第25回 昔々……(20) 『聖闘士星矢』その7 劇場版『聖闘士星矢 神々の熱き戦い』もうちょい、そして特殊効果さんの話
2週ほど連載はお休みいただきまして、この間に僕は涼しい高原に避暑に……なんて行けるはずもなく(泣)、もうね、メチャメチャ忙しい日々を過ごしておりました。しかもこの猛暑……。
この猛暑の中、無事引っ越しをやりきりまして、今は快適な新居の日々なのですが、歳のせいかドッと疲れが出やがりまして、夏風邪引いて2日ほどダウンいたしました。「気温が体温以上の猛暑」の中、さらにその上を行くほどの発熱でうにゃうにゃしてましたよ(苦笑)。
おかげさまで夏風邪は抜けまして、今は絶好調です。
この夏、僕は異常なほど汗かいて、Tシャツとかいくら着替えてもすぐにグッショリ。自分史上かつてないほど汗かいてるんですが、しかしまあ、これだけ汗かいてて、なぜやせない?(号泣)。
そんな残暑のまっただ中であります、東京は(苦笑)。
さてさて。
劇場版『聖闘士星矢 神々の熱き戦い』の話、もうちょい書きます。
仕上げの作業工程の中に「特殊効果」という工程があります。
塗り上がったセルにエアブラシや筆やスポンジやドライブラシやスパッタリング、とにかくいろんなワザを駆使して、光や風などの自然物の表現や、様々な材質感を施していく、という作業です。文字どおりの手作業。いろんなスキルやセンスを要求されます。
昨今、撮影がデジタルになってからは撮影処理の一環として作業されることも多いのですが、セルのこの時代にはすべて仕上げの作業でした。
ですので、テレビシリーズでは割と「あまり使わないように」的プレッシャーというか、お達しというか、が、ありがちだったりするわけです(苦笑)。
『星矢』という作品は、この特殊効果なしでは成り立たない作品です。しかも劇場用作品ですから、それはもう大手を振ってお願いできたりします(笑)。
まずは材質感の表現。例えば聖衣(クロス)の質感です。星矢たち青銅(ブロンズ)セイントのクロスにはさほど質感ブラシ作業は入れないのですが、黄金(ゴールド)セイントたちのクロスの金色の質感や、黒光りするようなクロスのてかりなどの質感は、特殊効果のブラシ作業です。
抜いた剣のむき身の刃の質感もブラシ作業です。冒頭の教主ドルバルの持つ銀のゴブレットにも質感ブラシを入れてもらってます。
また、戦いの中、崩れたり飛び散ったりする岩や瓦礫、裂けてはがれた木々の幹の樹皮などの質感も特殊効果です。背景のタッチに合わせてセルの上から描き足していきます。吹き荒れる吹雪や氷の霜など、こういった自然物の表現も特殊効果の力です。
加えて光と影の表現です。なんと言っても闘いまくってる作品ですから(笑)、随所に光ったりしてるので、その光の表現、そしてその光を受けての影の表現に、特殊効果のブラシの効果は欠かせないのです。直接、いわゆる『光のブラシ』をかけてもらうこともありますが、撮影で透過光処理をする、その透過光用マスクにも黒ブラシかけて、光のエッジをぼかしたりということも特殊効果の作業です。
あ、そうそう、セルの地面影もブラシ処理ということがまず多かったですね。
そんな効果を表現していくのは、まず「物はどう見えるのか?」という観察力、「どう見せるか?」という想像力、そしてそれを実際に作業する技術力と「絵心」なんだと思います。
正直、大変手間のかかる作業です。例えばエアブラシ。まずブラシをかける部分を選んでマスキングする作業。彩色用のセルよりもかなり薄手のセルを使って、その部分を切り抜いたマスクを作ることから始まるのですね。動画枚数が多ければ多いほど大変ですし、特殊なかけ方、特殊な効果を求めれば、その分、必要なマスクは複雑になったりしちゃいます。
また、セル重ねが多くなると撮影に支障が出たりするので、彩色したセルに直接効果を加える必要もあったりしますので、なかなかやり直しが効かない作業です。
そしてチームワーク。特に劇場用作品みたいな大きな仕事では、特殊効果スタッフみんなで手分けして、ひとつひとつ仕上げていくのです。まさにスペシャリストですね。
この劇場版『聖闘士星矢 神々の熱き戦い』では、特にクライマックス、フレイがオーディーン像に剣を突き刺し、光の中で大崩壊が起きるというシーンが大変でした。流れるようなカットつなぎ、美しく力強い作画、色彩あふれる背景、そして光と影を見事にとらえた撮影。その中でキッチリとはまったセル色と特殊効果。僕のお気に入りのシーンです。
ところがここで、実は僕は一度大きなミスをしちゃいました。
フレイが像に登って剣を突き刺す一連のカットの流れの中、途中のカットで色指定のミスをしてしまったのです。オーディーン像からの光の照り返しが必要なカットを照り返しのない色で仕上げてしまったのです。それをチェックする際にミスってしまい、間違った色のまま特殊効果で質感ブラシを入れてもらってしまったのでした。
撮出しの際、山内監督が気づきました。当然僕が呼ばれます。ここで僕は監督にこってり怒られました。当然そのままで撮るわけにはいかないので、セル色、特殊効果、みんなやり直しです。
「ブラシをこれだけキッチリやってくれて、その手間がどんなに大変かわかるでしょ?」その監督の言葉は、今でも聞こえてきそうなくらい鮮明に覚えてます。まさに「顔から火が出るような思い」ですね(苦笑)。
ちなみに本編ではちゃんとリテイク処理されていますので、もうコレは僕にしかわかりません(笑)。
『聖闘士星矢 神々の熱き戦い』を観返すたびにまず僕が思い出すのは、フレイの剣の見事な特殊効果と山内監督のこの言葉なのです。
■第26回へ続く
(07.08.21)