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出崎統監督に聞く。最新作『雪の女王』への意気込み
“旅のロマン。そして、人を描くドラマ”


 先月、NHK総合テレビで、出崎統監督の最新作の放送が始まった。アンデルセンの童話を原作としたTVシリーズ『雪の女王』である。ここ数年、出崎さんは劇場作品を手がける事が多く、TVシリーズの監督は『白鯨伝説』(1997年〜)以来の事だ。いったいどんな方向性で、この作品を作っていくのだろうか。お忙しい中、ちょっとだけ時間をとっていただき、話をうかがってきたぞ。

●放送情報
『雪の女王』(全39話予定)は、NHK総合テレビで毎週日曜日19:30〜19:55に放送中。


PROFILE

出崎統(Dezaki Osamu)
アニメーション監督。1943年11月18日生、東京都出身。高校時代に貸本マンガ家としてデビューし、1963年に、日本初の本格TVアニメシリーズ『鉄腕アトム』を制作中の虫プロダクションに入社。アートフレッシュ、マッドハウスを経て、現在は自らが設立したあんなぷるに所属。手がけた作品は『あしたのジョー』『エースをねらえ!』『ガンバの冒険』『家なき子』『宝島』『ベルサイユのばら』『スペースコブラ』『おにいさまへ…』『白鯨伝説』『ブラック・ジャック』と数多い。近作には劇場版『とっとこハム太郎』、劇場版『AIR』などがある。
小黒 まず、どんなかたちで『雪の女王』を構成しようと思われたんでしょうか。
出崎 ……「雪の女王」の原作だけだと、TVシリーズにはエピソードが足りないので、他のアンデルセンの話を入れて、オリジナルも入れてみよう。みんなで話をして、そういうかたちでやる事になった。(少し沈黙して)……実は今日、全然寝てないんだよね(苦笑)。
小黒 ああ、そうなんですか!? お疲れのところ、申しわけありません!!
出崎 まあ、主人公のゲルダの年齢を少し上げているんだ。原作だと、幼い女の子が何となく家から外へ出て、結果的にカイを追いかける事になるんだけど、今回のシリーズではそうではなくて、自分の意志で、カイを探し求める旅に出るようにした。そういう意味では、ちょっと新しい感じになっているかもしれない。
小黒 ゲルダは、かなり活発な女の子になってますよね。
出崎 単に可愛いだけの子じゃないよね。そんなゲルダが、旅をする事でたくましくなっていく。ある種のロードムービーみたいになると思う。『家なき子』の女性版ってわけじゃないけど、旅をする人の姿と、旅の意味というものが物語の下地になっている。旅って、本当はあまり意味があっちゃいけないんだけど(笑)。
小黒 (笑)。出崎さんの理想としては、旅には目的がない方がよいという事ですよね。
出崎 うん。そういうものだと思うよ。
小黒 確かに、放送された3話までを観ると、話の進め方や雰囲気は、今までの出崎さんの作品の中だと『家なき子』が一番近いですね。
出崎 近いかもしれないね。旅の中で色んなドラマがあって、主人公が変化していく。それは前からやりたかった事だから、それもあって、力が入ってる。……今日はくたびれて、力尽きてるけどね(苦笑)。
一同 (笑)。
小黒 現在放送されたところまでは、どの話も出崎さんがコンテをお描きになってますけど、どの程度描く予定なんですか。
出崎 30本以上描く事になるんじゃないかな。今、コンテが13本上がっていて、自分が描いたのが11本。他の2本も手を入れているからね。
小黒 主人公達の生活は地に足がついたもので、雪の女王とその下僕だけがファンタジーの世界のキャラクターになってますよね。今後は両者が接近していくんですか。
出崎 雪の女王のテリトリーに入ったら、色んな事が起きるよ。1話でもそれを予感させるものとして、森の中の教会が出てきているしね。ファンタジーという事なら、個々の話でも「奇跡」とか、そういったテーマを盛り込んでいくつもりだよ。あるいは「赤い靴」とか「マッチ売りの少女」といった話もやっていく。
小黒 なるほど。
出崎 でも、大変だよね。そういった話を、ゲルダの旅の中に入れていくのは。
小黒 ゲルダが、マッチ売りの少女になるわけにはいきませんものね。
出崎 主人公が死ぬわけにはいかないからね。「マッチ売りの少女」の話は、みんなが知っているわけだから、そこにゲルダがどう絡むかという事を、彼女が狂言回しにはならないようにやりたいなあと、思ってるんだけどね。
小黒 ゲルダを活発な子にしたのは、積極的に動かして、物語に絡めていくためですか。
出崎 というよりも、やっぱり主人公には力が欲しいよね。単に流されるだけではなくて。そういう意味では、ゲルダは「女」じゃないから。少女であって、まだ女性ではないでしょう。(男性と女性の)中間にいる存在だよね。それから、本来的に女の人には、男性より強いところがあると思っているしね(笑)。ゲルダはいろんな事に対して自由な、力強い女の子かな。
小黒 1話で、ゲルダは自分の方が足が速いと言っていたけれど、カイとのかけっこで負けてしまいましたよね。だけど、負けた後で強がりを言ったり。ああいうところは可愛らしいですよね。
出崎 うん。小説が原作のものは、そういったかたちで自由にキャラクターを作っていけるところが、面白いよね。杉野(昭夫)がデザインしているキャラクターについてもそうだし。
小黒 なるほど。
出崎 個々の話に出てくる人々をどう描くのかについても、そうだよ。それらのドラマが、ゲルダに繋がってくるわけだし。だから、真面目な……真面目と言うとおかしいけど、ちゃんとしたドラマを考えていかないと。それはやりがいのあると仕事だと思ってるけどね。各話のゲストキャラクターも、おざなりにしたくない。単に役割を与えられたようなかたちではなくて。
小黒 単なる悪い人とか、単なる可哀相な人にしたいくないという事ですね。
出崎 そういったところを大切にしないとね。
小黒 あっ、今日は、普通のインタビューをしてますね。
出崎 うん、いつもの小黒君の取材と違うよ(笑)。
小黒 でも、まだ番組が始まったばかりですから、ちゃんとベーシックな事を訊かないと(笑)。今後の事で一番気になるのは、雪の女王自身の事ですよね。今のところ、悪人かそうではないのか、どちらにも取れるように描いてますよね。
出崎 うん。雪の女王というのは自然の精霊。つまり、自然そのものでね。自然って、人に対して優しいところもあるし、厳しいところもある。それに対して人がどう対応していくかで、恐いものになったりするんじゃないかな。雪の女王を、死の世界の象徴ではなくて、生と死の間にある森羅万象の象徴として考えているんだ。具体的にどういう事かというのは、観ているうちにだんだんと分かっていく事だから、ここで全部を話せないのがちょっと残念だけど(苦笑)。
小黒 放送が始まる前は、ファンタジーだから、もっとソフトなタッチの作品かと思っていたんですが、生活の厳しさとか、現実的な描写も入っていますよね。
出崎 あの時代は、豊かな人なんてほんのひと握りで、ほとんどの人間は貧しいのが当たり前だった。そんな時代に、ゲルダは自分の脚で歩いて旅をするんだ。夜はどこかに泊まらなくてはいけないし、食べ物もどうにかしなくてはいけない。歩いたら疲れるわけだし、病気になったらどうしようとかね。そういうリアリティは追っていきたいと思う。『家なき子』の時に、レミがパンを買う話を作ったんだ(12話「小さな座長・レミ」)。お金の単位がスーって言うんだけど、11スーしか持っていないレミがお金を落としちゃって、1スーが見つからなくて、必死に客の脚の間を探すんだよね。そういった厳しいところは、やっていきたいよね。右も左も分からない女の子が生きてくためには、どうしたらいいか。本人は力強く、めげずに……いや、めげる事もあるんだけどさ(笑)。めげたところから、立ち上がっていく。ビタリスが言っていた「前へ進めじゃ」という言葉が、今回のシリーズにも入ってるのかもしれない。
小黒 役者さんについては、いかがですか。俳優の方も参加していますが。
出崎 ゲルダ、いいですよ。
小黒 いいですよね。
出崎 俳優さん達も、予想以上によかった。よかったし、作品に品格みたいのものが出てきてるかなという気がする。
小黒 3話で吟遊詩人が登場しましたね。僕なんかは「待ってました!」と思いましたが。
出崎 あれは、アンデルセンにないキャラクターで。名前はラギって言うんだけど、彼は旅の象徴だね。ビタリスを若くした感じなのかな。
小黒 あの吟遊詩人が、ナレーターとして語りをしているわけですね。
出崎 うん。そういったところで、ロマンが感じられるようになるといいんだけど。
小黒 TVシリーズを手がけられたのは、久し振りですけど、手応えはいかがでしょうか。
出崎 やっぱり大変だよね。毎週(フィルムのストックが)消えていくし。今なんか毎週1本ずつコンテをきってる感じで、6本くらい連続で描いているから(笑)。でも、絵コンテに集中できる日が、週に4日ぐらいしかないんだよね。
小黒 毎週、アフレコとか、シナリオ打ち合わせがありますものね。
出崎 最近はV編(ビデオ編集)というのがあるからさ、これがまた時間がかかるんだ。だから、空いた日は一日中、コンテを描いてないと。いや、ここでそんな話しても、しょうがないんだけどさ(苦笑)。
小黒 いえいえ、ファンは出崎さんがどんな風に仕事をしているのかも、知りたいですよ。NHKのプロデューサーの方も「出崎さんは凄いスピードでやっている」と言って驚いていましたよ。それだと、ゴルフとか行ってる暇もないですね。
出崎 ほとんど行ってない。誘われても、断る事が多くて。この作品が終わったら、友達がいなくなんじゃないかな、と思うよ(笑)。
小黒 制作現場のほうはいかがですか。
出崎 頑張ってくれている。スケジュールがない中で、ちゃんとしたものにしてくれているから。細かいところについては「こうじゃない」と言って、怒ったりしているけど(笑)。とにかく、俺がコンテまでを何とかすれば、後は、ちゃんとやってくれる。
小黒 音楽に関してはいかがですか。
出崎 いいと思うよ。音楽の付け方も、これみよがしの付け方はしてない。実写的というか、文芸作品的に合った付け方をしているよね。それはいいと思う。音楽の質自体がそうだよね。千住(明)さんが、即物的な効果を狙った感じでやっていないと思うから。……つまり、ロックじゃないって事だよ(笑)。
小黒 オープニング曲も、品がいいですよね。あれはヴァイオリンですね。
出崎 オープニングについては、最初は「ボーカルなかったら、俺は画なんか、作れねえぞ」と言ったんだけど(笑)。
小黒 歌詞がないと、映像のイメージが作りづらいんですね。
出崎 うん。言葉自体に音楽を感じるんだよ。だから、言葉なしでコンテを描くのはつらいよね。しかも、僕はさ、上質な音楽感をもってる人じゃないからさ(笑)。どっちかっていえば、ロックとか演歌が好きなわけだから、なおさら難しかった。自分の中のテーマを元にして、コンテを描いたんだよね。
小黒 先ほど、前からやりたかったドラマだというお話をされていましたが、そのあたりを、もう少しうかがえますか。
出崎 拳銃が出てきたり、殺人があったり、そういうショッキングな要素があったり、あるいはヒーローが出てきて暴れ回るとか、そういう作品ではないよね。地味な生活の部分にドラマがあって、それで観る人を引っ張っていくというのは、演出の基本だと思うんだ。この前にやった『AIR』もそうだったけど、そういったかたちで、人を描く機会を得られたのは嬉しい事だと思うし、勉強にもなる。ドラマの面白さみたいなものが、伝えられればいいなと思っているよ。

●2005年6月7日
取材場所/東京・NHK放送センター
取材・構成/小黒祐一郎


●関連ページ
NHKオンライン
http://www.nhk.or.jp/
『雪の女王』番組HP
http://www.nhk.or.jp/anime/snowqueen/

出崎統公式ファンクラブ
http://www.toshima.ne.jp/~styou/

(05.06.13)

 
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