色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第28回 番外編 劇場版『CLANNAD』公開記念 出崎監督との話

さてさて。

初めてナマで出崎監督をお見かけしたのは、劇場版『AIR』のキャラクターの色味チェックの時のこと。その日、僕のいる東映アニメーション大泉スタジオの色彩設計部屋に、演出さんキャラデさん作監さんらとどやどやと入っていらっしゃいました。ふらあっと現れたひときわ長身の監督。「あ! 出崎監督だ!」と僕。入り口近くの僕の席の前を通って奥へ。劇場版『AIR』は僕は参加しておらず(『ONE PIECE』の塚田さんが担当)、ちょうどその時僕の席では、勝間田監督と『聖闘士星矢 ハーデス冥界編』のキャラ色の打ち合わせをしてたのでした。

今だから正直に言っちゃいますが、塚田さんが羨ましかったですよ(笑)。だって、あの出崎監督の作品の仕事してるんですよ? しかも東映アニメーションで。こんなこと、たぶんもうないですよ(苦笑)。聞けば、トラブルも含めていろんなことがあって大変な作品だったそうですが、劇場版『AIR』、なんかね、やりたかったなあ。僕自身『聖闘士星矢』をはじめいくつもの作品抱えていたこともあって端から無理だったんですがね。東映アニメーションで仕事してる限り、ああ、出崎監督とはご一緒できないんだろうなあ、と、思ってたんですね。

そうしたら劇場版『CLANNAD』! 出崎監督、再び! ですよ。

もうね、ビックリですよ。もう迷わず「ハイッ!」って、手を挙げかかったのですね。ところが、僕は相変わらず仕事持ちすぎで、そう簡単に手を挙げられる状況ではなかったのです。ちょうど、去年の今ごろのことだったと思います。なんと言っても長編の劇場用作品ですから、そうそう簡単には掛け持ちってワケにもいきません。実はその頃『CLANNAD』の絵コンテが上がり始めていて、すでに2度ほど全体打ち合わせが行われていました。さすがにこれ以上、色彩設計不在で打ち合わせはできないということになり、いろいろ協議があって、「じゃあ、なんとか辻田で……」ということになりまして、晴れて『CLANNAD』班に参加と相成ったのです。

あんまりスタッフには言ってなかったのですが、実は僕はず〜っと出崎監督の作品のファンだったのでした。

初めての出会いは高校生時代。『あしたのジョー2』ですっかりやられてしまったのです。まだDVDとかない時代ですよ。まだ我が家にはビデオデッキもなかった頃のこと。本放送、そして後の再放送と、TVにかじりついて見入っていた、そんな高校生でありました(笑)。それ以来ずっと、『エースをねらえ!2』『エースをねらえ ファイナルステージ』『ブラック・ジャック』などなど、数え始めたらキリがないほど、出崎監督の作品にはやられまくってきてたのです。

さて『CLANNAD』の全体打ち合わせ。

出崎監督が上げてきた絵コンテをもとに、プロデューサーをはじめ、演出、キャラクターデザイナー、美術デザイナー、作画監督、美術監督、色彩設計などなど、メインのスタッフが全員参加して、大体10日〜2週間くらいごとに行われました。1回の打ち合わせで大体100〜150カットくらいの打ち合わせ。監督が絵コンテの内容を説明し、メインスタッフ全員で必要な設定の発注や内容的約束事などの確認などを行っていくのです。

僕がやっと参加できたのが第3回目。メモによれば10月7日でした。監督はいつものように15分ほど遅れてふわあっと到着。会議室では監督を中心に全メインスタッフが着席。たまたま僕は監督の真正面になりました。で、簡単に自己紹介。ちょっと緊張です(笑)。「お、よろしく頼むね」と監督。これが最初の会話(?)になりました。

打ち合わせが始まりました。コンテ読み進むだけでドキドキです。『CLANNAD』という作品は僕はそもそも全然知らなくて、渡されたシナリオは読みましたが、さすがにゲームをコンプリートというワケにもいかず(苦笑)。なので、実は僕の中で『CLANNAD』は渡された原作資料とシナリオと監督の絵コンテででき上がっていきました。

当然、絵コンテは手描きです。絵コンテで芝居してるのは、当然、出崎監督の絵であります。それらは当然、ある程度キャラに似せてはあるんだろうけど、やっぱりしっかり監督のクセのある絵だったりします。でも原作の絵柄も門之園さんのキャラもあの通り。で、ギャップが……(苦笑)。

女の子キャラは、まあ大体脳内変換できたのですが、主人公の親友・春原がどうにも……(苦笑)。僕らの頭の中は、すっかり、出崎コンテの「べらんめえ春原」をすり込まれてしまっちゃってたのでした。「う〜む、コイツ、なんだよねえ……」。キャラの色見本を作りながら、思わず苦笑。「出崎ワールド」と原作、その両者のギャップを埋めるのがなかなか大変ではありました。

でも、こいつらがどうなっていくのか、楽しみで仕方なかったのですね。

次回につづく(笑)。

■第29回へ続く

●関連記事
【情報局】9月の劇場アニメ(3)
『CLANNAD』家族の情愛をうたいあげるラブストーリー

(07.09.18)