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animator interview
西尾鉄也(4) |
小黒 『ビバップ(COWBOY BEBOP 天国への扉)』のオープニングは何カット描いてるんですか?
西尾 3カットです。おじいちゃんがベンチに座ってるやつと、黒人がヘッドフォンして踊り狂ってるやつ。それとバスケのカットをやってます。
小黒 黒人のカットは分かりやすいですね(笑)。この仕事はどういった経緯で?
西尾 いやあ、沖浦さんという人は、ズルい男でね。俺の仕事は何も手伝ってくれないくせに、自分の仕事は俺に振ってくるんですよ(笑)。まあ、別にキャラ表もないですし、「好き勝手やっていいよ」という仕事だったので、「じゃ、3カットぐらいなら」という事で、やったんじゃなかったかな。実際、『ビバップ』に参加したといっても『ビバップ』のキャラ表を持ってませんしね。ボンズにも打ち合わせ行ってないですからね。沖浦さんの机のところで、「こんな感じでよろしく」って。俺は原画をやって、請求書を出しただけです。
小黒 その後だと、代表的なお仕事は何になるでしょう。
西尾 最近、あんまり仕事してないですねえ。『千年女優』と『猫の恩返し』かなあ。
小黒 『猫』は、さっきの区分だとどっち系なんですか?
西尾 『猫』はねえ。『人狼』スタイルを多少持ちつつ、初のジブリ参加なので、お行儀よくやろうというのが第一のコンセプトでした(笑)。
小黒 人の顔色を見ますねえ(笑)。
西尾 ええ。スケジュールも比較的守って、よい印象の第一印象でいこうと。……実際にその通り実現しましたけど。
小黒 おお、凄い! 担当したのは冒頭の登校シーンですね。
西尾 起きたところから、野球部員に行く手を阻まれてしまう辺りまで。
小黒 なるほど、走って来るのは野球部員なんですね。
西尾 バットを担いでいますよ、よく観ると(笑)。
小黒 世間の人は、コンテにはあんな風に描いてないんだけど、西尾さんが勝手に体育会系の兄ちゃんをいっぱい描いたに違いないと思っていますよ。
西尾 あれは、森川(聡子)さんのキャラ表があります(笑)。
小黒 そうなんですか。勝手にマッチョにしたというわけではないんですよね?
西尾 違うって(笑)。そういう意見、俺も聞いたことありますよ。「あそこだけ『人狼』だよね」って言われたんですよ。
小黒 あそこだけノリが違うぞ、みたいな。
西尾 音響監督の若林(和弘)さんにも言われましたよ。「急に『人狼』になったね」と。「違うんだって、キャラ表があるんだって、あそこは!」。
小黒 非常にいい感じの仕上がりでしたね。
西尾 そうですか。『猫』は、大塚伸治さんのところが素晴らしいんですよ。
小黒 大名行列のシーンですね。
西尾 うん。あのボディガードの猫達が行列の脇を小走りしながら、通信をイヤホンで受けてるような芝居が最高ですね。「何でお前ら、そこ(頭の横)押さえてるんだ」って。「お前の耳そこじゃないだろう」みたいな(笑)。
小黒 大塚さんって『フリクリ』でも、かなりアジのある画を描いていましたよね。元々、ああいう画を描く方だったんですかね。
西尾 そういうものをやれるチャンスを、ずっと狙ってたみたいですけど。やっぱり、大塚さんも求道者ですからね。常に新しい画を模索しているんでしょう。俺の中のイメージでは大塚さんは『七人の侍』の中の、居合いの達人の久蔵ですよ。俺は、それをギラギラした熱い目で見て「あなたは素晴らしい人だ」とか言っている若侍(笑)。
小黒 (笑)。
西尾 でも、久蔵はそんな事は気にせずに「ワシはもう眠いから、寝る!」とか言って。
小黒 次は『千年女優』ですが。西尾さんが描いたのは、山道で女忍者の千代子が、籠を運ぶ一行を襲うシークエンスですよね。僕はムックを作った関係もあって、『千年女優』のレイアウトはほぼ全部見たんですよ。西尾さんのレイアウトは、趣味の仕事といいますか。見たのはレイアウトはコピーなんですけど、「綺麗に色鉛筆が塗ってありそうだ」みたいな。
西尾 そうですか(笑)。うん、楽しかったですよ。
小黒 市女笠の薄布の処理についても、レイアウトにいっぱい案を書いていましたね。
西尾 あれこそ正に『人狼』方式ですよね。沖浦スタイルですよ。
小黒 ああ、なるほど。「ここはダブラシに。ここは色が透けます」といった指示が。
西尾 レイアウトにお手紙といいますか、文章が沢山ついていてね。
小黒 これはもうレイアウトではなく、別の何かだ(笑)。西尾さんが原画をやっているだけで、シーンの情報量が増えていて。「さすが、時代劇好きだなあ」と感心しました。
西尾 (笑)いやあ、籠とか、ちょうどいい資料があったんで。凝り出しちゃったんです。大変な事になってしまいましたよ(笑)。
小黒 カメラを振る事に関しては、コンテに指示があったんですよね。
西尾 コンテにあったのを拡大解釈しました。今思えば、あの振り方は今時のアニメっぽ過ぎてダメだなと。あの劇中劇は昔の映画という設定なわけじゃないですか。なのに、あんな軽快にカメラを振ってしまって。「当時の映画は手持ち(カメラ)じゃねえだろ」っていう(笑)。……もっと、(カメラを)どっしり構えるべきでしたね。ちょっと後悔しています。でも、カメラブレは流行ってたので、やりたかったんですね。
小黒 あのカメラの感じは『八犬伝』風なのかと思いました。
西尾 (笑)カメラブレは、大平さんが始めたあの当時から、綿々と続いていますからね。でも、本当に劇中劇を再現するのであれば、あんなにカメラを振ってはいけなかった。その直前までは上手くいっていたんですけどね。バーッと斬られても別に血が出ないで、胸を押さえて「ウッ」となるとか。
小黒 大変だったけれど、やりやすい仕事だったんじゃないですか。
西尾 千代子以外は描きやすかったですからね。
小黒 西尾さんの千代子は可愛かったですよね。
西尾 当代一の美少女アニメーターの名を欲しいままにしてきた本田(雄)師匠の、あの画には全然追いついてないです。千代子より立花なんかの方が描いてて楽しかったんです。出番少なかったけど。
小黒 詠子の女忍者のところに「夏木マリ風」とかって書いてありましたよね。詠子はえらい美人に描いてましたね。
西尾 夏木マリが好きなんでね(笑)。意地悪な姐さんが大好きなんです。でも、いちばん描きたかったのは、お手伝いさんのおばちゃんなんですけどね。
小黒 うわあ(笑)。『BLOOD』の中でも校医さんを唯一、楽しんで描いていたと聞きましたが。
西尾 うん、楽しかったですよ。北久保さんから「よく似てるなあ」と褒められた事もありますけど。最近、『千年女優』のDVDが出たじゃないですか。この作品も初号で観たきりだったので、久々に観直したんですけど、俺の担当カットは、もうすでに自分の中の賞味期限が切れている(笑)。
小黒 ああ、流行言葉ですね。「賞味期限」(笑)。
西尾 早いんですよ、俺。早い時はもう、次の日に来ますからね。
小黒 それでは『人狼』は辛かったでしょう。
西尾 『人狼』は今では完全に切れてます。沖浦さんが自ら直したとことか、井上さんがやったところなんかは、今でも全然いいんですけどね。自分が独自に直したところはもう、見られたものじゃないなあという。『千年女優』も、ちょっと腕が縮こまっているような感じがして、「もうちょっと伸びやかにアクションしろよ」と、DVDを観ながら自分で自分に突っ込んでしまって。
小黒 いやいや。見せ場だったですよ。
西尾 (自分が担当したシーンの幾つかのカットは)紙がデカイから、描くのにはちょっと煩わしいんですよ。そのせいかな、とも思ったんですけれどもね。
小黒 最新作は『NARUTO』になるんですか。あれはキャラデザインだけなんですね。
西尾 今のところは。
小黒 なにか、含みがありますね。
西尾 いや、今の仕事が終われば、作監をやる事もあるかもしれません。
小黒 今おやりの『イノセンス』はいつぐらいに終わるんですか?
西尾 今年の、暑い頃かな……。
小黒 『NARUTO』は原作者の方が『忍空』のファンで、西尾さんを直接、指名されたという話をうかがったんですが。
西尾 らしいですね。ぴえろのプロデューサーも、おっかなびっくりで話をもってきましたよ。「そう言ってるんだけど、やる余裕ある?」なんて(笑)。「そこまで買われてるんだったら、じゃあ、ちょっと無理してでもやりますよ」って。『NARUTO』がアニメになるという話を聞くよりもかなり前に、原作の単行本を書店で見かけた事があったんです。それを見て「今、こういう漫画をやってんのか」と思って。それで「これがアニメになった時、俺、なんだかやる予感がするなあ」みたいなね。ちょっと、そんな予感があったんですよ。
小黒 原作の画も、ポーズにアニメ心が感じられますよね。
西尾 仕事の依頼が来てから、原作を読み直したんですけれども、単行本の1巻から最新刊までそんなに画が変わってないんですよね。そういう漫画家って珍しいな、凄いなあと思いましたね。
小黒 言われてみれば、そうですね。全然変わってないですね。
西尾 だから、キャラ表も作りやすかったですよ。原作の絵がコロコロ変わって「いつの時期のキャラにしたらいいんだろう」と悩む事が、よくあるじゃないですか。
小黒 キャラデザインは、鈴木(博文)さんと連名になってますけど、どういう風に分担されているんですか?
西尾 半々ですね。敵方、味方側ていう区分でもないんですよね。とにかく2等分し
てるんですよね。でも鈴木さんのほうが若干多いかな。
小黒 主役級は西尾さんが描いているんですか。
西尾 うん。最初はメインだけという話だったんですけどね。キャラがいっぱい出てくるじゃないですか。だから、鈴木さんだけだと手に余っちゃうから、引き続きやっています。
小黒 版権は描かれているんですか。
西尾 版権はないですね。キャラ表だけです。
小黒 I.Gとしても、そのくらいにしておいた方がいいんですね。
西尾 これ以上、他の仕事を増やしたら殺されてしまう(笑)。
小黒 ではI.Gの仕事である『イノセンス』の方はいかがでしょう。
西尾 大変ですね。まあ、『人狼』から始まって、その間にずっといろんな他の作品を一緒にやってきた人達をなだめすかし、脅迫して、掻き集めてきた原画マンでやっている感じです。「あんたがやってくんなきゃ、あんたとあんたの家族を殺して、俺も死ぬ」と言って(笑)。やっぱり、どの劇場作品に関わっている人も口々に言う事ですけど、人がいないですねえ、今。
小黒 いないですね。20代であまり、劇場作品をやりたい人いないんですかね。最近の井上さんの口癖ですよね。「『AKIRA』の時と同じヤツラがやってるよ」って。
西尾 全くですよ。こうやって大きめの劇場が動き出すと、いつも別のところで3本ぐらい同時に動いてるんですよね。それでアニメーターの奪い合いみたいな事になってしまう。
小黒 『ミニパト』の記者会見の時に、「『パトレイバー』ファンだったので、劇『パト』できて嬉しいです」みたいな事をおっしゃっていたと思うんですが。そうなんですか?
西尾 ええ、そうです(笑)。リップサービスではないですよ。
小黒 じゃあ、あれは「ウルトラ」ファンが「ウルトラ」のパロディを作るようなものだったんですね。
西尾 そうですね。しかも、現場が円谷プロで(笑)。
小黒 やはり、憧れのアニメだったんですか?
西尾 憧れというよりも……『パトレイバー』って凄いキャパシティが広いアニメですね。数年に何本か出てくるじゃないですか。例えば、『ルパン(三世)』だったり。『ルパン』だったらどんな題材でも、ハメられるじゃないですか。『うる星やつら』もそうですね。劇場も沢山作られているんだけれど、それぞれカラーがあったりする。『パトレイバー』も同じだったんじゃないですかね。今で言えば『攻殻』もそうかもしれません。
小黒 じゃあ、劇『パト』が好きだったわけじゃなくて、『パトレイバー』が好きだった?
西尾 中でも劇『パト』が好きなんです。押井さんファンというのが、先にありますけどね。
小黒 ああ、押井さんのファンだったんですね。でも最近の西尾さんの言動を目にすると、本当にそうなのか? と(笑)。(編注。「軌跡 Production I.G 1988-2002」の「西尾鉄也のジバグ的挿画」を参照)
西尾 いや、それは愛のムチですよ。愛のムチ(笑)。俺も『ビューティフル・ドリーマー』でヤられたクチですからね。
小黒 『ミニパト』では、自分でネタ出しをしたところとか、あるんですか?
西尾 そうですね。2話に関してはコンテも描きましたからね。押井さんのシナリオは、早書きのシナリオなので、ディティールがあまりないんです。「次々にレイバーが合体して、宇宙戦艦になる」なんて書いてある。「どうすんだ?」(笑)。しょうがないから、6体合体にしたんですけどね。
小黒 そうか、アニパロネタをやってるんですね。量産型とか。押井さんは『エヴァ』ネタはやらないだろうと思っていたんだけど、量産型とかはコンテで膨らませた部分なんですね。
西尾 ええ(笑)。
小黒 西尾さんは今後もアニメーター一筋なんでしょうか。演出の方に行きたいといった事はないんですか。
西尾 あまり演出志向がないんですよ。ドラマに興味がないので。
小黒 サッパリしてますね。
西尾 うん。人の成長といったような事にあまり興味ないんですよ。泣ける話とか。いや、アニメでも映画でも、観る分には好きなんですよ。その時に多分、演出的な志向のある人は「俺もこれに負けない泣ける話を作りたい」と思うんでしょうけど、そういうのに関しては、俺は完全にお客さんでいいんです。「泣けたー! 良かったー!」。それで終わり。多分ね、演出でやりたいような事は、作監の仕事で済んでいると思うんですよ。「こういう芝居をちょっと加味してみたいな」といった事で、多分、満足しているんですよ。だから、演出はあんまりやる気はないですね。
小黒 作画としては、今後、どんな方向へ行きたいとか。
西尾 うーん。……そうですね。もっと画が上手くなりたいです。
小黒 系統としては?
西尾 いや、苦もなく描けるような人になりたい。例えて言うと、井上さんですかね。そうやって言うと「そんな事ない」とおっしゃるんでしょうけど。また、沖浦さんとか井上さんの原画のラフが非常にきれいでね。「それ、俺にくれたら、清書だけ俺がやってやるよ」というくらい、キレイなラフを描くんですよ。俺、画を描くのに凄い苦労して描くタイプだから、紙が真っ黒になっちゃうんですよね。凄く汚いから、例えば、スケジュールがない時にラフ原だけを描いて、清書を第二原画に任せるというようなやり方は無理なんですよ。そういうのを、キレイに描ける人になりたい(笑)。
小黒 さっき、アクションレコーダーの話が出ましたけれど、かなり使う方なんですか?
西尾 アクションレコーダーは『人狼』では、なくてはならない機械でしたね。ああいうリアルなキャラじゃないですか。ちょっとでも破綻があると、途端に漫画になってしまうんですね。普段認識しない事ですが、コーヒーカップを置く場合、なみなみ入ってる時はゆっくり置くものなんですよ。『人狼』では、そのゆっくり加減が少しでも速かったり、遅すぎたりすると途端に漫画になってしまうというリスクがあったんですね。だから、クイックアクションレコーダーで一応確認しないと、おっかなくて出せない。(『人狼』で)そういう手法をとっていなかった時のカットもあるんですが、やっぱり、それはおかしかったんです。例えば、『フリクリ』のようなキャラだったら、失敗した作画のガタつきですらも味になる、という事はあるじゃないですか。『人狼』では一切ないです。ガタはガタですね。
小黒 それ以前は使ってたんですか。大体、あれは普通の作画スタジオにはないんですよね。
西尾 ないんです。『人狼』を始める時も、I.Gにはクイックアクションレコーダーを置かないという不文律があったらしくて。
小黒 ああ。「そんなものに頼ってはイカン」と?
西尾 そういうのを入れると上がりが遅くなるからダメ、という事です。今、作画部屋にあるやつは大塚伸治さんの私物なんですよ。それを、永久に借りてるという感じで使わせてもらっています。
小黒 I.Gのものは、未だにないんですか?
西尾 うん。会社の経費で買ったものではないです。最近ではPCを使ったクイックチェッカーは、各スタジオに配備されているようですけれどね。
小黒 それをみんなが使ってるんですか。
西尾 そうなんです。大塚さんがよかれと思って、置いていってくれたんです。
小黒 やっぱり、アクションレコーダーを入れると描き方は変わりますか?
西尾 変わりますね。慎重というか、ガチガチになっていきますね。なので、さっきお話ししたように「『フリクリ』では使っちゃダメだ」という結論に達したんですよ。5話かけて(笑)。
小黒 最終回は使ってないんですね。ゆくゆくは使わなくても、『人狼』が描けるようになる方がいいわけですね。
西尾 勿論、そうですね。俺は『人狼』の前ぐらいから、ビデオカメラを使ったりしていましたけどね。
小黒 人を撮るんですか?
西尾 そうそう。例えば(指をパチンと鳴らす動作をして)こういう「指パッチン」のタイミングなんかは、目で判別つかないんですよ。そういうものを科学的に分解すると、どういう風になってるんだろうという事を見るのがスタートでしたけどね。
小黒 なるほど。それはコマ数で確認するんですか。6コマ目にこうくっついて、8コマ目に離れる、という感じで。でも、ビデオだとフィルムと違って、1秒30コマですよね。
西尾 30コマを24コマに変える自家製の変換シートがあるんです。それで並べていくと、自然と24コマに変換できるという(笑)。
小黒 ほうほう。
西尾 さっきの『ポポロ』も秒30コマという特殊なヤツだったんだけど、それがあったおかげで、逆に24コマで(タイミングを)組み立てて、30コマに変換する事ができました。
小黒 レイアウトに関しては、特に勉強した事はあるんですか。
西尾 ええ。勉強というほどではないんですけど、『人狼』で訓練して以来、実写の映画なんかを観た時に、分かるようになりましたね。
小黒 映画を観た時に「このカットをアニメで描く時はこう描く」という風に観るわけですね。
西尾 そうそう。「あ、魚眼ってこうなんだな」みたいな。まだ、勉強中といえば勉強中なんですけど。
小黒 観る側としても、そういうのを気にしてTVアニメを観ちゃうと、キツイ時と思う事がありますよ。
西尾 うん。そういう方法論を手に入れちゃうとTVアニメができなくなるんですよ。
小黒 素早く描けなくなっちゃう。
西尾 そうそう。勢いだけで描けなくなってしまうんです。だから、今でも時々元気がなくなった時に、『忍空』の最終回(編注。実際の最終回ではなく、彼が作監を担当した50話)を観直すんです。あの時は、一晩で何百枚も作監を出したりしていましたからね。
小黒 何百枚というと、何十カットですね。
西尾 何十カットと出したりね。原画を全部捨てて自分で一から描き直したりね。「なんて、若い時の俺ってスゲエんだ」っていうね(笑)。「がんばれ、今の俺!」と。
小黒 気になってた事なんですけど、どうして女の子を描くのに興味がないんですか。
西尾 なんでしょう。女の子に興味がないんでしょうかね。
小黒 それは多分ないんじゃないかと(笑)。
西尾 (笑)。そうです。ウソです。ちょっとカッコつけてみました。……なんでだろう?
小黒 描くという事と、好きという事は違う?
西尾 よく押井さんや沖浦さんが、物を作る人間にはフェティシズムが溢れてなきゃダメだと言うんですよ。それはよく分かるんです。押井さんもフェチの塊で映画作るし、沖浦さんなんかも『人狼』とかで艶めかしい脚を……。
小黒 『人狼』と言えば脚ですよね(笑)。
西尾 (笑)脚ですよね――という事をやってるんだけど、多分、そういうのが表に出ちゃうのが恥ずかしいんでしょうね。そういうのを見透かされるのが嫌なんです。
小黒 「君、こういう女の子、好きなんだぁ?」というような事を見透かされたくない?
西尾 そういう、ちょっと斜に構えたやつなんですよ。
小黒 ああ。優等生な上に。
西尾 ええ(笑)。……そういう事なんじゃないかなあ。多分、明日からフェチ全開で描いてごらんよと言われても、描けないんですよ。やっぱり、嫌なんですよ。見られるのが。
小黒 ジバクちゃんは平気なんですね。
西尾 あれはもう、芸ですから。
小黒 芸なんですか。あれが自分にとっての可愛い女の子ではないんですね。
西尾 サービス精神でやっている芸ですから。「ほら、俺、耳動くんだよ」という、それぐらいのもんですよ。
小黒 あれで漫画を描いて行きたいとかじゃないんですね。
西尾 ないです。リアル等身ばかり描いてると、時々ああいうのも描きたくなるんです。ステーキばかり喰ってると、たまにはお茶漬け喰いたいなと。お茶漬けばっかり喰ってると、ステーキが食いたいなと。
小黒 フェチがないわけではないんですね。
西尾 描かないだけで、フェティシズムはあるんです。ニーソックスは好きだし(笑)。だからといって、我慢してるのかといったら、そうでもないんですよ。
小黒 不思議ですね。
西尾 それより、イイ顔のオヤジ描いていた方が楽しいじゃんという。
小黒 なるほど、素晴らしい。今、参加している『イノセンス』にも、イイ顔のオヤジがいっぱい出てくるんですね。
西尾 出しましたよ。『ビバップ』のオープニングの時には、おじいちゃんは大滝秀治でいこうと思って、大滝秀治をマスターしようと思ってやったんですよ。ちっとも似なかったですけど。キャラデザインやるときは田中邦衛を毎回出してるし。実写でいうところのキャスティングみたいな作業が好きなんでね。だから、俺、キャラクターデザインの仕事をやりたいんですよ。
小黒 なるほど。それは『NARUTO』はできないですよね。
西尾 『NARUTO』は原作がしっかりしてるんで、そんな余裕ないですよ。ああ、そうだ。「俺は『NARUTO』ではキャラ表描くだけなので、現場でがんばってる皆さんには頭が上がりません」という言葉を、この記事の中に是非入れておいてください。
小黒 (笑)。
西尾 自分がいい人であると印象づけたい(笑)。……優等生だなあ。
小黒 と、自分で客観視するのがポイントなんですね。
西尾 ええ。そこがまたイヤなやつですね(爆笑)。
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