニ上映会を開催。当時仕上で関わってた数人で見ちゃいました。

「ああ、こんなのだったねえ」とみんなで遠い目(笑)。『ヤマト的』なモノをベースに、作画にしろ、音楽にしろ、当時の流行をいろいろ詰め込みまくってて、でも、どれもみんな中途半端で。そんな感じ。「大変だったのにね(苦笑)」というのがみんなの感想でした(苦笑)。

さてさて。

合作『ROBOTEX』のお話。

韓国のプロダクションにお願いした動画と仕上の作業の上がりは、約1週間後ソウル発の最終便で日本に送られてきました。

その頃製作していた合作作品は『G.I.JOE』『TRANSFORMER』『MUPPET BABIES』など数ライン。毎晩のように韓国からの荷物が届きました。今夜は日本人スタッフの、明日の晩は韓国のスタッフの誰かしらの手持ち荷物として、いくつものジュラルミンのトランクがスタジオに届きました。

1個あたり20〜30キログラム。それが大抵の場合2〜3個、多いときには7〜8個もの数になりました。それらのトランクやバッグは、数え切れないほど何度も東京=ソウル間を行き来して、歴戦の勇者さながら、ぼろぼろに傷つき、ガタつき、至るところをガムテープで補強され、もうホントにバラバラになるまで使い倒されました。

ソウルのプロダクションを出発する寸前まで彩色の作業をして、それを強引に荷造りして東京へ運ぶスタッフに持たせます。持ってくる本人も、ギリギリまで荷物が何個か分からなかったそうです。なので運ぶスタッフも大変です。たま〜に、成田空港から持ち帰る個数を間違えて、空港のバゲージ・クレームに置き去りにされちゃうトランクがあったりして、大騒ぎになったことも(苦笑)。あるいは、空港の税関で、何らかの理由で荷物が止められて持ち帰れず、これまた大騒ぎっていうこともしばしばでした。

夕方にソウルを発った最終便が成田空港に到着するのが、だいたい20時半から21時くらい。そこから延々移動して、練馬の大泉のスタジオに到着するのがだいたい23時くらいになります。で、そこからが戦争です。

着いた荷物の大半は塗り上がってきたセルです。1回の便で塗り上がってくる枚数はまちまちですが、各作品合わせて多いときは3000枚以上も一気に上がります。それをスケジュールの優先度合い順に手をつけます。時間が時間ですから「じゃ、チェックは明日の朝から……」と言いたいところです。翌日で大丈夫な作品・話数は翌日日中作業。でも、スケジュールに余裕がない作品は、その場ですぐ荷を解いて上がりチェック(セル検査とリテイク処理)を始めて、朝までにチェックとリテイク処理を終わらせるのです。

当時、東映動画の[検査]のメンバーは僕を含めて総勢10名。みなそれぞれに担当作品を持っていますが、自分の担当作品の手持ち作業の許す限り、この深夜のセル検査には手伝いとして参加するシステムになっていました。

例えば『ROBOTEX』の場合、まず担当である僕が、カットごとに中身をざっと見て、塗り間違いなどの大きなミスがあればメモを付けていきます。そして、手伝ってもらえる何人かで手分けしてセル検査をしていきます。

検査を進めていくと、色パカとか、絵の具の塗りムラとか、さらなる塗り間違いとか、マスク作成のミスとか、仕上にまつわる、ありとあらゆるリテイクが見つかります。簡単なモノは検査をしながらササッと直していくのですが、手のかかるモノについてはその旨のメモを付けて、リテイク処理班に作業をお願いしていきます。

深夜のリテイク処理は、仕上リテイク処理専門のプロダクションに作業をお願いしていました。深夜のセル検査がある日には、便の着く11時頃に合わせてそのプロダクションのチームがドカドカとやってきて、彩色の部屋に陣取ります。夜食として仕上課が用意したお寿司とかを食べつつ僕らの検査の上がりを待って、そして山と積まれたリテイクカットを次々に処理していくのです。

そんな感じで『ROBOTEX』の1話も塗り上がってきたのでした。荷が届き、進行さんたちがトランクから手際よくカット袋を取り出し、作品別に仕分けしていきます。送り票と荷を付け合わせて、いよいよ僕の前に『ROBOTEX』の塗り上がりが山と積まれました。さあ、チェック開始です。

「あ゛っ!」

ひとつめのカットを開いていきなり唖然。そこには白いボディにブラックの面カゲのある白黒ツートンカラーのロボットがいるはずだったんですが、手にしたそのセルにはただベッタリとまっ白一色に塗られた塊が……。なんと、本来カゲになる部分の塗り分け作業を省いて「影なし」で塗り上げられてしまってたのでした。「あちゃー」いきなりの洗礼です。

他にも、奥に向かって走っていく数人のキャラクターが、本来はみんな別々の色なのに、みんなそろって同じ色で彩色されてたり(当然影なし)、まるで指定してない色で勝手に塗り上げてきてしまったり……。

これは当時の韓国上がりによくあった事例なんですが、スケジュールに余裕がなく、とにかくその日の最終便に間に合わせなきゃならない、という時に、時折こんな「作業の簡素化」あるいは「作業時間の短縮化」を図られてしまったのです。

中には、なんとちゃんと絵の具が乾いてないため動画用紙にベッタリと張りついちゃってる「生乾き」のセルが入ってるカットも……(泣)。

「あ、あ、あ……(汗)」慌てる僕。でも、このままOKにするわけにはいかないので、とにかくリテイクです。処理の指示を入れてリテイク班に廻します。なんだかんだと、手間がかかるカットや、リテイクの指示が複雑なカットは僕が見ることにして、それ以外の大丈夫そうなカット、あるいは大きなリテイクのないカットを、検査を手伝ってくださる先輩たちにお願いしていきます。

まるで雲か何かのように床を埋め尽くす「薄紙」(セルについている白い保護紙)の中、黙々とセルの検査が進みます。さすがは百戦錬磨の先輩たちです。積み上げられてた大きな山は、程なくしてなくなっていきました。手伝っていただく分が終わったところで、先輩たちは帰宅。で、残るのは、作品の担当者である僕とリテイクの山と格闘中のリテイク班の面々です。

手元に残ったカットをチェックしつつ反省する僕。

「ほらあ、こんな風に指定入れるから間違っちゃうんだよ」

検査を手伝ってもらってた先輩のF姉さんに、実は僕の色指定の仕方のマズイ点をいくつか指摘されたのでした。

よく考えれば、この影を抜かれちゃったカットは、BL影の部分に僕がちゃんと「BL」って指示入れてなかったからかもしれないし、みんな同じ色で塗られちゃったのも、僕の色指定の仕方に問題があったのかもしれない。テキトーな色で塗られちゃったのも、問い合わせがあったときに対応が遅れてたから、それで間に合わなくなっちゃったのかもしれない……。考えれば考えるほど、「ああ、やっぱり新米の自分に非があったんじゃないか?」と、そう考えてしまいます。ちゃんと分かりやすく的確に指定が入ってたら、ちゃんと塗ってもらえたかもしれないし、こんな時間までリテイクの処理しなくてすんだかもしれない……。

そんなこんな、いろいろ反省しつつも、怒濤のようにカットは撮影へと流れていきます。それが3日ほど続きました。最後のリテイク処理が終わったのが最終日の朝6時。その12時間後には、すべてのラッシュ・フィルムが上がり、その繋いだフィルムをスタッフみんなで見ました。そこでいくつかの大きなリテイクを見つけ、それも急ぎ直して再撮。そうして『ROBOTEX』の1話は、なんとかアメリカへ向け発送されたのでした。

やれやれ、やっとひと息……をつく間もなく、すでに僕の机には2話の色指定待ちのカットが山のように積まれていたのでした。

■第7回へ続く

(07.02.13)