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アニメの作画を語ろう
animator interview
 森本晃司(1)
 森本晃司の仕事は常に刺激的だ。
 80年代前半にはアニメーターとして『スペースコブラ』『SF新世紀 レンズマ ン』『カムイの剣』等に参加。リアルさとトリッキーな面白さを合わせもつ作画スタ イルで、ファンを魅了した。80年代後半には『迷宮物語』『ロボットカーニバル』『 AKIRA』等の話題作にメインスタッフとして参加。
 近年では『EXTRA』や『サバイバル2.7-D』等のミュージッククリップ、連作CM『永久家族』、劇場短編『音響生命体ノイズマン』等を手がけている。それらの作品は感覚的であり、アート的でもある。また、デジタルにも積極的で、3DCGによる作品も手がけている。
 そんな彼の作品に、常に共通するのは「画である事の魅力」と「遊び心」なのだ。

●2001年3月16日
取材場所/東京・STUDIO4℃
取材/小黒祐一郎
構成/小川びい、小黒祐一郎

PR OFILE
森本晃司(Morimoto Koji)

  1959年生。和歌山県出身。アニメーター・演出家。大阪デザイナー学院卒業後、マッドハウス入社。『あしたのジョー2』で初原画。あんなぷるを経て、現在フリー。『SF新世紀 レンズマン』『カムイの剣』『AKIRA』等でアニメーターとして活躍。初監督作OVA『ロボットカーニバル』の「フランケンの歯車」を手掛けて以降、徐々に演出家へと比重を移し、『とべ!くじらのピーク』『MEMORIES』等を監督。近年では、スタジオ4°Cを中心にして活躍し、『サバイバル2.7-D』等の短編作品で、その力量を見せている。

【主要作品リスト】

小黒 そもそも、森本さんがアニメーターになろうと思ったきっかけって何なんですか。
森本 なろうと思ったのは、うーん……『ヤマト』(笑)。
小黒  ああ。
森本 あれがやっぱり結構ショックと言うか、最初に観た時は「何じゃこりゃあ」って思いましたね。その後、『ルパン』とか、『ガンバ』とか、『コナン』とか、凄まじいシリーズが次々現れて。どれも、今でも好きなんだけど、中でも『ガンバ』は好きだった。それで出崎(統)さんの名前を意識するようになったんだ。で、「もしアニメの仕事ができるんだったら、この人の下がいいな」って漠然と思ってた。そうしたら、当時俺が通っていた大阪デザイナー学院の講師の人が、マッドハウスを知っていて、それなら試験を受けに行くか、という話になったんだよ。だから、実は、その頃まで杉野(昭夫)さんは名前も知らなかった。
小黒 あ、そうなんですか。
森本 どんな人なんだろう、と思って、「アニメージュ」を買ってね。試験を受けに行く新幹線の中で読んでた(笑)。「杉野昭夫の世界」ってやつ。
小黒 ああ、「絵の詩人 杉野昭夫」ですね(注1)。
森本 そうそう(笑)。「ああ、そうかそうか。あの作品やこの作品をやってるんだ」って、新幹線の中で、その場で研究して(笑)。当時、マッドハウスは劇場版『ユニコ』の作業がほとんど終わっている時でさ、試験も、ユニコがピアノの上で遊んでいる原画があって、その続きを10枚ほど描けっていうものだったんだ。あとは3カットぐらい動画の試験もあったね。
小黒 森本さんが最初に動画で参加したのは、劇場版『エースをねらえ!』でしたっけ?
森本 それをちょこっとやった。岡ひろみの目を延々と1日トレースしてたんだ。朝から何度描いても、杉野さんからリテイクくらって。もう何枚描いたかっていうぐらい。それが、まあ、“精神的な試験”という感じでね。
小黒 それが最初にやった動画なんですね。
森本 その時は、どうしてリテイクくらうのか分からなかったんだけど。それはね、気分をいかに入れるか、っていう事だったんだ。直接、杉野さんから「気持ちを入れろ」って言われたというわけじゃなくて、後で感じた事なんだけどね。と言うのも、とある原画マンが杉野さんに向かって話しているのが聞こえたんだよ。「杉野さんが修正入れているのをチラッと見たら、泣いてるんだよね。ああいう時に、杉野さんがやっているシーンを見ると悲しい場面なんだ」って。それを聞いて「悲しい場面をやりながら、実際に泣いてるなんて、メチャ、テンション高いなあ。凄い世界なんだなあ」って。
小黒 それは凄いなあ。
森本 杉野さんは、コンテに目を通して、このカットはどういう意味かって分かってるから、それだけ思い入れられるんだろうね。俺達動画マンは、「泣いているんだ」ぐらいしか分からないんだけど(笑)。どういう思いでいるのか、みたいなところまでは分からない。それ以来、原画をやる時も、その前のシーンがどうなってるのかぐらいは最低限理解すべきだな、と思うようになった。
小黒 ちょっと話は前後するかもしれませんが、そもそも、どういうアニメーターになりたかったんですか。例えば、格好いい画が描きたかったとか、女の子が描きたいとか、色々あるじゃないですか。
森本 格好いいっていうのはありますね。男の子ですから(笑)。あの頃、金田(伊功)さんが、動きとしては、ひとつ強烈に飛び抜けてましたよね。あの気持ちよさというのは、もう、理屈ではなくて、「気持ちいい」を求めているからこそ得られる、生理的な気持ちよさなんだけど、それが凄くいいな、と。ああいう風なアニメーションができれば気持ちいいんだろうな、とは漠然と思ってた。
小黒 それはマッドハウスに入る前から?
森本 いや、入ってからです。入る前は、アニメーターというよりは、こんな作品が作りたいな、というような事を思ってましたね。出崎さんとか宮崎(駿)さんとか、むしろ演出している人の方が気になってた。だから、作画について意識するようになったのは、アニメーターになってから。それで、作画マンで最初に意識するようになったのが、金田さん。俺にとって金字塔のようにそびえ立ってた。特に、あの中間基地攻略がね。
小黒 『ヤマトよ永遠に』ですね。
森本 うん。発進シーンから始まって、ひとつひとつのカットもそうだけど、カットを積み上げていく事での相乗効果があるんだ、とか、こんな生理的に気持ちのいい動きが描けるんだ、とか……。これはいったいどうやっているんだろう、って不思議だった。あとで川尻(善昭)さんと一緒に仕事をして、その秘密の一端が分かったような気がしたよ。
小黒 と言うと?
森本 劇場『レンズマン』の時に一緒に仕事をして知ったんだけど、普通だったら1カット1カット描くところを、川尻さんは、30カットだったら30カット全部、一気に描くんだよ。流しながら、こうバーッと描く。
小黒 一度に?
森本 そう。そうやって先に、シーンの流れを追って、先にラフ原画を仕上げてしまう。それを見て、「ああ、繋がっていく感の気持ちよさの秘密はこれかあ」って。こんな事をする人がいるんだ、って驚いたよ。そういうやり方をする事で、1カット1カットに凝るんじゃなくて、1シーンで見せる。そのカットだけで悲しいんじゃなくて、相乗効果として、その1シーンで悲しいように見せていく。そんな風に共鳴し合うものが描けるんだ。そういう描き方をしているから、ラフが決まってしまえば、後は清書するだけなので、凄いスピードで仕上げていくんだよ。
小黒 それは、滅茶苦茶凄い秘密ですねえ。森本さんの初原画はTVの『あしたのジョー2』ですよね。『ジョー2』では、主にアクションシーン、メカシーンが中心なんですか。
森本 そう、試合ばっかり。ホントは、葉子が凄く描きたかった。葉子の演技って繊細じゃないですか。髪の毛がパラリ、とかね。微妙に演技させるのって気持ちよさそうだなあって、気になってた。でも、出崎さんからは、そういうカットは回してもらえなかった(笑)。
小黒 印象的なところは。
森本 いやあ、教わる事が多すぎて、毎回失敗の連続なんで、今見ると「あちゃー」って言うばかりなんだよ。……でも、あえて言えば、印象的だったのは、金竜飛。彼の子供時代の回想シーンで、出崎さんが初めて、スタジオのみんなにボードやら色設計をまかせてくれたんだ。
小黒 あ、そうなんですか。23話の、あの黄色い色調の画面ですよね(注2)。
森本 うん。だから、それはただの原画じゃなくてね、面白かった。「ここはハエが飛んでいた方がいいよなあ」なんて言って、ハエを飛ばしたり。だから、あの場面はみんなのアイデアが入ってるんだ。
 『ジョー2』はね、放送で一度しか見てないんですよね。怖くて(笑)。だから、あんまり覚えてないんだよなあ。結構前ですよね?
小黒 そうですね。劇場『エース』が79年だから、翌年には原画を描いている事になりますよね。相当に早い。
森本 当時のマッドハウスは、原画になるのに試験があったんだけど、動画を1000枚描かないと、その試験が受けられない。だから、それを達成しようとして、一杯描いて手が真っ黒になった(笑)。
小黒 その頃で、印象的なお仕事はどれになるんですか。
森本 自分の中ではね、TVの『スペースコブラ』が結構印象的なんだよ。
小黒 ああ、『コブラ』の時の森本さんは、元気いっぱいって感じでしたよね(笑)。
森本 描いてて楽しかったよね。SFが好きだったんだけど、『ジョー2』はそうじゃないから、ほら、光線とか描けないじゃない?(笑) 外の作品を観てて、「ああ、メカものやりてえなあ」って思ってた時に、『コブラ』が来たんだよ。当時は、テレコムが『ルパン』で「アルバトロス」みたいな作品をやってて(注3)。やっぱり、それに対する対抗意識があったから。「動かす」という事を相当意識して、それを試してみようかな、と思って色々と実験みたいな感じでやったんだよね。「今回はちょっとディズニー調にやってみようかな」なんて。
小黒 なるほど。
森本 そうやって試していたから、面白かったね。テレコムが1万2000枚使ったと聞けば、もっと枚数使わせてくれって制作に無理を言って、スケジュール内に納めるからという条件で、使える枚数を増やしてもらった事もあったし。そうやっているうちにいろんな発見もあったしね。金田さんが好きだと言ったけど、金田さんって、あの気持ちよさの前に、動きのタメがあるんだよね。緩急って言うのかな。伸びる方向と逆に1度戻る動きが入るんだよ。そういうアクションの捉え方をしているという事が、色々やった結果、分かったりね。そういう風に色々実験してた事は、出崎さんには申し訳ないけど(苦笑)。
小黒 『コブラ』を観返すと、時々、凄く楽しそうに描かれているシーンがあるんですよね。そのいくつかが森本さんの原画だと思うんですが。
森本 毎回毎回、何かしないと収まらなかった(笑)。と言うか、ちょうど、いろんなタイプの面白い原画マンが出てきた時期だったから、そういう中でいかにアピールするか、いかに目立つか、って考えてやってたね。
小黒 それは、あんなぷるの中で?
森本 それもそうだし、アニメ界の中でもね。当時のあんなぷるっていうのがまた、不思議な空間でね。一軒家だったせいもあるんだろうけど。女の子も月に1、2回しか家に帰らないとか、飯もみんなで食うとか。ほとんど合宿状態で。寝てると、隣の部屋でカリカリと鉛筆の音が鳴るんだよ。そうすると、寝られないんですよ、気になって(笑)。そんな感じだから、凄くハイな状態でやってた。今考えると、ああいう会社は、あんまりないと思うんだけど、当時はそれが当たり前だと思ってたから。月曜日に打ち合わせして、火曜日にレイアウト終わらせて……と計算すると、もう、10分に1枚ぐらいのペースでやらないと間に合わない。時計の針を観ながらやってましたね。そうやっている中で、アニメーションの「動かして面白い」というところに、やっと触れられたというのかな。実感として、「こうすればこういう風に動くんだ」とか「多少、オーバーにしたぐらいで、ちょうどいいんだ」とか、そういう事が分かるようになった。ま、その後、ガンッと、高い壁にぶち当たるんだけどね(笑)。
小黒 壁にぶち当たった……それはいつぐらいなんですか。
森本 うーん、作画的な事で言うと、『ウラシマン』をやっていたあたりは、まだ楽しかったんだけど、その後かな。ただ動かしてれば気持ちいいとか、そういうレベルから変わっていった。劇場作品をやるようになって……。まあ、『レンズマン』の頃でも、「動かして楽しい」という気持ちは半分は引きずっているんだけどね。「臨場感」と言うか、「リアリティ」と言うか……キャラクターが生きているかいないか――そういう事を考え出すと、作画が急に止まるんですね(笑)。それまではね、話と関係ないと言うと極端なんだけど、多分演出をそんなに分かってないで、自分のパートだけをオーバーアクションで動かしているんだよ。だから、演出的にどうだったんだろう、と今から考えると、多分、俺のところは最悪なんだろうなあ、って思えてくる。例えば、出崎さんの作品を観た時に、自分が描いたところが引っかかるのね。 上手く流れていかない。出崎さんがコンテで要求している事っていうのは、このカットは右から左に。次のカットは左から右に……そうやってリズムを作っているのに、自分の担当した部分は、右から左に行くところで、寄り道をするんですよ(笑)。ズバンと右から左に行けばいいのに、コケたりとか。動かす事しか頭の中になくて、演出というものが頭に入ってなかった。それが分かってから、なんか愕然としちゃって。「出崎さんは、どういう風に通してくれたんだろう」って。多分、スケジュールがタイトだったから通ったんだろうけど。まあ、俺も俺で、自分のやった原画をそのまま観たいという気持ちがあったから、「杉野さんになるべく直されないようにするにはどうしたらいいかなあ……枚数を描けばいいんだ」なんて思ってたしね。枚数をいっぱい描けば、さすがに面倒くさいだろうから通してくれるかな、と。そういうヨコシマな考え方だったから(笑)。
小黒 それは滅茶苦茶、ヨコシマですよ(笑)。
森本 まあ、その作品から考えると悪いのかもしれないけど、実際に直されずに映像で自分の動きを観る事ができて、自分としてはよかったね。
小黒 その、動かし屋時代の話をもう少し聞いておきたいんですが。『コブラ』の後が、劇場『ゴルゴ13』ですよね。あの映画って、炎がいっぱい出てくるじゃないですか。妙に炎の形が細かいんですけど、あれはどなたが描かれているんですか。杉野さん?
森本 いや、あれは俺が描いてます。
小黒 それは全部ですか?
森本 炎が出てくるところは、ほとんどだね。担当したのは高層ビルの狙撃シーンとカーチェイスの場面かな。
小黒 ああ、納得しました。前後して、『幻魔大戦』で実際に金田さんと同じ作品に参加しますよね(注4)。これは、ご自身としてはどうだったんですか。
森本 あ、でも、それはあくまで、あんなぷる時代のバイトだったんだよね。大友(克洋)さんも好きだったから、『幻魔大戦』をやりたいなと思って、会社の仕事が終わってから家に帰ってやってたから。だから、机を並べて、という感じじゃないんです。
小黒 あ、なるほど。
森本 でも、まあ、会社に行った時に、バアッと金田さんの原画を見たんですよ。

●「animator interview 森本晃司(2)」へ続く

(注1)「絵の詩人 杉野昭夫」
 「アニメージュ」1979年9月号に掲載された「アニメ人物INSIDE研究2」という特集のタイトル。
(注2)『あしたのジョー2』23話
 「燃える野獣と…氷」。ここで話題になっているのは、金竜飛の子供の頃のショッキングな体験を、鮮烈な色使いで表現した名シーン。
(注3)「アルバトロス」
 『ルパン三世[新]』145話「死の翼アルバトロス」。宮崎駿が、照樹務(テレコム)のペンネームで脚本、演出、絵コンテを担当。飛行機アクションの大快作。
(注4)『幻魔大戦』
 『幻魔大戦』については「作品紹介(5)」を参照。
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