第80回 DVD&Blu-Ray発売記念!『キャシャーンSins』色彩設計おぼえがき(その1)
3月いっぱいで「ゲゲゲの鬼太郎」(第5期)のTV放映が終了することになっちゃいました。最終話はちょうど100話になるようです。
100話。
去年僕が関わって作った『劇場版ゲゲゲの鬼太郎・日本爆裂!』が、「ちょうどシリーズの100話くらいにつながるエピソードになるんです」とプロデューサーが言ってたのを思い出しました。どうするんでしょう? 残りの「妖怪四十七士」(汗)。う〜む……。他人事ながらちょっと気になる今日この頃であります。
さてさて。
MBS他、各局深夜枠で絶賛放映中の『キャシャーンSins』、そのDVD&Blu-Rayがいよいよ発売開始です。僕が色彩設計で参加してるこの作品、「とにかく皆さん、是非とも買ってください! 特にBlu-Rayの方を!」ってことで、今週から4回に渡って「『キャシャーンSins』色彩設計おぼえがき」をお送りいたします!
まず今週は、BOX1に収録の第1話〜第6話まで。
僕が『キャシャーンSins』に参加したのが一昨年(2007年)の夏の終わりのこと。実はその時点で現場は「放映開始は2008年4月!」という予定で作業に入っていました。ちょうど半年後の放映開始を睨みつつ、放映開始時点で何話分のストックができているか? なんとか4〜5話までは、という話も出てました。
ところが状況は変わっていきます。いつの間にか「2008年4月」の放映開始は消え、「2008年秋!」ということに。
「じゃあ、なんとか12〜13話分はストックに……」なんてことを制作プロデューサーとことあるごとに話はしてましたが……まぁそう簡単にストックができるほど、昨今のTVアニメの制作状況なんていいわけもなく、時間があればあるだけギリギリまでかかっちゃう、かけちゃう、ってのが世の常です(苦笑)。がっはっは(笑)。
そんなわけで、つまるところ、やっぱりギリギリのスタートになっていったのでありました(笑)。
山内監督と僕の間ではいつの頃からだったか「すべてはシーンごとに美術ボード合わせで色を決め込んでいく」というのが暗黙の諒解、通常の作り方になっていました。『キャシャーンSins』でもその作り方です。
まあ、もろもろの便宜上(例えば作画参考とか宣材とか)、基本となるいわゆるノーマルのキャラクターの色見本・色指定は作りましたが、それはあくまでも見本であってそれがそのまま本編の画面に登場することはほぼないです。
美術ボード発注の打ち合わせから同席して美術さんと一緒にシーンのフンイキを監督から聞きます。そして美術さんからでき上がってきて監督のOKの出た美術ボードを僕が預かって、それらのボードに合わせて芝居の流れを想定しながらキャラクターの色味を組んでいくのです。そして、その色見本+美術ボードの組んだものを演出さんにチェックしてもらってOKをもらい、それを「設計図」としてそれぞれの話数担当の色指定さんに個々のカットをお願いしていく、というやりかたです。
個々の話数の流れはこんな感じです。で、さらに僕はシリーズ全体を通しての色の構成、流れ、バランスを考えていきます。全24話を通して、どんな風にキャラクターの色彩世界を組み立てていくか、ということを考えていきます。これもシリーズの色彩設計の重要な仕事だと考えます。
第1話に入る段階で、後半〜クライマックスを除くかなりの話数の脚本は上がってましたので、ほぼ全体像を把握して自分なりに構成を考えてから設計に入れました。
■第1話「終末の世界で」
脚本:小林靖子 絵コンテ・演出:山内重保 作画監督:馬越嘉彦 色指定:國音邦生
1話では、とにかくなんの説明もないままに物語は始まります。キャシャーンがガンガン戦いまくって、で、謎の幼女が出てきて触れ合って危機から救って、最後にさらに謎の女が出てきてキャシャーンに言いがかりつける。そんな第1話(笑)。
最初の3話くらいまでで、なんとなく「こんな世界」っていう感じを見せていければいいかな? と思ってました。なので1話では、とにかく淡々と背景に合わせて画面を作り込んでいきました。
こういうヴィジュアルでこういうテイストの作品なんだ、と。観てくれてる方は「なんだ? なんだ?」って感じで終わっちゃっていいんだ、と。そんな1話です。
なんと言っても第1話、とにかく、美術も色も最初は手探りで作業です。フンイキ重視で作り込んでいった結果、いい感じに重厚に仕上がっていったのですが……。
実はこの作品、実は全編に「にじみ」処理を撮影ワークでプラスしてます。これがくせ者(苦笑)。画面に撮影の「にじみ」が乗ると、全体にコントラストが強くなるのです。特に暗い部分が強調されて、どど〜んと暗い画面に。
背景とセルとのマッチングはHDのマスモニター基準で画面決め込んでたので、「素」の状態でかなり完成形なおさまり具合に仕上がってたのです。それに「にじみ」が乗っちゃったので、オールラッシュ観て、みんなで「あらら……暗い、っていうか黒い(汗)」。
さすがに作り直すことも出来ないし(←やりたくないし(苦笑))、「ま、大丈夫ですよ!きっと……たぶん(汗)」と押し切ってしまいました(爆)。
というわけでこの1話の前半パート、シリーズ通してイチバン暗い画面に仕上がってしまいました(苦笑)。
ただ後半、大型ロボが出てくるあたりからは「ノーマル」の色指定を使っています。「第1話だし」ってことで、僕は1話の終わりはなんとなく「ノーマル」の色味で終わらせたかったのです。背景もちょうど明るい場面だったので、素のノーマル色になってます。
■第2話「世界は断末の声に満ちて」
脚本:小林靖子 絵コンテ・演出:山内重保 作画監督:馬越嘉彦 色指定:國音邦生
「実はこの世界は『滅び』ってものにやられちゃってんだよ」という説明の2話。僕はこの2話で、『キャシャーンSins』シリーズ全体の色彩設計構成の、その縮図、圧縮版みたいなものをやってます。
基本、前半は背景に合わせてシーンごとの決め込みやって、中盤は登場人物に語らせてる内容に合わせて特殊な色遣いのシーン作って、後半登場人物たちの感情の起伏に乗せてキャラクターの影色に妖しい色味乗せたり、と。この流れは、実はシリーズ全体を通してやろうとしてたことでした。
2話のクライマックス、キャシャーンが狂気モードでコミュニティの市民ロボットたちを虐殺するシーンと、そこへ至るまでのカットと色味の積み上げは、かなりいい感じで決まったな! と自画自賛です(笑)。
で、この狂気モードのところで使ったような影色に妖しい色を入れていくという特殊彩色は、シリーズ後半の、特にルナが登場する頃まで、ほぼ封印してます。
とにもかくにも、1話とこの2話は、ふんだんに時間を使って作ってます。当然作画枚数もステキな高みに(笑)。出来は最高。でも、制作プロデューサーの顔色は青かったですが(苦笑)。
■第3話「苦悩の果てに」
脚本:大和屋暁 絵コンテ・演出:峰達也 作画監督:西位輝実 色指定:秋元由紀
「実は人間もまだわずかに生き残ってるんだよね」という3話。
まだよく状況がつかめてないキャシャーン。しかも前話で「大変なことやっちゃった(汗)」という罪悪感とかがのしかかってくる。で、フレンダーとの一定の和解というか理解。
あんまり本筋をなぞらず淡々と各話完結のエピソードをちりばめていく、というシリーズ構成。でもこれが重要で、こういうお話を通してキャシャーンたちキャラクターの心の動きや流れを作り上げていきます。
この3話は色彩的にはあまり特別なことはやってなくって、淡々と丁寧に、キャシャーンとアコーズとの距離感、空気感、フンイキを作っていきました。
3話の色指定は秋元由紀さん。彼女と、5話以降で登場の小日置知子さんは、東映作品でいつもお世話になってるお2人です。このお2人とならば呼吸も合うので、彼女たちの会社の社長さんに「是非に!」とお願いしまして参加してもらいました。
結果、全24話の1/3ずつの色指定と、2本のエンディングはそれぞれ色彩設計から全部、担当していただきました。もう、感謝! 感謝です!
■第4話「滅びの天使」
脚本:高橋ナツコ 絵コンテ・演出:山内重保 作画監督:馬越嘉彦 色指定:國音邦生
なんかいつの間にか「監督が演出の話数は辻田さんが色指定も」という流れができてまして、で、この4話も僕が色指定も担当してます。
この4話も「キャシャーンがいるのはこんな世界」的お話。このお話は「美しく」っていうのがテーマでシーンの色味作っていきました。
この『キャシャーンSins』、基本的にキャラクターの色のデザインは僕が何もないところから考えてます。キャシャーンやフレンダー、ブライキング・ボスたちは、基本「旧作」の色を踏まえてますが、それ以外は僕のオリジナルでした。……そもそも僕は「旧作」観てないんですよね(苦笑)。馬越氏からキャラの線画受け取ったら、まず僕が色を作る→監督と馬越氏に見てもらいOKもらう、というのが流れでありました。
このお話のゲストキャラのソフィータ、キャラクターのデザインを受け取った時から何となく「褐色の肌」と決めてた僕でした。なんでだろう? あとで聞いたのですが、監督はなんとなく『色白』というイメージだったようです。
オールラッシュでソフィータの声を聴いてビックリ。『おジャ魔女どれみ』のはづきちゃん、こと、秋谷智子さんでした。で、褐色の肌のソフィータが、これがもう声にピッタシ! このあたりも山内マジックでしょうか(笑)。
ちょうどこの4話の制作のピークと、集英社ジャンプ・ツアーズ用の『DRAGON BALL Z』の制作の追い込みがぶつかってて、昼は東映、夜はマッドハウス、寝る間もないという24時間態勢で闘ってました。そこへさらに、『キャシャーンSins』のオープニングが重なってて……。ああ、いい思い出です(遠い目)。
そうそう、「『キャシャーンSins』では前髪は透けない!」という作画ルールが確定したのはこの話数からでした。それまでは透けたり透けなかったりバ〜ラバラ。実はこの話でも直しきれなかったカットがいくつかあります(苦笑)。
■第5話「月という名の太陽を殺した男」
脚本:上代務 絵コンテ:大平直樹 演出:木村延景 作画監督:奥田佳子 色指定:小日置知子
「ストーカー・リューズ」とひたすら悩んでるキャシャーン。本編の冒頭に毎回数カットつけてある『ルナ殺害』のアヴァンタイトル、それにつながるリーザとキャシャーンの回想シーンが登場し、なんでリューズがキャシャーンを追ってるのかが判明します。そしていよいよ「黒キャシャーン」ディオ登場です。やっと本筋に関わってくるお話が動き出す……かな? という5話。
このお話も淡々とシーン合わせの色彩設計をしていった話数です。この5話が色味のシーン変えのイチバン少なかったお話になりましたね。
アヴァンタイトルで見せてる「ルナ殺害」シーンはアカムラサキのイメージ色として作ってたのですが、じゃ、その場所の手前、リーザと対峙する場所はどうよ? ってことになって、考えあぐねて「普通に」暗めに作ってしまいましたが、う〜む、もうひと匙、なんかすればよかったかな? と。
この5話、6話とつながりのお話であります。で、このあとの6話っていうのが、実は制作スケジュール的に1話とほぼ並行して作ってたのです。なので6話の色指定を担当してもらった小日置さんに、あとから5話もお願いしました。実際Bパートの夕景シーンは、6話で作ったものをそのまんま使ってるし。
■第6話「運命との再会」
脚本:上代務 絵コンテ・演出:伊藤尚往 作画監督:奥田佳子 色指定:小日置知子
というわけで、1話とほぼ並行して作ってた6話です。なので、当然画面が暗いです(笑)。それでほぼ全編夕方だったりしてるので、明るい部分はずいぶん明るく見えてますが。
それと、バシバシに前髪透けてます(苦笑)。これも、ルールができる前の作画だったからであります。
この6話のツボはなんと言ってもディオであります。このディオがね、結構難しい「くせ者」でありまして。
というのも、ディオは基本「黒」のボディスーツなのです。黒いスーツにハイライトっぽく明るい部分がある、という作り。ところが、そのヘンが未整理状態で作画が進んじゃってて、で、さらに僕が考え過ぎちゃって「黒」っぽく作り過ぎちゃってます。周囲の夕景の光を呼び込んで照り返すように、もうちょっと明るくしてもよかったかな?>ディオ
ただ、怪しさのバランス的には、これくらいの暗さは僕的には全然OKなのですね。暗い部分はもうつぶれちゃってもいいんだよね、とか思ってましたから。マスターは地デジの画面、HDの画面基準で作ってて、マスモニター上ではしっかり見えてるからよし! とか思ってましたが、世の中まだまだアナログ視聴が主流なようで、いろんな方面から「暗くて見えない!」という声が……(苦笑)。
で、まあ、そういうこともあったのと、シリーズ全体での「流れ」、色彩設計的構成という点からも、この後の話数から徐々に明るい画面が多くなっていくのです。
それでも僕としては、アナログの地上波放送より地デジで、通常のDVDよりはやはりBlu-Rayで観て欲しい、と、そう切に思うのであります(笑)。
■第81回へ続く
(09.02.24)