web animation magazine WEBアニメスタイル

 
最先端×レトロの結晶『ルネッサンス』
クリスチャン・ヴォルクマン監督インタビュー


 映像的快感に満ち溢れたデジタルアニメの快作『ルネッサンス』。謎に満ちたストーリー、ダイナミックなアクション、そしてダークな愛憎劇が、ハイコントラストの白黒映像でスタイリッシュに描かれる。優れたビジュアルアートでありつつ、エンターテインメントとしても見応えのある作品に仕上げたのは、フランスが誇る若き俊英、クリスチャン・ヴォルクマン監督だ。映画祭上映に合わせて来日した監督に、作品についてお話をうかがってきた。


プロフィール
クリスチャン・ヴォルクマン Christian Volckman

アメリカ留学後、1989年に「Ecole Superieure des Arts Graphiques(グラフィックアート高等専門学校)」に入学。デッサン、絵画、写真などを学ぶ。1994年、初の短篇アニメーション『Le Cobaye(モルモット)』を監督し、その後2本のビデオクリップを手がけた。1995年には『Maaz』という短編SF作品の制作に着手。スーパー16mmで撮影され、ブルー・スクリーンを背景にしたこの作品は、完成までに3年を要した。『Maaz』は世界各国の映画祭に出品され、32の賞を獲得。2006年、7年の歳月をかけて完成させた初長編作品『ルネッサンス』を発表。アヌシー国際アニメーション映画祭2006でグランプリを受賞した。

●2007年3月12日
取材場所/都内
取材・構成/岡本敦史




── 『ルネッサンス』は非常に魅力的な作品でした。なんといっても、あの白黒ハイコントラストの映像がとても鮮烈です。あのビジュアルはどうやって生まれたんですか?
ヴォルクマン 映像のスタイルとしては、それほど目新しいものではありません。映画の黎明期には、多くのシネアストが白と黒のコントラストによって映像表現をしていたわけですから。私はその先人達が残した素晴らしい仕事を土台に、新しいストーリーを加えて『ルネッサンス』を作り上げたと思っています。この映画は、最先端のデジタル技術と、かつての白黒映画が持つ優れた表現技法を掛け合わせた、結晶のようなものです。
── 白黒映画と言っても様々で、グレーの濃淡が幅広い柔らかなトーンの作品もありますが、本作はフィルムノワール調のハイコントラスト映像で統一されていますね。それはヴォルクマン監督の好みなんですか?
ヴォルクマン そうですね。チャールトン・ヘストンとオーソン・ウェルズが共演している白黒映画が、凄く好きなんです。なんという題名でしたっけ?
── 「黒い罠(Touch of Evil)」?
ヴォルクマン そう、それ! あの映画では、人物の影がとても長いシルエットで映し出されたり、逆光の表現がとても鮮烈だったり、そういったコントラストの強い照明効果によって、観る者により深い感動を与えている。その印象が強く私の中に残っていました。だから『ルネッサンス』は、私の好きな「黒い罠」と「ブレードランナー」と『GHOST IN THE SHELL』の要素を混ぜ合わせて(笑)、最先端の3D技術を駆使してできた作品と捉えてくれて構いません。
── なるほど。
ヴォルクマン 白黒映像の中では、現実が極端に強調されます。物質のボリュームや、あるいは逆に平面が誇張されるんです。『ルネッサンス』ではそういう特質を効果的に使ったつもりです。

▼『ルネッサンス』劇中の1シーンより

── 今回の作品では、まず映像のスタイルを確立してから、ストーリーを考えていったのでしょうか?
ヴォルクマン ほとんど同時進行という感じでした。確かに「白黒の3D映像」というコンセプトは最初からあったんですが、そのスタイルを突き詰めてからシナリオに入る、というかたちではありませんでした。ある場面のために映像技法を考えていくケースもあれば、あるビジュアルを見せるために場面を作っていく、といったケースもあり、パラレルに進んでいました。
 まず、制作費を募るために2〜3分のパイロット版を仕上げたんですが、そこまでにかなりの時間がかかっています。脚本家チームと密に話し合ってストーリーの方向性を決め、また映像のスタイルも同時に固めていきました。どちらも分かちがたく結びついたものとして、制作を進めていました。
── 語り口は捻りのきいたディテクティヴ・ストーリー形式ですが、扱うテーマや大まかなストーリーは非常にシンプルで、普遍的ですね。
ヴォルクマン この映画の舞台は近未来のパリですが、大都市を舞台にしたSF作品では、必ず身の回りのものに題材を求めていると思います。本作もまた例外ではなく、不老不死への執着、人間と機械の関係など、様々な現代的問題を扱っています。映画というのは、そういった身近な問題意識を観客に促す事ができると思うんです。例えば今なら「世界的な水不足」という題材で作品を作る事ができる。そういった事を考えるのはとても大事だと思うんです。毎日の生活の中で、自分達が無意識に行っている事は、いつか必ず重大な結果に結びつく。何かに影響を及ぼさない行為などありません。そう考えると、テーマは無尽蔵に生まれてくると思います。
── 7年間に渡る制作期間の中で、それこそが自分の向き合うべきテーマだと強く確信されていたんですか?
ヴォルクマン うーん、プロジェクトを始めた時は、2〜3年で終わるだろうと思っていましたから(苦笑)。ここまで長くかかってしまったのは意外だとも言えますけど、始めてしまった以上は最後まで完走して、納得のいくかたちにしたかった。途中でやめたら意味がありませんからね。
── 制作中、最も時間がかかったパートはどのあたりになりますか?
ヴォルクマン シナリオやストーリーボード、プロダクションデザイン(美術設定)など、準備段階にいちばん時間がかかりましたね。3Dアニメーション制作の実作業よりも。
── 中盤のアクションシーンなどは、かなりこだわられている部分だと思うのですが。
ヴォルクマン アニメーションというのは無から作り出すものですから、あの場面を作るのは非常に大変でした。チェイスシーンでは実際にある程度のセットを組んで、俳優にアクションを演じてもらったりしたので、かなり時間を食ってしまいましたね。最初からアニメーションだけで作ってしまえばよかったのですが……。
── 今回、キャラクターの動作はモーションキャプチャーで作られていますね。
ヴォルクマン 6×10平方メートルほどの長方形の空間で、全てを撮影しました。チェイスシーンもその場所だけで、24台のカメラで撮影したんです。今考えれば、ちょっと無茶でしたね。

▼インタビュー内で触れられている『ルネッサンス』のチェイスシーンより


── これまでモーションキャプチャーの作品を観てきて、演技がうまいと思った事はなかったんですが、『ルネッサンス』では初めてキャラクターがちゃんと演技をしていると思いました。演技指導は徹底されたんでしょうか?
ヴォルクマン いや、この映画の成功の秘訣は、あまり演出をしなかったという事にあると思います。俳優にはなるべく自然な演技をしてもらうよう心がけました。モーションキャプチャーで俳優が演技をする場合、動きを意識しすぎて芝居がぎこちなくなったり、ダンスを踊っているようになったりして、普段とは違う動作をしてしまいがちです。だから現場では俳優に対して、自然にシンプルに演じてもらうため、あまりうるさく演出はしませんでした。同時にアニメーター達のためにも、現場でカメラを回して俳優達の表情を撮影し、作画の参考にしてもらいました。
── モーションキャプチャーを使った作品の場合、キャラクターのフェイシャル表現がどうしても弱くなってしまいがちですが、この作品では見事にそれをクリアしています。
ヴォルクマン 今回の作品における技術的進化として、「目の動き」をキャプチャーする事ができたのは非常に大きいですね。3Dアニメーションの中で、実写のように目の動きを豊かにする事ができた。それはこの映画の強みになっていると思います。
── ライティングも魅力的でした。つまらないリアリズムにとらわれず、自由な発想で光と影をデザインする事で、視覚的にとても面白い映像が生まれていると思います。
ヴォルクマン そうですね、おっしゃるとおり。たとえば手前と奥にそれぞれ人がいて、両者に当たる光量には現実的にどうしても差ができてしまいます。でも、画としてうまく処理しなくてはならない。今回はそこであまり常識にとらわれず、よいかたちで表現できたと自分でも思っています。もしこの映画を2回ほど観てもらえれば、だんだん光の使い方が巧くなっていくのが分かると思いますよ(笑)。
── なるほど。
ヴォルクマン スタッフも試行錯誤しながらやり方を掴んでいきました。フラストレーションのたまる行程ではあったけれど、最後にはみんな、どうすれば上手く見せられるか分かるようになっていました。だから早く次回作に取りかからなくてはならないんですけど(笑)。
── 次の作品は決まっているんですか?
ヴォルクマン いや、実際のところ、スタッフはそれぞれ別の作品に参加するため解散してしまったし、資金もこれから集めなくてはならないので、なかなかすぐに次回作に取りかかる事はできません。フランスにはそんなにシステマティックに機能しているアニメ制作スタジオがないので、ひとつの作品が終わってしまうと、そこでチームは一旦解散してしまうんです。日本にはスタジオジブリや、アメリカならディズニーやピクサーなど大きなスタジオがあり、ひとつの作品に取りかかっている間でも次の企画を進める事ができます。だけど残念ながらフランスにはそういった制作環境がありません……。それに、フランス人にはラテンの血が入っているので、ひとつの事に熱中してやり遂げた後は燃え尽きてしまうんですよね(笑)。
── 気長に待っていますので、次回作を楽しみにしてます!
ヴォルクマン ありがとう!


●公式サイト
http://www.renaissance-movie.net/

●関連記事
【情報局】7月の劇場アニメ(2)
話題のデジタルアニメ大作『ルネッサンス』


アヌシー大賞受賞の話題作『ルネッサンス』
フランス映画祭2007で先行上映




(07.07.13)

 

 
  ←BACK ↑PAGE TOP
 
   

編集・著作:スタジオ雄  協力: スタイル
Copyright(C) 2000 STUDIO YOU. All rights reserved.