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■ animator interview
小原秀一(2) |
小黒 なるほど。コマーシャル以外のお仕事の話に戻っていいですか? 小原さんの作品では「大砲の街」も印象的でした。これはどういうきっかけで参加する事になったんでしょう。
小原 これは、田中(栄子)さんから声をかけていただいたんです。田中さんが僕が『昔ばなし』でやった「三本枝のかみそり狐」という作品を大友さんに見せたんです。それで、興味をもってくださって、声がかかったんですね。それ以来、大友さんとは自転車友達なんですよ。
「大砲の街」について言うと、やるのが3年早かったですね。当時は、CGといったインフラが全く整っていなかったんですよ。ああいう試みは、今だとCGで簡単にできちゃいますからね。ところが、あれは全部撮影台で撮っているので。
小黒 そうですね。今だとCGで撮ったようにしか見えない。
小原 そう、煙なんかも全部素材を作っているんですよ。しかも、あれって、リテイクなしなんです。1カットで撮っているからリテイクできなかったんです。そうすると全部やり直しになっちゃうから。そういう意味も含めて、試みとしてはちょっと早かった。
小黒 「大砲の街」では小原さんは作画部分だけやってらっしゃるんですか。つまり――レイアウトなんかもやってらっしゃる?
小原 レイアウトもやっていますし、色味も見ています。列車なんかのデザインも僕がやっているんですよ。
小黒 とすると、大友さんの主な仕事はキャラクター原案、ストーリー、絵コンテになるんでしょうか。
小原 それとレイアウトもやられてます。あれは作りながら、「カメラを振ると、こういう素材がいるね」といった形で検討を重ねていったので、そういう形になったんです。
小黒 つまり、映像の中に盛り込む事は、コンテで決まっていたけれど、素材をどう組んでいくかは描きながら決めていったわけですね。
小原 そうです。だから、「大砲の街」は片渕(須直)さんがいなかったら、できなかったですよ(注9)。
小黒 片渕さんは、具体的には何をなさったんですか?
小原 要するに撮影のコーディネートです。地味なんだけど、非常に重要な仕事です。片渕さんがきちんと組んでくれなかったら、ああいうふうには撮れていないですよね。ちょっと話はずれてしまいますけど、これからの映像の世界っていうのはコーディネーターがいないと難しいんじゃないですか。3Dと2Dの架け橋や、アナログとデジタルをつなぐ役割を果たす人――つまり、フィルムの特性から、デジタルの特性まで全部分かっている人が重要になってくるんですよね。
小黒 そういう役割を監督が担うのか、撮影の人が担うのか、あるいは片渕さんのように役職を立てるのかは別として、そういう役割の人が必要だと。
小原 ええ、大事ですよ。これからメディアが複雑になっていくと、映像の世界に限らず、そういったコーディネーターの存在がますます重要になっていくと思いますね。
小黒 「大砲の街」で、ここをブックにしようとか、このぐらいの大きさの素材が必要だとか、そうした事を具体的にはどうやって決めていったんですか。
小原 大友さんが絵コンテを描いたら、それに沿って大体のレイアウトを決めていくわけです。その上で、カメラの位置から、背景はここで一回妙な形に膨らまないとダメだとか、どこかでつなぎが必要だけれど、それをどうするかとか、そうした事を決めていったわけですね。例えば、砲撃手がクレーンに乗って上がってくるところをカメラがグルッと回りこむシーンがありますよね。あそこは1カットに見えるけれども、実は目くらましをいっぱい入れているんです。
僕が「大砲の街」でやりたかった事っていうのは、手作りっぽいものだった。併映の他の短編は巧い人達がいっぱいて、フルアニメに近いような事をやっているじゃないですか。そういうよいアニメーションっていうのは、他でやっているんで、「大砲の街」は一風変わった作品にしたかった、っていうのがあるんです。
小黒 確かに「大砲の街」は日本のアニメっぽくないですよね。
小原 そうですね。
小黒 特にキャラクターの色なんかは変わっていますよね。
小原 勿論、決めたのは大友さんですけど、僕の方でも最初はキャラクターごとに画を描きましたね。セル塗りじゃないようなキャラクターにしたら、みんなから、それは無理だよって言われたんだけど、そういうところから敢えてやりましたよね。そういうふうに実験的な事をいっぱいやってます。
小黒 それは作画に限らず?
小原 最初は背景を立体でやってもいいな、という話も出たぐらいなんです。
小黒 それはつまり、3Dか何かで背景を組んで……。
小原 いやいや、本当に立体の街を作って、カメラで撮ったものに、セルの2Dのキャラクターを合成しよう、としたんです。そんな感じで、夢は色々あったんですけど。
小黒 キャラクターに関してはどうでした?
小原 元々、大友さんのキャラクターは好きだし、影響も大きいんです。でも、大友さんのキャラクターに僕がなびいてしまうとつまらない。僕は、多分、大友さんが嫌がる事をしなければならないんです。それが一緒に仕事をするという意味だと思うんです。それに、僕はコマーシャルでいつも自分を殺しながら仕事していますから、どうせこういう仕事をするなら、普段とは違ったものをと思ったんですよ。それで、僕は、絵本のようなキャラクターの方向へ向かっていった。それに対して、大友さんはアニメーションの本道の世界のような絵コンテを描いたんですね。そこで、また、それを横目に見ながら、絵本の側へ寄ったり、大友さんの側へ寄ったりして――そういう紆余曲折はありました。だから、妙な映像に仕上がったかもしれませんね。
小黒 絵本のような、というのは、どういう意味なんですか?
小原 ヨーロッパの絵本のような雰囲気が出ればいいなあと思っていたんです。
小黒 大友さんは、それに対して本道のコンテを描かれていた……?
小原 つまり……動きとして、正統派のアニメーションを要求されるようなコンテになっていたんです。
小黒 ああ、こういうことですか? 小原さんは、動きからして、もっとアニメ離れしたようなものを考えていらっしゃったんですね。手前や奥がないような。
小原 ええ。だから、空間の捉え方からして違ったものを考えていたんですけどね。
小黒 それは、最初の段階で?
小原 いえ、やりながらです。そうやって、あの形に落ち着いていったんです。僕が描いたキャラクターはもっと凄かったんですよ。関節がよっつぐらいある、ぺらぺらの板のようなキャラクターだった。
小黒 違う話にいきますね。小原さんの作品リストを作った時に『みどりのマキバオー』が凄く異色に思えたんですよ。
小原 そうですかねえ。
小黒 だって、原作は「週刊少年ジャンプ」の漫画じゃないですか。
小原 仕事が来れば、なんでもやりますよ。
小黒 『マキバオー』で描かれたのはメインキャラクターだけなんですか、それとも全部?
小原 メインキャラクターですね。仕事ですから、異色という事はなくて、なんでもやりますよ。僕は、いつものように素材を生かしてキャラクターデザインをしたんですけど、監督さんからは「これだと反対側に手が届かないよ」と言われました。
小黒 ああ、あのキャラクターは足が短いから、反対側に手足が回りませんよね。
小原 「これでは芝居ができない」って言われましたね。僕はそういうキャラクターなんだから、崩してしまうのは変じゃないか、と思ったんですけど。TVのキャラクターデザインというのは、元のデザインを多少崩しても動かしやすくするんだ、というのが、最近分かりました(笑)。
小黒 監督をおやりになった「圭角」と「ダン・ぺトリー教授の憂鬱」ですが、このふたつは内容もご自身のアイディアですよね。
小原 そうですよ、勿論。
小黒 「圭角」はどういうコンセプトなんですか。
小原 ある本を読んでいた時、「圭角な性格」っていう表現が出てきたんです。その言葉が分からなくてね。「圭角」って御存知ですか。
小黒 いえ、知らないです。
小原 要するに、カドのある玉(ぎょく)の事なんです。カドがたって、人と円満にやる事ができないという意味らしい。それを知って、「圭角」って、侍の名前みたいだなあ、と。そう思っていたところに、たまたまハイビジョン用のテストフィルムの話がきたんですよ。それで、入り組んだ画が巧く再現できるような作画を考えよう、という事で、ああしたものになったんです。
小黒 えっ、じゃあ、「圭角」って、元々はハイビジョン用の企画だったんですか。
小原 そうです。ハイビジョンの特性を活かすためのテーマを考え、素材作りをしました。
小黒 あの千代紙を貼ったような画づくりは、テスト用だからこそなんですね。
小原 ええ。僕は素直に発注側の言う事を聞いちゃったものだから。損な性格ですよね(苦笑)。スケジュールの中でやるって事がプロだと思うから。スケジュールの中でできることを詰め込んだんですけど、他の人は3ヶ月も4ヶ月もかけて作ってて。
小黒 いやいや、そんなもんじゃないですよ(笑)。
小原 僕のは実質1ヶ月半もかかってないと思います。
小黒 ああ。『デジタルジュース』の他の人の作品とは、随分ムードが違いますよ。小原さんは、思い切り良く作ってますよね。
小原 でしょ(笑)。「圭角」を予告編にしたのも狙いがあるんです。当時、デジタルという言葉にみんなが敏感になっていた時で、これからどうなるのかって、みんなが思っていた。デジタルでバーチャルな体験ができる、という見方もありますよね。でも、僕はデジタルだからこそ、イメージする事が大事だと思っているんです。ほら、予告編って、本編よりワクワクするじゃないですか。それは予告編を見て、それぞれがイメージを広げ、期待を広げるからですよね。それぞれのイメージを触発したい、イメージする事が大事なんだ、という狙いをこめたつもりなんです。
小黒 そうだったんですか。それに対して、「ダン・ぺトリー」は割とお話で見せていますよね。
小原 これは、随分前から考えていたお話なんですよ。UFOがなぜ、ジグザクに飛ぶのか、みたいな事は、常日頃考えてるから(笑)。結構キザですけど、ものの見方といった、ちょっと哲学的な視点も含めながら、それを面白おかしく表現できたらいいな、と考えたんです。
小黒 様々な手法が使われているわけですけど、単に色んな技法を使っていますよ、じゃなくて、そうした表現の多彩さがちゃんと娯楽になっていますよね。そこが凄い。
小原 やっぱり、楽しんでもらわなくちゃ意味がないですからね。それから小さな子に3分間TVの前に座ってもらうためにはどうしたらいいかって考えたんですよ。映像でぐいぐい引っ張って行くにはどうしたらいいのか、って。
小黒 でも、1本の中であれだけ色んな事をやると、足が出てしまうんじゃないですか。
小原 自分としては赤字ですよ。でも、自分のオリジナルでやらせてもらえるということで、そこは割り切って。それに僕自身楽しかったですから。
小黒 マペットふうのCGが気になるんですけれど、あれは動きまで、小原さんがつけているんですか。
小原 いえ、CGの動きに関しては笹川(恵介)君、森田(修平)君という優秀なスタッフにお任せです。あえて人形っぽく動かしてもらったんですけど、上手くやってくれましたね。
小黒 制作期間はどのくらいなんですか。
小原 結構短いんですよ。これも1ヶ月半強ぐらいじゃないかな。
小黒 ええっ、それは短い。
小原 最初は4本全部を僕がやるという話だったんですけど、スケジュールが厳しかったので、最初の1本のみをやることになったんです。それでも時間がなくて慌てましたから。もっとも、仕事はスピードがないとダメだと思うんですけどね。
小黒 実は、小原さんの作風って、よく分からなかったんです。小原さんがよく一緒に仕事をしている4℃って、森本晃司さんに代表されるように、不良っぽいというか、刺激が強いという印象があるので、上手くイメージが重ならなかったんです。ところが、「ダン・ぺトリー」を観たら「おおっ! STUDIO4℃らしいじゃん」と。なんとなく、トップクラフト出身で、コマーシャルのお仕事をメインでやられているという事で、職人的にコツコツやっている方かな、と想像していたんです。
小原 いえいえ、コツコツやってますよ(笑)。
小黒 そう言えば、『人狼』でのお仕事もありましたよね(注10)。
小原 あれは、イラストレーションだけですね。沖浦さんの絵コンテを見たら、空間の捉え方が凄いんですよね。それなら、絵本は完全に2Dの世界にしなきゃいけないな、と思ったんです。
小黒 本物の絵本にしなくちゃいけない、と。
小原 それで、ああいう構図になったんです。セル画のキャラクターの中に、セル画の絵本が出てきたらダメだから、その差を目一杯出すためには、どういう構図で、どういう描きぶりで、どういう色がいいのかという事を考えましたね。
小黒 ああいう仕事を頼まれるところが、小原さんの小原さんたる所以なのかなあって気がします。
小原 そうかもしれないですね。背景から何から全部描いてしまいますから。アニメーションもやっぱり画なので、画の仕事をずっとやっていこうと思っていたら、こうなったんです。1人でやっていくようになってから、セル画だけのアニメーションに囚われないようにするというのが目標でしたから。
小黒 どこかでそういう目標に変わった……。
小原 いえ、ずっと変わっていません。最初から、紙の上だけで画が動くのはつまらないと思っていたんです。例えば紙自体が動いてもいい、それが本来のアニメーションだ、と思っていたから。
小黒 でも、一応商業アニメの世界にはいらっしゃるわけですね。
小原 そうです。でも、その中に、少し自分のエッセンスを足していく。やっぱり、作品は人にお金を出してもらうものだと思っていますから(笑)。
小黒 話を戻すようですが、こちらからすると、桜沢エリカでも「SLAM DUNK」でも、なんでも描いてみせるぜ、というところに、小原さんの気概がみえるように思うんですが。
小原 そうですね。アローがそういうところだったんですよ。熊田さんは芸大の彫刻科を出た方で、どんなものがきても描ける人ですから。これはできません、あれもできませんとは絶対に言わないつもりです。
小黒 長編をやりたいといった希望はないんですか。
小原 ありますよ。でも物理的な問題や、人材の問題を考えると今のところ難しいのかな。
小黒 今、年間でどのくらいの本数やっていらっしゃるんでしょう。年間10本ぐらいですか。
小原 そのぐらいはやっているかもしれませんね。今は、シリーズもので「Qoo」とか「ゴハンがススムくん」とかがありますから。
小黒 今までの話とかぶると思うんですけど、ご自身のモットーはなんですか?
小原 モットーですか……。「人に言われて傷つくようなプライドは初めから大した事ない」かな。
小黒 え?
小原 プロの世界はシビアで、はっきりものを言ってくるんです。スポンサーなり、代理店なり、監督なりの要求がありますから、「こちらの動きの方がいいじゃないか」なんて言っても通らない。そういう時に傷ついてしまうようなプライドは、本当のプライドではないんですよ。……ちょっとキザでしたね(笑)。
【TOP】
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- (注9)片渕須直
演出家。代表作に監督を務めた『名犬ラッシー』や劇場『アリーテ姫』がある。「大砲の街」での肩書きは「技術設計」。
- (注10)『人狼』での仕事
彼は本編中に出てくる童話のイラストを担当した。クレジットでの役職は、「絵本イラスト」となっている。
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