色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第109回 昔々……(66) 劇場版『セーラームーンR』……あっ『宇宙戦艦ヤマト 復活篇』の話

先週末、いよいよ全国で封切りとなりました劇場版ワンピース『Strong World ONE PIECE FILM』、なんと僕らの想像を遙かに越えた事態となりました。初日、2日目、朝一番の回から深夜のレイトショーに至るまで、全国津々浦々の映画館で完売満席状態とのこと。劇場を取り巻く観にきてくれたお客さんたちの長蛇の列の映像に、いやはやビックリ。前売り券の売り上げがすごいことになってる、ってのは知ってましたから、僕自身も「ある程度は並ぶかな?」とか予想はしてたんですが、さすがにここまでの事態は想像していなかったです。

聞くところによれば、公開初日からの3日間の興行収入がなんと13億円を越えたそうであります。う〜む……。あんまりなすごい額にどう反応していいのやら(汗)。

ところで、この日は「宇宙戦艦ヤマト復活篇」も封切り初日でありました。

かつて『さらば宇宙戦艦ヤマト —愛の戦士たち—』の公開初日に前日から徹夜で新宿の映画館に並んだ、まだ中学生だった僕でありました。それが今日、自分の関わった作品で映画館に長蛇の列。しかも『ヤマト』の初日に向こうを張ってのこの大盛況です。なんかちょっと何とも言えない感慨があったりします。

ま、これだけの方々が殺到したのは入場特典のコミック「零巻」の効果なのは、僕ら『Strong World』のスタッフも重々承知。それでも、これだけ多くの皆さんに僕らが頑張って作った作品を観てもらえているというのは、ホントに幸せなことだと思います。皆さん、どうもありがとうございます!

公開はまだまだ始まったばかり。まだご覧になってない皆さんも、さらに2度目3度目と観にきてくれるだろう皆さんも、ジックリと本編を楽しんでやって下さい。

さて、そんな中で昨日、仕事の合間に抜け出して『宇宙戦艦ヤマト 復活篇』を観てまいりました。

やっぱりね、僕にとってのアニメのルーツは小学生の時にハマッた『宇宙戦艦ヤマト』なのですね。なのでこの『復活篇』は、非常に気になっていたんです。しかも自分が関わってる劇場『ONE PIECE』と奇しくも同じ日の公開! なので1日も早く観にいきたかったのです。

いやあ、素晴らしいです! 正直、鳥肌モノでありました!

『復活篇』まったくもって『ヤマト』そのものでありました! これが何ともすごいです。

世の中に前作から大きく時間が経って続編が作られるアニメは数あります。続編に現代の「今風」なイズムやテイストを持ち込むことはよくあること。それが上手く消化され融合して成功している作品もありますが、往々にしておかしな事になりがちで、失敗作だ、ビミョウだ、などと叩かれるコトも少ないです。

ですが、この『復活篇』、全くブレることなくまっすぐに『ヤマト』そのものでした! ヤマト本体をはじめメカや戦闘はすべてCGになり、キャラクターたちも年をとって、さらにだいぶ「新顔」に入れ替わってますが、そこにある世界と目指すモノはまったくもって『ヤマト』そのものがそこにありました! これはすごいです。「僕らの知っているヤマト」そのものを見せてくれました。

全編通して、ことごとくCGで作られたヤマトをはじめとするメカニックや戦闘シーン、観るまではちょっと違和感を警戒していたのですが、いざ物語が始まると、ずっと前から知っていたかのような安堵感すら憶えるような、自然にしっとりとした手触りを感じるような、そんな画面でありました。

僕は勝手に「ヤマトの作法」と呼んでいるのですが、キャラの見せ方、戦闘の画面・カットの積み方、ここでこういう画がほしいって思った瞬間にその画がくる、音楽が滑り込んでくる。ああ、この感覚はヤマトだなあ、と。そういう流れをちゃんと踏んで作ってくれていたのでした。これはホント、観ていて嬉しいです。

そんな『復活篇』、やはり目を見張るのは、そのビジュアルのヴァージョンアップであり、その迫力には唸らされちゃいました。CGで見事に生まれ変わったヤマト。たぶん僕らがずっと昔に、作画のヤマトを勝手に自分たちの頭の中で膨らませていた、そんな姿を見せられているようで、違和感よりも「うんうん、これだよね!」とすら思える、そんなバージョンアップです。

寄ったサイズでの質感もさることながら、引いたサイズの画の存在感がすごいです。手描きだった旧作では、引いたサイズの画面で割と残念な作画が見受けられた『ヤマト』なんですが、さすがCG、キャラ崩れしないヤマト。

そしてキャラクターたち! 古代も歳をかさね精悍になり、ほとんどのキャラクターたちが新しいキャラクターであります。またそれが個々にいい味を持っている。そんなキャラは全編、湖川さん! でありました。懐かしい感覚を持たせながらちゃんと新しいそんなキャラたちが魅力的でありました。

美術も凄かったなあ! そして色彩も素晴らしい!

とかく、メカとか美術がリアルになって、芝居が深くなっていくと、自然とキャラの色彩も周りにドンドン引っ張られてリアル過ぎる色彩になっていきやすいものです。シーンごとの色替えを深く深くやり過ぎちゃって、観てる人たちを置いてっちゃうようなのが、いろんなアニメで見られるんですよ。

でもこの『復活篇』では「やり過ぎにならない」ための塩梅みたいなバランス感がよくって、シーンごとの作り込みも、心理表現でのカットごとの色味の積み上げも、撮影の処理も含めて、「ちゃんとやって、でも“やり過ぎにならない”感じ」が絶妙でした。これまでの旧作『ヤマト』から、ここでも新たな画面を推し進めて拡げてるなあ、と感心です。なんか同業として悔しかったですね。

それと、いろいろ今までのことをいっさい説明しないでお話が始まり、 そして進んでいくのも、むしろ気持ちがよいです(笑)。その点は『ヤマト』を観てきた人には好感触でしょう。だって「判ってることをいちいちかい摘んで見せられてもな」っていう思いはありますね。

だから、初めてこの映画で『ヤマト』に触れる人たちには、正直不親切な作りではありますが(苦笑)、むしろそういう方々に は「先に劇場版『ヤマト』と『完結編』はレンタルDVD借りてでも観ておいてください!」と言っておきたい。

そういう感じで楽しんで、ハマっていっていただきたい『宇宙戦艦ヤマト 復活篇』であります。「ONE PIECE」も観てほしいけど、こっちもみんな観てほしいです!

さてさて。

……あ。

「枕」を書き過ぎちゃいました(汗)。もうみなさんお気づきですね?(笑)……ってことで、劇場版『セーラームーンR』は次回へ……。

■第110回へ続く

(09.12.15)