第85回 DVD&Blu-Ray発売記念!『キャシャーンSins』色彩設計おぼえがき(最終回!)
「4月にこぼしちゃうとみっともないですから、必ず3月31日の通常掲載日にUPして終わりましょう、『キャシャーンSins』色彩設計おぼえがき」とWEBアニメスタイル編集部から厳命されまして、でもまぁ最後は3話分だから楽勝だな、と思ってたのは事実。
でも、案の定、大苦戦いたしました(汗)。さすが最終の3本分(苦笑)。
実は本日、新宿・歌舞伎町のロフトプラスワンで開催される某アニメ関係イベントに呼ばれてるんですが、集合時間と言われていた午後6時、実はマッドハウスでまだ書いてます(大汗)。
がんばれ、俺! 負けるな、俺!
さてさて。
22、23、24話の3本は、とにかく時間との闘いでありました。山内監督、きっちり3本連続で絵コンテ描ききりまして、さすがに演出は、中山さん、木村くんに振りましたが、最終話はキッチリ決めてくれました!
でも、時間は容赦なく過ぎていきまして、絵コンテが描き上がったところから順次作画打ち合わせを進め、美術打ち合わせは納品の前の週という状態。美術ボードは松本氏が担当して、背景作業はそれまで各話を担当していただいてた湖山さん、松田さん、シースルースタジオさん、スタジオ・ルーファスさん、そしてゆきゆきえさんがみんな参戦。大人数で打ち合わせやって、それを手分けして一気に1週でUPしていくという総力戦でありました。作画さんたちも同様です。演出陣も同じ。そして僕ら、色スタッフも総力戦でありました。
■第22話「永遠という名の雫」
脚本:小林靖子 絵コンテ:山内重保 演出:中山奈緒美 作画監督:とみながまり 色指定:小日置知子
「ルナの街」を制圧、支配下に置いたレダ、ルナの癒しを受け永遠の生命を得たかに見えたのだが、顔にさらなる滅びが広がってしまう。激怒のレダはさらなる癒しを受けるのだが、なんと半身が醜い姿に変化してしまった。レダと袂を分かったディオは囚われのキャシャーンを城外へ連れ出し、肉体が再生するのをひたすら待ち続けた。そして復活したキャシャーンと最後の決闘へと突入していく。
レダvsルナの「女の闘い」と、ディオvsキャシャーンの「男の闘い」の第22話。
この話で初めて「ルナの癒し」が画面に登場します。この一連の「癒し」のシーンでは「めいっぱい色の芝居を作ろう」と演出の中山さんと打ち合わせておりました。「ルナの間」は現実なんだけど全部イメージ空間のような、そんな色味を作りたいと。
なので、特に後半の2度目の癒しでは、カットごとに彩色を変えたり、背景も含めてカット内でオーヴァーラップかけて色を変えてみたり、思いっきりいろいろ変化つけていきました。
ルナ、いいですね(笑)。「やっぱルナも女だったのね!」という表情芝居、そして演技。レダとのやりとりは何度観てもゾクッと来ますな!
一方、ディオのシーンの方は、対照的に「静」の色彩で、時間を追って刻々と変わっていく背景美術に合わせて、じっくりと静かに色を作り込んでいってます。
それらふたつの軸の間をつないでいくシーン、とりわけリンゴ、リューズ、オージのシーンは、彩度を抑え、重めに色を作っています。軸になるシーンが立つように、ということです。それは23話でも同じですね。
■第23話「還る者たち」
脚本:小林靖子 絵コンテ:山内重保 演出:木村延景 作画監督:西位輝実 色指定:秋元由紀
1対1の死闘を繰り広げるディオとキャシャーン。一方、ロボットの墓場にうち捨てられていたレダは、復讐のためルナのもとへと向かうのだが、ルナに剣で刺されてしまう。そこへやってきたキャシャーン。すべてを悟ったレダはディオのもとへと向かう。そしてキャシャーンはルナと対峙する。
業を背負った登場人物それぞれの運命・生き方に、それぞれひとつの帰結点が見える、というお話。ある意味この23話が、たぶんひとつの「最終回」である、僕的にはそういう思いで作っていきました。
このお話でのポイントはふたつ。ひとつは、ルナとキャシャーンが対峙し、語るシーン。
きっちりと2人の会話が観てる方たちに入っていけるように、色彩的には敢えて特に何もしない。いわゆるノーマル的色遣いで静かに組み立てよう、そう考えて設計しています。それでも話のテンションに合わせて、前半(コンテ上ではシーン50)と後半(シーン52)とでは、多少差をつけて寒色系に色味を振ってみたり、加えて色指定の秋元さんに「作画とそのカットの台詞の内容をくみとって、影の深さに強弱をつけて」とお願いして、キャラの表情の深みを作ってもらったりしています。
そしてもうひとつは、ディオの最期。
キャシャーンとの死闘の最後の一撃に「勝った……」と自ら身を引いて去っていったディオ。「その死に際はディオの最期にふさわしいシーンにしたい」「ディオの最期は美しく見せよう」「当然夕景で」と監督も演出の木村氏もそして僕もそう思っておりました。なのでレダが寄り添い、ふたり息を引き取るシーンでは、馬越氏自らが作画し、オープニングのテイストで「止め絵で見せる」手法となりました。
第22話もこの23話も、よくもまあこの短いスケジュールで出来たよなあ! という画面になりました。ホントはスケジュール的には絶対にやっちゃダメな作り方なんだろうけれど、それでも「ここまでやってきた最後なんだから乗り切ろうよ!」と、みんなそんなテンション、そしてチームワークでありました。
そしていよいよ最終24話。そこにはさらなる高いハードルが待っておりました。
■第24話「巡り咲く花へ」
脚本:小林靖子 絵コンテ・演出:山内重保 作画監督:馬越嘉彦 色指定:國音邦生
コンテ完パケが納品10日前。それから編集やってアフレコやって、第23話の納品翌日に美術打ち合わせ。当然スタッフ総動員態勢。美術の持ち時間はわずか5日間。という、あまりにステキなスケジュールで作業に突入でありました。
ルナとの決別から数十年後の世界。ルナと手を組み、帝国を復活させたブライキングボスだったが、彼もまたこの世界、そしてルナに疑いを持ち続けていた。一方、人里離れた場所でひっそりと家族のように暮らしていたリンゴ、オージ、フレンダー、リューズ、そしてキャシャーン。しかし滅びは進み、オージ、そしてリューズも死を迎えた。うちひしがれるキャシャーン。やがて意を決して、ルナのもとへ向かうキャシャーンであった……。
泣いても笑ってもこれが最後。最終話は僕が色指定を担当です。
とにかく「あれから数十年……」ということで、ブライキングボス、着てるマントとかデザイン変えてあります。ルナの治療院も、湖が干上がって隆起し、さらには形すら変わっております。キャシャーンたちはそのままですが、オージのトラックは朽ち果ててオブジェになってます。
「これ、帽子? なんで?」と監督。
「『最後はやっぱり帽子ですよ!』って言ってましたよ、馬越くんが」と僕。
いきなり上がってきた設定画を見ながらの会話です。そう、ブライキングボスの帽子です。これはずいぶん前から彼が言ってたのです。監督も「ふむ。そうなんだ」とOKになりました。
で、色も当然旧作合わせ、ということで。なのですが、ちゃんと旧作観てなかった僕です。慌ててインターネットで画像検索(爆)。そんなこんなで決め込みました。
この24話で最初に決め込みシーンは、ボスとキャシャーンの一騎打ちのシーンでありました。重さがありつつ、ちゃんと色味が出てる色彩、にまとめてあります。核となるこのシーンのバランスを先に決めて、そこから逆算するようにひとつひとつ前のシーンを決めていきました。
次いで決めたのは、リューズの最後のシーンです。「オージは夕方、リューズは朝」死に際のシーンについては相談する前から、監督も僕もそれぞれにそう思ってて、とくにリューズについては「ぱっきりと鮮やかではない、ぼんやり気味の朝」という風に思っていまして、それであんな風になりました。24話では「死にそうな感じ」を出そうと、一応リューズの顔色は彩度抜いて白っぽくしてありました。最初の考えでは、キャシャーンの腕の中で息を引き取るリューズの一連は、主線だけ残して真っ白にして、キャシャーンの胸の「C」だけ赤、とかも考えたのですが、なんかやり過ぎな感じがして没にしました(笑)。
あとのシーンはこれまでやってきた『キャシャーンSins』の世界観に乗って、それぞれ作り込んでいます。
最後の「ルナの広間」の色味のアイデアは監督からでした。最初、赤みのモノトーン系で作ってみていたのですが、監督チェックの際「なんか、ヘンな色入れてもいいよ。例えば水色?」と。で、でき上がったのがあのシーンです。もうビックリするくらい、あのシーンにピッタリ。はまってしまいました(笑)。
そしてエンディング。
これもかなり早い時点で「ゆきえさんの絵で」そして「オープニングみたいに止め絵で」と、決まっておりました。で、僕が彩色やる、と。ところがこの恐怖のスケジュールです。とうてい自分で抱え込んで彩色やってる余裕はありません。それで最終話のヘルプをお願いしてた秋元さんにそっくりお任せで彩色してもらっちゃったのです。
成長したリンゴは生成りのワンピース、そう僕は思ってたんですが、実はそれを伝え忘れちゃってたんですね。でも、以心伝心? 素晴らしい! ちゃんと生成りのワンピースで塗り上げてきてくれました! なので、エンディングはほぼ秋元さんの色のまんまであります。
フンイキとしては本編終了時からさらに数十年以上経った、という設定なので、実はフレンダー、相当の老犬になっております。で、その老犬な感じの描写をエンディングでちゃんと見せようと思って準備してたんですが、なんとエンディングのそのカットが欠番に(苦笑)。イチバン健気なフレンダー、やっぱりかわいそうに最後までついてなかったです……。
で、この最終24話、実はちょっと不本意な出来でありました。本来みんながやろうとしていた、お届けしようとしていた画面でオンエアができませんでした。この『キャシャーンSins』はTV作品であり、本来ならばTVで放送されたものが完成形、最終形でなければいけないのですが、僕らの力が足りず「足りない」形でのオンエアになってしまいました。こんなことここで言い訳しちゃいけないんですが、DVD収録分の22〜24話は、少し手を入れさせていただき、本来僕らが目指した映像になっております。
不本意ではありますが、できるならDVDあるいはBlu-Rayでもう一度観てやってください。
ともあれ、『キャシャーンSins』は終了です。なんかね、大きな台風が過ぎ去って、空は快晴のいい天気、気分は爽やか、でもこれから散乱した家屋の残骸とか片づけなきゃ、みたいな、そんな感じです。
でもね、この気分がステキ。なので、また性懲りもなく、山内監督と一緒に作品作りたい、そう思うのであります。
■第86回へ続く
(09.03.31)