第19回 昔々……(14) 『聖闘士星矢』その1 窪田さんとの話
「えっ? 梅雨明けたの?」ってくらいに激しく夏晴れだった先週末、高校時代の天文部の友人たちと奥秩父まで星を見にいってきました。夕方にJR三鷹駅前で待ち合わせて、夕陽を追いかけるように車でびゅ〜んと中央高速を一路西へ。
韮崎で降りて山の中を走ること1時間。たどり着いたその場所は、大きく視界が開けたなかなかのロケーション。すでに僕らのように星を見にきた「星屋」たちの車が10台ほど、思い思いに望遠鏡とか広げてました。僕らも後続の2家族2台の車の到着を待って観望開始です。
新月過ぎだったので、月灯りの心配はなかったんだけど、上空高層に終始雲が流れてて、残念ながらスッキリ全天快晴! とはいきませんでした。それでも、晴れ間からのぞく星空は最高で、いやぁ、久々に天の川を見ましたよ! やっぱり人間、大きな空の下がイチバン! いい気分転換になりました。
一緒に行った友人の1人が20センチの望遠鏡持ってきてて、そいつでいろいろな天体見せてもらってたんですが、いやあこれがいいんですよ! なんか20数年ぶりに望遠鏡欲しくなっちゃいました(笑)。で、帰ってきて早速ネットであれこれ望遠鏡のメーカーサイトを見てまわって……。
ああ、でも僕の場合、自動車の運転免許ないからなあ。まずはそっちが先かなあ(苦笑)。
さてさて。
僕が担当することになった作品タイトルは『聖闘士星矢』でした。「ん? 『聖闘士星矢』?」実はこの作品知らなかったのですよ(苦笑)。当時(あ、いや、今もですが……)あんまり読んでなかったんです、「週刊少年ジャンプ」(笑)。なので、タイトル聞いてもそんなにピンと来なかったのです。で、資料に原作のコピーをもらって読んでみて「ああ、こういうヤツ、やるんだ」と。
原作:車田正美、シリーズディレクター:森下孝三、シリーズ構成:小山高生、キャラクターデザイン:荒木伸吾、姫野美智、美術デザイン:窪田忠雄。
もうね、ビックリするくらい蒼々たる顔ぶれですよ。正直、TV作品持たせてもらえるというドキドキと、すごい面々の中でちゃんとやれるのか? というドキドキと(笑)。中でもイチバン僕がドキドキしてたのは、美術デザインの窪田さんと一緒にお仕事できる! ということでした。
実は僕、劇場版『銀河鉄道999』そして『さよなら銀河鉄道999』の美術の大ファンなのです。公開時、中学生〜高校生だった僕は、その背景美術のすばらしさにとても感動して、そこで初めて椋尾篁と窪田忠雄というムクオスタジオのお2人の名前を知ったのでした。当時発売された『銀河鉄道999』の美術画集のムック本は、今でも僕の宝物のひとつです(笑)。子供の頃からあこがれてた、そんな窪田さんと一緒に仕事できるんですよ! もうそれだけでドキドキだったのです。
話は飛びますが、後に劇場版『聖闘士星矢 神々の熱き戦い』の制作の際、特殊彩色シーンを多く設定したこともあって、美術との細かい色味の打ち合わせに荻窪のムクオスタジオにうかがったときのことです。打ち合わせの場所というのが、椋尾さん、窪田さんの作業机のすぐ後ろで、打ち合わせ中ずっと、椋尾さんは作業机に向かっておられました。で、打ち合わせが終わったところで、スッと椅子をまわして僕の方を向かれまして「終わりましたか? 夕飯とるから食べていきなさい」と。その時、3人でいろいろなお話したんですが、もうね、舞い上がっちゃってて、僕が(笑)。何話したのかまるで憶えてなかったりします。ちなみにその時ごちそうになったのは、グリーンピースの乗ったおそば屋さんの出前のカレーライスでした。
で、『聖闘士星矢』。以前にも書きましたが、当時はキャラクターの色のデザインはすべて、美術デザイナーが色指定をしていました。美術から指定された色で試し塗りの色見本を作り、プロデューサーや演出やキャラデらと一緒にチェックをして、修正点があれば塗り直しなどをして決め込んでいきます。この『聖闘士星矢』の場合も同じで、最初に窪田さんから出していただいた色指定でメインのキャラクターを試し塗りしました。で、そのキャラ色の決め込み会議で、初めて荒木さん、そして窪田さんとお会いしたのです。
どこの部屋でだったかはもう忘れちゃいましたが、部屋の中央のテーブルの上にメインキャラの色見本セルをすべて並べて、そのテーブルを囲むようにみんなそれぞれ立ったまま会議です。プロデューサーの旗野さん、CDの森下さん、キャラデの荒木さん、美術の窪田さん、制作担当の武田さん、他にはTV局のプロデューサーや、演出の山内さんも同席してたと思います。で、僕。
今では打ち合わせだとかいうと、ヘタすりゃイチバン多く発言してたりする僕ですが、この時はもう、ほぼ部屋の隅っこで、旗野さんや森下さんたちの話す姿を緊張しながら見てるばっかりでした。
この時チェックしてもらったのは、確か星矢たち5人の普段着姿とクロス装着姿、そして単体のクロス5体、沙織さん、シャイナさん、マリンさん、それと#1に登場のカシアス。教皇や邪武や市などのその他の青銅聖闘士はまだだった気がします。
「ん。まあ、こんなだろうな」と、ひととおり見て森下さん。このチェックにおけるイチバン重要なチェックは、キャラクターたちが着てる「聖衣(クロス)」だったのですが、実はこれ、玩具を製造販売するバンダイの方からのデザイン画が先に来ていて、それに従ってアニメーション用の色指定を起こすという流れになっていました。なので、基本の色味や塗り分けはその時点でほぼ決まっていたのです。それをセルに起こしてみて、あとは主人公たちの肌や髪や瞳などとの色の相性、バランスによっての微調整、ということでした。
結局、たしか沙織さんの髪のハイライト色、氷河の肌か髪の色の修正くらいで、あとは一応「OK」だったと思います。荒木さんが色見本セルを1枚1枚、丁寧に丁寧に見て回ってる姿が印象的でした。
会議のあと、窪田さんと初めてちゃんとお話ができました。窪田さん、静かな口調で切り出します。
「ええとね、基本的には細かいところは任せます。分からないところは、コピーを送ってもらうか、電話してください」 「はい! よろしくお願いします」
交わした会話で憶えているのはこれだけ(笑)。いやあ、やっぱり舞い上がってた僕だったのでした。
こうして僕の『聖闘士星矢』との闘いは始まったのでした。
■第20回へ続く
(07.06.19)