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DVD発売も目前の『ワンダフルデイズ』
キム・ムンセン監督へのインタビュー


 DVDプロモーションのため来日した、キム・ムンセン監督に話をうかがってきた。WEBアニメスタイルとしては、初の通訳を介した取材である。『ワンダフルデイズ』は、いったいどのような経緯で作られたのだろうか。


PROFILE
キム・ムンセン(Kim Moon-Saeng)

弘益大学校美術大学視覚デザイン科、弘益大学校産業美術大学院舞台デザイン専攻卒業。現在はTIN HOUSE代表取締役、監督。200本以上のコマーシャルを手がけており、他には音楽劇の映像監督なども担当。『ワンダフルデイズ』が初の劇場用アニメーションだった。EXPO 2005 AICHI JAPAN(愛・地球博)韓国パビリオンの映像「Tree Robo」の監督も務めている。

―― はじめまして。『ワンダフルデイズ』を観て、僕たちが観ている日本のアニメーションに、比較的近い、だけど、ちょっと違うものだと思いました。
キム そう言っていただけると、ありがたいです。この映画を作りながら、私はアニメファンにも一般の観客にも近すぎない、同時に遠すぎないものにしようと考えていました。
―― 近すぎなくて、遠すぎない? 具体的にはどういう事ですか。
キム 簡単に言うと、今までのアニメから一歩進んだ映画であり、そして、もっと親しみの感じられる映画が作りたかったんです。完全にマニア的な映画でもなく、ハリウッド式のディズニーみたいな映画でもなく、その境界線にある。そんな映画が作りたかった。
―― 次に、作品の成り立ちについて聞かせてください。元々この映画の発想は、どんなところにあったのでしょうか。
キム いちばん最初の発想は、私の後輩が持っていたシノプシスでした。それはA4用紙2枚のものでした。そのシノプシスのタイトルが「美しい物語」で、それを英訳したタイトルが『ワンダフルデイズ』です。そのシノプシスは遥かに遠い未来の話で、100年間雨が降り続いている土地において、ある日突然その雨がやんだ。そういったところから始まる話でした。
―― その設定を使って、物語を作ったのですね。
キム 100年間も降り続けた雨がやんだ日って、どんな日だろうかと考え始めました。その日を迎えた人たちはどんな気持ちだろうか。その日こそ「ワンダフルデイズ」ではないか。シノプシスにある内容は使わずに、その設定だけ使って映画を作り始めました。
―― なるほど。話は体制側と反体制側の対立を描いたものでしたよね。それについて、現代の日本で暮らしている僕達からすると、ちょっとピンとこないところがありました。それはキム監督にとっては、いかがなんですか。
キム その構造自体が、普遍的なものだと私は思ってました。財閥と労働者、モテる人とモテない人、この映画を作った時だと、アメリカとイラク。社会の全てのものがそういった対立関係に基づいて、成り立っていると思って、この映画を作ったんです。
―― なるほど。全体のストーリーがシンプルなものに思えました。シンプルなものにするという事は、意図されて構成されたんでしょうか。
キム この話は、詩から作り始めました。私はシナリオ書いた経験がなく、それで最初に5つの詩を書きました。それが「雨の日」「霧の日」「稲妻の日」「風の日」「太陽の日」です。書いたあとに、それを繋いで、シナリオに変える作業をやったんです。だから、とても単純になった。初めからそんなに複雑に作る考えるつもりはなかったんですよ。全体的に5つの章があって、うまく流れる、そんな映画が作りたかったんです。だから、観る立場からすると、ちょっと単純かもしれません。


(C)TIN HOUSE 2003

―― 次に監督のプロフィールについてうかがいたいんですが。今までに、色んな仕事をおやりになってきたということですが。具体的には?
キム 色んな仕事をやってきました。大学の時にはデザインの仕事をしてたし、大学卒業してから演劇、舞台デザインなどをやりました。その後で、コマーシャルに関わる仕事をやることになりました。コマーシャルを始めたのは、映画を作りたいと思っていたからです。その後、学校で10年間ほど教授として働きました。今は、映画を作るため、それらの仕事は全て辞めています。他には、私は美大出身なので、展覧会を1回か2回ぐらいやってきました。それから、今、愛知で万博が開かれてますね。その韓国パビリオンで、私が監督した立体映像「Tree Robo」が上映されています。
―― 今度はメイキングについてうかがいます。人間のキャラクターに関しては、作画監督が全体を統括するスタイルだったのですか。それとも、ある程度個々のパートのアニメーターに任せたのですか。
キム 1人が全体をまとめたわけではなく、何人かの作画監督がいます。主人公のジェイ、スハ、シモンの3人については、専任の作画監督を立てて、全部のシーンを任せました。
―― キャラクターシステムをとられていたわけですね。たとえば、冒頭で主人公がお面を被って戦うシーンを描いたのは、どういった方なんですか。
キム その場面は何人かが関わっていますが、言われている原画を描いたのは、Kim Chang-Heeというアニメーターです。
―― その人は、かなりキャリアのある方なんですか。
キム 今回携わった人たちは、大体10年、20年の経歴をもった人たちです。
―― 『ワンダフルデイズ』に参加した作画監督や原画の方は、それまではどんな仕事に関わっていたんですか。
キム 原画を担当した人たちは、OEM(相手先商標製品。この場合は、海外からの受注制作)の仕事をしていた人達です。
―― それは日本や、アメリカの作品の?
キム 主にアメリカの作品です。『ワンダフルデイズ』の画のスタイルが、ちょっと『ヘヴィメタル』的な雰囲気だったので、等身大の映画が主になってるアメリカの作品に携わっている人たちを、私が採用しました。人を集めるときには、とりあえずその人が描いたものを見て、擬人風ではなく、リアルなプロポーションを描く人達を選びました。
―― 制作に5年かかったそうですね。特にどのあたりに時間がかかったのでしょうか。
キム 2年間はプリプロダクションで、ストーリーを作っていました。その後の3年間で、1年はミニチュアを、もう1年はアニメーションを、最後の1年には合成やCGへの指示を集中してやっていました。それらの作業は、実際には同時に行われたんですが、私が集中してやったのが、その1年ずつだったのです。

(C)TIN HOUSE 2003

 ―― 今回の特色として、ミニチュアが沢山使われてる事が挙げられますが、どうして、ああいったかたちになったのでしょうか。
キム 重量感があって、質感がある。そういったアニメーションが作りたかったんですね。他のアニメとは何かが違う、リアルな感覚を与えるような空間を作りたかった。そうするためには、ミニチュアがぴったりだと思い、選びました。
―― 3DCGで空間を作るよりも、ミニチュアで作った方がよかったという事ですね。
キム ミニチュアで作った方が作業が簡単だからというわけではないです。ミニチュアの方が、望んでいた質感になるからです。『ワンダフルデイズ』では同じ場面を3DCGと、ミニチュアを一緒に使う事もありました。その時は私は、ミニチュアを作る人たちには「もっと線を整理して、綺麗にして」と注文しました。逆に、あの同じ場面で3DCGを作る時は「綺麗にしないで、ちらかして」と注文しましたね。
―― なるほど。
キム だから、(ミニチュアと3DCGでは質感が)全然違うんです。
―― 3DCGで空間を作ったシーンも、あるんですか。
キム 結構ありますよ。バイクが走る場面とか、エコバンにグライダーが飛んでくるシーンは全て3DCGで作られたものです。大まかに言えば、ミニチュアはマールを中心に、3DCGはエコバンに使い、質感を分けるようにしています。ただ、エコバンの博物館のシーンはミニチュアでしたけれど。
―― あ、そうなんですか。バイクのシーンについては、ミニチュアでどうやって撮っているんだろうと思っていました。
キム その場面をミニチュアで作れば、全然効果が出ませんね。カメラがずっと動いている状態なので、質感があまり問題ではないんですね。
―― バイクについては、ミニチュアで作ったバイクと、3DCGで作ったバイクがあるんですか。
キム オートバイは全部、3Dで作られています。
―― 劇場で売られていたパンフレットには、バイクの模型が載っていましたよ。
キム あれは展示のための模型です。
―― なんだ。そうだったんですか(笑)。今回の制作チームは、この作品のために集められたメンバーなんでしょうか。
キム 基本的なスタッフは、今まで一緒にCMを作っていた人たちで、2Dの仕事をやるスタッフだけを、私があちこち回りながら探しました。
―― 3Dのスタッフなどが、CMを一緒にやってきたスタッフという事ですか。。
キム 3Dやミニチュア、合成、サウンドなど、それに関わる全てのスタッフが、今まで私と一緒にコマーシャルの撮影をしたスタッフです。
―― 一緒にCMを作ってきた人達は、同じ会社に所属しているんですか。
キム それはTIN HOUSEという、私がもっている会社です。『ワンダフルデイズ』を作った時、社員の人数が70人ぐらいでした。ただ、3Dは一緒に仕事をしてきた別会社のスタッフです。
―― なるほど。キャラクターデザインをやられた方はどんな方なんですか。
キム 主に3人がやっていました。アニメを作っている人たちです。
―― その方達は、漫画家とか他の業種で画を描いている人ではなくて、アニメーターなんですね。
キム 一番最初にキャラクターに携わった人は、Oh Seung-Hyeonという人でした。その人もアニメーションをやっていますが、自分のイラストも描いています。次の段階で参加したのがJeong Inという人で、彼もアニメーションの原画を描いています。彼に(Oh Seung-Hyeonのデザインを元にして)描いてもらいましたが、それも違うと思って、別の人に描いてもらいました。それがYoon Young-Kiです。Yoon Young-Kiが『ワンダフルデイズ』のアニメーションディレクターになっています。
―― 後で別のデザイナーが参加しても、一番最初のイラストレーターの方が描いたキャラクターは残ってるんですね。
キム 残ってます。
―― なるほど。最初にOh Seung-Hyeonさんを選んだ理由はなんなんですか。
キム Oh Seung-Hyeonが自分の画をもって、僕のところに訪ねてきたんです。私が見て、それが気に入ったから一緒に作業することになりました。
―― その方は、韓国では高名な方なんですか。
キム 『ワンダフルデイズ』を終えてから有名になりました(笑)。
―― なるほど(笑)。若い方ですか。
キム 正確ではないんですけれど、34、5歳ぐらいです。
―― 全体の話に戻ります。『ワンダフルデイズ』の国内での反応はいかがでしたか。
キム いちばんよかった評価は、韓国アニメーションの中で一線を画した内容だというものでした。一番悪かった評価は、退屈だということでした。両極端な評価を受けたんですね。
―― 海外市場を考えて作っていると思うのですが、内容的にもそれを踏まえたものになっているんでしょうか。
キム そもそも世界市場を考えたものを作りたいと考えたのが、アニメを作ろうと思ったきっかけでした。生身の人間の顔が出てしまう実写は、海外で発表するのに向いてないと考えたんです。アニメの場合は、どんな言語でもそれが吹き替えられれば、その国のものに同化していきますから。
―― 『ワンダフルデイズ』で達成できた事と、思ったようにいかなかったところがあると思います。それについて聞かせてもらえますか。
キム 韓国のアニメーションのは、まだ始まったばかりだと思います。私たちはかつて、アメリカや日本のアニメを観て素晴らしいと思ったし、私たちでそんな素晴らしいものができるのだろうかと思ってました。でも、『ワンダフルデイズ』を作った後、観た人たちが「私たちも作れるだろう」と思えるようになった。そういった自信を持てるようになったのが、いちばん大きかったと思います。私がちょっと物足りないと思うのは、この映画が詩から始まったため、ちょっとドラマに緊張感がないことです。
―― 日本を代表するプロダクションであるガイナックスの、山賀博之監督が『ワンダフルデイズ』に惚れ込んで、日本で推してくれたことに関してはいかがですか。
キム 光栄だと思います。私はガイナックスが好きだったので、凄く嬉しかったです。
―― 最後に、ご自身の今後の展望についてお願いします。
キム 今度は、もっと沢山の人に観られるものを作りたいですね。今回『ワンダフルデイズ』も、アメリカやフランスなど、色々なところで上映されているので、大勢の方に観ていいただいています。でも、次はもっと商業性をもつアニメを作りたいと思ってます。

●2005年6月17日
取材場所/東京・ジェネオンエンタテインメント
取材・構成/小黒祐一郎


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●公式サイト
http://www.wonderfuldays.jp/

●オリジナルスタッフ
監督/キム・ムンセン
作曲/ウォン・イル
脚本/パク・ジュニョン、キム・ムンセン
制作/TIN HOUSE

●日本語版スタッフ
日本語脚本・演出/山賀博之(GAINAX)
プロデューサー/武田康廣(GAINAX)
翻訳/根本理恵
音響制作/テレシス、アオイスタジオ
「A Prayer」「Aria」日本語版歌詞/山賀博之

●日本語版キャスト
スハ/山寺宏一
ジェイ/真田アサミ
シモン/横堀悦夫 他

●DVD情報
『ワンダフルデイズ』
価格:5985円(税込)
発売日:2005年7月22日
収録内容:本編87分+特典映像12分(ミニチュア製作ドキュメンタリー他)、ブックレット封入
音声:日本語5.1ch/韓国語5.1ch
字幕:日本語/英語
発売元:ガイナックス
販売元:ジェネオン エンタテインメント
[Amazon]


(05.07.05)

 
 
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