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animator interview
大橋学 (3) |
小黒 なるほど。その『家なき子』の前に、『元祖天才バカボン』の話をうかがいたいんですけど。多分、作画マニアの多くが大橋さんの名前を覚えたのは、『元祖』じゃないか、って思うんですよ。
大橋 『元祖』のね、「劇画バカボン」ってのは特に好きなんだ。ちょっと悪ノリして描けたんで。
小黒 あ、やっぱり。「天才バカボンの劇画なのだ」ですね。あれはコンテのままなんですか?
大橋 コンテもノってましたね。あのね、たまたま見たんだけど、出崎さんが、(作画監督の)芝山さんに特に手紙を付けてくれたんですよ、シートの上にね。「この大橋さんの感じを壊したくないんで、そのままで使いたい」っていうような事を。それで、そのまま使ってくれたんだ。
小黒 あの時の、劇画のキャラって、それこそ、さいとうたかを調ですよね。
大橋 うん(笑)。
小黒 赤塚さんの描くギャグ調の劇画ともちょっと違うんですよね。
大橋 たまたま描いたのが俺だったからそうなったのかもしれない。……あれは、『ガンバ』の直後かあ。背景の小林(七郎)さんの異色な画面がそのまま『元祖』にきてるよね。『まんが世界昔ばなし』でも出崎さん達とコンビを組んでるから。
小黒 ああ、なるほど。
大橋 その、『世界昔ばなし』の特に「トロイの木馬」は、憧れの出崎さんと組めたっていう作品なんだよ。
小黒 ああ、出崎・杉野コンビならぬ、出崎・大橋コンビ?
大橋 そうそう。俺、それが嬉しいんだよ。密かに好きな作品。つまり、出崎・杉野コンビっていうのは、相思相愛なんですよ。だから――第3の人は要らないんです(笑)。
小黒 愛人は必要ない、と(笑)。
大橋 俺は、その第3の人になりたかったね(笑)。
小黒 つまり、相思相愛の夫婦がいるとすると、そこに別の女性が現れて「私の方も振り向いて」――みたいな存在?
大橋 そうそう。だから、その時初めて「出しゃばらなければいけないのかな」って考えた。まあ、でも、出しゃばり足りなかったんだろうね。あるいは実力がなかったのか。
小黒 いえいえ。あの、さっきAプロとマッドハウスが火花を散らした、という話がありましたけど。ちょうど『ガンバ』や『元祖』の頃って、そのふたつが、割といい感じにまとまっているように思うんですが……。
大橋 うーん、どうかな。話はちょっと違うかもしれないけど、『ガンバ』に一番影響を受けたのは川尻さんじゃないかと思うね。俺もそうだけど、川尻さんは、このあたりから流れが変わってきたのかもしれない。川尻さんはもう、この頃から、出崎さん離れしているんだよね。『世界昔ばなし』では、出崎さんは川尻さんとも組んだんだけど、「止め」と指示しちゃう出崎さんと、「それでも動かしちゃう川尻さん」という事だったみたい。「出崎さんがこうやっても俺はこうやる」みたいな意識があったんじゃないのかな。
杉野さんはそのあたりは考えが違ってて、当時、「出崎さんに、もうアニメは辞めろって言われるまで俺はやる」みたいな事を言ってたからね。
小黒 それは凄いですねえ(笑)。
大橋 うん。「お前は要らない」って言われたら、もう俺は辞めるしかない、っていう事だよね。
小黒 これも細かい話になってしまうんですが、『ファィヤーGメン』って、相当描いてらっしゃるんじゃないですか?(注4)
大橋 これは気に入って描いてます。これはね、俺の画がその作品の画に近かったらしいので、出崎さんに作監をやってくれって言われたんだよ。ただ、俺はその時に躊躇しちゃったんだよね。それまで正確な意味での作監はやった事がなかったから。だから、作監は、出崎さんなんだよね。
小黒 キャラクターデザインはどなたが?
大橋 それも出崎さん。
小黒 ああ、やっぱりそうなんですか。大橋さんはどのあたりをやられたんですか?
大橋 確か、酔っぱらいが街角でフラフラしているところじゃなかったかなあ。凄く楽しんでやった記憶があるよ。ああいう落描き的なアニメは好きだから。あれはね、動画までやってるんですよ。動画までやって初めて完成だな、ってその時思ったんだよ。原画から動画にする時点でさらに変わっているんだ(笑)。
小黒 『ファィヤーGメン』では特別にそういうやりかたをしたんですね。
大橋 そうだね。……あ、でも、『宝島』のオープニングも半分近く動画描いてるな。
小黒 福島敦子さんが、『ファィヤーGメン』を観て、アニメを志した、っていうエピソードがあるそうなんですが。
大橋 そうなんですか。それは知らないけど、福島さんがマッドハウスに入った時に、何かのPRフィルムで『ファィヤーGメン』みたいなアニメを作りましたよ。俺も少し原画描いてます。
小黒 福島さんとは長いおつき合いになりますよね。
大橋 彼女が入ってきたのが、『坊っちゃん』の頃かな。
小黒 なるほど。福島さんの話はまた後で色々とうかがうとして……。さて、『家なき子』の話をうかがいたいんですけど(注5)。
大橋 えーとね、話は『ガンバ』の前に戻るんだけど、「またやらないか」と声をかけられた時に、マッドハウスも最初から随分発展して、メンバーも新しく増えた感じだったんだよね。新しいステップに入った感じだった。で、俺も、半分籍を置いたような関係になっていったんだよね。だから、フリーというよりは半分仲間みたいな感じで、仕事の話がきたんだよね。それで、おおださんの方から頼んできたのかな。
あのね、随分前に、出崎さんの『家なき子』のコンテを見た事があるよ。虫プロ時代か、マッドハウスの初期の頃に。丸山さんの自宅で。
小黒 ほほお。
大橋 だから、『家なき子』っていうのは、ご自分が相当やりたい作品だったんだなあ、って、前から知識としてあったんだ。だから、「日本テレビ開局25周年」みたいな看板はどうでもよくて、出崎さんが好きな作品だっていうのが分かったので、なんとなく、「やらなきゃいけないんじゃないか」と思ったんだ。まあ、その気持ちは、『あしたのジョー』から続いているものですけど。
だけど、大変な1年だった。杉野さんについていくのも大変だったし。(手元の作品リストを見ながら)俺の仕事が、画面設定って役職になっているけど、実際には作監補佐だよね。
小黒 具体的には、どういう作業だったんでしょうか。
大橋 要するに作監ですよ。話数で、これは俺、これは杉野さんって分けて。
小黒 えっ。
大橋 出崎さんにはね、言われたんだよ。もっと密な修正の仕方はできないのか、みたいな感じの事をね。主人公は杉野さんが、ゲストは俺が、みたいなやり方をね。今考えれば、そうやっていればよかったな、って思うんだけど。
小黒 実際にはそうじゃなかったんですね。
大橋 そう。だから、普通の作監。例えば、20話の犬達が食べられちゃう話なんかは、俺だしね。杉野さんのビタリスやレミがどんどん顔が変わっていく――進化していくんだよね。だから、『太陽の王子』の時みたいに、毎日杉野さんの画を見に行かなきゃいけなかった。だから、杉野さんとの戦いっていうかね――別に戦っているつもりはないんだけど――、そういう1年間だった。出崎さんのコンテもよかったし、好きだったんだから、関わりたいけど、関わると苦しいっていう状態だったね。
小黒 もう一度確認したいんですが……。画面設定と言うと、立体アニメですし、僕らがイメージするのは、レイアウトを全部描く、といった仕事なのかな、と思っちゃうんですが、そうではないんですね。
大橋 違いますよ。
小黒 じゃあ、レイアウトはどなたがやられたんですか?
大橋 レイアウトは基本的には原画マンですが、最終的には(美術監督の)小林七郎さんですよ。当時ね、小林さんは「アニメーターの原図は下手くそだから、何も描くな」って言ってた。「凱旋門なら凱旋門って分かればいい、ちゃんと描くと消しゴムで消すのが面倒で、大変だ」って。そんなクレームが小林さんからきた事もある。だから、アニメーターは原図を描かなくていいような感じだった。
小黒 ええっ。でも、原画を描く前に、何かは描くわけですよね、アニメーターも。
大橋 大雑把に言えば、要するに、字を書いて、紙分けの指示をしてやればいいわけです。ブック1枚目は凱旋門、2枚目は木、3枚目はここに光のブラシ、とね。
小黒 で、キャラクターの大きさはアニメーターが描くわけですね。
大橋 そうですね。今のレイアウトとは全然違いますね。
小黒 すると、それまでのアニメの方が、むしろちゃんと原図を描いているぐらいじゃないですか?
大橋 そうですね。それまではもっとちゃんと描いているね。でも、勿論全員ではない。描く人は描きますよ。
小黒 なるほど。すると、あの3段引きなんかのチェックは、演出がしているわけですね。
大橋 そうです。要するに、あの立体のデザインっていうのは、出崎さんの頭の中にしかないんですね。6枚ブックがあったら、そのブックの(画面に映る部分は何もなくとも)土台は全部、フレームの長さ分用意しなければいけないんだから。アニメーターは、何ミリ引くという時に、どれだけ余分な長さが必要か、という尺だけ出せばいい(笑)。俺も、チェックはしていたから、原図も見たけれど、描かない人は何も描かなかったね。
小黒 なるほど……。繰り返しますけど、杉野さんと大橋さんは別々に作監をやられた。
大橋 うん。俺の見たものを、杉野さんがさらにチェックするというような二重のチェックはしていないんです。俺を立ててくれていたんだよね。だから、画が似ていなくても通っちゃうようなところがあって(苦笑)。実際にはそう描けないからね、杉野さんの画っていうのは。努力はしたけれど、似ないからねえ。
今思えば恥ずかしいよね。好きな作品ではあるけれど、自分が関わる事によって壊しちゃったな、っていう思いはありますね。全部、後の後悔だよね。出崎さんとも杉野さんとも関わりたいと思っていたのに、躊躇してしまった。だからね、向かえる時には向かっていった方がいいですよ。
で、それに失敗したからかどうか、もうアニメーションは辞めようって、また思ったんだよ、そこで(笑)。これで3度めだ。
小黒 『家なき子』が終わってから。
大橋 うん。それで、出崎さんに「もう辞めます」って言いに行こうとしたんですよ。そうしたら、出崎さんが、「オープニングもエンディングも大橋さんの好きなようにやっていいんだけど」って仕事を持ち出してきたんだよ。「えっ、好きにやっていいんですか?」って、誘惑に負けて、仕事を断るつもりだったのに、請けてしまった(笑)。
小黒 それが、『宝島』のオープニング、エンディングなんですね。コンテもおやりになったんですか?
大橋 いや、コンテは出崎さんですよ。ただ、好きなものを出していい、って言われてた。何をやってもいい、って。だから、コンテにはあったのに欠番になったカットもあるんですよ。エンディングには、波にさらわれて宝の地図が奥へ流れていくというようなカットがインサートされる予定だったんだけど、それがなくなってオール1カットになった。
小黒 エンディングにはUFOが出ますよね。あれはコンテにあるんですか?
大橋 いや、ないですよ。あれは、カットされると困るから船と同セルにしたんですよ。そうすると、そのセルは使わざるを得ない。
小黒 なぜUFOだったんです?
大橋 当時、UFOに狂っていたんですよ。
小黒 あの頃のマッドハウスの作品って、色々なところでUFOが出てますよね。『元祖』のオープニングとか。
大橋 ああ、でもあれオモチャみたいでしょ? こう、ジグザグに飛ばないじゃない。
小黒 なるほど、そこが大橋さんのポイントなんですね。
大橋 あれはリアルなUFOなんです。
小黒 なるほど(笑)。
大橋 オープニングは何バージョンかあるんだよ。最初のは船がジャンプするタイミングが早かったんだ。一応完成をみたのが、10話じゃなかったかな。その10話では本編もやっているんだよ。
小黒 あのオープニングの色はどなたが決めているんですか?
大橋 最終的には、(仕上げの)山名(公枝)さんですね。でも、絵コンテに赤い船とか黒い空とか、指示があるんですよ。で、俺はその時初めて、カラーのレイアウトを描いたんだよ。後でね、小林さんから「レイアウトに水彩で色がついているなんて初めてだよ」なんて言われたんだけどね。ほら、「色なんか描いてもらっちゃ困る」みたいな人だから。でも、そのニュアンスのままやってくれました。だから、原型は出崎さんだけど、主観的には俺の気持ちも入っているし、まとめたのは小林さんか山名さんだとも言える。
小黒 なるほど。で、『宝島』が終わってから、「雲と少年」を自費出版される。
大橋 うん。劇場版『エース』との間で1ヶ月ぐらい仕事がないよ、って言われたんだよ。その時に、ウチの奥さんが新聞で安い金額で本が作れるっていう記事を見つけてね、その切り抜きを見せて勧めてくれたんだよね。最初は愚図っていたんだけど、次の日になったらもうムラムラとやる気になってて(笑)。その日から描き出したんだよね。そのひと月ぐらい後に劇場版『エース』の仕事がきたんだけど、もう気もそぞろでね(笑)。その仕事が終わったら、すぐに絵本作りに戻ってしまって。結局全部で40日ぐらいで作ったのかな。でも、そのお陰で気持ちが吹っ切れたのか、少しアニメーションに一所懸命になれるようになったんだ。
俺は自分の中でテーマがあれば仕事に没頭できるんだよ。逆に没頭できるものでないと、やる気になれなくてつまらないんだよね。『シリウスの伝説』は、フルアニメーションとディズニースタイルという事で、興味があったのに、やっぱり自分では不完全燃焼ではあったかな。
小黒 と言うと?
大橋 本当は、フルアニメにする意味がなくちゃいけないんだよね。止めずにただ動かすというんではダメ。前提がそれではいけないんだよ。つまり、感情移入した結果、こういう動きになっちゃったっていうんじゃなくて、初めから余裕を持った枠を与えられて、自分としては動きたいわけでもないのに、ただ動かさなきゃならないから、動かす理由づけがない。確かに動きはきれいなんだけど、本当に意味があって、その枚数を使っているのか、っていうと疑問なんだよ。普段は、枚数を使っちゃいけないというギリギリのところで、それなのに枚数使ってしまったけれど、いいできだからいいだろう、という判断があるわけなんだけど。
小黒 なるほど。
大橋 それから『あしたのジョー2』は、『あしたのジョー』を完結させなきゃいけないという事があったからね。しかも、出崎さんと杉野さんがもう一度『ジョー』をやる。となれば、最初の『ジョー』の時の事を思えば、これはもう、自分が絶対にやらなきゃいけない作品だよね。で、やるんだったら、あんなぷるで、という事で、あんなぷるに行くわけだけどね。
小黒 ああ、そうなんですか。『ジョー2』はいかがでした。
大橋 最終話の打ち合わせが終わった後の事はよく覚えているよ。その頃は、出崎さんのコンテがなかなか上がらなくて、少しずつ上がっては打ち合わせするような状態でね。もう1ラウンドごとに担当が決まる、みたいな状態だったんだ。
小黒 ははは(笑)。
大橋 それで、最後の――それは確か劇場版のだったと思うんだけど――ジョーが真っ白になるシーンのところで、あんなぷるの全員が揃っていて、打ち合わせが終わったところでね、ジョー山中の音楽を流してくれたんですよ。
小黒 ほほお。
大橋 その時、ジーンとなったね。
小黒 打ち合わせの場で感動したわけですね(笑)。
大橋 あんなぷるという場もまた独特だったしね。非常に家庭的だったんですよ。いつもコタツで一緒にいたって感じだから(笑)。お酒がやけに似合う場所でしたね(笑)。
俺はよく自分の顔を遊びでこっそり作品に入れていたんだけど、『あしたのジョー2』の劇場版でも、武道館に向かう観客の中に俺の顔が出てるんです。これは原作にもあるカットなので、編集の時にも絶対にカットされないな、と思ったんですね。全員が歩いていて、中で娘を連れたお父さんが振り返るんだけど、その部分を普通は他の観客とセルを分けるんだろうけど、そうしなかったんですよ、カットされないように(笑)。後で、「大橋さん出てましたね」なんて出崎さんには笑いながら言われましたけど。
●「animator
interview 大橋学(4)」へ続く
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- (注4) 『ザ★ファィヤーGメン』
- 日本損害保険協会のPR映画。演出、キャラクターデザイン、作画監督を出崎統が手がけ、作画に杉野昭夫、大橋学、川尻善昭等が参加。制作はマッドハウス。火事の危険から街を守るヒーロー、ファィヤーGメンの活躍をコミカルなタッチで描く。絵本的、イラスト的なビジュアルも素晴らしい傑作。
- (注5)『立体アニメーション 家なき子』
- 日本テレビ開局25周年作品として、エクトール・マローの原作をアニメ化。数々の傑作を残した出崎統の代表作のひとつであり、CD/出崎統、作画監督/杉野昭夫、美術監督/小林七郎、撮影監督/高橋宏固チームによる最初のシリーズである。そのタイトルのとおり立体方式を採用。専用の眼鏡をかけると立体視できる仕組みだが、眼鏡がなくともかなりの奥行き感のある画面となっていた。
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