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animator interview
木村圭市郎(2) |
―― 『ロビン』最初の頃は、毎回のように作監をやってますよね。
木村 そうだね。あの頃はシリーズでも、作監っていうのは(同じ人が)ずっとやるもんだっていう感覚だったし、会社もそう思っていた。間に合わなくなってきて、各話作監になっていったんだよ。『ロビン』はキャラを作って、オープニング、エンディングも、俺がやった。
―― 木村さんの意識としては総作監だったんですね。
木村 スタートした時はそうだよ。そのうち、スタジオビーズとか、若林(哲弘)さんが入ってきた。若林さんとか、どうしているんだろうね。最近、名前を聞かないよな。
―― 聞かないですねえ。
木村 しかしよく知ってるね。そういう固有名詞。
―― ええ(笑)。若林さんは、木村さんにとっては先輩なんですか、後輩なんですか。
木村 年は俺より上だったよ。だけど、入ってきたのは俺よりも後だと。あの人は『フジ丸』とかに向いてたよね。ちょっと癖はあるけど、巧かったよ。
―― 濃い、ねっとりした芝居とかがお得意でしたよね。
木村 そうそう。よく見てんなあ、おい(笑)。それは、やっぱりあの人の個性だよ。独特だったよね。上村栄司なんてのが原画でうちの班にいたんだけどさ。玉沢(武)君も。
―― 『ロビン』の時に、もう木村さんは例のビームをお描きになっていますよね。ご自身としてはビームはいかがでしたか。
木村 まあ、いいのと悪いのがあるからね。
―― あの当時、あんなに格好いいビームをお描きになっているのは木村さんだけだと思うんですが。
木村 要するに人間のアクションと一緒で、伸び縮みなんだよ。ビームが上下になっている(ジグザグになっている)画があったら、次はパーンと伸びたやつとかさ、そういうのを交互にやるとビビーッとしたビームになるわけ。大人しいフォルムで順送りに動かしたりすると、かったるくなっちゃう。要するにスピード感なんだよな。人間の動きでも、火でも同じだよ。要するにフォルムを変化させるんだ。そうするとブワーッと勢いが出るわけ。それだけの事でさ。まあ、今は若いやつがみんな、結構巧いからね。
―― いえいえ。木村さんのビームは、今観てもいいですよ。
木村 それほどのものじゃないよ(笑)。俺の場合は、ビームっていうよりもね。走りじゃないかな。『レインボー戦隊 ロビン』のファンっていうか「ロビン研究会」の連中が「木村走りー!」なんて言って、マネして走っていたらしいよ。要するに木村走りってのは、オーバーなわけよ。後ろに引いた手がこんななって走るんだよ。
―― 木村さん自身、そいうオーバーなアクションを意識して描いていらっしゃるんですよね。
木村 それはそうだよ。普通の走りはつまんないから、もっと前傾してね、ブワーッなんて走るようにしたわけよ。当時はそういうものは、なかったから。
―― いつぐらいからそういうアクションをお描きなんですか。『フジ丸』の頃から?
木村 『ロビン』の頃だね、やっぱり。好き勝手できたから。
―― ああ、なるほど。上に人がいなかったから。
木村 そうそう。東映の中にアニメーターが何人いたか、正確には知らないけどさ。100人だかの動画机がダーッと並んでいるわけじゃない。そこで目立つためには他と同じ事やってちゃいけないんだ。実力は後からついてくるんだよ。まずは自分の存在感を示さなきゃいけないでしょ。机のところに貼ってある落描きだってさ、「俺はこういうのも描けるんだぜ」っていう、まあ自己顕示だよな。すると、先輩なんかがそれを覗いてみて「へえ、面白いね」とか思うじゃない。そうやって、徐々に浸透させていくんだよ。それから俺、声がでかいからさ、存在感はあるんだよ。スタジオ中に響くような声で喋っていたり。それも目立つ理由だよ。目立ってナンボだからね。だって、みんながしのぎを削ってるわけでしょ。「よーい、ドン」で走り出す、ネズミの競争だから。その中で、上層部が「あいつにやらせよう」って事で決めるわけだ。俺の知らないところで、いつも秤にかけているんだから。
―― ちょっとビームの話に戻りますね。あのキングギドラって観た事あります?
木村 ない。
―― ないんですか!? ゴジラと闘う怪獣なんですけど。
木村 大体「ゴジラ」は好きじゃねえから。
―― あ、そうですか。それだけ聞ければもう。なるほど、そうか(笑)。
木村 なんだよ(笑)。
―― 似てるんですよ。キングギドラのビームと、木村さんのビームが。それが時期がほぼ同時なんです(「三大怪獣 地球最大の決戦」1964年、『レインボー戦隊 ロビン』1966年)。
木村 観てないなあ。ハリウッドで「ゴジラ」を作ったじゃない、あれは観たよ。
―― そうですか(笑)。その後、ご自身の中で大きいお仕事とかは何になります?
木村 やっぱ『タイガーマスク』だろ。
―― 『009』はいかがですか。
木村 あれは『ロビン』班でそのまま劇場中編を作ったんだよね。中編っていうのは、尺も短いし、枚数も長編みたいにかけないっていうやつで。
―― B作ってやつですね。
木村 そうそう。だからTVに毛の生えた程度のものでさ。それの1発目だった。劇場の『009』では、主人公がいつも片方しか目が見えないというわけにもいかないんで、意識的にキャラクターを変えちゃったわけよ。その後、石森さんが「あれは自分のキャラとは違う」って、記事でコメントしていたのを見たよ。だいぶ不満だったんたろうな。でも、当時は、今と違って(制作中に)原作者がうるさく言う事はなかったよ。
―― 『009』というと、僕らは芹川さんの印象が強いんですけど。
木村 ああ、芹川有吾ね。
―― 大演出家だと思うんですけど、木村さん的にはどうだったんですか。
木村 今もやってるの? 芹さん。
―― 亡くなりました。
木村 え!? 亡くなったの。それは初耳だ。ビックリしたな。まだそんな年でもないでしょ。
―― 定年なさった後だから、60は過ぎていたと思いますよ。
木村 亡くなったのか……。そうか、それは気の毒な事をしたな。あの人はね、新東宝の助監督やってたんだよ。頭のいい人でさ、どういうわけか、俺と芹さんはよく組んでね。芹さんは、会社側の受けをよくするために枚数減らしをするんだけど、その巧さは天下一品だったよ。俺もそれなりに合わせてやっていた。「光の芹さん」なんて言われていて、芹さんは光を小道具として使うんだよ。
―― 芹川さんは、画的な部分にも介入してきましたか。それとも画に関しては、お任せだったんですか。
木村 お任せだったよ。だって、芹さんは画が描けないもの。
―― 芹川さんが力を入れるのは、ドラマの方なんですね。
木村 そうだった。向こうも大人だったし、こっちは駆け出しで一所懸命だったから。先輩後輩みたいなものだよ。だから、芹川さんとは、記憶に残るような衝突をした事はなかったよね。その後、俺も段々と鼻息荒くなって、コンテがなってなかったりすると、演出家を怒鳴りつけたりするようになるんだ。
―― 『009』だと、高橋信也さんもかなり活躍なさってるそうですが。
木村 劇場の『009』だと、女の子のところは信也が主に描いてたんだよ。バレエのシーンとかさ。
―― 003の「白鳥の湖」ですね。
木村 そうそう。あれは信也だよ。なんとなくキャラが違うから、ちょっと詳しい人が見れば「あ、これは描き手が違うな」って分かるよね。あれはあれで可愛いからさ。俺は信也が描いたものには全然ノータッチだった。俺は、ああいう顔は苦手だからさ。下手にいじくらない方がいい。だから、信也ならノーチェックだよ。
―― なるほど。
木村 信也は画が小ぎれいだから、やっぱり重宝がられるよね。ただ、俺から見ると、信也はポーズがちょっと弱かったな。そういうところについては、引出しの中身が少なかったかもしれない。
―― 木村さんは『009』の頃から、東映以外の仕事をなさってますよね。
木村 年に4、5本やってたよ。いつも忙しくないと仕事している感じがしないからね。だから、今のアニメーターがやっているのは仕事じゃないの。あれは趣味みたいなものだよ。
―― で、いよいよ『タイガーマスク』についてうかがいたいんですが。
木村 『タイガーマスク』か。アクションものの路線は俺に声かかるのが多くてさ、その流れだよね。
―― 『タイガーマスク』で、木村アクションが完成って感じですね。
木村 完成かどうかは分からないけど。まあ、オープニングは今見ても、結構目立つよな。
―― 格好いいですよ。
木村 あんなのは、それまではなかったんだから。あれって、線のタッチに迫力があるでしょ。東映の中でも「こんな汚ねえのは、クリンナップじゃない」なんて言われたんだよ。
―― 『タイガーマスク』の作画は、動画も大変だったでしょうね。それまでの動画の描き方と全然違ったわけですよね。
木村 全然違う。オープニングの動画は、村田(四郎)君が随分描いていたな。
―― オープニングの原画は木村さんが描いて、動画を村田さんがやってるわけですね。『タイガーマスク』はゼロックスですよね。
木村 そうゼロックスだね。だから、鉛筆のタッチがそのまま出る。
―― 描き手としては、それは嬉しい事だったんですか。
木村 嬉しいというか、大変だった。4Bや5Bの鉛筆を使って描くから大変だったよね。普通の一本線できれいに描くんじゃないからね。ああいうタッチが描けなくてさ、やめたやつが、ずいぶんいる。
―― 『ロビン』はハンドトレスだと思うんですが、オープニングのドラム缶にタッチを入れてるじゃないですか。だから、木村さんは、ハンドトレス時代からもああいう絵を描きたかったと思っていたんじゃないかと。
木村 そうかもしれないなあ。
―― パースに関してはいかがですか。『タイガー』に限らず、木村さんは意識的にパースをつけていたわけですよね。
木村 そうだね。
―― それは、かなり初期からやってるんですか。
木村 そうだったと思う。俺が描いたものが、なんとなく違うっていうのはそういうところだよね。アクションって、メリハリをつけないからさ。それっぽくタッチをつけても、動きにメリハリがないと、サマにならないっていうかさ。
―― 『タイガーマスク』のキャラクターの事をうかがいたいんですけど、原作とは絵柄が違いますよね。
木村 ああ、全然違うよ。原作はあまり見ていない。
―― 『タイガーマスク』のロマンアルバムで、ロバート・ピークの絵を参考にしたとコメントなさっていますけど。それはどういう作家さんなんですか?
木村 ロバート・ピークっていうのはイラストレーターで、ボクシングとかフットボールとかのスポーツのイラストを描いていたんだ。で、そのタッチを取り入れたんだ。ロバート・ピークを略して、ボブ・ピークっていうんだけどさ。
―― アメコミとかじゃないんですね。
木村 アメコミじゃない。講談社のフェーマス・アーチスツ・スクールのテキストにも、イラストが載っていたよ。それを見てさ「これは格好いいな」と思った。「マイ・フェア・レディ」のポスターなんかも描いているよ。
―― なるほど線が粗くて、わりとお洒落な感じなんですね。
木村 アニメとしては『タイガーマスク』が、ああいうタッチのハシリだったよな。後で、タッチを真似たした作品が出てきた。
―― 『タイガー』の原画を拝見すると、1本線で力強く描いていますよね。1本の線を何度も描いて太くしているわけではないんですね
木村 とにかく気合いっていうかな。消しゴムがないものと思って描くんだよ。そういうノリなんだ。
―― 木村さんは『タイガーマスク』の前にタツノコで仕事をしていて、キャラデザインにはその影響もあると聞いたんですが。
木村 『紅三四郎』だろ。『タイガー』はその直後だから、多少、そういうところもあるよ。後にタツノコに行ったら、吉田竜夫に「伊達直人は『紅三四郎』のマネだ」って言われたんだ(苦笑)。だけど、別に『紅三四郎』のキャラクターをマネしようと思ってやったわけじゃないから。
―― 『タイガー』と言えば、大胆なカメラワークがよく話題になりますよね。
木村 俺が「リングを、野球のグラウンドぐらいの広さだと思って描け」と言ってたんだよ。別に根拠があったわけじゃないけど、カメラワークを効果的に使いたいからさ。リアルに考えれば、リングがやたらと広い事になっちゃうけど、そんなにおかしくないでしょ。俺が単なる思いつきをみんなに言ったんだろうね。PANしないと迫力が出ないからさ。FIXで同じ画面でちょこまかやっても、つまんないからね。
―― アニメーションの技法としては、あれは、つけPANですか。
木村 そうだよ。結局ああいうアクションになると、動きのセンスがものを言うんだ。描く前に動きをイメージするんだよ。紙にここからあそこに飛んで、なんてバーッと描いてから、PANのメモリをつけるんだ。杓子定規にまず原図を描いて、そこからここまで動きますって放物線を引いて、メモリを打ってから描くなんて事をやっていたら、ああいう奇想天外な動きはできないんだ。俺の場合は、動きを先に描いていた。その代わり、原図は何メートルもの大きさになっちゃって(笑)。そういう意味では、美術泣かせでもあったな。「こんな大きな背景、描いた事ない」って言いながら描いてたよ。
―― 『タイガーマスク』では、何畳分ものサイズの背景を使ったという話をよく聞きますよね。
木村 自分でも型破りだったんだなと思うよ。そんな元気のあるアニメータ−、今はいないもの(笑)。それは楠部さんから教わったわけでもないし、大塚さんから教わったわけじゃない。木村オリジナルなんだよね。だから、画面からはみ出すような……。
―― はみ出すような勢いが。
木村 そうそう。だから、今風にディテールばんばん描き込むようなものでも、そういう勢いがほしいよね。
―― 覚えていらっしゃるエピソードやシーンはありますか。
木村 アクションよりも、芝居で見せるようなシーンの方が覚えているな。初めの方で、隅田川の公園のシーンが出てくるシーンがあってね。そこで、動きで見せるような情景描写をやったんだ(7話「血まみれの虎」)。それは俺がコンテの内容を直しているんだよ。それから、目の見えない少女が出てくる話(27話「虎よ 目をひらけ」)で、その子が食器を片づけようと立ち上がって、テーブルに手をついて歩くところがあった。そこも俺がコンテを直したんだ。
―― 木村さんの『タイガーマスク』って、いわゆるリミテッドとちょっと違う感じのところがありますよね。
木村 アクションの時?
―― そうです。もちろん基本は3コマなんでしょうけども、普通の3コマのアニメよりずっと激しく動いて見えますよね。
木村 アクションだと2コマとか1コマ使ってるからね。それで、そういう風に感じるんじゃないの。意図的に、緩急のバリエーションをつけてるからね。ずっと、3コマでやっているとどうしてもかったるくなるから。速いとこは速く、タメるとこはタメて。そういう動きになってるよね。そこら辺は、大塚さんの影響かも分かんないね。
単純なようだけどさ、アニメーターっていうのは、まず絵が描けなくちゃいけない。それと同じくらいにタイミングが大事なんだよね。そのタイミングを、例えば遊び心っていうかさ、色々トライしてみるわけよ。そういうアニメーターは、可能性があると思う。変にこねくり回してさ、画面になってみたら自分の思っているように表現できていなかったりする。そういう試行錯誤をして、コツをつかんでくわけよ。普通だったらさ、そんな枚数を入れないようなところを中7にしてみるとかさ。普通なら、中2とか中3やるところを中1で1コマとか。そうすると緩急が出てくる。そうやって色々試すんだよね。まあアニメっていうのは奥が深いよね。
●「animator
interview 木村圭市郎(3)」へ続く
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