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■animator interview
板野一郎(5) |
小黒 『愛・おぼえていますか』が、『マクロス』の集大成になるんでしょうか。
板野 いや、『MACROSS ZERO』ですよ。
小黒 『ZERO』ですか。アニメーターとしての板野さんが、一番ピークに達したのが……。
板野 それならば、そこですね。「もうやりたくない」と思ったくらいですからね(笑)。
小黒 ああ(笑)。
板野 『愛・おぼえていますか』の頃から、だんだん「大変だ」と思い始めてきたんです。やっぱり同じような事を繰り返してるのが嫌になってきた。それで他のものを、『北斗の拳』とかをやったりするようになるんです。
小黒 作画の仕事を減らして、演出を始められるわけですね。
板野 「戦闘シーンだけ面白くてもしょうがないな。作品として面白くできないかなあ」と思うようになったんです。「やってやる」と力任せに仕事をするんじゃなくて、「自分は面白くできるのかな」というチャレンジをするようになった。
小黒 『愛・おぼえていますか』の実際の関わりは、どういったかたちだったんですか。
板野 メカ作監で。本猪木とか結城(信輝)がやった水上戦は、レイアウトとか第一原画を切って。だから、安彦さんが劇場の『ガンダム』でやってたような形ですよね。レイアウトやシートをやって清書させるところと、ある程度のシーンを自分で描いて。確か、最初の輝とフォッカーのミサイルとか。劇場の時にはコンテを少し描いているんです。クワドラン・ローが艦内に入ってくるところで、構図を真横にしたりしているんですよ。斜めで立たせたり、わざと横に立たせたりとか。それをそのまま使ったか、もしくは『(MACROSS)PLUS』の時みたいに、こっちが作った叩き台を、河森が自分なりに解釈して描き直したかは、もう定かじゃないんですけど。そういう事もやってるんですよ。
小黒 冒頭のバルキリーのあたりは原画をお描きになっていて、他にもいくつか描いていらっしゃる。あとは一原を描いて渡したり、修正したりなんですね。
板野 あの時は、基本的にマクロス本体の大変なところは、庵野に任せて、ラストの方の(要塞にバルキリーが)突っ込んでいくところは飯田君に任せて。その前の、中でミンメイが唄っていて外でガンガンやっているあたりは、一原を切って何人かに原画を描いてもらって。あの段階で、自分がそれまでやってきた事の先が見えてなくなったので。「もういいかな」と。
小黒 『マクロス』でやれる事はやり尽くした、みたいな。
板野 はい。それだったら、自分がやってきたような事は若い人に任せればいい。例えば(フォッカーの)バトロイドが、メカから出てきたゼントラーディ兵を撃つところは本猪木が描いたんです。あとは(ラストで)ボドルザーの顔に着弾して泡吹くのは、結城信輝がやったりとか。本猪木や結城も、ラフ原画を渡したんですけど、ラフ原が要求する以上のクオリティアップをしてくれた。「(周りの連中が)やれるようになってきたよなあ。もう、いいんじゃないかな」と思うようになったんです。それで、監督とか演出をやるようになった。『メガゾーン23』の「I」で、演出もやりながらコンテ描いて、「II」で石黒さんに「監督やってみないか」と言われてやったんです。『メガゾーン23 PARTII』ではシナリオも変えてしまって、コンテもほとんど自分がやっているんです。自分の気持ちが煮詰まったり、モチベーションがなくなると、他の事をやりたいなあと思うんですよ。それで、今はCGをやっているんです。
今は、日本でTVシリーズが50本しか作れないのに、100本ぐらい無理して作ってて、そのうちの半分以上がでっち上げなんです。(自分が監督した)『GANTZ』は、そういった状況でどこまで限界ギリギリのものが作れるかというチャレンジだったんですよ。それをやって「もういいかな」と思った。放っておいても、アニメーションは、いいものを作ってる人はいいもの作ってるし。で、今度は特撮──円谷特撮がハリウッドと戦えるように(若いスタッフに)ジャパニメーションの方法論を覚えてもらおう。「ネクスト」(劇場「ULTRAMAN」)をやった後に、「このウルトラの飛びは、あなたしかできないから、TVの方も手伝ってよ」と言われて、それでTV(「ウルトラマンネクサス」)をやってるんですけどね。
小黒 それは毎週のCGを?
板野 ええ。CGでやるところはTVのクオリティを超えたい、そんな感じで作ってる。で、ジャパニメーションの付けPANとか、メリハリ、デフォルメをCG班に仕込んでるんです。「ネクサス」が好評で次のシリーズがあったら、円谷の社内のCG班は、かなりいいものが作れると思う。今度の12月からやる劇場(「ULTRAMAN」)で、「これだったらハリウッド・メジャーの映画と戦える可能性が将来見えてきた」と思えたんです。アニメーションの中では『MACROSS ZERO』の5巻は、一部はハリウッド映画に勝ってるな、と言えるくらいにCG班は上手くできた。自分が、『マクロス』を作画じゃなくてCGでやろうとした時に、やりたいと思っていたところまではこれたかな。『MACROSS ZERO』をやっていた班が、サテライトの『(創聖の)アクエリオン』というのを継続してやって。彼らは僕がいなくても、いいものが作れるので、自分は円谷に行って、円谷特撮を世界の土俵に──「ゴジラ」みたいにメジャーにさせたい。前にハリウッドが「ゴジラ」を作って、アメリカが作ってくれるのもいい事だと思うんだけど、僕から見るとなんか、あれは連邦に奪われたザクに見えてくる(笑)。
小黒 ハハハ!
板野 やっぱり「ウルトラマン」は日本で作って、アメリカを超えたい。「ゴジラ」や「ガメラ」に比べると「ウルトラ」は予算は少ないんだけど、「今回は子どものものにしなくていい」というので、(劇場で)怖くて子どもが泣いちゃうようなものにしよう(笑)。怖くてお父さんの陰に隠れながら観るような映画にして、「お父さんは凄いなあ、あんな怪獣も怖くないんだ」と子どもが思って、それで、お父さんが復権をする(笑)。それが今回の劇場の目標だったんですよ。アニメ界は、もう巧い人がいっぱいるじゃないですか。
小黒 そうですね。
板野 それを韓国のように、文化として国を挙げて保護してくれるといいんですけどね。橋本(晋治)君とか大平(晋也)君とか、戸倉(紀元)君とか、うつのみや(理)君とかにスポンサーがついて、彼らみたいな人がメインになったり、監督ができたりするようになれば。日本も、目先の金とか利益ばっかり見て、製作委員会ですったもんだしないで、もうちょっと……。人が、もったいないですよねえ。「この人に好き勝手な事をやらせたら、どんなものを見せてくれるんだろう!」という人がいっぱいいるのに。
小黒 あ、すいません、話がいきなり現在まできちゃったんで。ちょっと戻って、細かいところをうかがってよろしいですか。『メガゾーン23』1作めは、アクションに関しては、庵野さんなら庵野さん、山下(将仁)さんなら山下さんに、シーン単位で任された感じですか。
板野 任せてます、はい。
小黒 バイクはかなり直してます?
板野 そうですね、バイクは直してるところもありますね。あとは自分でビデオ担いで、参考資料(映像)を撮ってきたり、とか。
小黒 で、あとは御自身で描かれたシーンがひとつあって、そこはなぜか声の出演までやられて。
板野 そうですね(笑)。いやあの、それは(音響監督の)本田(保則)さんに──僕はまだ若くて生意気で、演出として注文が多かったんですよ。その時に、本田さんが「じゃあ、板野ちゃん、いっぺん声をアテてみなよ」って言われて。
小黒 それまで、芝居に関しても「こうじゃないよ!」って言ってたんですか。
板野 はい。それで金魚鉢に入ったら、なんか画は追っかけられないし……。「ね? 板野ちゃん、早いでしょー。分かりっこないんだよ、こんな画」と言われて。「ホントですね」と。
小黒 つまり、板野さんが作った、速い映像に合わせてセリフを言うのは大変だという事ですね。
板野 そうです。タイミングも速くて、カットがガンガン変わって。(アフレコ時に)画が入ってないのに、マーカーとかデルマで指示したって言えないんですよ。(自分の芝居は)監督としては全然ダメなんだけど、音響監督がOK出しちゃったんで(苦笑)。いやあ、やっぱり大変だなあって。あの時、僕と矢尾一樹が生意気で──それは『PARTI』じゃなくて『PARTII』なんですけど。あいつとは同い年だったんですが、生意気でしたねえ。
小黒 (笑)。『メガゾーン23 PARTII』は監督とメカ作監ですよね。この時は、もう原画は描いてないんですか?
板野 えーっと、いや、いくらかは描いてると思いますよ。
小黒 でも1シークエンス、まとめてとかではないですよね。
板野 ええ、まとめてではないです。
小黒 その後、板野さんは演出家時代が続いてですね、『SLAM DUNK』や『(宇宙の騎士)テッカマンブレード』で作画の仕事をされたりもあるんですが、やっぱり僕らにとっては『MACROSS PLUS』が「待ってました!」という作品だったんです。御自身的にはどうだったんでしょう。
板野 そうですね。『マクロスII(超時空要塞マクロスII ―LOVERS AGAIN―)』というのがなかったら、僕は『MACROSS PLUS』はやらなかったと思いますよ。『マクロスII』が、僕達の思ってた『マクロス』と繋がっていなかったもので。
小黒 全然違いましたよね。
板野 はい。『マクロスII』も、ちょっと話が来た事があったんですよ。でも、制作のAICは、『(メガゾーン23)PARTII』の時にうまくいかなかった事があったので、やらなかったんですよ。あの時、(オリジナルのスタッフは)美樹本君だけがやってるんですよ。
小黒 キャラクターデザインですね。
板野 で、あれは『マクロス』という名前がなければ、大張ロボットアニメーションとしては成立してると思うんですけど、『マクロス』の名がつくとちょっと引っかかりがあって。その辺で「あれを『マクロス』だと思われたくないな」っていう気持ちが、僕にも河森にもあって。で、河森の方から「作るんだけど、いっしょにやらないか」と言われて、「うーん、そうだよねえ。やっぱり、あれで終わらせたくないよね」という話になって。『愛・おぼえていますか』の流れを汲む『マクロス』として、「10年経っただけ進化したものにしたい」という話で。「じゃあ『PLUS』が最後で、その後はもう俺、描かないからね!」と言ったんです。10年の自分達が成長した過程をどのぐらい画で表現できるか──自分達の、無知だけど若い、脂がのって旬だった頃を終えて、その後いろんな事をやって。いろんな知識のストックができたところでの「大人のマクロス」という。まあ、『PLUS』の場合は、信本(敬子)さんとかみんなと、アメリカ・ロケに行って、最初のシナリオの立ち上げにも参加できたんです。最初に、ガルドの痛々しいところは見せないで抜いていくっていう方向だったのを、「いや、見せた方がいいよ」と言ったり。
小黒 ドラマ的にですね。
板野 はい。そういう話の中で、総監督と監督は「大人のドラマ」を描きたいと。で、こっちはメカの戦闘シーンだけじゃなくて、スポーツ選手がゴールした時の清々しさとか感動みたいなものを表現できないか、みたいな話をしてて。それでやっぱりそういうところで、信本さんのシナリオとか、音楽とか、ナベシン(渡辺信一郎)とか。やっぱり河森だけだと、どうしても大林(宣彦)風の綺麗な恋愛関係で終わっちゃうんだけど、そこにナベシンが入った事で大人っぽくなったりとか。最初の『マクロス』みたいに、よい要素が重なってたんですよ。キャラクターは、GAINAX風の摩砂雪君のデザインで。
小黒 そうでしたね。
板野 キャラクターとしては、美樹本晴彦のキャラじゃないのに、それまでの『マクロス』の流れが汲めるような作品になれるんじゃないかなあ、と。
小黒 ああ、そういう意味でも『マクロスII』と逆なんですね。
板野 はい。
小黒 それは狙ったわけではないんですよね。
板野 ちょっとはあったんじゃないかなあ。
小黒 でも、作品の質感とかムードは『マクロス』になってましたよね。
板野 はい。1話で自分で、ガルドのミサイル避けとかやって。途中で、凄くやる気があった後藤(雅巳)君というのに、僕が「4話でメカ作監やってみないか」と言ったんです。「僕が1話で描いた原画の続きを君が描かないか」と誘ったりして。で、彼はその期待に応えて、4話のメカ作監やり切って、それをナベシンに買われて『カウボーイ(ビバップ)』のメカ作監に抜擢されて。それから、村木(靖)君とか鴨川(浩)君とか。村木君はアディゴを見て業界に入ってきた。鴨川君も「『イデオン』凄かったですね」と言ってくれた。メカ作画で僕の事を慕ってくれて、1回僕の下で仕事がやりたいという人が、たまたま集まってくれて。それであそこまでの完成度になったんですよ。
●「animator
interview 板野一郎(6)」へ続く
(05.02.10) |
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